2 支払停止

債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する(法15条2項)。ここで、「支払の停止」とは、債務者が、支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて、その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解されている(最判昭和60年2月14日(集民144号109頁参))。会社の代表者が『もうやって行けないかも知れない』というような倒産を示唆する発言をしたとしても、他の状況からして、所詮個人的な弱音を吐いた域を超えるものではないとして、支払停止と認定しなかった例として高松高判平成22年9月28日(金法1941号158頁)がある。

支払停止の典型例は手形の不渡りである。東京高判平成元年10月19日(集民171号445頁)は、資金不足を理由にする一回目の手形不渡りが発生し、その金額が多額であって支払不能の状態にある時点で生じたときは、その後に、少額の手形について不渡りが回避されたとしても、一回目の手形不渡りが支払停止に当たるとしている。なお、多額の手形不渡りが発生した後、一部の債権者に一時的・散発的に多少の支払いをしていたとしても支払停止を解消したとはいえないとする判例がある(福岡高決昭和52年10月12日(判時880号42頁))。

また、最判平成24年10月19日(集民第241号199頁)の事案は、個人債務者について、「当職らは,この度,後記債務者から依頼を受け,同人の債務整理の任に当たることになりました」、「今後,債務者や家族,保証人への連絡や取立行為は中止願います」などと記載されてはいるものの債務に関する具体的な内容や債務整理の方針は記載されておらず,自己破産の申立てにつき受任した旨も記載されていない弁護士の債務整理開始通知について、上記各記載のある通知には自己破産を予定している旨が明示されていなくても、支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないことが、少なくとも黙示的に外部に表示されているとみるのが相当であると判示している。

これは、本件通知には,債務者が,自らの債務の支払の猶予又は減免等についての事務である債務整理を,法律事務の専門家である弁護士らに委任した旨の記載がされており,また,当該債務者の代理人である当該弁護士らが,債権者一般に宛てて債務者等への連絡及び取立て行為の中止を求めるなど当該債務者の債務につき統一的かつ公平な弁済を図ろうとしている旨をうかがわせる記載がされていたこと、債務者が単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないという事情が考慮されている。

なお、同判決の補足意見として、「法廷意見は消費者金融業者等に対して多額の債務を負担している個人や極めて小規模な企業についてはよく当てはまると思われる。このような場合,通常は,専ら清算を前提とし,後に破産手続が開始されることが相当程度に予想されることからもそのようにいえよう」としているが、一定規模以上の企業については再建計画が策定され窮境の解消が図られるような場合もあるから「支払の停止」の肯定には慎重さが要求されるとしている。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立