5 否認該当行為の有無の確認

 経済的に窮境の状態にある債務者は、少しでも財産を守りたいといういう要望と法律知識の不足とが相まって、相談の段階で、既に否認対象行為を行っていることがある。また、未だ否認対象行為が行われていなくても、近親者への無償の財産処分など、否認該当行為について実行の可否を相談してくることもある。

 否認該当行為を簡単に整理すると次のとおりである(詳しくは第8章参照)。

(1)詐害行為

 ① 財産減少行為(法160Ⅰ)

  ⅰ 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない(同1号)。

  ⅱ 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない(同2号)。

 ② 債務消滅行為(法160Ⅱ)

破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるもの。受益者の悪意については法160条1項の要件と同じである。

 ③ 無償行為(法160Ⅲ)

破産者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為。

(2)相当の対価を得てした財産の処分(法161Ⅰ)

破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときで、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合

①  当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分をするおそれを現に生じさせるものであること

②  破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと

③  相手方が、当該行為の当時、破産者が上記②の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。(なお、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。

一  破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者

二  破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者

イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者

ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人

ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者

三  破産者の親族又は同居者

(3)偏頗行為

 ① 義務にもとづく担保供与、債務消滅行為(法162Ⅰ①)

既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為で、破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。

イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと

ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと

 ② 義務なき担保供与、債務消滅行為(法162Ⅰ②)

破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。

(4)対抗要件具備行為(法164)

支払の停止等があった後、権利の設定、移転又は変更をもって第三者に対抗するために必要な行為(仮登記又は仮登録を含む。)をした場合において、その行為が権利の設定、移転又は変更があった日から15日を経過した後支払の停止等のあったことを知ってしたものであるとき。なお、当該仮登記又は仮登録以外の仮登記又は仮登録があった後にこれらに基づいて本登記又は本登録をした場合は、この限りでない。

 相談を受けた司法書士は、まず、破産手続には否認制度があり、近親者や法人役員に対する財産処分や債務の支払い、密接な取引先への期限前弁済、財産の換価・費消・隠匿、新たな担保提供などは否認の対象となる可能性があること、かかる行為を行おうとする場合には必ず相談することを説明する必要がある。

 相談前に既に否認該当行為と疑われる行為が行われていた場合には、行為に至った事情、相手方の善意・悪意等を聴取し、資料を収集して当該行為が否認該当行為の要件に該当するかどうかを検討する必要がある。そして、当該行為が否認該当行為の要件を満たしている場合には、可能であれば原状回復するように指導すべきであるが、一旦財産を受領するなどした相手方が原状回復に応じる可能性は低いので、破産手続開始の申立書に否認該当行為に至った経過報告と証拠資料を添付して、裁判所又は破産管財人の処理に委ねることが現実的である。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立