妻に住宅を生前贈与しようと思っています。税務上の特例があることは承知していますが、ほかに注意する点はありますか?
 かねてより、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に対し現に居住している住宅やその敷地を生前贈与した場合、贈与した財産の評価額2000万円までの部分にいては贈与税が課税されない特例がありました。これに加え、平成31年7月1日以降の贈与では、いわゆる「持戻し免除」の意思表示があったものと推定されることになります(改正民法903条3項・4項)。

 被相続人が生前に贈与した財産については、贈与した財産の評価額相当分を被相続人の遺産に加算したうえで、具体的な相続分を算出することが原則とされており、これを「持戻し」といいます(同条1項)。ただし、持戻しは任意規定と考えられているため、贈与者が持戻しを免除する意思表示をした場合には遺産に加算されません(同条3項)。しかし、実際にはわざわざ持戻し免除の意思表示をするケースは少なく、また、贈与者に持戻し免除の意思が存していたとしてもその意思を明らかにする資料がないことから、実務上はあまり機能していないのが実情でした。

 今般の相続法改正では、長年連れ添った配偶者の貢献を相続手続に反映させることが改正の大きな目的の一つであることから、贈与税の特例と同様、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に対し現に居住している住宅やその敷地を生前贈与した場合、当該贈与については持戻し免除の意思表示があったものと推定する旨の規定が新設されました(同条4項)。

 なお、同項の規定は、贈与税の特例の場合と異なり贈与財産の評価額を問わず適用があります。また、生前贈与だけでなく、配偶者に対する遺贈、遺贈の規定を準用する死因贈与(民法554条)も対象となります。また、平成32年4月1日以降は、居住用財産だけでなく配偶者居住権(改正民法1028条)も対象となります。

 持戻し免除が推定される結果、生前贈与等を受けた居住用不動産は、推定が覆らない限り遺産分割の対象財産から外れることになりますので、配偶者は、実質的に法定相続分を超えて遺産を承継することが可能となるわけです。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立