【資料45】財産管理制度の見直し(不在者財産管理制度、相続財産管理制度等)

1 不在者財産管理制度の見直し
(1) 供託等
不在者財産管理制度について、次のような規律を設けることで、どうか。
① 家庭裁判所が選任した管理人は、不在者の財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、不在者のために、当該金銭を不在者の財産の管理に関する処分を命じた裁判所の所在地を管轄する家庭裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。
② 家庭裁判所が選任した管理人は、①による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
③ 家庭裁判所は、不在者が財産を管理することができるようになったとき、管理すべき財産がなくなったとき(家庭裁判所が選任した管理人が管理すべき財産の全部が①により供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、不在者、管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、管理人の選任その他の不在者の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならない。
(2) 職務内容の限定に関する規律
家庭裁判所が、その不在者財産管理人を選任する際に、その職務の内容(不在者財産管理人の権限の内容を含む。)をあらかじめ定めることができることについては、特段新たな規律を設けないものとすることで、どうか。
(補足説明)
1 本文(1)について
部会資料34(本文1(1))と同様である。第15回会議において特段の反対はなかった。
2 本文(2)について
家庭裁判所が、不在者財産管理人を選任する際に、その職務の内容をあらかじめ定めることができる旨の規律を設けることについて、第15回会議においては、そのような規律があった方が対応しやすいのではないかという意見があった。
もっとも、部会資料34の補足説明(3ページ)で記載したように、裁判所が不在者の利益のために職務内容の限定が適切かを判断することは困難であるとの指摘もあり、第15回会議においても、これを規律として設けることは難しいのではないかとの指摘があった。
また、部会資料34の補足説明では、運用上の工夫により、実質的には不在者財産管理人の職務の限定と同様の結果を得ることも不可能ではないと考えられる旨を記載していたところ、第15回会議では、現にそのような運用が行われている例の紹介もされた。
いずれにしても、別途、所有者不明土地(建物)管理制度等を新設する方向で検討を進めており(部会資料43、44参照)、これが実現すれば、所有者不明土地(建物)に特化した管理人の選任が可能となる。
以上を踏まえ、本文(2)では、家庭裁判所が、その不在者財産管理人を選任する際に、その職務の内容をあらかじめ定めることができることについては、特段新たな規律を設けることはしないとすることを提案している。
3 その他
管理人の選任の申立権者について、第15回会議では、現行民法の規律を改めないことについて異論はなかったことから、これについては取り上げていない。新たに利益相反行為に関する規律を設けないとすることについても、同様である。
2 相続財産管理制度の見直し
(1) 相続財産の保存に必要な処分の見直し
相続人が数人ある場合における遺産分割前の相続財産及び相続人のあることが明らかでない場合における相続財産の保存に必要な処分を可能とするとともに、これらと現行の民法第918条第2項(第926条第2項、第936条第3項・第926条第2項、第940条第2項において準用される場合を含む。)の相続財産管理制度とを一つの制度とする趣旨で、相続財産の保存に必要な処分に関する次のような規定を設けることで、どうか。
ア 相続財産の保存に必要な処分
家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき又は相続人のあることが明らかでない場合において第952条第1項の規定に基づき相続財産の管理人が選任されたときは、この限りでない。
(注)現行の民法第926条第2項(第936条第3項で準用される場合を含む。)の相続財産管理制度も、本文アの相続財産管理制度に取り込んで一つの制度とするが、清算権限を与えることとはしない。
イ 管理人の権限等
管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。
a 保存行為
b 管理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
ウ 管理人の義務
管理人は、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
エ 管理人の職務等
① 管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。
② 家庭裁判所は、管理人に対し、相続財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
(注)このほか、現行の相続財産管理制度において民法第918条第3項、家事事件手続法第201条第10項、第125条において準用される規定(第29条〔管理人の担保提供及び報酬〕、第646条〔受任者による受取物の引渡し等〕、第647条〔受任者の金銭の消費についての責任〕、第650条〔受任者による費用等の償還請求等〕)については、いずれも、本文アによる相続財産の保存に必要な処分にも同じ規律を設けるか、又は準用することとする。
オ 相続財産の保存に必要な処分の取消し等
① 家庭裁判所は、次に掲げる事由があるときは、相続人、相続財産の管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、相続財産の保存に必要な処分の取消しの審判をしなければならない。
a 民法第952条第1項の規定に基づき相続財産の管理人が選任されたときb 管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が②により供託されたときを含む。)
c その他財産の管理を継続することが相当でなくなったとき
② 管理人は、相続財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、相続人又は相続財産法人のために、当該金銭を相続財産の保存又は管理に関する処分を命じた裁判所の所在地を管轄する家庭裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。
③ 管理人は、②による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
(補足説明)
1 本文については、部会資料34(本文2(1))から変更はない。第15回会議においては、特段の反対はなかった。
2 限定承認がされた場合について
第15回会議では、限定承認がされた場合も含めて、相続財産の保存に必要な処分を可能とする統一的な相続財産管理制度の対象とすることについては、異論がなかった。
他方で、清算権限との関係では、部会資料34では、現行の民法第926条第2項及び第936条第3項の相続財産管理制度をも本文アの相続財産管理制度に取り込んで一つの制度とすることについて慎重な考え方もある旨を注記していた。
部会資料34の補足説明(9ページ)で記載したように、限定承認がされた場合でも、現行法と同様、請求に基づく相続財産管理人の選任を可能とする必要があると考えられる。
この場合の相続財産管理人に清算の権限まで認めるかどうかについては現行法においても解釈が分かれるところであるが、現行民法の規定からはこの相続財産管理人に相続財産の清算権限を認めることはできないとの解釈が通説であるとされており、この解釈を前提とすると、限定承認がされた場合に選任される相続財産管理人の権限は、本文アの相続財産管理人の権限の範囲と一致することとなる。
そうすると、限定承認がされた場合も含め、保存のための管理が必要な場面では、本文アの相続財産管理人を請求し得ることとすることが、熟慮期間中に選任された相続財産の保存のための相続財産管理人が熟慮期間経過後遺産分割前でもそのまま相続財産を管理することができるようにするという今般の見直しにおける一つの相続財産管理制度の創設の趣旨に照らしても合理的であると考えられる。
なお、過渡的な状態にある相続財産の適切な管理を実現しようとする今回の相続財産管理制度の見直しの趣旨からすると、限定承認の場面でこの管理人に清算権限を与えることは難しいと考えられる。
これらを踏まえ、その旨を(注1)で注記している(なお、この制度とは別に、相続人ではない相続財産管理人に清算権限を与える制度を別途設けることについては、相続人自身に清算を行わせることを前提とする現行の限定承認制度を大きく見直す必要があるが、現時点においてその必要性は必ずしも明らかでないため、慎重な検討を要する。)。
3 取消事由について
第15回会議では、本文オ①cの取消事由に該当する具体例について確認を求める意見があり、例えば、崖地崩落防止のために本文アの相続財産管理人が選任されたが、崩落防止のための職務を終え、他に必要な管理行為がなく、管理人による管理を継続すると報酬等が必要となって管理費用がかさんでしまうという場合に、取消事由に当たるのかという意見があった。
本文オ①cの取消事由を設ける趣旨は、財産管理の必要性や財産の価値に比して管理の費用が不相当に高額であり、本文アの相続財産管理人に管理をさせるのが相当でない場合など相続財産の管理を継続することが相当でなくなったときに、相続財産の保存に必要な処分を取り消すことができるようにすることにある。上記の例では、崖地の崩落防止のための職務を終え、他に必要な管理行為がないのであれば、財産管理の必要性がなく、本文アの相続財産管理人に管理を継続させることは不相当な管理費用を生じさせることになるものと考えられることから、基本的に上記の取消事由に該当するものと考えられる。
(2) 民法第952条以下の清算手続の合理化
民法第952条第2項、第957条第1項及び第958条の公告に関し、次のような規律に改めることで、どうか。
① 民法第952条第1項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。
② ①の公告があった後2箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、2箇月を下ることができない。
(補足説明)
部会資料34(2(2))と同様である。第15回会議では特段の反対はなかった。
3 相続の放棄をした者の義務
(1) 民法第940条第1項の規律を次のように改めることで、どうか。
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している場合には、相続人(第951条の規定の適用がある場合には、同条の法人)に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存すれば足りる。
(2) 民法第940条第2項のうち、委任の規定を準用する現行法の規律については、維持することで、どうか。
(補足説明)
1 本文(1)について
部会資料29の内容と同じである。第13回会議では、特段の反対はなかった。
(1) 義務の内容について
第13回会議においては、「保存すれば足りる」という義務の内容について、積極的な保存行為をしなければならないのかとの指摘があったが、見直し後の民法第940条第2項の義務は、相続放棄によって相続人となった者を含む他の相続人のために必要最小限の義務を負わせるものとする観点から、財産を滅失させ、又は損傷する行為をしてはならないことのみを意味している。
なお、この義務の相手方は、現行の民法第940条第1項と同様に、他の相続人も含む相続人(又は相続財産法人)であると解される。
(2) 相続財産が間接占有されている場合について
第13回会議においては、「現に占有している」相続財産に、間接占有も含まれるのかとの指摘があった。「現に占有」とは、相続放棄をしようとする者が被相続人の占有を観念的にのみ承継している場合を、本文の義務を負う場面から除外する趣旨であって、本文の適用対象が、財産の占有態様が直接占有であるか間接占有であるかによって区別されることを想定しているものではない。
(3) 相続人の全員が相続放棄をした場合における供託の可否について
第13回会議においては、相続人の全員が相続放棄をした場合に、民法第952条に基づく相続財産管理人の選任の申立てをせずに、受領不能を原因として供託をすることができるのかとの指摘もあった。
もっとも、債権者の受領不能の要件(民法第494条第1項第2号)については比較的広く解されており(例えば、債権者が制限行為能力者であって、これに法定代理人がいないために受領ができないというような法律上の受領不能も、これに該当すると解されている。)、相続人の全員が相続放棄をし、相続財産法人が成立している場合であれば、受領不能を原因とする供託をすることは可能であると考えられる。
2 本文(2)について
第13回会議においては、民法第940条第2項について改めるかどうかについても検討する必要があるとの指摘があった。
現行の民法第940条第2項は、①第645条(受任者による報告)、②第646条(受任者による受取物の引渡し等)、③第650条第1項及び第2項(受任者による費用等の償還請求等)並びに④第918条第2項及び第3項(相続財産の管理)の各規定を準用している。
このうち、委任の規定を準用する趣旨は、相続放棄をした者は相続人に帰属する財産を相続人に引き渡すべきであるし、また、相続放棄者に経済的負担をさせるべきではないことなどにあると考えられるが、民法第940条第1項を見直した後も、その準用の必要性が直ちに失われるものではないと考えられる。
他方、相続財産の保存に必要な処分についての諸制度を一つのものにする見直し(前記本文2(1))をするのであれば、相続の放棄がされた場合に限って規定されている第918条第2項及び第3項(相続財産の管理)の規定の準用部分については、削ることになると考えられる。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立