(2)事件漁りに関する問題
事件漁りに関する問題については、債務整理指針では、「債務整理事件を処理するにあたっては、合理的な理由がないにもかかわらず、依頼者の他の債務の有無を聴取しないで、又は依頼者に他の債務があることを知りながら、過払金返還請求事件のみを処理するなどしてはならない」(第11 1項)とする規定や広告のあり方に関する規律(第4)を規定している。
司法書士会に寄せられる苦情等によると、一部の司法書士が事件を選別して受任しあるいは偏った処理をしていることが明らかとなっている。具体的には、①依頼者の複数債務のうち任意整理や過払金返還請求案件のみを処理し、ヤミ金事件は処理しないというもの、②過払金返還請求事件を受任した場合に、訴訟提起を行わずほとんどを任意交渉で決着させるため返還される過払額が低額になるというもの、③破産や民事再生事件は受任しないというものなどである。
こうした現象が生まれた背景には、過払金の返還が一般化しある程度金額的に妥協をすれば比較的容易に過払金返還の和解が成立すること、過払金の回収については成功報酬を受け易いなどコストパフォーマンスが高い一方破産や民事再生は手続が煩雑でコストパフォーマンスが低いこと、及びヤミ金事件は電話等により司法書士が違法業者と応酬しなければならないことなどがあると考えられる。
言うまでもないが、依頼者が債務整理をする目的は、生活を経済的に立ち直らせことにあり、司法書士は依頼者の利益を最大限に尊重すべき社会的責務を負っている。したがって、司法書士が、自己の都合により偏って事件を受任しあるいは処理して、依頼者の究極の目的である生活再建をないがしろにすることは許されない。
また、こうした事件漁りのための集客を目的とした広告をすることにより処理能力を超えた数の事件を受任して事件処理を滞留させたり、地域的に広範囲の顧客を依頼を受任し、その結果依頼者の意向を充分把握しないまま、あるいは依頼者との間で債務整理方針や報酬に関する実質的な合意がされないまま事件を処理することは許されない。
「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より