Ⅶ 公正な手続保障

債務者と法律実務家の責務の3番目は、債務者にとっても債権者にとっても公正な手続を保障するということであるが、破産手続開始決定後は裁判所の監督下で手続が遂行されるのであるから、どちらかというと、誰の監督下にもない受任から破産手続開始決定までの間で公正な手続保障を意識して執務する必要がある。そして、その最大のポイントは、迅速に破産手続開始の申立てをすべきということである。仮に破産手続きの準備中に混乱等のおそれがない場合であっても、申立てを内部的に決定してから数週間から遅くても1カ月以内には申立てをすべきであろう(マニュアル208頁)。

時折、債権者からの督促が止まったことで安心してしまうのか、その後の具体的な債務整理手続に進まず、受任通知から破産手続開始の申立てまでかなり時間が経過している事案も見受けられる(マニュアル53頁)。しかしながら、債権者に対して受任通知を発している場合には、債権者も何らかの債務整理手続が進行することを期待して個別の権利行使を差し控えるのが通常であろうから、早期の申立てが求められる。

また、従業員に対する給料が未払いであった場合には、未払いになって3か月以上経過してから破産手続開始の申立てをすると、「破産手続開始前3月間」より前の給料になり、未払給料は財団債権ではなく優先的破産債権となってしまう(法149条Ⅰ・Ⅱ参照)。さらに、労働者健康福祉機構による賃金立替払制度の利用は、退職時期が破産手続開始の申立てから遡って6か月以内である必要があるから(賃確7条、同法施行令3条2号)、申立ての遅延によって労働債権者が不利益を受けることがないようにする必要がある。

このほか、手形不渡りが迫っているという状況であれば、不渡りに伴う混乱を防ぐ必要があるが、可能な限り手形が不渡りとなる日より前に申立日を設定するなどして、取引債権者が回収不能となっても自らリスク回避する手段を検討する時間を確保できるような配慮も必要である(マニュアル137頁)。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立