Ⅲ 第3ステージに向けて

過払事件の激減で幕を開けた第3ステージは、債権者との任意整理の交渉が困難になり、破産や民事再生を利用するケースが徐々に増加していくことが予想される。また、消費者破産に代わって司法書士が事業者や小規模な法人破産を取り扱う機会が増加することが予想される。そして、破産法の知識や破産に対する対応力が問われる時代になるだろう。第2ステージにおいて、多くの司法書士が債務整理業務に取り組むようになったのは喜ばしいことである。しかし、債務整理業務が一般化した今だからこそ、司法書士はなぜ債務整理に取り組むのかを考え、司法書士はどのような法律家を目指すのかが議論されなければならない。

 これに対する筆者の個人的な意見は、司法書士は、債務整理のスペシャリストではなく、より広い観点から債務者の生活再建のスペシャリストを目指すべきと考えている。

司法書士は、地域に満遍なく存在し、敷居が低い市民に最も身近な法律家であると言われることがある。これを債務整理業務に置換えれば、市民が町医者やかかりつけ医院のように気軽に司法書士の事務所にアクセスし、債務整理のみならず生活再建に必要なアドバイスを受けることもでき、必要に応じて地域の行政や福祉等の機関と連携して依頼者の生活再建を支援するといった形態が考えられるのではないかと思われる。債務整理は手段にしかすぎない。依頼者が債務整理を行う目的は債務整理を経て生活を再建させることにあるという依頼者の心情を、私たちはもう一度真摯に受け止める必要がある。

司法書士が職業選択の自由の例外とされる公共財としての使命をも帯びている以上、今こそ債務整理業務に取組む意義を再考し、司法書士の将来像を構築する手掛かりとしたいものである。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立