1 同時廃止型(個人)

    現状では、個人破産の多くは、破産財団をもって破産手続費用を支弁することができないため破産手続開始決定と同時に将来に向かって破産手続が廃止される同時破産廃止が実務上定着している。しかし、破産の同時廃止がこれほどにも広く利用されることは法の予定していたことではなく、現実に昭和52年までは同時廃止決定は全国でも100件以下で推移していた。なぜなら、同時廃止を決定するためには破産財団の正確な把握が不可欠であるところ、破産財団の把握は元来破産管財人の職務であり、破産手続開始決定時には破産財団の認定自体が困難であるからそのためにも破産管財人を選任することが予定されていたからである。

また、債務者本人の申告のみならず、破産管財人にも免責不許可事由の調査が期待されているところ、同時廃止では破産管財人が選任されないため事実認定に困難を伴うから、そのような意味においても破産管財人を選任することが予定されており、現実に同時廃止決定はしないという方針の裁判所も存在したと言われている。

    しかし、貸金業およびクレジット産業の発展にともなって消費者が多重債務を抱えて困窮する事態が多数顕在化したため、大阪の木村達也弁護士を中心とするグループにより消費者が破産・免責手続きを簡易に利用できるよう研究を重ね、大阪地裁がこれを導入したことを契機として現在全国で行われている同時廃止型破産が確立されるに至ったのである。

その導入にあたり、裁判所がもっとも懸念したのは破産管財人を選任せずとも適正な審理をいかに確保するかという問題であったが、この問題を克服したのは裁判所と弁護士との間の信頼関係であった。

    すなわち、弁護士は負債、財産、支払不能に至る経過、否認行為の有無等を調査して審理の過誤を最小限にとどめる方策をとるものとし、なおかつ債権者からの苦情の一次的受入れ窓口となることにより社会的にも是認される手続きとすることが基本的に確認され、そのような体制のもと裁判所が意見聴取書により調査したうえで同時破産廃止するものとされたのである。

    したがって、個人破産手続きに携わる法律実務家は、以上のような背景のもとに同時破産廃止が成り立っていることを常に念頭に置き、債務者の経済的更生の確保とともに適正な手続きを負託されているという自覚をもって執務にあたるべきである。

    以上で明らかなとおり、同時廃止型(個人)は破産管財人の関与を前提としないので、破産債権の額等が一定程度正確であることが求められ、また、財産や免責不許可事由についてスクリーニングされた結果、破産申立書類が作成されたものであるという信憑性のあることが前提となる。

現在においては、貸金業者に対する受任通知に取立禁止効が認められていること(厳密には司法書士法3条1項4号又は5号に該当する破産申立書類の作成及びその相談については受任した旨の通知は直接的に取立禁止効が生じるわけではなく貸金業法21条1項2号に該当する行為として規制されることは既述のとおり)、貸金業者には取引履歴を開示する義務があることから、破産申立に先立って十分な債権調査が可能であり、財産の調査や免責不許可事由の有無の確認についても債権調査の間に平行して行うことができる。したがって、十分な調査を行ったうえで申立を行うというスケジュールとなる。

また、スケジュールを立案するうえでの考慮事由のひとつとして、過払金の回収や生命保険契約を解約するなどの財産の現金化の要否がある。同時廃止型(個人)であるのでこれらの価額は高額なものではないが、申立を行う破産裁判所の同時廃止基準を上回る価額である場合は、租税等の支払いに充てることにより同時廃止基準を満たす金額まで引き下げることも考えられる。

また、住宅の任意売却や家賃滞納による退去を予定している場合などでは転居費用の確保も重要な課題となるため、申立人の生活再建の目処を見定めてスケジュールを立案する必要がある。

  2 管財人選任型(個人)

    管財人選任型(個人)についても破産申立までのスケジュールは同時廃止型(個人)と大きく異なるところはないが、破産予納金をいかにして調達するかという点が課題となる。この場合、管財人選任型(個人)は、債務者の経済生活再生の機会の確保を重視しつつも、債務者の財産等の適正かつ公平な清算という課題も同時廃止型(個人)より強く要請されていることを意識する必要がある。

そのため、過払金を回収するなどして破産予納金を準備する場合には、破産申立に必要な限度で行えばよいと考えられる。破産予納金の金額を満たす過払金を回収しているにもかかわらず他の過払金を回収することに時間を要し、そのために回収済みの過払金が散逸してしまうことは避けなければならない。

破産手続開始決定後は破産管財人による債権調査、換価処分、債権者集会、配当、手続廃止という流れとなるが、申立人側での課題は自由財産の拡張ということになる。

  3 管財人選任型(休業法人)

    事実上倒産して久しく廃業状態にある法人は、管財人選任型(稼働中法人)のような課題はほとんどないため、債権調査を行って正確な内容の申立を心がけることになる。また、このような法人の資産はわずかに残された預貯金などであろうから、破産管財人の負担を軽減すべく、破産申立前にこれらを換価して破産管財人に現金として引き継ぐことも課題となる。

    このような法人の破産を申立てるのは、当該法人の経営者の個人破産に伴って行われることが多い。これは、法人経営者が個人破産を申立てる際には当該法人の破産申立てを行うことが裁判所から要請されることが多いからである。そのような場合、個人破産についても法人と同じ破産管財人が選任されている。

  4 管財人選任型(稼働中法人)

    稼働中の法人は、個人破産や休業法人の破産とは全く異なる課題とスケジュールとなる。これは、稼働中の法人の破産手続きは、租税債権、労働債権、一般債権等の利害を適切に調整して法人の財産等を適正かつ公平に清算することが最大の目的であり、債権者の抜け駆け的回収行為を避けるために申立ての準備は隠密かつ迅速に行う必要があるからである。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立