(8)取立行為

 債権者の取立行為については、受任通知を送付して債権調査を行ったうえで破産申立をするのか、受任通知を送付せずに破産申立の準備を密行するのかによって異なる説明が必要である。債務者が個人の場合であり、特に同時廃止を予定する場合には、申立内容の正確性を期すために債権調査が重要である。しかしながら、稼働中の法人のような場合には、受任通知の送付を契機として混乱が生じるおそれがあるため受任通知を送付せずに準備を行うのが原則である。

受任通知を送付して債権調査を行う場合には、破産申立までに一定の期間を要するため、その間の取立行為について説明をしておく必要がある。

貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求してはならないこととされている(貸金21Ⅰ⑨)。

また、割賦販売業者等又は割賦販売業者等から債権の取立てについて委託を受けた者についても司法書士法3条1項6号又は7号の業務として、債務処理に関する権限を同条2項に規定する司法書士に委任した旨の通知を受けた場合においても弁護士に委任した旨の通知を受けた場合と同様、正当な理由なく支払請求を行うことができない(平成15年6月1日付経済産業省商務情報政策局取引信用課長通達)。

これらの規制は司法書士が司法書士法3条1項6号又は7号の業務を行うことを前提としたものであるから、同法3条1項4号又は5号に該当する破産申立書類の作成及びその相談については射程外である。したがって、ここでいう受任通知とはあくまでも破産申立書類の作成の委任を受けた旨の通知であり、債務処理の権限の委任を受けた旨の通知ではない。しかし、実際には、規制の対象となっている貸金業者等に対し、司法書士が破産申立書類の作成を受任し、債権額の確認を求める等の通知をした場合には、債務者に取立行為を行うことはまずない。これは、そのような取立行為は貸金業法21条1項2号に定める「債務者等が弁済し、又は連絡し、若しくは連絡を受ける時期を申し出た場合において、その申出が社会通念に照らし相当であると認められないことその他の正当な理由がないのに」「内閣府令で定める時間帯以外の時間帯に、債務者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の居宅を訪問すること」に該当する可能性が否めないからであろう。

金融機関は、受任通知により貸付金の預金との相殺や保証会社への代位弁済請求などの処理を進めることになるが、そのために必要な期限の利益喪失通知などを内容証明郵便で債務者本人に送付することが多い。しかし、それ以外に債務者本人に対して取立行為に及ぶことはほとんどないと考えてよい。

仕入・下請などの取引業者、知人などの場合には、どのような取立行為が違法性を帯びるかは一般条項で考えることになるが、中には自力救済行為を行う者もあるので、受任通知送付の要否、破産の早期申立等を検討する必要がある。

稼働中の法人のように受任通知を送付せずに破産申立の準備を密行する場合には、申立までの間に一部の債権者に偏った弁済をしたり取立行為に屈して財産を散逸させることがないようにする必要がある。また、租税債権者に預貯金や売掛金を差し押さえられることにより破産予納金の準備ができなくなることは避けなければならない。したがって、破産申立までの日程について債務者と共通認識を持つとともに債権者の属性を考慮して取立行為に対する対応を決めておく必要がある。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立