法定相続情報証明制度が新設された背景には、不動産登記記録の記載によっても所有者が判明しない不動産の増加という問題があります。このような所有者不明不動産の問題により、公共事業用地の取得に長期間を要したり、空き家の放置、遊休農地の発生、農地集約化の妨げ、森林の適正な管理ができないなど、様々な社会問題が生じています。
地価の上昇が続き、不動産の資産価値に関心が高かった時代、地縁・血縁関係が強かった時代では、相続が発生すれば相続人名義に相続登記がされることにより、不動産の所有者が不明となることは比較的少なかったものと推測されます。
しかし、今日では不動産に対する関心は多様化し、必ずしも所有を望まず、むしろ管理や課税に対する負担感さえ抱くようになり、その結果として遺産分割や相続登記がなされずに放置されるケースも多数生じているのが実情です。また、遺産分割や相続登記がなされないうちに相続人に更に相続が発生し、それが何代にもわたることにより、解決が一層難しくなっているケースも少なくありません。
近年では、地方自治法に基づく認可地縁団体が所有する不動産に係る登記制度や、農地法や森林法に基づき利用権の設定を行う制度など、土地の利用目的や状況に応じた新たな制度も少しずつ整備されています。また、死亡届の提出を受けた場合や、固定資産税納税通知書を送付する場合に、相続登記や農地・森林の届出に関する手続きを案内する自治体も出てきているようですが、所有者不明不動産の根本的な解決には程遠いものと思われます。
平成28年6月2日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2016」では、「第2章 成長と分配の好循環の実現」の中で、「不動産ストックのフロー化による投資の促進、地域経済の好循環を図るため、リート市場の機能強化、成長分野への不動産供給の促進、小口投資を活用した空き家等の再生、寄附等された遊休不動産の管理・活用を行うほか、鑑定評価、地籍整備や登記所備付地図の整備等を含む情報基盤の充実等を行う。また、空き家の活用や都市開発等の円滑化のため、土地・建物の相続登記を促進する」こととされ、政府として相続登記の促進に取り組むこととされました。
しかし、相続登記を申請する際には被相続人の相続人を確定するための戸籍謄本等の情報を提供しなければならないところ、提供する戸籍謄本等が改製等により複数必要となるため、これらを取り揃えることが煩雑で、相続登記を申請する意欲が削がれてしまうということも考えられます。
このような背景から、相続登記を促進するため、「法定相続情報証明制度」が新設されたわけです。