(10)賃貸借契約

 賃料未払いがあり、賃貸人との信頼関係が破綻している場合には賃貸人は賃貸借契約を解除することができるので、賃料債務が一定程度滞納している場合には解除を甘受せざるを得ない。また、事業用の賃貸借契約で破産により事業閉鎖をする予定であれば、賃料債権の発生を防止するために合意解除することが望ましい場合もある。

しかし、賃借物件を居住の用に供しており、破産手続開始後も賃貸借契約の継続を望む場合、賃借人が破産することにより賃貸借契約が解除されるのではないかとの不安を相談者が持つことがある。

 賃貸借契約は、賃貸人が目的物を賃借人に使用収益させる債務を負い、賃借人は賃料を支払う債務を負うという関係にある双務契約であり(民601)、将来の双方の債務は未履行の関係にある。このように、双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができるものとされている(法53①)。消費者破産の多くが同時廃止であり、その場合には破産管財人が選任されないため、結局のところ、賃貸人が破産手続開始決定のあったことをもって賃貸借契約を解除することはできない。なお、「賃借人が破産手続開始の申立てをしたとき」若しくは「賃借人について破産手続開始決定があったとき」に賃貸人が賃貸借契約を解除できる旨を定めている賃貸借契約書を見ることがあるが、このような特約は現行民法の趣旨から考えると不当な特約と考えられその効力は否定されるべきである。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立