(1)専門家としての聞取・説明責任について

専門家としての聞取・説明責任について、指針では、たとえば、「債務整理事件の依頼を受けるにあたっては、依頼者又はその法定代理人と直接面談して行うものとする」(第5 1項)として、本人との面談により「負債の状況、資産及び収入の状況並びに生活の状況等の現状を具体的に聴き取り、依頼者の置かれた状況を十分に把握したうえで、債務整理事件処理及び生活再建の見通しを説明するものとする」(第5 2項)としている。

また、「債務整理事件の依頼を受けるにあたっては、その内容を明らかにした契約書を作成するとともに、報酬表を提示するなどして事件処理に係る報酬額及び費用又はその算定方法を明示したうえで十分に説明しなければならない」(第10 1項。なお、債務整理指針第10の規定は平成22年5月に改正され、委任契約書を委任者に交付すべき旨が規定された)、「債務整理事件の処理にあたっては、依頼者に対し、定期的に、又は必要に応じて処理状況を報告しなければならない」(第12 1項)、「債務整理事件が終了したときは、遅滞なく、費用の精算をし、依頼者から預かった書類及び依頼者のために取得又は受領した書類等を返還するものとする」(第13)などの規定を置き、専門家の責任として当然のことを敢えて規定している。

そもそも、債務整理事件の相談においては、個々の債権債務関係について取引履歴や預金通帳等を確認し、整合しない部分を質するなどしながら相談者の生活状況を包括的に聴き取ったうえで、相談者の目的とするところを正確に受け入れることが必要である。

また、相談者は、債務整理事件について誤解をしていたり、不必要な懸念を抱いていることが多い。そのような依頼者の心情を充分に理解することなく、司法書士が事件の処理方針を断定的または部分的に提示したために信頼関係が構築できず、受任に至らないあるいは後日紛争に発展するなどのケースがある。

したがって、依頼者がどのような債務整理を望んでいるのかを聴き取り、依頼者の意向に添う処理が困難と思われる場合には、生活再建を果たすためには何をすべきかという観点から、依頼者の理解が得られるように、十分に時間をかけて丁寧に説明する必要がある。さらに、債権調査等を経て具体的な方針や手続について複数回打合せをし、依頼者の心情を汲み取りながら生活全般について後見的な役割を果たすなど、依頼者と濃密な信頼関係を構築する必要もあるのである。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立