4 商工ローン問題への対応

 以上のようにして、司法書士が破産や調停を活用して債務整理に関与し、生活再建を図る活動が広がっていき、また、わずかずつではあるが過払金返還訴訟への取り組みもなされ始めていた。

 しかし、平成11年頃から所謂商工ローン問題が社会問題として顕在化し、消費者とは異なって、手形を返済の道具とする事業者の債務整理をどのように行うかということが問題となった。すなわち、貸金業者が事業者に貸付をするに際し、約定返済日を支払期日とする約束手形を振り出させ、約定返済日には手形決済が可能な資金が融資されて実質的に手形がジャンプされていくという仕組みである。事業者にとって不渡事故は致命傷となるため、いかに高金利の借入であっても手形のジャンプを繰り返さざるを得ないのである。

 もちろん、手形の譲渡・取立禁止の仮処分申立も行われていたが、裁判所の対応は冷ややかで、異議提供金拠出によらない不渡回避目的の申立てとして100パーセントの保証金を命ずる例もあった。しかし、商工ローンの問題性が少しずつ裁判所の理解を得られるようになり、保証金の額も次第に下がり始めることとなった。

 しかしながら、手形が決済できないと言って駆け込んでくる相談者にとって、下がり始めたとはいえ保証金の拠出は簡単ではない。そこで、保証金を調達できない相談者に対しては調停前の措置命令(民事調停法12条)を活用して手形取立を禁止するという手法が司法書士のグループから提唱された(「戦闘モード 商工ローン」浜松商工ローン研究会 平成11年7月)。

これは、後に仙台の新里宏二弁護士により実践され、それを皮切りに、調停前の措置命令を活用して無保証で手形取立を禁止するという実務が一気に全国に広がることとなった。

このようにして、中小の事業者に対しても対応することができる司法書士も出てくるようになっていった。

 

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立