Ⅵ 債権者間の公平性・平等性

債務者と法律実務家の責務の2番目は、債権者間の公平性・平等性である。破産手続は、債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整することによって、債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ることを目的とする手続であるから(法1)、債権者間の公平性・平等性は極めて重要である。

したがって、破産管財人により否認されることが予想される行為があった場合には、可能であれば原状回復を促すことも必要である。しかしながら、一般的には、破産手続の代理権を満たない司法書士が是正を促しても、任意に原状回復されることは少ないと考えられるので、速やかに破産申立をして破産管財人に委ねることを優先すべきである。

また、司法書士が書類作成業務を受任した後においても、受任から申立てまでの時間が長くなればなるほど、その間に債務者が偏頗弁済等の否認対象行為を行ってしまうリスクが高くなるので(マニュアル173頁)、特段の事情もなく破産手続開始の申立てを遅延させることは、債権者間の公平性・平等性を害するおそれが高くなると考えるべきである。

また、破産申立てにあたっては、破産管財人が当該事件について着目する点はどこかということを踏まえ、管財人が管財業務に速やかに着手するためにはいかなる事項を準備し、引継ぎのためにどのような資料を用意しておくかということにも配慮する必要がある(管財手引 17頁)。

 一方で、債権者間の公平性・平等性を追及するために、すべての事案において債権調査を正確に行う必要はない。特に、個人破産の場合であっても消費者ではなく事業者で、破産管財人が選任されることが見込まれたり、法人破産の場合には、原則として、受任通知や債権調査票を債権者に発送すべきではない。なぜなら、これらの債務者の場合には、行政監督下にある金融機関等と異なる一般債権者が多く、受任通知等を受領した倒産処理に不慣れな債権者が抜け駆けを図ろうとするあまり、公平性が害されてしまうことがあるからである。もっとも、事業廃止から数年を経過しているなどして債権者の状況が把握できず、なおかつ、債権者も既に損金処理をしていることが予想されるため秩序が乱されるおそれのない場合には、例外的に受任通知等を発送して債権調査に正確を期すことも考えられる。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立