連帯債務は一人の債務者の無資力の危険を分散するという人的担保の機能を有しているため、絶対的効力事由が多ければ多いほど連帯債務の担保的効力が弱まる方向に傾斜します。そのため、絶対的効力事由を多数認めることは、通常の債権者の意思に反するのではないかという問題も指摘されていたようです。そこで、審議過程では、絶対的効力事由の一つ一つについて絶対的効力を維持すべきかどうか検討されました。そして、連帯債務者の一人による相殺については絶対的効力を維持することとされたため、改正民法においても絶対的効力があることに変更はありません。
しかしながら、他の連帯債務者による相殺権の援用(改正前民法436条2項)については、連帯債務者の間では他人の債権を処分することができることになり不当であるとの指摘がされており、債権者に対して債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない場合の規律についてはどのようにすべきか検討がされました(部会資料8-1 4頁)。
改正民法では、当事者間の関係を簡便に決済するという趣旨からすれば、債権者に対して反対給付を有する連帯債務者の負担割合の限度で、他の連帯債務者が履行を拒むことができるという抗弁権を与えれば足りるとの考え方により、その連帯債務者の負担部分の限度で、他の連帯債務者は、自己の債務の履行を拒絶することができると整理されました(部会資料67A 6頁)。