Ⅴ 破産手続開始の申立権者

1 債権者・債務者

債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる(法18Ⅰ)。債務者のする破産申立は自己破産と呼ばれている。

債権者が破産手続開始の申立てをするときは、申立の濫用を防ぐために、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならないとされている(法18Ⅱ)。

一方、債務者自ら破産手続開始の申立てをする場合には、このような疎明は必要ないとされている。これは、債務者が破産申立すること自体が破産手続開始の原因を事実上推定させるからであるといわれている(大阪高決昭和59年11月9日(判タ524号230頁))。

 ただし、債権者といえども、当該債権が質権の目的とされている場合には、質権設定者たる債権者は、質権者の同意があるなどの特段の事情のない限り、当該債権に基づき当該債権の債務者に対して破産の申立てをすることができない(最高裁平成11年4月16日決定(民集53巻4号740頁、裁判所時報1241号3頁、判時1680号84頁、判タ1006号143頁他))。

 これは、質権の目的とされた債権については、原則として、質権設定者はこれを取立てることができず、質権者が専ら取立権を有すると解され(民367条参照)、当該債権の債務者の破産は、質権者に対し、破産手続による以外当該債権の取立てができなくなるという制約を負わせることになるからである。また、当該債権の債務者が株式会社である場合には破産手続の開始が会社の解散事由となっているため(会社471⑤)、破産手続きによって満足を受けられなかった残額については通常その履行を求めることができなくなるという事態をもたらすなど、質権者の取立権の行使に重大な影響を及ぼすものであるからであると説明されている。

 債権者の破産手続開始の申立てであっても、破産手続によって債権者が利益を受けることよりも他の目的で債務者に優位な地位に立つことを目的とする場合には権利濫用として許されない。たとえば、債務者を威嚇して自己の債権を回収する手段として債権者が破産を申し立てたケースについて申立権の濫用として申立を却下している(東京地決昭和38年9月4日(判タ151号166頁、昭和39年4月3日判時371号45頁))。また、債務者の営業自体は破綻していないにもかかわらず、債権者が破産手続開始の申立てをされた代表者と相続をめぐり紛争が生じており、破産申立てが相続をめぐる紛争で優位に立つことを目的としてなしたものと認められる場合には、破産の申立ては濫用というべきであって不適法であるとしている(大阪地決平成4年6月8日(判時1435号137頁、判タ798号266頁))。

このほか、広島高裁岡山支部平成14年9月20日決定(判時1905号90頁)は、破産手続は、総債権者に対する債務を完済することができない状態にある場合に、強制的に債務者の全財産を換価し、総債権者に公平な金銭的満足を与えることを目的とする裁判上の手続であるため、債務者の清算については一定のスキームに基づいて実行することをすべての債権者が同意しており、債権全額の回収を得ることができない唯一の債権者でさえ残債権を免除することにも同意しているような場合には破産宣告の必要性に乏しく、単に、このようなスキームに基づいて清算することに反対であるとして破産申立をすることは申立権の濫用というべきであるとしている。

債権者との間で破産手続開始の申立てをする場合には事前に協議を行うとの合意(倒産手続不申立特約)があった場合に、債務者が債権者と協議を行わないで破産手続開始の申立てをしたとしても、違法・無効となるものではない(東京高決昭和57年11月30日(判時1063号184頁、判タ505号271頁))。これは、破産手続という総債権者の利益のための手続を一部の特定の債権者との合意によってその申立てを制限されるのは相当ではないからであると説明されている。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立