5 特定調停・個人民事再生への取り組み

 沖縄の活動を中心とする調停への取り組みは全国へ広がりつつあり、代理人ではないが調停に司法書士が同行して依頼者にアドバイスをするなどといった活動も多く報告されるようになっていった。しかしながら、裁判所における調停であるにもかかわらず利息制限法による引直しをしない、途中開示の取引経過で解決しようとするなど、多くの問題が指摘されていた。こうした問題は、平成12年に施行された特定調停法によってかなりの部分が改善されることとなった。

もちろん、調停申立てによって取立行為が規制されるのであるから、債務者は調停を行うことによって生活再建を図りながら返済計画を立案することが可能であり、しかも、特定調停の申立ては簡単な書式に債権者名等を埋め込んでいくという非常に簡易なものであったため、裁判所は特定調停の申立てに来る相談者で溢れかえるという異常な状況になっていくのである。

当時は、取引経過の開示については裁判所の命令等によるもの以外は非協力な貸金業者が多かった。そのため、特定調停の中で初めて開示が行われて過払いであることが発覚するということも少なくなく、そのような場合には特定調停を取下げて過払金返還訴訟を提起するという手法が取られていった。

また、平成13年には改正民事再生法が施行され、民事再生が個人でも利用しやすくなった。日司連では、個人民事再生に対応するため対策チームを組成し、施行直前である平成13年3月には想定される実務まで網羅した手引書を発刊し (「個人債務者再生の実務」民事法研究会)、また、各単位司法書士会では住宅ローン債権者である金融機関へレクチャーするなどの積極的な対応が行われた。

このようにして、司法書士は、破産、調停、民事再生、過払金返還訴訟等のメニューを拾得することにより様々な債務整理に対応する能力を身につけていったのである。しかし、司法書士が債務整理を行ううえで受任通知が認められていないことには変わりはなかったため、債務整理を行う司法書士が増えていったとはいえ爆発的に増加していたわけではない。

言ってみれば、クレサラ問題に問題意識を持ち続けて実務にも精通する努力を怠らないという高いモチベーションを維持できる司法書士が一定数存在していたというべきであろう。

そうした中にあっても、平成12年に発刊された「詳解消費者破産の実務」(芝豊、古橋清二共著 民事法研究会)のはしがきでは、「今こそクレ・サラ問題に対する「マインド」を再確認しておかなければ債務者の本質的な救済は困難となろうし、社会の病理現象として明確に認識しなければ、いつの日か私たち自身に「単なる借金踏み倒し屋」の罵声として跳ね返ってくるかもしれない」と警鐘を鳴らしている。まるで、昨今の司法書士の不祥事を予想していたかのように、である。

実際、この頃、一部ではあるが、都心部の司法書士が地方に在住する依頼者本人と面談することもなく調停申立書類の作成を1件数万円で請け負い、あとは裁判所に丸投げする、調停を成立させるために改竄した給与明細書を依頼者に持たせる。NPO法人を仮装した整理屋と結託して杜撰な破産申立書を作成し高額な報酬を請求するなど、依頼者の生活再建など考えずに単に高額な報酬を稼ぐ手段として債務整理に参入する司法書士が出てきたのも事実である。

 

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立