4 免責不許可事由の確認

 個人が破産申立をする目的は、免責許可を得て債務の支払義務を免れることにあるが、裁判所は、破産者について、免責不許可事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をすることになる(法252Ⅰ柱書)。そこで、相談にあたり、免責不許可事由の存否及びその程度を確認しておく必要がある。免責不許可事由は次のとおりである(詳細は第10章参照)。

① 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと

② 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと

③ 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと

④ 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと

⑤ 破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと

⑥ 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと

⑦ 虚偽の債権者名簿を提出したこと

⑧ 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと

⑨ 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと

⑩ 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から7年以内に免責許可の申立てがあったこと

イ 免責許可の決定が確定したこと

 当該免責許可の決定の確定の日

ロ 民事再生法に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと

 当該再生計画認可の決定の確定の日

ハ 再生債務者がその責めに帰することができない事由により再生計画を遂行することが極めて困難となり、民事再生法235条1項に規定する免責(いわゆるハードシップ免責)の決定が確定したこと

 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日

⑪ 破産者の説明義務(法40条1項1号)、重要財産開示義務(法41)又は免責についての調査協力義務(法250条2項)、その他破産法に定める義務に違反したこと。

相談者が上記の免責不許可事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる(法252Ⅱ)。また、免責不許可事由が存在している場合には少額管財手続に付して破産管財人に免責に対する調査を行わせる運用もある。

もっとも、これらの免責不許可事由の有無は、そもそも破産手続を選択すべきかどうかを検討する際にも重要な要素となる。

相談を受けた司法書士としては、相談者の話だけで簡単に免責不許可の可能性が高いと決めつけるのではなく、債務者の誠実性や不許可事由の軽微性を勘案して悪質といえない場合は、免責不許可の可能性は否定できないが裁量免責の余地もあることを説明したうえで破産手続を進めていくべきである。

支払不能が顕著であっても、負債を負った主な原因がギャンブルであったり浪費と認められる場合には免責の許可が受けられない場合がある。免責に対する考え方は別に詳述するが、免責許可が得られそうもない場合、破産申立てをするかどうかは議論のあるところである。なぜなら、個人が破産申立てを行う目的は免責の許可を得て負債から開放されることにあるからである。したがって、破産手続開始決定がされることにより支払不能の状態にあることが認定されたとしても、免責が許可されないのであれば依然として負債の支払義務が存在することになるが、結論としてこのような場合にも破産申立てを躊躇すべきではないと考えられる。

なぜなら、支払不能の状態にある以上、免責許可が受けられる見込みが少なくとも破産申立てが妨げらるものではないからである。この点に関して、大阪高決平成元年3月31日(判タ705号259頁)も、免責不許可事由の存在を知ってなした破産申立ては権利の濫用とはならないとし、破産申立ての適法性の判断に際し免責不許可事由を斟酌することは相当でないと認定している。

 そして、現実に免責許可が受けられなくても、破産申立てによりほとんどの債権者は取立てをやめ、破産債権について損金処理を行うから、このような場合でも破産申立をするメリットは非常に大きい。なお、このように免責不許可事由がある場合においても少額管財制度を利用するなどして裁量的に免責を得ることを常に考慮すべきである。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立