法制審議会民法・不動産登記法部会第22回会議議事録

 本日は前回に引き続き,要綱案のたたき台について審議をお願いいたします。部会資料52をお開きいただきますとお分かりのとおり,第1として相隣関係を取り上げておりますけれども,本日はこの相隣関係として二つの題材,隣地使用権及び管理措置の問題を取り上げるということにいたします。二つの事項の性質がやや異なりますから,分けて審議をお願いいたします。
  まず,隣地使用権,民法209条の改正構想の関連につきまして御意見をお伺いすることにいたします。どうぞ御随意に御発言を下さい。
○中村委員 ありがとうございます。日弁連のワーキンググループでの議論について御紹介したいと思います。
  部会資料の御提案に賛成する意見がありました一方で,第21回部会でも御紹介いたしましたように,承諾請求構成ではなくて,隣地を使用することができるという構成を採ることについて反対するメンバーからは,現行の209条の下でも,例えば所有者の長期不在ですとか,介護施設に入所中などといった事情のある隣地に無断で立ち入って使用するといった事案が相当数見られるということから,部会資料の提案の構成を採ることになれば,更に問題が頻出することは避けられないのではないか,自力救済を排除することは一層難しくなるだろうという強い懸念が示されました。このように意見の分かれる中で,部会資料の提案をベースに幾らかの手当てをすることで,今申し上げました懸念を少しでも払拭する方策を採ることができないかという議論をいたしましたので,少し長くなりますけれども,御紹介させていただきたいと思います。
  部会資料1ページの1項の①から④に関しまして,少し手当てをするという案といたしまして,まず本文②につきまして,①に掲げる目的によっては,現に使用する者に影響が大きい場合だけではなくて,土地所有者に主に影響する場合も考えられることから,②の「隣地のために」という文言を,隣地の使用者及び所有者のためにとしてはどうかという提案が一つございました。
  それから,本文③について,大きく分けて2点あるのですけれども,一つは通知の内容についてです。前回の部会で中田委員,國吉委員からも御提案がありましたように,③で求める通知の内容をより具体的にする,すなわち③が定める通知の内容を「その旨並びにその日時及び場所を」という現在の定め方から,②に基づいて選択した使用方法と理由なども併せて通知させるというのではどうかという提案が一つございました。
  その理由としましては,②の要件に基づいて,隣地にとって損害が最も少ないものとしてこのような方法を選びましたというようなことを通知の内容として含むことによって,通知を受けた者が,隣地使用権者が何をしようとしているのかということを具体的に知ることができますので,異論がある隣地所有者は返答をせずに放置するというのではなく,それでは困るとか,別の方法にしてくれないかという返答をすることになるなど,円満な隣地使用のためのコミュニケーションの契機ともなし得るものではないのだろうか,そのような理由が背後にございます。
  もう1点は,通知の相手方についてです。①で選択される隣地使用の態様の如何によっては,使用者が負担を受けるケースと,主に所有者が負担を被るケースが考えられますので,現に使用している者だけではなくて隣地所有者をも通知の相手として含める,又は,第一次的には現に使用する者とし,現に使用する者がいない,又は通知することができない事情がある場合には,所有者を相手にするといったことを考えてはどうかという提案がございました。
  さらに,さきにお伝えした懸念を払拭するために,より踏み込んだ修正をしたいとの提案もございました。本文①に,その必要性のみならず相当性の要件を加えてはどうかという提案が一つです。「次に掲げる目的のため必要な場合に,使用方法その他の事情に照らし相当な範囲で」といった文言を加えてはどうかというのが今の提案でございます。
  もう一つは,更に理論的な考察を必要とするのですが,本文③と④の間に次に申し上げる2点を加えるという提案です。一つは,現行の234条2項を参考に,隣地使用者は使用の中止,変更を求めることができるといった規定を置くことはできないかという提案です。もう一つは,③の通知を受けた隣地所有者が日時,場所,使用方法につき異なる定めをするように求めることができる,とすることはできないかという提案でございました。
  いずれにしましても,何とかこの提案をいかしつつも,懸念を払拭する道を探るということで,幾つか御報告させていただきました。長くなりました。
○山野目部会長 弁護士会の先生方が熱心に御討議を頂いた成果を御紹介いただき,誠にありがとうございます。
  引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 今,中村委員から弁護士会の意見を申し上げましたが,それを補足する形で,確認と質問をさせていただきます。
  今回の209条の改正によって,現在の実務と何が変わるのかについて関心があります。1点は,違法な自力救済が増えるのではないかという懸念ですが,これについては先ほど中村委員が申し上げました。もう一つ気になるのは,隣地使用権の行使を拒絶した隣地所有者ないし隣地使用者に不法行為責任が発生するのかという点です。
  今回の改正の内容によると,本文①及び②の要件を満たせば,実体法上,隣地使用権が発生する。そして,③の通知によって行使要件も満たされます。このとき,隣地所有者ないし隣地使用者が,隣地使用権の行使を拒絶した場合には,故意,過失,損害との因果関係などの要件を満たせば,不法行為が成立するのでしょうか。
  現在の実務がどうかについて,必ずしも網羅的に調査はできていないのですが,この点に関する裁判例として,例えば東京地裁平成15年7月31日,判例タイムズ1150号207ページがあります。その判旨を少し読み上げますと,「被告は原告らが民法209条の相隣関係上の義務を履行しないことを理由に損害賠償請求をする,しかし,民法209条は,土地の所有者が建物築造等のために必要な範囲においては,隣地の使用を請求することができることを定めているが,同条による隣地使用権は,その文言より,隣地の使用を請求することができる権利を規定しているにとどまり,土地使用に当たっては隣地所有者の承諾ないしはこれに代わる判決が必要であると解するのが相当である,そうだとすると,原告らが承諾等をしていない本件にあっては,原告らは被告に対し原告土地を使用させる義務を負っているということはできない。」とされ,原告の主張は前提を欠き,理由がないという判断がなされています。これは,現行の209条について請求権説に立ち,隣地所有者の承諾ないし承諾に代わる判決がない限り,隣地使用権の行使を拒絶しても,不法行為は成立しないことを明らかにした裁判例だと理解できます。もちろん,これは下級審判決の一つにすぎませんし,この裁判例の読み方も様々だとは思いますが,今回提案されている改正により,隣地の所有者が隣地使用権の行使を拒絶した場合について不法行為が成立するのかという点について,現在の判例実務が変更されることになるようにも思われますので,確認のための質問を差し上げる次第です。
○山野目部会長 お尋ねを頂きました。大谷幹事から事務当局の考えを御案内いたします。
○大谷幹事 ありがとうございます。今,蓑毛幹事から御指摘いただいた現行法の下級審判例の読み方,正におっしゃいましたけれども,いろいろな読み方があるのだろうと思っております。確かに承諾又は承諾に代わる判決がないという段階では通行権がないと,したがって不法行為は成立しないというような書き方がされておりますけれども,現行法でも,承諾に代わる判決を得られるということは,相手方に承諾をする義務があるのだろうと思われまして,その義務違反についての判示をしているものとも読めまして,いろいろな読み方があるのだと思っております。
  したがいまして,現行法上,隣地使用の請求を実際に受けたけれども,それを拒んだというときに,それについて不法行為が全く成立しないのかというと,そういうことでもないのではないか。一方で,現在提案しております規律によった場合には,御指摘のとおり,使用権があるということになりますので,それを拒んだ場合には不法行為が成立し得るということになりますけれども,ただ,事前に通知を受けて,その日時,場所,方法等について争うケース,例えば必要性がないので隣地使用すべきでないという形で隣地使用者が争った場合に,それで直ちに過失があるとは限らないのだろうと思っております。要件について疑いがあるから正当に争ったというときに,使用を拒んだから直ちに不法行為になるということではないと考えられます。
○山野目部会長 蓑毛幹事,お続けください。
○蓑毛幹事 よく分かりました。ありがとうございました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○今川委員 私は御質問なのですけれども,補足説明の(2)で,「隣地使用者が通知を受けても回答をしない場合には,黙示の同意をしたと認められる事情がない限り,隣地使用について同意しなかったものと推認され,土地の所有者としては,隣地使用権の確認や隣地使用の妨害の差止めを求めて裁判手続をとることになると考えられる。」という説明があります。単に回答しない場合や同意がない場合に,勝手にやってしまうと違法になるということで,非常に慎重になると思います。そして,黙示の同意があるかどうかということを判断するのは,かなり難しいと思います。結局,きちんとした回答がない限り使用しない,使用に躊躇するだろうと思います。実務上は,普通は,一定期間内に回答を下さいというような形で通知をするのだろうと思うのですが,例えば,一定期間内に回答がないものは同意したとみなして使用させていただきます,というような通知も実務上あり得るのかどうか,もし見解があれば教えていただければと思います。
○大谷幹事 今の点,2ページの補足説明に書いてあるところでございますけれども,これまでの御議論でも明らかなとおり,隣地使用者の利益というものを無理に奪ってしまっていいような権利だとは考えておりませんので,黙示の同意があると認めるためには,ケース・バイ・ケースではありますけれども,慎重に判断される必要があるのだろうと思っております。したがいまして,隣地を使用しますよという通知をして,それに対して答えなかった場合には同意したものとみなしますよと言っても,それは勝手にそういうふうに言っているというだけであって,だから同意したものとみなされるというわけではないのだろう。黙示の承諾があったと簡単に認めるわけにはいかないだろうと思っております。
○山野目部会長 今川委員,よろしゅうございますか。
○今川委員 はい,ありがとうございます。
○道垣内委員 日弁連の方から,第1の1について濫用が懸念されるのではないかということであり,懸念されるということ自体に反対をするつもりはないのですけれども,例えば,それの方策として,1の②のところを,隣地所有者とか隣地使用者という文言を入れますと,この隣地使用権の性格というものがかなり変容するのだと思うのです。つまり,相隣関係というところに第1と書いてありますが,日本民法上の相隣関係というのは所有権と所有権の調整の関係として出来上がっているわけであって,ある土地の現在の所有者と,隣地の現在の所有者,現在の使用者の間の調整規範として存在しているわけではないのだろうと思うのです。そういうふうな土地と土地との関係の話として規定するのではなくて,所有者対所有者の話として考えるのだということならば,そのように性質決定を変容するというのも,それが絶対駄目だというつもりもないのですけれども,少なくとも,かなり大きな変容であるということは認識すべきなのだろうと思います。
  また,現在の所有者,現在の使用者という概念を出しますと,損害が最も少ないとかというふうなものの評価の仕方も実は変わってくるのであって,現在の使用者の使用形態というものを考えながら判断することになりそうです。実際にはそういうふうなことは判断せざるを得ないのでしょうが,建前の問題として,そのような現実の利用形態との関係が判断の基準になるのか,それとも,土地そのものの損害という概念で話をするのかによって,やはり違いは出てき得るのだろうと思います。
  したがって,両方出せば調整がうまくいくという性質のものではないのではないかと思いまして,若干懸念するところがありますので,申し上げる次第であります。
○山野目部会長 弁護士会からの御提案の一部について,それを受け止めての御発言を道垣内委員から頂きました。ありがとうございます。
○佐久間幹事 今の道垣内委員がおっしゃったことと同じことを一つは申し上げようと思っていました。②のところの弁護士会がおっしゃった,「隣地のために」を,「隣地の使用者及び所有者」か,「又は所有者」のためにといたしますと,性質が変容するということと,考慮要素が変わってきてしまうということは思いました。
  ただ,現実の使用者又は所有者の利益をより考慮しなければいけないのではないかというのは,私もそうかなと思っておりまして,それは③のところで酌むべき事情なのではないかと思いました。つまり,②は今,道垣内委員がおっしゃったとおり,相隣関係の性質上,このように客観的に二つの土地の状態から判断すべきであるところ,しかし,現実に使用するとなると,それはその時点の判断となるということから,③をより工夫する方が私はいいのではないかと思いました。
  その上で,③について2点,意見,あるいは質問がございまして,1点は,「現に使用している者」の概念について,少し分からないところがございます。つまり,例えばですけれども,私は今ここにいるわけでして,土地を例えば京都に持っていたといたしますと,現に今,使用は正にはしていないわけです。宅地であるということだといたしますと,それはまあ宅地なのだから,一旦留守にしている程度だったらともかくということになるかもしれませんが,遊休地を持っているというときだったらどうなのかということが分からないと思いました。あるいは,今の私でしたら短期ですけれども,例えば別荘として使っている人などですと,不定期に行くことはあるけれども,それほど頻度は高くない,あるいは季節ごとにまとまって利用するけれども,そうでない期間の方が長いというふうなことになりますと,一体この「現に使用している者」としてどこまでを含むのかをある程度見通せるようにしておきませんと,なかなか困った問題も起こるのではないかと思いました。それと,弁護士会の方でおっしゃった,隣地の使用によって不利益を受けるのは使用者とは限らない,所有者であることもあるのではないかというのはそのとおりだと思うのです。そうであっても,現に使用している者が所有者でないときは,使用者に了解を取ることによって,それほど大きな問題にはならないような気もしてはおります。しかし,そのような者がいないときには,所有者にやはり連絡を取るということが求められるのではないかと思っています。ですから,現に使用している者は,これは別に文言を変えてくれということではありませんけれども,これだけで足りるのか,場合によっては所有者を,及びなのか又はなのかは分かりませんが,入れることがあっていいのではないかと思いました。
  さらに,使用請求をする側からいたしましても,現に使用している人が,仮に別荘使用のような場合で,どこにいるか分からないときは,なかなか捜しようがないのに対し,所有者でしたら,例えば登記を見るとかいうことをすれば所在もつかみやすいというので,連絡するときに所有者が入っている方が便利な場合もあるのではないかと考えました。
  さらにもう1点,すみません,長くなりまして,「あらかじめ」のところなのですけれども,これを,例えば「一定の期間を設けて,あらかじめ」とできないのかなとも思いました。どのぐらいの期間が適当かは分かりませんけれども,よほどの緊急性を要する場合を除けば,例えば一か月程度は定めて,「あらかじめ」というふうなことにすれば,先ほど弁護士会がおっしゃった,立入りは認めるのだけれどもその日はやめてくれ,こうしてくれというような事実上交渉だってするはずなので,その期間を確保するという意味でも,その方がよいのではないかと思いました。
○山野目部会長 前段の方で,現に使用している者の概念について,現段階の事務当局の考えがあれば聴いておきたいという部分がお尋ねでございました。後段の方でおっしゃった,通知をする相手方についても何らか事務当局としての所見があれば,付け加えていただいてもよいかもしれません。
○大谷幹事 現に使用する者という中には,恐らく所有者が使用しているものというのも入っていると考えておりまして,どういう場合に現に使用しているというのか,それは正にまたケース・バイ・ケースということになってまいりますけれども,例えば,建物を建てて所有していて,塀に囲われている土地があるとして,そこに常に住んでいるわけではないというようなときに,やはりそれはその建物を,土地を使用していると評価するのではないかと思われますので,そういう場合には所有者の連絡先を調べて,所有者に対して通知するということになるのではないかと思います。季節的に使うときもあれば使わないときもあるというのも,これもやはりケース・バイ・ケースになりますけれども,現に使用していると評価されることも多く考えられるのではないかと思っております。
  それから,「あらかじめ」については,隣地使用の目的の中にいろいろな場合が書かれておりますけれども,例えば工作物の修繕などというときに,急いでやらなければいけないということもあり得るところから,決まった日時,決まった期間を置いて通知をするということを規律するのはなかなか難しいかなと考え,このような形にしているところでございます。
○佐久間幹事 後段の方は,そういうこともあるかなと思いました。
「現に使用している者」について,今の答えは,それはそれでもよろしいのかとも思いますけれども,しかし,そうだとすると,例えば建物を所有していて,それこそほったらかし,何年も放置しているというような場合もここに含むということでしょうか。「現に使用している」ということで。私は,それだったらそれで別にいいと思うのですけれども,案外,今までの議論とか,今回の資料の補足説明で,使用している人の言わば現実の利益を守るのだというふうな形での説明からすると,そういうのは余り入らないのかなと思っていました。ですから,それだったらそれで分かりましたと思いますが,本当にそれでよろしいのですか,というとあれですけれども,もう一度確認させてください。
○大谷幹事 今のも,やはりどういう場合を念頭に置くかによっていろいろ変わってくるように思います。ずっと放置をしていて,物は置いてあるけれども実際に使用していないと評価できるような,朽ちた元建物みたいなものがあるだけだとか,そういうようなときに使用していると評価するのかというと,それは評価しないということはあり得るのではないかと思っています。
○佐久間幹事 そうだとすると,念のため所有者は入れておいた方がいいのかなと,やはり判断が難しい場合があると思うのです。お隣を使用している人はいなさそうだな,あるいは余りいないなということは分かっても,その人が現に使用しているのか,していないのかというのは調べてみないと分からないところだってあるわけなので,「及び」なのか「又は」なのかは,私はどちらもあるかなと思っているのですけれども,所有者を入れておいた方が,場合によってはいいのではないかと。あるいは,現に使用している者がどういう権限で使用しているかというのも,立ち入りたい方からすると,本当には分からないことがあるのではないかとも思います。強い意見ではありませんけれども,そういうふうに思うということです。
○山野目部会長 佐久間幹事の問題提起を理解しました。現に使用している者の概念との関係で,所有者の扱いをどうするかについて,本日の部会においても引き続き,委員,幹事に御意見をおっしゃっていただきたいと望みます。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。これまでこの第1の1の隣地使用権の③の表現に関しましては,催告という文言が使われるなど,いろいろな変遷を経てきておりましたが,前回の部会資料からは,通知という表現になっておりましたので,これが届くかどうかという問題はあるものの,実際に到達すれば,それで要件を満たすのではないかと思っていたところはございます。
  ただ,先ほど今川委員からも御質問があったとおり,補足説明の2の(2)のところで,通知を受けた隣地使用者が回答するかどうか,要は同意したと認められるかどうかというところがかなり重たい要件として書かれているように見受けられるところもございますので,これを前提に,この場面においての隣地使用者の同意の意義について,今,事務局の方でどのような位置付けでお考えなのかというところを改めて確認させていただければと思っております。
  隣地使用権の内容として挙げられている使用態様は,基本的には類型的に隣地との関係を調整するために必要な最低限のものということで限定列挙されているわけでございますし,例えば,隣地の所有者が鉄条網を張って,絶対に立ち入らないでくださいと言っているようなところに,それを切って乗り越えて入るとかという話になってくれば,それはもう完全に平穏を害するということなので駄目だ,というところは,209条の解釈として,現在でもそういうことになっていたかと思うのですが,そういう平穏を害するような態様ではないというときに,どこまで明示的な同意というものにこだわる必要があるのかという点については,正直,実務的な感覚からすると少し疑問を感じるところでございます。実態としては,お隣さんの関係の中で,お互い黙示の同意が成立しているような場面の方がむしろ多いのではないかというところがございまして,外形上明らかに隣地所有者に拒む意思がないといえるような場合であってもなお,通知に対する明示的な回答,同意というものを求めるのかどうかというところは,少し確認をさせていただきたいというところでございます。
  あと,隣地使用権の規律を改めることで紛争が惹起されるという御意見は,前回から伺っていて,なるほどと思うところもある一方で,逆に,今こういう規定がないことによって,常識的に考えればここは日常的な土地の管理のために何かできることを少しだけやっておきたいというような場面でも立ち入れないとか,あるいは長年の慣習の中で,お互いに隣地を暗黙の同意の中で使っていたのに,ある日突然,隣地の方が態度を変えて,自分の土地の中に踏み込んでいたではないかといって紛争になるとか,そういったような,今提案されているような調整規定がないことによるトラブルというのも現にあるのではないかと思っています。したがいまして,紛争を惹起するかどうかということに関しましては,新たな規律を設けることによって惹起される紛争もあるかもしれませんけれども,逆に,規律がないことによって惹起されている紛争も現にあるわけで,それが,裁判所まで持ち込まれるような話かどうかというのは別といたしまして,私自身もそういう事例を経験したことはございますので,その点については中立的に考える,ということで良いのではないかと思っているところです。
  いずれにいたしましても,この隣地使用権そのものが,通常,土地を管理していく中で,必要最低限のことを,なるべく重たい負担,手続負担なくできるようにすべきではないか,というところから出発している話だと理解しておりますので,そういった考え方に沿った形で条文が作られて,解釈がなされるという形が望ましいのではないかと思っております。
○山野目部会長 後段の意見は承りました。前段において,黙示の同意ないしは同意という概念が補足説明で用いられていることとの関連でのお尋ねがありました。
○大谷幹事 この隣地使用権の成立につきましては,現在提案しております①と②の要件を満たしておれば隣地使用権自体は発生をし,③の手続的な行使要件を満たせば適法に使用できると考えられるところでありますけれども,これも自力救済との関係について補足説明で書いておりますが,隣地使用者がいるときに,明示の承諾がなく隣地使用権が発生し,行使要件を満たしたので無理やり立ち入ることができるかというと,そういうことではないのだろうと。承諾なく入る場合には違法な自力救済と評価されて,不法行為ということもあり得るところでございまして,そのようなことがないように,使用の平穏を害さないように入っていく必要があるだろう。その意味で承諾をしている,同意をしているというのは,不法行為が成立しないように平穏に入っていくために必要で,法律上必要なものというよりは,自力救済との関係で必要だということと理解をしております。
○山野目部会長 今,大谷幹事の言葉の中に,法律的な意味ではなくてという表現がありましたが,正にそのとおりで,ここの同意は法制上の概念としての同意ないし承諾ではなくて,立入りないし隣地使用を阻む意思を有しないということを伝えるという契機をある種,比喩的に述べている側面があり,少し議論を混乱させたかもしれません。藤野委員,よろしゅうございますでしょうか。
○藤野委員 はい,今の御説明で非常によく分かりました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○中田委員 ありがとうございます。今回これがテーマになっていますので,少し調べてみました。恐らく皆様よく御存じのことだと思うのですけれども,私は知らなかったものですから,念のため御紹介したいと思います。
  この209条は明治時代から非常に激しい議論があった条文でして,旧民法は,隣地に立ち入ることを求めることができる,と規定していたのですけれども,現在の民法に改める法典調査会で,隣地に立ち入ることができる,という原案が示されました。しかし,激しい議論がありまして,結局旧民法と同じく,隣地に立ち入ることを求めることができるに戻されました。正確に言うと,立入るを求むることを得,ですけれども。この表現が最終段階の整理会で,隣地に立ち入るだけではなくて,足場を設けたりすることもあるからということで,使用を請求することを得,に修正され,これが現在の規定になっているわけです。
  この経緯を振り返りますと,今回の提案は三つほど特徴があると思います。一つは,使用請求を改めて,使用することができるにしたということです。これについての議論は,法典調査会の原案の段階での議論と同じようなものだと思います。
  2番目は,法典調査会の当初の議論は,立ち入ることができるとするのか,それとも,立ち入ることを求めることができるとするのかという,立入りという一時的で定型的な行為についての議論だったわけですが,今回の提案は,その後,立入り請求から使用請求に広がった後の規定を前提として,当然に使用することができるとするものでありまして,より広がっていると思います。
  それから,三つ目に,明治時代の建物の築造工事と現代の建物の築造工事とでは規模や期間も大きく異なっておりますので,隣地所有者の負担が大きくなり得るということがあります。
 そういう目で今回の提案を拝見しますと,今回の提案では,いつどのような権利が発生しているのか,あるいはいないのかが不明確になっていると思います。これは現行の209条の下でも,「必要な範囲内で」という要件に多様な要素を読み込もうという解釈がありますが,多様な要素が入るのだけれども,使用請求というプロセスが入ることで調整されるということが期待できたわけです。
  今回の御提案でも,「次に掲げる目的のため必要な範囲内で」とあるのですけれども,しかし,立入りではなくて使用とし,かつ,請求ではなくて当然にということにしたために,要件の明確化が一層必要になっていると思います。実際,各種の法律に類似の規定があるわけですが,例えば道路法とかですね,かなり要件を絞って,手続も慎重にしています。その対象も,他人の土地の立入りと一時使用とか,こういうように限定しているわけです。それに対して,今回の提案は非常に広いものですから,要件か効果か手続か,どこかで絞った方がいいのではないかと思います。
  例えば要件ですと,先ほど弁護士会の方から相当性という御提案がありましたけれども,例えば,「次に掲げる目的のために必要があるときは,相当の範囲内で」とするとか,あるいは,先ほど大谷幹事からお話のございました,①と②が要件であるということでしたけれども,②が要件なのかどうかというのは少し分かりにくいところがあるので,むしろ②を積極的に要件の形で取り入れるとするとか,あるいは効果ですと一時使用にするとか,あるいは手続ですと,請求構成にした上で隣地所有者に承諾義務を課するとか,いろいろなやり方があると思うのですが,特に,要件が不明確であるために,その権利があるかないか自体がはっきりしないという,それが一番大きな問題ではないかと感じております。
○山野目部会長 ありがとうございます。中田委員におかれては,起草時の事情を御紹介いただき,それを踏まえて具体的な提案,御注意を頂きました。御礼を申し上げます。松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。前回の第21回会議でこの点について,隣地が所有者不明だった場合を前提にして質問させていただきましたので,その点との関係で1点確認をさせていただきたいと思います。
  前回の部会資料51の提案と違って,今回の部会資料52の提案は,通知の相手方として,隣地を現に使用する者のみとされ,隣地の所有者が削除されています。これは,所有者不明の場合を前提にすると,誰にも通知することなく使えると読めてしまいますけれども,それでいいかどうかという点の確認です。
  例えば,建物を建築する足場として隣地を20平方メートル,1か月間使いたいが,賃料相当額だと5万円相当だというような場合,隣地を使用している者が見当たらず,所有者も不明という場合において,明らかに財産上の不利益を与えているときも,何ら通知をすることなく使っていいかどうかということについては,既に議論が出ておりますけれども,私も少し引っ掛かりを覚えます。
  前回,通知の相手方が隣地の所有者及び隣地を現に使用する者となっていましたので,所有者不明の場合でも公示による意思表示でいいだろうということで確認をした点ですけれども,今回,その点は,何ら通知をしなくても使えるということに変更されたように見受けられます。もちろん,隣地使用権の制度が所有者不明の場合に使いづらいものになってしまっては,本末転倒です。この点も十分考慮して,実行可能な手続を通じてきちんとやるべきことをやっていれば使えるのだというルールを設けることについては,全く賛成でございます。その手続として,さほど大きな負担を課すものでなければ,通知の相手方に所有者を入れておく方がよいのではないかと思いました。
○大谷幹事 ありがとうございます。前回,確かに所有者に対する通知ということを求めて,それを今回,外しておるわけですけれども,前回,実務的にもなかなか所有者を全部捜すというのは大変だという御意見があったことも踏まえて,こういう形にいたしました。また今日,お話を伺っておりますと,所有者に対する通知が必要だという御意見が複数あるようでして,もう少し検討したいと思います。
  中田委員から御指摘がございました起草時のお話,それから,この解釈の在り方,立法の在り方ということですけれども,今回の209条の改正の趣旨としては,元々ずっと御審議をお願いしておりました,隣の土地の所有者が所在不明になっているようなときでも,裁判を使わずに隣の土地が使えるようにするということを一つの眼目として検討をお願いしてまいったわけでございます。現行法の書き方,隣地の使用を請求することができるとしたときに,それは裁判をしないと絶対に駄目なのかどうか,これは恐らく議論の余地があって,先ほども少し御紹介がありましたけれども,実際には裁判をせずに入っている場合もあるのではないかというような御指摘もございました。その辺りをどのように考えるのかが現行法でははっきりしないだろうということで,これをきちんと規律を設けるとすれば,そして,現行法の精神を害さないような形で設けるとすればどうなるかということで,御提案を申し上げているところでございます。
  使用することができるとしたところで,必ず隣地使用者,所有者かもしれませんけれども,一定の事項を通知しなければならないという形で,現行法よりも具体的に通知を行う,通知を受けた相手方としては,それは嫌だと思えば差止めを求めることができますし,拒絶することもできるということだろうと思っております。ですので,必ずしも現行法の規律を緩めるというようなことで考えているのではなくて,より具体的に規律を設けて,隣地の使用者,所有者についても争う道を現行法よりも広げるという方向で考えてはどうかということで御提案を申し上げているところでございます。
 いずれにしましても,中田委員から複数の御提案を頂きましたので,また検討させていただきたいと思います。
○山野目部会長 松尾幹事,よろしゅうございますか。
○松尾幹事 ありがとうございます。隣地使用権という制度を請求権ではなくて文字どおり使用権と構成した場合には,一種の強制使用権を設定する要素もありますので,その場合は,例えば公共事業の場合でも,所有者に対する一定の手続をとっていることとのバランスも考える必要があると思いました。ただ,大谷幹事がおっしゃった,今回の提案の趣旨ということについては十分理解しているつもりです。
  ちなみに,部会資料52の4の管理措置権のところでは,不明所有者に対する手続的配慮もされていますので,やはりそれとの関係でも少しバランスをとった方がいいのではないかと思って,発言をいたしました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
  隣地使用権について,ほかに御意見はおありでしょうか。
○國吉委員 ありがとうございます。私ども土地家屋調査士の場合ですけれども,隣地を使用させていただくということの目的,第1の1の①に書いてありますけれども,この目的のために使用するということが大前提なわけです。この目的というのは,恐らく相隣関係の基本だと思うのですけれども,当然ながら,こちら側の所有者の利用を考えると同時に,隣地の方のための利用も考えていかなければいけないということだと思います。それは何かというと,当然ですけれども,争いをなくしたいということの大前提だと思っています。
  ですので,いろいろ弁護士会さんの意見などもありますし,私どもも目的とか,特に,最終的な,例えば境界標の調査であれば,所有者さんに境界の確認,承諾,同意を得るという最終的な目的があるわけですので,その辺の最終的な目的のために,紛争を生じさせないとか,そういったものを是非考慮に入れていただいて,今後また議論を進めていただければと思っています。
○山野目部会長 御注意を承りました。
  ほかに御意見はおありでしょうか。隣地使用権について,部会資料52でお出ししている範囲について,引き続き御意見を承ります。
○藤野委員 すみません,先ほどの発言の機会に申し上げられなかったのですが,通知の相手方を隣地所有者にするか,現に使用している者にするかということにつきまして,前回の部会の際には,所有者だと手続が重すぎるのではないかと申し上げた次第で,今回それが反映されて,このような案が非常によいなと思っておりました。今日は所有者を通知の相手方にする方がいいのではないかという御意見も多いようですが,実務的な,本当に現場レベルの実務の感覚で言うと,やはりここの隣地使用権のところに関しては,所有者ではなくて,現に使用している者を通知の相手方とする,ということでよいのではないか,結局,現に隣地を使っている人の平穏を害さないというところに重点を置くべきではないかと思っていますので,そこを改めて申し上げたかったのと,次で議論されるであろう管理措置請求との比較の観点からも,要は,隣地の所有者に対する制約の程度の違いによって,通知が土地の所有者にまできちんと届くようにするか,あるいは現に使用している者に通知すれば足りるか,ということを使い分ける方が,むしろ制度趣旨が明確になるのではないかと感じているところでございます。以上,意見として申し上げました。
○今川委員 所有者への通知というお話が出ています。我々の検討チームの中でも話をしていたのですが,補足説明では,実際に隣地を使用する者がいない場合でも,紛争を防止するために,隣地所有者への通知がされることが多いだろうと説明されています。しかし,規律として所有者への通知が入っていないとすると,実務的な問題としまして,佐久間幹事も少しおっしゃったかもしれませんが,その所有者を捜すという作業ができないのではないか。つまり,念のためにということでは,公的な資料の調査をする権限がないのではないかと。ですから,ここで書いている隣地所有者への通知というのは,単に登記簿上の住所,氏名に宛てて形式的に通知をすることでしかないので,実際に隣地を現に使用する者がいない場合は,そのまま使用することが多くなるのではないかという意見が多かったです。
○山野目部会長 司法書士会の御意見を承りました。
  ほかにいかがでしょうか。部会資料52で提示申し上げている隣地使用権については,本日段階でお寄せいただく意見を受け止めたと考えてよろしゅうございますか。
  そうしましたならば,部会資料52の第1の「1 隣地使用権」の項において提示申し上げている,使用権として考えるという法的構成を基本とする提案については,委員,幹事の御議論を受け,それを理解していただいている側面も大きゅうございますけれども,それとともに,繰り返しませんけれども,なお心配を抱く点が種々あるということが分かってまいりました。中田委員に観点を整理していただきましたように,仮にこの使用権構成で進むということになる場合におきましても,その細部を更に点検し,要件,手続,効果のそれぞれの観点から見て適切な絞りを与えることができるかどうかをなお探る必要があると感じます。新しい部会資料を用意した上で,引き続き委員,幹事の皆様に御審議を頂く機会を設けたいと考えます。隣地使用権についての本日段階の審議をここまでといたします。
  続きまして,部会資料3ページから始まっております「4 他の土地等の瑕疵に対する工事(いわゆる管理措置)」についてお諮りをいたします。以前の部会資料におきましては,管理措置請求権というラベルで呼んでまいりました。そちらの方が思い起こしていただきやすいかもしれません。しかしながら,他の土地等の所有者に対して何かの行為を請求するという法的構成ではないものを本日は御提示申し上げておりますところから,管理措置請求という「請求」という言葉を入れて呼ぶことが内容を適切に表現していないと考えられるため,この部会資料において括弧書きで,いわゆる管理措置というふうな仕方の御案内をしているところでございます。これにつきまして,委員,幹事の皆様方の御意見を承ります。いかがでしょうか。
○中村委員 日弁連のワーキンググループでは,これについても賛否が分かれました。賛成意見がありましたけれども,これについても,従前お伝えいたしましたことの繰り返しになりますが,瑕疵という用語をもう少し分かりやすくできないかですとか,瑕疵との語の代わりに,例えば,管理が社会通念上不相当であることにより,などとしてはどうか,などの指摘がなされておりました。
  反対意見では,要件,効果が抽象的にすぎ,自力救済を誘発するのではないか,隣地使用権よりも更に懸念が大きいとの指摘がありました。資料49で,甲案,乙案のほかに(注1)として挙げられていた請求権構成に近い形の方がよいのではないかというような意見でした。また,第20回の部会の議論では,資料49の甲案を採る場合,今回,甲案ベースですけれども,その場合には要件,効果をしっかりと絞る必要があることの指摘がかなり出ていたかと思いますが,今回御提案は,例えば急迫,緊急の場合に限定するようにはなっておらず,一般的に働き得る大きな作りになっているわけですが,要件,効果に絞りが掛けられていないように見受けられますので,引き続きここのところの工夫ができないかという意見がございました。
  また,手続に関する②につきましては,これも先ほど議論しました1との対応もありますが,1の②と同じように,日時,場所のほか,工事の内容なども通知したり,土地所有者の変更提案への対応も検討してはどうかなどといった提案もありました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  引き続き承ります。いかがでしょうか。
○今川委員 我々司法書士の中でも,先ほど弁護士の方がおっしゃったように,工事の日時及び場所と内容も通知するという規律を置くべきではないかという意見がありました。
  それから,先ほど佐久間幹事がおっしゃったのですが,②であらかじめ通知をするということになっていますが,大きな工事がされる場合もありますので,そのあらかじめの期間について一定程度の規準を示すべきではないかという意見があります。それと,補足説明では,原則として土地の所有者が工事を行うべきと考えられるので,その機会を与える趣旨も含むという説明がされています。であれば,やはりそこで一定の期間というものを置くべきではないか,例えば,一定の期間内に回答してくださいというような通知を実際はすべきではないだろうかと思います。規律では単にあらかじめとしか書いてありませんので,期間も規律した方がいいのではないかという意見がありました。
○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。こちらのいわゆる管理措置につきましては,前回申し上げた瑕疵の対象の表現の部分を含めて,今回,反映していただき,非常によいものになったのではないかと思っております。
  確かに要件の絞りといった点に関しては,より要件を明確にすべきだという御意見はあるとは思うのですが,実際のところは,やはり土地に損害が及び,又は及ぶおそれがあるときは,という要件が,かなりここでは重たいというか,重要な意味を持つものになると思っていますので,そういう場面である限りは認められるべき,というか,それ以上厳格にすると,かえって予防できるものを予防できなくなるというところも懸念されるのではないかとは思っております。通知先に関しても,基本的にはきちんと土地の所有者に通知するというのが原則となっておりますし,そういった点や,管理措置が適切に採られなかったことによって起きる弊害の大きさも考えますと,これくらいの規定の方が好ましいのではないかと考えているところでございます。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。前回これと同様の提案が審議されたときに,私は物権的請求や占有の訴えとの関係からすると,前回の甲案,今回のこの案は適当ではないと思うと申し上げました。今回の整理は相隣関係上の規定として専ら考えるということですので,前回そう申し上げましたけれども,私はこれでもいいのかなと思っています。
  ただ,物権的請求や占有の訴えが可能な状況を規定の対象とするということは変わりがないはずだと思うのです。そうだとすると,資料にも書かれていますけれども,占有の訴えは明らかと思いますが,物権的請求の内容が行為請求であるということを例えば前提といたしますと,多分それで一般的にはいいと思うのですが,そうだといたしますと,まずは普通に考えたら,行為請求がされた,物権的請求でされた,けれども相手が応じないというときに,相隣関係上の権利として発動するというか役に立つ,これはそういう規定なのだろうと思います。そうだとすると,②のところが,補足説明にも書かれていますけれども,相手に対応する機会を言わば与える役割を持っているということに私はなると思いますので,この②がその役割をきちんと果たせるようにすべきだと思います。
  「あらかじめ」ということについては,先ほどの1の隣地使用権のところで,期間を明示することは難しいという大谷さんからのお答えがあって,それは分かりましたと申し上げましたが,ここもきっとそうなのだと思うので,期間は明示するのは難しいのかもしれないですけれども,どう言ったらいいのか分かりませんが,好ましいというか,本来そうすべきであるということで言えば,かちっとした期間の定めはないけれども,相手方が対応する十分な期間をもって,という意味で受け取るべきであろうと思っています。相手がそれでも対応しないということになると,①の要件は,繰り返しになりますが,物権的請求なども可能であるという状況なのであるのだから,そのことを前提として,余り詳しく書き込むことは難しいし,適当ではないのではないかと思っています。
○山野目部会長 松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。この通知の意味に関して,先ほどの隣地使用権の場合と共通する部分かもしれませんけれども,再確認させていただきたいと思います。この通知ということについて,隣地の所有者及び使用者の何らかの回答を求めるべき性質のものなのかどうかということの再確認です。
  回答,あるいは確答を求めるべき催告のような意味を持つのだとすると,やはり何か返事は必要で,通知をしたけれども何ら返事がないのに勝手に使ってしまうのはまずいということであれば,これは確答を求めるということを期待した通知であると思われます。そういうことになると,これも先ほど来,議論されておりますように,相当の期間を定めて催告をして,確答がないときには,反対しないということを擬制するのか,反対すると擬制するのかが問題になります。この場合,管理不全土地についての管理措置権ということであれば,相当期間内に確答がないときは反対をしないものと擬制をするというルール作りもあり得るかなとは思いました。いずれにしろ,この通知の法的な意味がやや曖昧なので,そこはいずれ明らかにせざるを得ないのではないかという気がいたします。
  しかし,いずれにしても重要なのは,これが紛争を回避するためのルールだということです。つまり,隣人との間なのだからなるべく円満に使えるようにしたい,だからなかなかはっきり書けないという事情もあると思うのですけれども,そういう趣旨を活かして,このルールをもう少し明確に書けないかというところが重要なところだと思いますし,現在の議論の焦点なのではないかと思います。
  例えば,この通知において,先ほど来出ていますように,期間とか場所だけではなくて,使用目的とか方法を書くということについて,私は賛成ですが,例えば所有者も使用者も容易に見つからないので,使用目的,方法,場所,期間を書いた看板を現場に設置し,相当期間,例えば1か月経っても何も言ってこない場合は管理措置をしうるというようなやり方では駄目なのか,あるいはそういうやり方もあり得るのかという形で,隣人との紛争を回避しつつ,しかし必要に応じてこの土地を利用していけるような,そういうルール作りができないものかと思いました。その意味で,この通知の法的な意味について少し確認したいという質問でございます。
○大谷幹事 通知の法的な意味については,少し補足説明の中で,催告的な意味があるということ,相手方がまずは工事を行うべきであると考えられるから,その機会を与えるということを書いておりますけれども,やはりこの管理措置の工事権というのは①の要件があれば発生するし,②の通知をすればそれが適法に行使できるということになる,この意味では先ほどの隣地使用権と同じような構造かなと思っておりますので,確答を求めるというような趣旨ではないし,嫌だと言われれば,やはり同じように違法な自力救済は許されないという方向になると理解をしています。
  先ほどから,隣地使用権における通知の内容とこちらの通知の内容が違うという御指摘,同じようにすべきではないかという御指摘がございました。こちらの提案の趣旨といたしましては,隣地使用権の際には自分の土地を一定の目的のために使用する際に,隣の土地を使わなければならないという場面でございますので,自分の土地で工事をする際にどの程度相手方の土地に入らなければならないのかとかいうことが自分である程度分かるということに対して,こちらの管理措置の場合には,相手方の土地の中でどこにその瑕疵があるか明確には必ずしも分からないという中で,場所等をきちんと特定して相手方に通知するのが難しいというところもあるだろうということで,そういう趣旨も含めまして,規律の内容を変えて提案をしているというところでございます。
○山野目部会長 松尾幹事,お続けください。
○松尾幹事 失礼しました,期間とか場所とかというのは,私は先ほどの隣地使用権の方が少しまだ頭の中に残っていて,そちらを前提に話をしてしまったので,この管理措置権に相応しい内容の通知という意味では,必ずしもこの二つの通知の内容は同じでないということについては納得いたしました。その上で,しかし,通知の法的な意味については,やはり共通の問題があるのではないかと考えています。
○中村委員 今の②の通知について,1と同じように考えてはどうかと先ほど申し上げましたところ,今,大谷幹事から御説明があったところなのですけれども,大谷幹事の御説明自体は理解できるところなのですが,そうは言いましても,では最初に立ち入るのはいつなのか,そこで事情を把握した上で,どのぐらいの範囲,期間になるのかというようなことを,隣地に通知していくべきだろうと考えて,先ほどは申し上げました。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。今の,何を通知するのか,隣地使用権と同じようにした方がいいのではないかということに関連するのですけれども,この原案にはありませんけれども,確か弁護士会からの御提案で,1の③については目的も書くということでしたよね,確か立入りの目的みたいなものも記してはどうかということでしたよね。
○山野目部会長 使用方法や理由を述べて,と。
○佐久間幹事 そうです。それで,使用方法や理由を述べるというのは,隣地使用権の場合は①で権利が発生するわけですから,その権利発生の根拠を示すということに多分なるのだと思うのです。それだけではありませんが,そういう面もあるのだと思うのです。そうだとすると,4の②の通知のところも,①が権利発生の要件で,私はそれでいいと思うのですが,その要件は何かというと,「瑕疵がある」ということが一つで,その瑕疵は,大谷さんがおっしゃったとおり,行ってみないと分からんというのはあると思うのですけれども,「自己の土地に損害が及び,又は及ぶおそれがある」というのが,もう一つ要件であって,これは自分のところで分かっていることだと思うのです。だから,私はこれを明示することにした方がいいのではないかと思っています。そうすることが結局,先ほどの私自身の発言につながってしまうのですけれども,物権的請求や占有の訴えで,本当はこの損害の除去,又は損害発生の防止を自分はしてほしいのだというときに,何をしてほしいかを求めるということをはっきりさせるという意味もあり,かつ,それが相手によって実現されないときは,自分が入っていって瑕疵を調べ,除去しますということにつながるので,そのようなことを盛り込むことは考えられるのではないかと思います。
○山野目部会長 引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
  大体この4の管理措置について,御意見をお出しいただいたと認識してよろしゅうございますか。
  そういたしましたならば,一つ前に御審議を頂きました隣地使用権について所要の見直しをして再度の提案を差し上げるに当たっては,当然のことながら,それと関連させながら整合性をとれるような仕方で,今し方御審議を頂きました4のいわゆる管理措置につきましても,改めて提案を調える必要があると感じられます。次の機会に,またそのようなものを盛り込んだ部会資料をお示しするということにいたします。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立