金融機関の融資実務では、経営者等を除く第三者の個人保証を徴求しない潮流がありますが、そうした中で、なぜ、改正民法で、保証契約の締結に先立ち保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示し、公正証書を作成する制度を設けたのですか。

 保証契約は個人的情義等から無償で行われることが通例である上、保証契約の際には保証人が現実に履行を求められることになるかどうかが不確定であることから、保証人において自己の責任を十分に認識していないまま安易に契約が結ばれる場合も多く、そのため、個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たない状況が続いていました。

 保証人にとって過酷な結果を招くという問題が最も深刻に生じているのは、主たる債務者が事業のための資金を借り入れた債務の保証についてであり、事業のための資金の借入れは、主債務者が法人であろうと自然人であろうと、多額になりがちだからです。そのため、事業のための借入れに当たっての、特に経営に関与しない第三者による保証の問題性は広く認識されるに至り、保証に依存しない融資実務の確立に向けた試みが行われてきました。

 例えば、中小企業庁は、「事業に関与していない第三者が、個人的関係等により、やむを得ず保証人となり、その後の借り手企業の経営状況の悪化により、事業に関与していない第三者が、社会的にも経済的にも重い負担を強いられる場合が少なからず存在することは、かねてより社会的にも大きな問題とされてきております。」という認識を示した上で、信用保証協会が行う保証において経営者本人以外の第三者を保証人として求めることを原則として禁止しました(平成18年3月31日付け「信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止について」)。

 また、平成25年8月に金融庁が定めた「主要行等向けの総合的な監督指針」においても、経営者以外の第三者の個人保証について、直接的な経営責任がない第三者に債務者と同等の保証債務を負わせることが適当なのかという指摘があるという状況に鑑み、金融機関には、経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行を確立するという趣旨を踏まえた対応を取る必要があるとされ、金融機関に対する監督における着眼点として、経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする方針を定めているか、経営に関与していない第三者が例外的に個人連帯保証契約を締結する場合に、当該契約は契約者本人による自発的な意思に基づく申し出によるものであって、金融機関から要求されたものではないことが確保されているか、などが挙げられていました。

 上記のような中小企業庁、金融庁の対応などの結果、実務上も、事業資金の融資において、主債務者の経営に実質的に関与していない第三者に保証をさせることは減少していきました(部会資料70A等)。

 しかし、一方で、起業をする際に物的担保の対象とするだけの財産を持たない一方で起業を支援しようとする第三者が保証する意思を有している場合などのように、第三者が保証する社会的に有用であるようなこともあり、第三者保証を全くなくしてしまうこともできないという指摘もされたようです。

 そこで、保証人が自発的に保証する意思を有することを確認する手段を講じた上で、自発的に保証する意思を有することが確認された者による保証契約は有効とするという方向性が示されました。

 つまり、保証契約の締結に先立ち保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示し、公正証書を作成する制度を創設したのは、原則として第三者保証を制限する流れの中の例外的措置であると位置づけることができると思われます。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立