法制審議会 民法・不動産登記法部会 第23回会議議事録

  それでは,この総務省から提出を受けている参考資料につきまして,勝目関係官から説明をお願いいたします。
○勝目関係官 総務省でございます。お手元,総務省のクレジットの資料をお願いを致します。1枚めくっていただきまして,全国市長会及び全国町村会から連名で意見の提出がございますので,その概要について御説明をさせていただきます。
  これは,部会資料54の3ページ(注3)に,農用地,林地の国への承認申請の前置手続として,市町村への申出の法定化について引き続き検討するとされていることに関するものでございます。
  記書の1でありますが,本制度は飽くまで土地所有権の放棄に伴う法務局等の諸手続の中に位置付けられるべきものでないかということであります。農業経営基盤強化促進法,あるいは森林経営管理法に基づく手続と,今般の所有権放棄の一連の手続行為というのは,全く別の性格を持つ政策でございますけれども,市町村関係者からの意見を聴取することなく,言わば既存制度に便乗するような形になっていないかということでございます。
  すなわち2,これら二つの法律におきましては,利用権や管理権を適切に行使することで,放棄地等とならないような仕組みとしているものと理解をしておりますが,申出を行うか否かというのは任意となっているところであります。
  3,今般,市町村への手続を義務化するとなりますと,前記二つの法律とは別の,所有権放棄に伴う国の手続の一環として法的に整理されるべきものでないかということでございます。
  あわせまして,4,この関係者につきましては,関係市町村外の遠方の関係者も相当数に上るということが見込まれる中,一律に市町村への申出手続を行わせることは申請者の負担からも問題があるのではないか。また,一見して農用地の利用集積や森林経営管理に適さないと判断できるような事案までもが数多く市町村の窓口に持ち込まれることになれば,事務の非効率,手続全体の長期化を招くことになりかねず,運用面からも慎重な検討がなされるべきものということでございます。
  5,以上を踏まえまして,正式に市町村長から意見聴取をして進めていくべきということを強く要請するということでございます。
  よろしくお取り計らいのほど,お願い申し上げます。
○山野目部会長 勝目関係官におかれては,どうもありがとうございました。
  ただいまお話しいただいた事項は,部会資料でいいますと部会資料54の3ページの(注3)ということで御案内している事柄に関する地方の御意見を取りまとめて,総務省としてお出しいただいたものの要旨を御紹介いただきました。この後,部会資料54についての全般的な審議をお願いしてまいりますから,その中で,ただいま総務省から(注3)に関して御披瀝があった意見に関しても,委員,幹事,関係官から何か御意見がおありでいらっしゃいますれば,仰せいただきたく存じます。
  それでは,小分けを致しませんで,部会資料54の全般について御意見を承ります。委員,幹事におかれては,どうぞ御自由に御発言をください。いかがでしょうか。蓑毛幹事,どうぞ。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。部会資料54について,日弁連のワーキンググループでの議論を踏まえた意見を申し上げます。
  まず,これまでも申し上げているとおり,土地所有権の国庫への帰属の承認等に関する制度の創設について,基本的に賛成です。細かく申し上げると,それぞれの提案について意見がある部分がありますので,申し上げますが,その意見が入れられなければこの制度の創設自体について反対するというほどの強いものではありません。
  まず,1ですが,本制度の対象となる土地は相続又は遺贈により取得したものに限るとされていますが,これまでも申し上げているとおり,この制度の対象となるか否かは土地の性質,性状等によって決められるべきであって,その取得原因を問わないとすべきではないか,また自然人だけでなく法人も制度の対象とすべきではないかという意見が,現時点でもあります。
  それに加えて一つ,今まで申し上げていなかった観点からの意見を申し上げます。この提案では,相続又は相続人に対する遺贈が制度の対象となっているわけですが,相続人に対する遺贈の場合以外,具体的には,相続人に対する贈与,売買,信託等の場合も制度の対象とすべきではないかという意見がありました。よりよい土地管理の承継という観点からは,死亡時の相続,遺贈ということではなく,生前のきちんとした判断能力がある段階で権利を次世代に処分,承継させるということが望ましいと思いますし,実際,実務上も我々はそのような相談を受けて,相続人に対する贈与,売買,信託といった形で,次世代への土地,建物の承継ということを行っています。ところが,こういう望ましい行動をした者に対して,この制度が,自分の意思に基づいて取得した者についてはこの制度の対象としないということになりますと,次世代への土地の処分を生前に行うことが不合理な話になって,それはすべきでないということになりかねないのではないかという意見が出ています。そこで,相続人に対する遺贈だけではなく,相続人に対する贈与,売買,信託等もこの制度の対象に含めてもらいたいという意見がありました。
  1について,審査を法務大臣が行うということについては賛成です。
  それから,3の要件について幾つか申し上げます。以前も申し上げましたが,①の建物,あるいは⑦の工作物について,運用ということになるかもしれませんが,仮にその建物等が取り壊されたならば承認が下りるか否かが分かるように,事前協議等の制度を設けた方が望ましいという意見がありました。
  ③ですが,通路その他の他人による使用が予定される土地と書かれている,この「予定される」という文言は不明確ではないかという意見がありました。補足説明あるいはこれまでの議論の流れからすると,この「予定される」というのは,将来通路が開設されるとか,将来通路として使われるという意味ではなく,現時点で通路であって,他人による使用が想定されるというような意味で使われているのだと思われますが,「予定される」という言葉でそのような意味を指すのかが疑問だという意見がありました。
  ⑦の樹木が地上に存する土地ということについて,もう少しうまい定め方ができないかという意見がありました。この規定は,土地の通常の管理又は処分を阻害するような樹木がある場合を指すのだと思いますが,たとえば居宅等で庭に木がある場合に,これが通常の管理又は処分を阻害する樹木なのか,阻害しない樹木なのかということの判断がどのように行われるのか不明瞭だという意見がありました。
  それから,4の承認は,土地の一筆ごとにするということですが,一団の土地について,一筆一筆は必ずしもその境界がはっきりはしていないけれども,全体として見れば,他の土地との境界がはっきりしている場合は,承認されるべきですので,そのようなことが分かるような仕組み,定め方ができないかという意見がありました。
  7ですが,管理に要する標準的な費用というのが具体的に幾らくらいになるか分からないので,明確にできないかという意見がありました。
  あとは,(注)ですが,(注3)農用地及び森林については,承認の申請に先立って,既存の法律において整備されている利用権の設定や売却のあっせんなどの仕組みの活用を申し出なければならないとするということについて,そのような必要があるのか疑問だという意見がありました。
  それから,(注4)の農用地,森林について,農林水産大臣及びその土地の管理をすることとなる財務大臣から意見を聴取するという規律ですけれども,この聴取をする趣旨,目的について,もう少し明確にすべきだという意見がありました。つまり,3の要件を満たすのであれば,承認をするということになるはずですので,なぜ,大臣の意見を聴く必要があるのか,いかなる趣旨で意見を聴くのかを明確にすべきだという意見がありました。
○山野目部会長 弁護士会の意見を取りまとめていただきまして,ありがとうございました。蓑毛幹事からのお話によると,部会資料54で構想をお示ししている制度をよりよくするための見地からの種々の御意見を頂いたということでございます。ありがとうございました。
  引き続き御意見を頂きます。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。今回御提案を拝見いたしまして,これまでにも1の制度の適用範囲のところであるとか,あるいは3の放棄にかかる実体的要件に関していろいろ意見を申し上げておりました。全てが反映されたということではないと思っておりますが,熟慮された上でこのような形で整理していただいたということですので,ここで改めて申し上げることは致しません。
  1点,少し質問をさせていただきたいのが,3の⑩のところです。①から⑨までに掲げる土地のほか,政令で定めるものとなっております。これは以前,部会資料で出てきたときは,今回3の③で入っている,例えば通路その他の他人による使用が予定される土地というようなもの,共有地のようなものが,ここのその他類型の中に含まれることが想定されていたところがあったと思うのですが,それについては,今回,別建てで③の方で出していただいているということで,では残ったものとして,一体どういうものが今想定されているのか,①から⑨までに挙げられているもの以外で,今後,政令で指定される可能性があるものとして具体的に何か考えておられるのかどうかというところをお伺いできればと思っております。
○山野目部会長 では,⑩にについて,事務当局から説明を差し上げます。
○大谷幹事 今の点,補足説明の8ページのところで,法令違反行為があるからといって直ちにこれに該当するわけではないということを書いておりますけれども,例えば森林において,既に木が伐採されてしまってなくなっていて,森林の状態に戻すためには植栽しないといけないというような場合もあり得ようと思います。そのようなときに,例えば,森林として管理するのに非常に労力が掛かる,費用が掛かるということであれば,それはこの,政令で定めるものに当たる,政令で定めて,それを受け入れないという形になるのではないかと思っております。
○山野目部会長 藤野委員,お続けください。
○藤野委員 それを政令で具体的に基準を示してお書きになられるということでしょうか。
○大谷幹事 そうですね,それは関係省庁と今,また協議して定めていきたいと考えております。
○藤野委員 分かりました。少し追加で。
  政令で事前に明確化されるということであれば,この場の議論には出てこなくても予測可能性は立つのかなと思う一方で,こういう立て付けになっている以上,やむを得ないこととは思いますが,結局のところ,今既に明記されている実体的要件に加えて,更にバスケット的に政令で要件を厳格化できると見ることもできるのかなと思っておりまして,これまで申し上げてきたとおり,ある程度,最初の時点で慎重に運用していかなければいけないというところは理解いたしますけれども,やはり新制度の適用範囲の拡大であるとか,あるいは要件のところを,今後の実際に制度が出来上がって運用されていく中での施行状況を見ながら,緩和するという方向も引き続きどこかに残しておいていただければと考えておりますので,以上は意見でございますが,申し上げた次第でございます。よろしくお願いします。
○山野目部会長 藤野委員の御要望は受け止めました。ありがとうございます。
  引き続き御発言を頂きます。安高関係官,どうぞ。
○安髙関係官 ありがとうございます。林野庁でございます。先ほど,総務省から御説明がありました,具体的には部会資料の(注3)についての御指摘の関係で,御説明をさせていただきたいと思います。
  この,いわゆる土地所有権の放棄については,所有者自らが管理をすることが困難な土地への対応として,その最終手段として検討されているものであると承知しているところでございます。先般改正されました土地基本法でも,土地所有者に対しては,土地の管理などの責務ですとか,国や地方公共団体が実施する土地に関する施策に協力する義務というものが規定されているところでございます。このことを踏まえますと,最終手段として国に放棄を申請する前に,まずは所有者に,あるいは,地域において所有者以外の方が管理をするという道を模索していただくといった然るべき努力をしていただくということが必要ではないかと考えているところでございます。
  特に農地と林地につきましては,市町村を介した利用権設定といったものが既に制度化されてございまして,申請に先立ちましてこの仕組みを御活用していただくことを試みる形としていただきますことは,所有者が放棄申請するに当たって,審査手数料ですとか管理費用の負担を伴うことなく,その土地が地域において有効活用されることにもつながるというメリットがございます。このことを新法上にしっかりと規律しておくことが,これまでの部会で委員,幹事の方からも,今も御指摘がございましたように,放棄を申請する所有者の方々が放棄申請の前に何をしなくてはいけないかということが明確になりまして,より望ましいのではないかと考えてございます。
  一方,部会資料の中でも,市町村の費用や事務の負担が増えるという御懸念も示されているところではございますが,例えば森林経営管理法でございますと,所有者の方から市町村に利用権設定を申し出ていただくことになりますが,この申出は,現在でもいつでも行えるということに加えまして,市町村が所有者からの申出を受け入れ,利用権を設定しますのは,森林経営管理法上,市町村の実施体制といった地域の実情等も踏まえまして,その市町村が必要かつ適当と御判断いただいた場合に限るという立て付けになってございますので,飽くまで市町村の自由裁量となってございます。これを踏まえますと,新法に林地に係る特例の規律を設けることをもって市町村の費用とか事務の負担が増えるといったような御懸念は当たらないということを申し上げさせていただきたいと思います。また,森林経営管理法などを御活用いただきまして森林の経営管理の集約化が図られれば,将来的には地域の民間事業体に一定程度まとまって森林の所有権を移転するということが可能になるといったように,地域振興のためにも大変有効な機会になるのではないかと考えているところでございます。
  そのように考えますと,新法上に,所有者の方が森林を自ら管理することができないといった場合に,放棄の申請に先立って,まずはその地域の実情に応じまして,市町村に利用権設定等の検討をしていただける仕組みとしておくことが,所有者にとっても,またその地域にとっても,大変有益ではないかと考えているところでございます。その点,今一度,委員,幹事の方々にも御理解いただきたいと思ってございます。
○山野目部会長 (注3)につきまして,総務省から出していただいた御意見に続いて,林野庁の御意見を承りました。
  佐久間幹事,どうぞ御発言ください。
○佐久間幹事 ありがとうございます。(注3)と関係がなくてもよろしいですか。
○山野目部会長 佐久間幹事,お気遣いいただいてありがとうございます。室賀関係官,どうぞ。
○室賀関係官 農林水産省です。ありがとうございます。本日望月は所用がございまして,室賀が代わりに出席しております。よろしくお願いします。
  先ほど森林の関係のお話がございましたけれども,農用地につきましても,最終手段としての放棄を申請する前に,農業委員会によるあっせんなどによりまして,地域においてまず有効利用を図っていくということが非常に重要ではないかと思っております。総務省さんの御意見の中でもございました,経営基盤強化法等の手続の話でございますけれども,これにつきましては,所有者が農業委員会にあっせんの申出をするとか,農地バンクが所有者の申出に応じて協議を行うとかという形で,農地としての有効利用を図るための措置として施策を活用していくことによりまして,高齢化している状況の中で,担い手による効率的な農業生産ができるよう,農地の集積,集約化の推進に政策的に取り組んでいるところでございまして,そういった取組の一つの手段ということの手続でございます。そういった意味では,日頃から地域の現場において取組をされておりますし,当方からも一定の支援等もさせていただいている中でのものでございますので,こういった中で新たに御負担を掛けるというようなものではないと考えてございます。先ほど,荒れたところもという話もございましたけれども,耕作されていない遊休農地につきましても,年に一度,利用状況,利用意向調査ということを行いまして,それに基づいて担い手につないでいくというような取組を実際行っておりますので,そういったものの一環として取り組んでいけたらと思っております。
  また,今後の法務局を中心としました放棄の審査についても,当方もできる限りその手続がスムーズに,また的確に進むよう,十分な協力をしていきたいと思っておりまして,そういった中で,関係者が一体となって取り組んでいくことによって,事務の負担の軽減にもつながっていくのではないかと思っておりますので,そういった点も含めて御理解を頂ければと思っております。
○山野目部会長 農林水産省の御意見を承りました。
  佐久間幹事,おまたせをいたしました。
○佐久間幹事 ありがとうございます。2点ございまして,一つは今の(注3)に直接は関係しないのですけれども,事前手続についてという点では関係するところです。
  補足説明の4ページに,手続要件に関しまして,前回まで提案されていた売却等の試みは不要にするということが述べられています。これ自体については,その手続を実際上意味のあるものとして組むのは難しいと思いますので,反対ではないのですけれども,これを落とした結果,これまでの議論の経過からいたしますと,所有者のモラルハザードを防ぐという契機として何を求めるかというところが抜け落ちてしまうことになると認識しています。
  つまり,いろいろこれまで議論があったわけですけれども,所有権放棄を認めるには,放棄の必要性があるとともに,モラルハザードを一定程度防ぐ必要があるという認識の下に議論がされてきて,提案は紆余曲折があったかと思いますけれども,最終的に残ったのがこの,事前手続を言わばきちんと踏んでもらって,万策尽きたからやむを得ないね,というところでどうかという話だったのではないかと記憶しています。
  そうであるのだから,ここを残せということではないのですけれども,放棄したい人は特に何も感じないのかもしれませんけれども,自分は放棄にはおよそ関係がない,結局国民負担になるだけなんだよなという人にとっては,モラルハザードがどのように防がれるのかということも関心事にはなると思いますので,どこかで,どういう形になるか分かりませんが,その説明を用意していただくとよろしいのではないかと思います。
  もう1点ですけれども,これは補足説明の10ページにあります承認の職権取消しについて,期間制限を加えるのをやめましたという話です。これも,書かれていることは分かるのですけれども,承認の取消しが承認から実際上どのぐらい長い期間経てから行われることがありうるのか分かりませんが,抽象的にいうと20年,30年たっても,あるいは代替わりしたって,代替わりというのは,元土地所有者が死んで相続が起こったというような場合だって承認取消しはあり得るということになるわけですね。本当にそこまでする必要があるのだろうかというのが素朴に疑問に思うところです。10年が適当かどうかは分かりません。あるいは20年でもいいのかもしれませんが,一定期間たてばもう戻らないとすることはあってもいいのではないかと思っています。期間制限をしないという説明として,不正な手段を用いた人なのだから保護する必要はないではないかと書かれているわけですけれども,期間制限の制度というのは,時効でもそうですけれども,不当な行為,不正な行為による場合であっても,ここはもう法律関係を確定しましょうという制度だと思うので,どうしてもということではありませんけれども,一定の期間制限が設けられることはあってもいいのではないかと思うという意見を申し上げたく存じます。
○山野目部会長 佐久間幹事から2点お話を頂きました。
  1点目は,従前の部会資料におきまして,事前に売却の努力をすることを,当時,放棄と呼んでいたものの一つの要件,ハードルとして課そうということがあり,その趣旨はモラルハザードの防止ということで議論をお願いしてきたところでありますけれども,考えてみますと,売却の試みという概念が,発想といいますか考え方は委員,幹事におかれても御賛同いただいて,育ててきたところでありますけれども,法制的に少しなじみにくいところがあるというふうな問題があります。それ自体は追求しないということにした反面において,農業経営基盤強化促進法及び森林経営管理法において実定法上の具体的な制度が設けられている局面については,あるいは(注3)で御提示申し上げているようなハードルを設けておくということが考えられるかもしれないということで,提案を差し上げています。
  この間,部会資料の建て付けについて,佐久間幹事が御注意いただいたような説明を要する変遷があったと認められますから,その点について,事務当局がどのような意図で部会資料の内容を変化させたのかということについて説明を差し上げた上で,この点についてもし意見がおありであれば,委員,幹事から更に御意見を伺うことにいたします。
  後段でおっしゃっていただいた,不正な手段によって承認を得た局面に関しては,佐久間幹事の御指摘のとおりでありますとともに,法制的に見て,不正な手段によって行政庁の許認可を得た場合の措置については,行政関係の法令において他にたくさん類例がございますから,それらとの整合性を検証する必要がございます。そういう点も,事務当局においては今までも検討してきましたし,これからも検討していくことになるであろうと感じます。この点についても,事務当局から紹介してもらえることがあったら申し上げたいと考えます。
○大谷幹事 まず,手続的要件のところでございます。これは確かに前回まで,売却の試みをするということを一つの要件として求めておりましたけれども,部会資料の4ページの補足説明に書いてありますとおり,具体的に検討してみると,なかなか合理的な仕組みを仕組むのは難しいだろうということがあります。また,管理費用に当たるものを申請者に負担していただくということから考えますと,管理費用まで支払って,それでもこの制度を使いたいという方は,合理的には,普通はまずはそういう負担がないような,売却して一定の代金をもらうであるとか,あるいは全く無償で誰かに引き受けてもらうとか,そういうことを試みた上で,こちらの制度を利用することになるだろうということから,手続的要件として一律に売却の試みをするなどのことまでは求めるべきでないと考え,構成を改めたというところでございます。
  一方で,モラルハザードの防止という観点からいたしますと,やはり土地の実体的要件の中である程度厳しい,管理と処分がそれほど難しいものでないものに限って,この制度の対象とするという方向にしておりますので,そのように土地をきちんと管理をした上でこちらの制度に乗っていただく,その意味ではモラルハザードがないように,引き続き仕組みとしては仕組んでいると思っておりますので,説明の仕方かもしれませんけれども,モラルハザードは引き続き防止する方向で考えているということでございます。
  2点目の職権取消しの期間制限に関してですけれども,これも前回までと構成を改めたのは,そのとおりでございまして,期間制限は設けておりません。類例を見ましても,こういう悪意で不正な手段を用いて承認を受けたような場合に,その取消しについての期間制限というのは余り例がないと記憶をしております。一方で,相当長期間が経過してしまったときに取消しができるのかというのは,相続などもあり得る中で,承認という行政処分に対する信頼が生ずるということがありますので,取消しが必ず許されるわけではない,それは一般的な権利濫用とかいう話になるかもしれませんけれども,必ず取消しが許されるわけではないだろうと理解をしております。
○山野目部会長 佐久間幹事におかれて,お続けになることがおありでいらしたら,お願いします。
○佐久間幹事 いえ,ございません。ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。部会資料54について3点申し上げたいと思います。
  第1点は,ただいまの事前売却の試みとも絡みますけれども,今回の部会資料54と第19回の部会資料48との大きな違いとして,部会資料48,第1の5では,認定処分の申請に先立って売却等の行為を試みるということが必要でしたが,今回はこの手続を外したことと,もう一つは,部会資料48,第1の8で,認定処分の申請があったときに審査機関が地方公共団体の長等にその旨を通知するとされていましたが,今回はこの手続も外したという点でございます。部会資料54では,第3部の5の③で,法務大臣が必要と認める場合の調査を行う際に,関係行政機関の長のほか,関係地方公共団体の長,関係のある公私の団体その他の関係者から必要な協力を求めることができる点を承継するに止まっています。
  このような承認申請に際しての,または承認前の審査に際しての事前手続として,当該申請地が属する地域コミュニティに対して何らかのアプローチをとることを手続に組み入れることができないか,あるいは組み入れる必要がないかという点であります。土地所有権のいわゆる放棄を希望している土地に最も利害関係を持つのは,当該申請地が所在する地域コミュニティではないかと思います。市町村ということになりますと,合併等の結果もありまして,かなり利害関係が薄くなっているという場合も少なくないと思いますし,このことは今回法務省から出していただいた資料やヒアリングの過程でも明らかになった点かと思います。しかしながら,市町村の利害関心と,当該土地が所属する地域コミュニティの利害関心は,少し違うところがあるのではないかと思います。当該申請地がまさに自分の居住地の周辺に存在する者にとっては,その放棄の希望が出ている土地については,やはり何らかの形で利害関心を持ち得るし,場合によってはある程度の負担をしても,何か管理しようというインセンティブを持つ動きが出てこないとも限らないと思います。したがいまして,承認の申請または承認に先立つ審査の手続に先立って,売却等の試みはしないにしても,地域コミュニティにアプローチするということは手続に組み込むことはできないだろうかということでございます。
  それから,その手続にとどまらず,その効果に関しても,今回の部会資料54,第3部の8に,承認申請が認められますと,管理費用の納付時に国庫に帰属するとして,効果は国庫帰属が唯一のものということになっております。しかし,この点も,もしかすると,当該地域コミュニティで引き受けてもよい,特に,その管理費用を払ってくれるならば引き受けてもよいというような動きが出てきた場合には,そちらに引き受けてもらうということも考えられますので,その余地も効果として残すことはできないのだろうかと思います。つまり,国が間に入って承認要件の検討と管理費用の判断をしたうえで,その効果を地域コミュニティに帰属させるという特例の創設です。これについては少し御考慮いただける余地があればと考えました。以上が第1点でございます。
  それから,第2点目は,これは非常に細かな言葉の問題ですけれども,部会資料54,第3部の3⑥,⑩にございます「過分の費用又は労力」のうちの「労力」という言葉でございます。この用語をあえて残した理由は,部会資料54の8ページでも丁寧に説明していただいており,コの第2段落目で,過分の費用というだけでは金銭的費用に限定されるニュアンスがあるので,争訟のために必要となる資料の準備等の人的負担が重くなることを回避する趣旨であると説明されており,この趣旨は非常によく理解できます。しかし,土地所有権の放棄ないし移転の承認要件として,過分の労力が掛かるときには受けないということを積極的に示すことが,何か負担になる土地を皆で押し付け合っているというか,避けたがっているというか,そういうニュアンスが非常に強くなってしまい,これはよくないのではないかと思います。もちろん,その趣旨はよく分かりますけれども,言葉の持っている一般的なニュアンスとして,少し強い表現なのではないかということが,なお気になる点でございます。費用という場合は,金銭的費用だけではなくて,人的,物的,様々な費用を含みますので,費用ということでもよいのではないかと思った次第です。
  ちなみに,今回の部会資料54では,第19回の部会資料48と違って,承認の要件を満たした場合には,第3部3の柱書で,承認をしなければならないという表現に変わっております。部会資料48,第1の6の柱書では,列挙事由のいずれかに該当する場合は認定処分をすることができないという表現になっていましたので,この修正は,管理困難となった土地の移転のサイクルを創設するという制度趣旨を示すものとして,私は非常によいのではないかと思います。その意味で,一定要件を満たしていれば承認をしなければならないのだという表現ぶりは,非常に前進であると思います。それを更に一貫させるためにも,労力については御一考いただけたら有り難いと感じた次第です。
  それから,3点目は,これも更に細かな言葉の問題で,もしかすると私の無知によることかもしれませんけれども,第3部,3⑨の,「争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地」という文言です。これは部会資料48にもあった表現ですけれども,具体的に想定されているのは,申請地の隣地から樹木の枝が伸びてきたり,建物が越境していたりということで紛争になることが不可避だということだと思いますので,その管理や処分に当たって紛争が不可避である土地とか,あるいは紛争が不可避的に伴うというような表現でもよいのではないかと思いました。この点は非常に細かな点でございます。恐縮ですけれども,気が付いた点を申し上げました。
○山野目部会長 松尾幹事から3点にわたって種々の御指摘を頂きました。お尋ねではなくて御意見であると受け止めましたから,今後の検討において参考にするということにさせていただきます。
  あわせて1点のみ,松尾幹事にお教えを頂きたいことでございまして,1点目の意見でおっしゃった,承認申請をするに際して連絡調整をすることが望まれる地域コミュニティというお言葉をお使いになったと聞きましたけれども,これは具体的にはどういう概念でしょうか。
○松尾幹事 大変失礼しました。市町村の中にある,例えば地方でいうと部落とか区とかいう単位のものでございます。都市では自治会というようなものがそれに当たるかと思います。その一部は地方自治法260条の2の「地縁による団体」の認可手続をとっているものもありますが,とっていないものも含めて,権利能力のない社団の要件を備えたものを想定しております。大変失礼しました。
○山野目部会長 いいえ,かえってありがとうございます。御意見を理解いたしました。
  引き続き,いかがでしょうか。
○今川委員 この制度自体は原則として賛成をするものですけれども,関連して確認します。相続人不存在の場合に,相続財産管理人,これは相続財産清算人と名前を変えることが提案されているのですが,その清算事務が全て終了した最終局面としての国庫帰属の制度と本制度とは関係がないと考えます。何を言いたいかといいますと,本制度における国庫帰属の要件というものが相続財産の国庫帰属に影響を与えるというようなことは基本的にはないですねという確認です。相続財産の方は,法律上当然に国庫に帰属するという制度ですので,本規律のように行政処分として承認する,そのための要件を定めているというのとは意味が違いますので,そこを1点,確認をしておきたかったということであります。
○山野目部会長 お尋ねでありましたから,959条が定める帰属と,ここで構想されている帰属の概念との関係についての整理を事務当局から差し上げます。
○大谷幹事 今お尋ねいただきました相続財産の清算の仕組み,これは相続人のあることが明らかでない場合には,必ず清算人を選任した上で清算手続を経て国庫帰属をさせるというものでございます。一方でこちらの制度は行政処分,承認という手続を経て国庫に帰属するというものでございますけれども,もちろん別の場面のことでございますので,こちらの仕組みを導入したからといって,相続財産の清算の手続が変わるというものではないと理解をしております。
○山野目部会長 今川委員,よろしゅうございますか。
○今川委員 はい。
○伊藤幹事 東京法務局の伊藤でございます。今回,土地所有権の国庫の帰属に関する審査機関の役割を法務局に担わせるという御提案でございますけれども,私自身,大変に大きな,また全く新しい仕事でございますので,身が引き締まる思いがしているところでございます。一方におきまして,第19回会議におきまして複数の委員,幹事の先生方から,審査機関の役割を仮に法務局に担わせるに当たっては,人的体制の整備や予算的措置の必要性を指摘するお話がございましたが,私も全く同感でございまして,現状の人的体制や予算では到底この新しい制度を回していくことはできないと考えているところでございます。
  また,申請がされた初期の段階で所管行政庁を定めて,所管行政庁の方には,承認されることとなれば,管理費用が納付されると同時に当該土地の管理を開始しなければならないということを前提として対応していただく必要があろうかと存じます。この制度の下にありましては,承認後,管理費用が納付されると同時に所管行政庁が管理を行うスキームと考えておりますけれども,法務大臣が承認をして,承認申請者も管理費用を納付したのだけれども,実際の管理がスタートしないというような事態が起きないように,運用を整えていただく必要があろうかと存じます。
  また,承認を行う際の要件の中には,例えば,部会資料1ページの3の④や⑧など,土壌汚染の有無など,法務局に全く知見がないというものもございます。そこで,例えば土壌汚染あるいは埋蔵物の有無に関する要件などについて,管理をすることが予定される行政庁の知見によれば地歴などから承認が認められない土地に当たる疑いがあるというような場合には,所管行政庁の方から疑いがあるということを御報告いただいた上で,審査機関の方から承認申請者側に具体的にそのおそれを示し,承認申請者側にボーリング調査等を行わせて,その結果を報告していただくというような経過をたどると思いますので,所管行政庁の側にも御協力をお願いしたいと思っております。
  いずれにしましても,本省レベルはもとより,各現場の段階においても,審査機関と所管行政庁との実質的かつ緊密な連絡体制がとられる必要があろうかと思っているところでございます。
○山野目部会長 伊藤幹事から御発言を頂いたことを受けまして,この際,一言申し上げます。この制度の構想におきましては,前の部会資料までは審査機関というものについて抽象的な御案内しかしておりませんでしたけれども,本日ここに至りまして,法務大臣を承認の権限を有する者として明確にイメージを具体化し,その具体の事務を法務局職員に担っていただくという構想を提示しているものでございます。それを受けて,ただいま伊藤幹事から御発言を頂きました。
  私の方から2点御案内いたしますと,1点目といたしましては,この制度の創設がこの構想のとおりに進む場合には,法務局の職員の皆様に新しいお仕事をお願いし,多大な御負担をお掛けすることになります。ただいま伊藤幹事からは,鋭意その仕事に取り組んでまいりたいという決意を語っていただいたことを大変有り難く思い,全ての法務局職員を代表する気持ちとしておっしゃっていただいたものと受け止めます。この方向で進むことになりますと,法務局職員の研修や体制整備等において御労苦がお願いすることになりますけれども,何とぞよろしくお願い申し上げます。
  もう1点は,ただいまの伊藤幹事のお話にありましたとおり,法務局が実際にこの制度の運用に係る事務を処していくに当たっては,法務局ないしその職員が有してきた知見のみでは対応が困難な事案が多くの局面において生ずることが予想されます。国民の関心も大きい制度でございますから,法務大臣を審査機関とする内容を提示しているところでありますが,その運用に際しては,この部会に関係官をお出しいただいている府省を始めとして,政府が一体をなす協力体制を構築して運用していくことが非常に重要であると感じられますから,今後この構想でお話が進みます際には,政府としてその運用の準備方について,よろしくお取り計らいを賜りたいと望むものでございます。
  吉原委員,どうぞ。
○吉原委員 ありがとうございます。正に今,伊藤幹事と部会長がおっしゃったことに関連して,私も少しだけ申し上げたいと思っていたところでした。
  部会資料の6ページ下から8行目で,法務局や関係行政機関の職員が現地調査に赴き,とございまして,これは法的な権利関係の審査に加えて,現地で境界確認をするという専門的かつ物理的な大変さが求められるものだと拝読しました。是非人的な体制が整備されるように願っております。雪の多い地域では冬場は現地確認が難しいといった季節的な要因などもあるかと思いますので,それらが審査にどのように影響するのかといったことも考えなければいけないかと思います。他方で,これは関係行政機関や専門業界の方々の協力,連携を図る絶好の機会でもありますので,今回のこの新しい仕組みを契機として,土地政策において関係する方々の連携が図られる機会になればと願っています。
○山野目部会長 道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 ありがとうございます。いろいろな御発言があったのですが,その中で少し分からなかったところが2点ありますので,伺わせていただければと思います。
  まず1点は,蓑毛さんの方からご紹介があった意見ですけれども,1の相続がどうしたということに関連いたしまして,事前に信託を設定するとか,あるいは贈与をするというふうな場合というのが,現在ではエステイトプランニングとして結構行われているところ,そのときに放棄ができないことにする,つまり,それらの対象財産をこの制度から除外してしまうと,エステイトプランニングとしての信託設定や贈与に対する逆風といいますか阻害要因になり得るおそれがあるので,それらも含めて国庫帰属ができ得る対象にすべきではないかという意見があったということについてです。しかし,それは,売買であれ相続であれ,受け取った側が合意をしている例ですよね。そういうものも含めてこの制度に入れるということになりますと,制度そのものの性格をかなり変容させるのではないかと思うのです。
  そもそも,一部の共有持分を有していた場合に,相続によって,残りの共有部分が来たときにどうするかという問題があって,それはいっしょにして国庫帰属ができるようにしようと今回,直したわけです。それについても,私は,本当にそうすべきなのかなあという気はしますが,それについてはまあ認めるといたしましても,それ以外に一般的に,売買にせよ,贈与にせよ,信託にせよ,含めて考えるべきだという御意見があるということは,どうやってそれが正当化されるのかというのが私にはよく分かりませんでした。
  第2点は,これは松尾さんがおっしゃったことなのですが,国庫帰属というのではなくて,地縁団体をもっと活用するということなのですが,それは無理筋だろうと思います。国庫が地縁団体に管理を委ねるということにすればよい,そのシチュエーションごとに,場合ごとにそういう判断をすればよいではないかという気がいたします。
 後半は意見なんですが,前半は,どういう場合を考えていらっしゃるのかがよく分からなかったものですから,お教えいただければと思います。
○山野目部会長 蓑毛幹事にも,もしおありだったら補足の御発言をお願いしたいと考えておりますけれども,道垣内委員に一つお教えを頂きたい点のお話を差し上げるとすれば,相続人に対する死因贈与で取得された土地というものはどういうふうにお感じになりますでしょうか。
○道垣内委員 形式的に,合意があったものは全部除くとすべきだと思います。
○山野目部会長 御意見を理解いたしました。
  蓑毛幹事におかれて,何か補足の御発言がおありでしょうか。
○蓑毛幹事 道垣内先生がおっしゃることは,その発言自体としては理解できるところです。この制度が飽くまでも合意に基づいて取得したものは除外するのだということを徹底するのであれば,先ほど申し上げた日弁連の意見は正当化されないということになろうかと思います。
  一方で,この国庫帰属の制度は,現在発生している所有者不明土地問題の今後の発生を抑制することが,その目的の根幹にあると理解しています。すなわち,現在適切に管理されている土地が,将来適切に管理されなくなる事態を防ぐための一つの方策として,この国庫帰属の制度を創設するということだと思います。そして,先ほど申し上げたとおり,生前に相続人に対して売買,贈与,信託などにより所有権を移転することは,次世代に土地を適切に承継させ,将来の適切な土地所有権の管理のために有益であり,究極的には,国庫帰属の制度と目的を同じくするものだと思います。
  そのような観点から,今回の国庫帰属の制度の創設が合意に基づくものを除くというものとして制度設計されていることは理解しておりますが,一部それを緩め,相続人に対する売買,贈与等を阻害しないようにしてはどうかというのが日弁連の意見です。
○山野目部会長 蓑毛幹事が弁護士会で出された意見をお伝えいただいたところは理解いたしました。
  道垣内委員において,お続けになることがおありだったらおっしゃってください。
○道垣内委員 賛成できないというだけです。すみません。
○山野目部会長 野暮なお尋ねを致しました。賛成がおできにならないものであろうと理解しております。道垣内委員のお立場は,合意・非合意の基準というものをきちんと維持して制度設計を進めなければ,この制度の全体の輪郭が分からなくなってくるという御注意であります。それはそれとしてお考えは明解であります。
  蓑毛幹事が弁護士会の御意見としてお伝えいただいたところは,恐らく,その趣旨やそれに関わって道垣内委員がおっしゃった懸念は理解していただきつつも,元々弁護士会の先生方の中にこの制度の版図をもう少し拡げて始めたいというお気持ちが底流にあって,そういうことを考えると,合意・非合意の基準というよりは,ニックネームを付けると相続人受け手の基準というものしょうか,権利を取得することになる者が相続人であるときには,相続や遺贈のほかに,贈与であるとか,売買であるとか,信託であるとかというのも緩めて入れるということも一つの政策としてあり得るということをお話しくださったものと理解します。
  そこは悩むところでございますから,道垣内委員の御懸念と蓑毛幹事からお伝えいただいた弁護士会の御意見等を踏まえて,どのような制度の構想にするかを考えていかなければいけないと受け止めます。ありがとうございます。
  引き続き御意見を承ります。松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。先ほど道垣内先生から御指摘があった点について,補足させていただきます。御指摘にうまく答えられるかどうか分からないのですけれども,国庫帰属すべき土地について,認可地縁団体ないし地域コミュニティに帰属させるというのは難しいのではないかというお話でしたけれども,私が先ほどこれを申しました趣旨は,土地所有権の放棄ないし移転の申請をしたいという人と,その申請地が属する認可地縁団体ないし地域コミュニティとが直接交渉したときには,なかなか交渉がまとまらずに難しい場合でも,今回のこの土地所有権の放棄ないし移転の承認手続に乗せて,所定の要件についての審査を経て,適切な管理費用も認定する形で,国が仲介役的な立場に立って手続を進めたうえで,その帰属先として認可地縁団体ないし地域コミュニティとすることも意味があるのではないかと考えた次第です。その審査の手数料は国に入りますけれども,土地所有権が認可地縁団体ないし地域コミュニティに帰属する場合は,管理費用に関しては認可地縁団体ないし地域コミュニティに対して支払ってもらう形をとることにより,国にとっても土地の管理負担を軽減するメリットがあるのではないかと思います。もちろん,それは地域コミュニティの方からそういう希望があればその手続に乗せるという趣旨で申し上げました。それが余り功を奏さないかもしれませんけれども,私人にとって管理困難となった土地の受け皿の1つとして,市町村とは異なる可能性があるものとして,申請地の地域コミュニティを何らかの形で制度に取り込むべきではないか,申し上げたかったのはそういう趣旨でございます。
○山野目部会長 松尾幹事の地域社会への熱い思いが伝わってくるお話を頂きました。それとともに,道垣内委員から御注意を頂いたように,その御構想を直接の仕方で法制的に,取り分け民事法制において実現することができるかということについては,危ぶまれる側面があるという御注意もそのとおりであろうと感じます。御議論を頂きましてありがとうございます。
  國吉委員,どうぞ。
○國吉委員 ありがとうございます。今回のいわゆる土地所有権の放棄の関係ですけれども,基本的には賛成を致します。いわゆる土地の管理が一番重要だということで,そのうちの一番重要なところは,やはり土地の境界の画定をしていくというところが大事だというのは,私どもが何度もお話しさせていただいたところでございます。これについても,審査機関が法務大臣,いわゆる法務局が筆界を確認するということも含めてですけれども,対応するということは,これも賛成でございます。
  先ほど伊藤幹事の方からもありました,この規律を運用していくためのいろいろな方策をこれから考えていただくということなのですけれども,我々土地家屋調査士としても,こういった機会に御協力を是非させていただきたいと思いますし,例えば,表題部所有者不明土地問題のいわゆる探索委員というような形を取っていただくというようなことも一つの方策なのだろうと思っていますし,それの受皿として,我々の業界も是非参加させていただきたいし,また御協力をさせていただく用意があると思っております。是非運用方法も含めて,これからも検討をしていただきたいと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
  そうしましたならば,部会資料54で制度として構想を提示申し上げております土地の所有権の国への帰属の制度については,本日の段階の御審議を頂いたものと整理を致します。
  この際,私の方から一言申し上げます。この制度に関わるもろもろの論点について,熱心な御議論を頂きましてありがとうございます。私の方から取り分け御案内しておきたい事項は,土地政策との関連ということでございます。部会資料54で提示しておりますものは,国民の関心も大きい重要な制度でありますとともに,これを大局的な観点で整理してながめたときには,どのような位置付けを与えられるものであるかと申しますと,土地基本法の13条が土地の所有者,国,地方公共団体に対して求めている低未利用地の管理,適切な利用その他の責務ということと密接に関連しております。13条が構想している幅広い政策領域の一角を占めるものであります。この制度がこのまま創設されるということになったとしても,ここだけでは尽くせない様々な土地政策上の課題が残ります。この法律,この制度の外郭において,これから国土交通省の方で御努力を頂いて進んでいくであろうランドバンクであるとか,地域コミュニティの再生のための管理構想であるとか,それから農業経営基盤促進法や森林経営管理法が定めている様々な仕組みや,そういった土地政策のもろもろの,既にあり,また,これから設けられていく施策と有機的な連携を保つように,この制度が運用されていくことが強く要請されます。
  本日の御発言の中で,吉原委員から,様々な職能との連携を含む土地政策との関連を意識することの重要性の御指摘を頂きました。松尾幹事からは,地域コミュニティとの関連ということを重視しなければならないという御指摘も頂きました。恐らく松尾幹事が提案なさったことは,道垣内委員から御注意があったように,民事法制としての基本的性格を持つこの法制に入れるということは法技術的に困難というか,恐らく不可能であると感じますけれども,それとは別に,承認申請があったというような情報を地域が共有できるような仕組みを,これから広い意味での土地政策の中でネットワークとして構築していく中で,御心配になったような,地域コミュニティとの対話が欠落してはいけませんといったような要請に応えるような施策が展開していくものであるのかもしれません。
  それから,本日は部会資料で提示申し上げている太字の提案の後に,(注3)として,農業経営基盤強化促進法,それから森林経営管理法の運用に関わる内容をどうしようかという問題の示唆を差し上げていたところでありました。総務省,農林水産省そして林野庁,の関係官からそれぞれ有益な御指摘を頂きました。改めて,政府として土地基本法13条の理念を実現していくために,国,そして地方公共団体がそれぞれの役割を担わされているということに思いを致していただいて,それらの間の適切な分担が図られる姿がどういうものであるかということについて連絡調整を努めていただきたいと望みます。今後,成案を得るために,この(注3)の点についても審議を深めてまいらなければなりませんけれども,是非この部会に関係官をお出しいただいている府省を中心に,成案が得られる方向で鋭意連絡調整を図っていただくことを強くお願いするものでございます。
  部会資料54についての審議をここまでといたします。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立