3 債務整理指針から考える将来像

 債務整理指針は、昨今マスコミを賑わせている司法書士の不適切な行為を単に規制するにとどまらず、司法書士が債務整理業務に取組む姿勢を強く意識したものとなっている。

まず、司法書士が債務整理に取組む基本姿勢としては「債務整理事件の処理にあたっては、依頼者の生活再建を目指すことを常に念頭に置き」(第3前段)と、「生活再建」が債務整理の目的であることを再確認したうえで、「必要に応じて行政サービス等を受ける機会を確保するなど、依頼者の生活再建のための方策を講じるものとする」(第3後段)として、その目的を達成するためには行政等との連携が不可欠であることを説明している。

 また、依頼者の生活再建のためには依頼者の生活状況を詳細に理解して方策を検討しなければならないが、その点については「面談においては、負債の状況、資産及び収入の状況並びに生活の状況等の現状を具体的に聴き取り、依頼者の置かれた状況を十分に把握したうえで、債務整理事件処理及び生活再建の見通しを説明するものとする」(第5 2項)、「債務整理事件の依頼を受けるにあたり、又はこれを処理するにあたっては、依頼者の意向を十分に聴き取り、依頼者の自己決定を尊重しなければならない」(第6 1項)としている。これらは債務整理事件の処理にあたり当然といえば当然であるが、法律職能としては、勢い、債務整理の事件処理そのものに傾注しがちであるところ、究極の目的である生活再建に繋げていくためには、より広い視点で依頼者の状況を理解するように努める必要があるとしているのである。

さらに特徴的なのは、「債務を分割して弁済することとなった場合その他依頼者の生活再建の支援が必要となった場合には、適宜面談するなどして、適切な助言ができるよう努めるものとする」(第14)としている点である。「債務整理業務」とは、手続面でとらえれば和解の成立等の手続終了により終結するというイメージが想起されるが、生活再建を目的とした債務整理という視点でとらえると、必ずしも手続終了で終結するものではなく、和解等で取り決めた債務が弁済等により消滅して初めて債務整理が終了するとの考え方も成り立つ。そして、手続終了後においても「適宜面談するなどして」継続的な関係を保つことが必要であることを示している。

もっとも、筆者個人的には、継続的な関係を保つための方法論として、和解等により計画された弁済の代行を司法書士が積極的に受任するといった具合の具体的な規定も置いていただきたかったところであるが、これは、次のステップに期待したいものである。

 

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立