法制審議会民法・不動産登記法部会第2回会議 議事録

要綱案

第3部 土地所有権の国庫への帰属の承認等に関する制度の創設

 次のような規律を内容とする、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する制度(以下「本制度」という。)を創設するものとする。
1① 土地の所有者(相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。以下同じ。)によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る。)は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を求めることができる。
 ② 土地が数人の共有に属する場合においては、①の法務大臣に対する承認の申請(以下「承認申請」という。)は、共有者の全員が共同して行うときに限り、することができる。この場合において、相続等以外の原因により当該土地の共有持分の全部を取得した共有者は、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した共有者と共同して行うときに限り、①の規律にかかわらず、承認申請をすることができる。
2 1の承認申請をする者(以下「承認申請者」という。)は、承認申請に対する審査に要する実費の額を考慮して政令で定める額の手数料を納めなければならない。
3 法務大臣は、承認申請に係る土地が次のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない。
 ① 建物の存する土地
 ② 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
 ③ 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
 ④ 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
 ⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
 ⑥ 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
 ⑦ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
 ⑧ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
 ⑨ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
 ⑩ ①から⑨までに掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
4 3の承認は、土地の一筆ごとにするものとする。
5① 法務大臣は、承認申請に係る審査をするため必要があると認めるときは、その職員に事実の調査をさせることができる。
 ② ①により事実の調査をする職員は、承認申請に係る土地又はその周辺の地域に所在する土地の実地調査をすること、承認申請者その他の関係者からその知っている事実を聴取し又は資料の提出を求めることその他承認申請に係る審査のために必要な調査をすることができる。
 ③ 法務大臣は、①の事実の調査を行うため必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長、関係のある公私の団体その他の関係者に対し、資料の提供、説明、事実の調査の援助その他必要な協力を求めることができる。
 ④ 法務大臣は、その職員が②により承認申請に係る土地又はその周辺の地域に所在する土地の実地調査をする場合において、必要があると認めるときは、その必要の限度において、その職員に、他人の土地に立ち入らせることができる。
6 法務大臣は、次に掲げる場合には、承認申請を却下しなければならない。
 ① 承認申請が申請の権限を有しない者の申請によるとき
 ② 申請書の内容に不備があるとき
 ③ 承認申請者が2の手数料を納付しないとき
 ④ 承認申請者が、正当な理由がないのに、5の調査に応じないとき
7 承認申請者は、3の承認があったときは、承認に係る土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を勘案して政令で定めるところにより算定した額(以下「負担金」という。)を納付しなければならない。
8 承認申請者が負担金を納付したときは、その納付の時において、3の承認に係る土地の所有権が国庫に帰属する。
9 3の承認に係る土地について当該承認の時において3のいずれかに該当する事由があったことによって国に損害が生じたときは、当該事由を知りながら告げずに3の承認を受けた者は、国に対してその損害を賠償する責任を負う。
10① 法務大臣は、承認申請者が偽りその他不正の手段により3の承認を受けたことが判明したときは、3の承認を取り消すことができる。
 ② 法務大臣は、①の取消しをしようとするとき(承認申請に係る土地が8の規律により国庫に帰属している場合に限る。)は、8の規律により国庫に帰属した土地(以下「国庫帰属地」という。)を所管する各省各庁の長(当該土地が交換、売払い又は譲与により国有財産でなくなったときは、当該交換等が生じた時に当該土地を所管していた各省各庁の長)の意見を聴くものとする。
 ③ 法務大臣は、国庫帰属地が交換等により国有財産でなくなった場合又は国庫帰属地につき貸付け、信託又は権利の設定がされた場合において、①の取消しをしようとするときは、国庫帰属地の所有権を取得した者(転得者を含む。)及び国庫帰属地に係る所有権以外の権利を取得した者の同意を得なければならない。
11 本制度における法務大臣の権限は、法務省令で定めるところにより、その一部を法務局又は地方法務局の長に委任することができる。
(注1)民法に所有権の放棄に関する新たな規律は設けないこととする。
(注2)国は、3の承認がされた場合には、土地の所有権を所有者から承継取得する(承認申請者が無権利者であった場合には、承継の効果を生じない。)。
(注3)法務大臣は、3の承認をしようとするときは、あらかじめ、当該承認に係る土地の管理について、財務大臣及び農林水産大臣の意見を聴くものとする。ただし、主に農用地又は森林として利用されている土地ではないと明らかに認められる場合は、この限りではないものとする。
(注4)5については、事前の通知など、立入りの手続に関する規律を設ける。
(注5)8につき、3の承認後に、承認申請者が負担金を一定期間内に納付しないときは、承認はその効力を失うものとする。
(注6)10 の取消しの規律は、法務大臣が、承認を取り消し、土地所有権の国庫への帰属(承継)を遡及的に無効とすることができることを前提にしている。
(注7)その他国庫に帰属した土地の管理に関する所要の規律を設ける。

○川畑関係官 それでは,部会資料2につき,御説明させていただきます。
 土地所有権の放棄につきましては,資料の各項目がそれぞれ連関していることから,全体につき,まとめて御説明をさせていただきます。

第1 土地所有権の放棄を認める制度の創設の是非

 まずは,第1の土地所有権の放棄を認める制度の創設の是非についてです。

第1 土地所有権の放棄を認める制度の創設の是非
一定の要件のもとで土地所有権の放棄を認め,所有権を放棄する旨の一方的意思表示により,土地が無主となり,直ちに帰属先機関に帰属するものとすることについて,どのように考えるか。
(注) 所有者のない不動産は国庫に帰属するとする民法第239条第2項の規律を基本的に維持することを前提としているが,所有権の放棄によって無主となった土地の帰属先機関については,後記第3において別途検討する。

 人口減少による土地の需要の縮小に伴い,価値が下落する土地が増加する傾向にある中,土地への関心が失われて,所有者により適切に管理されない土地が増加し,それが所有者不明土地の予備軍になっていると指摘されております。
 この状況で,所有者不明土地の発生を抑制するために,所有者が土地を手放し,第三者が土地を管理することができる仕組みが必要ではないかとの指摘があることから,土地所有権の放棄につき,検討することが必要と考えられます。
 土地所有権の放棄につきましては,現行民法に規定がなく,確立した最高裁判例も存在せず,その可否は必ずしも明らかではありません。そこで,所有者不明土地の発生を抑制する方策として,土地所有権の放棄を可能とする制度の創設を検討する必要があると考えられます。
 一般に,権利の放棄とは,権利の喪失を目的とする単独行為をいうものとされており,今回は,この意味での放棄の概念を前提にして,民事法制の枠内で,土地所有権の放棄につき,御検討いただきたいと考えております。
 この意味での土地所有権の放棄がされれば,土地は所有者のないものとなりますが,所有者不明土地を抑制する観点からは,土地が無主のまま放置される状況を許容することは困難であることから,土地が放棄された後,直ちに帰属先機関が所有権を取得する構成にすることが望ましいと考えられます。
 この観点からは,現行法が所有者のない不動産は国庫に帰属するとしていることは,一つの望ましい法律構成といえ,これを参考に検討を進めることが考えられます。
 土地を手放すための仕組みとしては,所有権放棄以外にも寄附,これは民法上の贈与契約と考えられますが,これにより,国や自治体が所有者から土地を譲り受けることが考えられ,現在,財政制度等審議会・国有財産分科会においては,国が寄附に応ずる場合を拡大することにつき,検討がされております。
 しかし,寄附の場合には,受け手である国等の同意がなければ,所有者は土地を手放すことができず,限界があり,また,財政制度等審議会においても,資産価値がなく,売却等の見込みがない土地の引受けを想定した議論はされておらず,少なくとも魅力の乏しい土地を手放すための仕組みとしては,寄附は所有権放棄の代替とはなり難いと考えられます。
 なお,土地所有権の放棄には,土地の管理コストを帰属先機関に転嫁することにより,所有者が自身の土地を適切に管理する責任を免れる結果を生じさせる側面があることから,所有権放棄を論ずるに当たっては,現在,国土審議会・土地政策分科会において検討されている土地所有者の責務に関する議論も踏まえた検討が必要であると考えております。

第2 土地所有権の放棄の要件

 それでは,4ページを御覧ください。

第2 土地所有権の放棄の要件
次のうちのいずれか又は複数の事情がある場合に土地所有権の放棄を認めるものとすることについて,どのように考えるか。
① 土地所有者が土地の管理に係る費用を負担するとき(例えば,適当と認められる金員を支払ったとき)
② 帰属先機関が負担する管理に係る費用が小さく,流通も容易なとき(例えば,㋐土地に建物や有害物質等が存在せず,㋑土地の権利の帰属に争いがなく,㋒隣接地との境界が特定され,㋓第三者に対抗することができる権利が設定されていないとき)
③ 所有者に責任のない事由により,土地が危険な状態となり,所有者が負担する土地の管理に係る費用が過大になっているとき(例えば,自然災害等により土地に崩壊等の危険が発生し,土地所有者や近隣住民の生命・財産に危害が生ずるおそれがあるとき)
④ 土地の引受先を見つけることができないとき(例えば,土地を手放したい者が,競売等の手続により売却を試みても買い受ける者がないとき)
⑤ 帰属先機関の同意があったとき

 土地所有権の放棄は,権利の放棄であると同時に,所有者として本来負うべき土地の管理の負担を帰属先機関に転嫁する側面があることから,無条件に認めることはできず,一定の要件を満たす場合にのみ認めるべきものと考えられます。
 この4ページの資料本文では,土地所有権の放棄を認めるための要件として,①から⑤の案をお示ししていますが,これらはそれぞれ異なる観点からのものであり,相互に排斥し合うものではなく,適宜,複数組み合わせて要件とすることも可能であると考えております。
 本文の①と②は,土地の管理コストに着目した要件です。この管理コストの負担が土地所有権の放棄を認める場合の課題であると考えられることから,これを放棄者に負担させることで,帰属先機関が負担する管理コストを抑制するとともに,将来的に安易に土地を放棄することを念頭に置いて,所有者が土地を管理しなくなるモラルハザードを回避する趣旨で,①をお示ししております。
 もっとも,放棄者が管理コストを永続的に負担しなければならないものとすると,所有権放棄制度自体が機能しなくなるおそれがあるため,放棄者が負担する管理コストは一定限度にとどめる必要があると考えられ,納付する額をどのように設定するかが課題になると考えられます。
 次に,②も土地の管理コストに着目するものであり,帰属先機関が実際に土地を管理していくに当たって掛かる管理コストをできるだけ抑える趣旨でお示ししているものです。
 この要件につきましては,土地所有権の放棄が,一定の要件が満たされれば,申請により公的な帰属先機関に帰属する点や土地の管理に大きな負担が生じないことを想定する点で,相続税の物納の仕組みと類似していると考えられることから,物納の要件を参考にしております。
 次に,③ですが,これは,自然災害により土地に崩落の危険が発生し,近隣住民に危害が生ずるおそれがあるケースのように,放棄者が負担する土地の修繕等の費用が高額に上っており,所有権の放棄を認めなければ酷な場合を念頭に置いているものであります。
 このようなケースにおいては,地域住民の安全確保や国土の保全のような公共的観点から,公共事業や公的助成などにより危険を除去すべきであり,土地所有権の放棄をさせる必要はないとの指摘があり,このような観点も踏まえて,御意見を賜りたいと考えております。
 ④につきましては,手続的要件としてお示ししているものです。
 土地は,可能な限り継続保有され,また,流通されて利用されるべきものと考えられることから,まずは放棄しようとしている土地の取得を希望する者に土地取得の機会を与え,それでも引取手が現れなかった場合にのみ,土地所有権の放棄を認めるべきという趣旨でお示しをしております。
 もっとも,どのような場合に引受先がないと認定するかについては,検討が必要であり,形式競売や空き地・空き家バンクのような既存の仕組みを利用したり,公告等で土地の利用希望者を募ったりすることが考えられ,具体的な手続についても念頭に置いて,御意見を賜れればと考えております。
 ⑤につきましては,土地所有権の放棄が帰属先機関への負担の転嫁である側面があることから,帰属先機関の同意を要件とするものですが,同意を要件とするのであれば,単独行為である放棄の概念と矛盾するとも考えられることから,法的性質の議論と併せて御意見を頂ければと考えております。

第3 放棄された土地の帰属先機関

第3 放棄された土地の帰属先機関
 放棄された土地は,最終的には国に帰属するものとするが,地方公共団体等の他の機関が,公益の実現等のために土地所有権の取得を希望する場合には,当該機関に帰属するものとすることについて,どのように考えるか。

 次に,10ページ,放棄された土地の帰属先機関について御説明を致します。
 放棄された土地は,何らかの機関に引き継がれ,管理されることが必要ですが,放棄される土地は市場価値が乏しく,民間で引き受けるのが困難なものが多いと考えられることから,帰属先機関は,公的機関又はそれを背景にしたものにせざるを得ないと考えられます。具体的には,国,地方公共団体,そして,いわゆるランドバンクのような土地を取り扱う専門機関等が候補として挙げられます。
 現行民法上,所有者のない不動産は国庫に帰属するとされているとともに,相続財産管理の手続を経て,土地が国庫に帰属する場合もあり,現行法上,国は国有財産として土地を管理しており,ノウハウも有していること,国は最終的な土地政策の責任を負う立場にあると考えられることから,本文におきましては,放棄された土地は,最終的には国に帰属することを提案しております。
 もっとも,放棄された土地については,国が行政目的で取得するものではないことから,地方公共団体等が公益の観点から,その土地を必要と考えるのであれば,そちらに優先的に土地を帰属させる案をお示ししております。
 これまで,一定の要件を満たす場合に土地所有権の放棄を認める方向で御説明をしてまいりましたが,具体的にどのような機関が要件の具備を審査し,どのような手続で土地を帰属先機関に帰属させるかについては,別途検討が必要です。
 そこで,12ページの補足説明(4)のアにおいて,考え得る一つの構成をお示ししております。
 これは,所有権放棄の意思表示は一律に国に対してすることとし,その意思表示を受け,国の機関が所有権放棄の要件を満たしているかどうかを審査し,要件を満たしていることが判明すれば,その土地が所在する地方公共団体に土地の情報を提供し,それを受けた地方公共団体が土地の取得を承諾すれば地方公共団体に,取得を拒絶すれば国に,土地が帰属するものとする構成であります。
 この構成を採る場合には,所有権放棄の意思表示がされたときは,地方公共団体の承諾を停止条件として,地方公共団体に土地を帰属させるものとする一方で,地方公共団体の拒絶を停止条件として,国に土地を帰属させるものと考えることが可能であります。
 これは飽くまで一案であり,例えば,地方公共団体に寄附の申出をしましたが拒絶されたと,こういったことを放棄の要件に組み込んでしまう構成であったり,放棄された土地の帰属先を一律に国にするのではなく,土地の性質に着目して,地方公共団体が利用・管理する意義があると認められる土地については,地方公共団体に帰属するものとする構成など,ほかにも様々な構成が考えられることから,忌憚のない御意見を賜れればと考えております。

第4 関連する民事法上の諸課題

第4 関連する民事法上の諸課題
1 土地以外の所有権放棄の可否について
ア 土地所有権の放棄を認めるものとした場合であっても,建物の所有権放棄は認めないものとすることで,どうか。
イ 動産については,現行民法でも所有権放棄が認められるとの解釈を前提とした上で,規定の要否を検討することにつき,どのように考えるか。
ウ 共有持分の放棄に関する民法第255条の規律は基本的に維持しながら,その方式については,他の共有者に対する放棄の意思表示を要求することにつき,どのように考えるか。

 次に,13ページの関連する民事法上の諸課題について御説明いたします。
 1は,土地以外の所有権放棄の可否についてです。
 民法上,所有権放棄につき,定めた規定はないことから,土地につき,所有権放棄を認める制度を創設するのであれば,建物や動産について,所有権の放棄を認めるべきかどうかを検討する必要があると考えられます。
 建物につきましては,時間の経過とともに老朽化し,管理コストが土地以上に掛かる場合が多いと考えられます。また,同じく不動産である土地については,滅失させることができないことから,放棄を認める必要があるのに対し,建物については,取り壊すことで物理的に滅失させることができる点で,土地とは性質が異なると考えられます。そして,建物は土地工作物に該当し,その設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害が生じたときには,建物所有者は免責されない損害賠償責任を負うこととなります。
 これらの理由により,建物の所有権放棄を認めるのは相当ではないと考えられ,本文アの案をお示ししております。
 次に,動産につきましては,現行法上も所有権放棄が可能であるという解釈が有力であり,社会で広く認められているごみの廃棄についても,公法上の規制の枠内で動産の所有権を放棄しているものと考えられることから,本文イでは,この解釈を前提にして,規定の要否につき,御検討いただくことをお示ししております。
 本文ウは,現行法上,自由に放棄できると規定されている共有持分について,規律は基本的に維持しながら,方式につき変更することについて,御検討いただくことをお示ししているものであります。
 共有者が持分を放棄しても,他の共有者に持分が帰属するにすぎず,所有権が全部帰属先に移転すると,所有権の放棄とは問題が異なると考えられること,共有関係を簡便に解消する持分の放棄は広く認められるべきと考えられることから,現行法の規律は基本的に維持すべきと考えられます。
 他方で,最高裁判例は,共有持分の放棄は相手方を要しない意思表示から成る単独行為であるとしておりますが,これによれば,例えば土地の共有持分の放棄の意思表示が他の共有者が了知できない方法でされたときでも,実体法上は直ちに放棄の効果が発生することになり,他の共有者は自己の権利関係を認識することができず,相当ではないとも考えられます。
 そこで,本文ウの案をお示ししております。

2 放棄された土地に起因する損害賠償責任

2 放棄された土地に起因する損害賠償責任
⑴ 放棄された土地やその上の工作物に起因して第三者に損害が発生した場合の帰属先機関の不法行為責任について,新たな規律を設けないものとすることについて,どのように考えるか。
⑵ 放棄された土地やその上の工作物に起因して第三者に損害が発生した場合の放棄者の負う責任について,どのように考えるか。

 最後に,15ページの放棄された土地に起因する損害賠償責任につき,御説明を致します。
 1は帰属先機関の責任,2は放棄者の責任について,お示しをしております。
 現行法上は,放棄された土地や土地上にある帰属先機関の工作物に起因して,第三者に損害が発生したケースであれば,民法第709条や第717条の規律に従い,帰属機関が損害賠償責任を負う場合があります。また,帰属先機関が国又は地方公共団体であれば,帰属先機関が国家賠償責任を負う場合もあります。
 被害者保護の必要性は,土地所有権の放棄の有無により左右されるものではないことから,本文1では,帰属先機関の不法行為責任について,新たな規律を設けないものとすることにつき,御検討いただくことをお示ししております。
 次に,放棄者につきましては,現行法の規律では,損害賠償責任を追及するのが困難な場合があると考えられます。例えば,放棄者が軟弱地盤につき,適切な措置を採らないままに土地を放棄し,帰属先機関も適切な措置を採らなかったために地盤が崩落して,周辺住民に損害が発生したような場合,被害者が放棄前の管理不全につき,放棄者に不法行為責任を問うに当たっては,措置義務違反の有無や因果関係などの点で問題があると考えられます。
 このような場合においては,土地所有権の放棄がされなければ,帰属先機関が不法行為責任を負うことはなかったはずであり,帰属先機関と放棄者との間の損害の公平な分担の観点からは,帰属先機関が損害賠償責任を負う場合には,放棄者に対する求償権を取得するという新たな規律を設けることが考えられます。
 もっとも,この場合には,求償権の消滅時効であったり負担割合,放棄より以前の所有者の責任や負担割合をどう考えるかというような課題があると考えられ,これらの点につき,御意見を賜れればと考えております。
 説明は以上でございます。

○山野目部会長 ただいま説明を差し上げました土地所有権の放棄に関わりましては,関連する事項について,財政制度等審議会においても目下,調査審議が行われているところでございます。
 この審議会における審議の状況や,関連して,国有財産の管理の観点から留意すべき事項等について,国有財産の管理の方面,関心から,資料を本日用意してもらっております。そちらの方面について,関係する御説明を聴取しておくことが適当であると考えます。
○明瀬関係官 財務省理財局国有財産業務課長の明瀬でございます。
 本日は発言の機会を頂きまして,誠にありがとうございます。先ほど御紹介いただきましたけれども,所有権の放棄の御議論をされるに当たりまして,国有財産の総合調整を行っております立場,また,実際に国有財産の管理を行っている立場から,少し申し上げさせていただきたいと思います。座って説明させていただきます。
 お手元に,財務省理財局と書いた資料があるかと思います。そちらを1枚おめくりください。
 1ページ目に,全国の種類別土地面積を示したグラフがございます。これを御覧いただきますと,日本の国土のうち,森林が大体7割ぐらい,農地が1割ぐらい,宅地が5%ぐらいということになっていまして,比較的資産価値が小さくて,管理に手間が掛かる森林や農地の割合が圧倒的に大きくて,こうした土地について,放棄の潜在的なニーズが大きいと考えられますので,所有権放棄を検討するに当たりましては,このような国土の全体像を踏まえる必要があるかと思います。
 例えばでございますけれども,森林の6割,見ていただくと,民有林と書いてございますけれども,6割は民有林が占めておりまして,人工林につきましては現在,民間の所有者が公的な補助金などを利用しながら,自らの責任で間伐等の森林整備を行っております。
 また,この住宅地,宅地の中には,崖地などは補修に多額な費用を要するものがございまして,このような土地が大量に放棄されるようなことになれば,帰属先機関の管理費用は極めて大きくなると,その管理費用は国民や住民の負担になると。所有権放棄により追加で生じる負担というのは,相当な規模になるのではないかと考えているところでございます。
 また,国が利用する予定のない土地を引き受ける場合には,普通財産として管理をすることになるわけでございますけれども,次のページをお開きください。
 現在,財務省が国有財産部門として管理している普通財産というのは,一番下の左側の10万ヘクタール,このうち6万ヘクタールにすぎないわけでございまして,一方で,所有者不明土地問題研究会の試算によりますと,これから2040年までは,所有者不明土地が310万ヘクタール増加するとされておりますので,規模感にかなりギャップがあり,広く放棄を認めようとする場合には,実務上の受入れ体制も必要になるものと考えられるところでございます。
 このように,土地所有権の放棄の要件や必要な手数料などを検討するに当たりましては,国土の状況を踏まえつつ,それぞれの土地の価値や管理コストなどを具体的に念頭に置いていただければと考えているところでございます。
 また,この状況を踏まえますと,放棄を広く認めますと,国民や住民の負担が相当なものになるのではないかと考えられますので,所有者不明土地の発生の抑制のためには,所有権放棄だけではなくて,既存の仕組みも活用しながら,総合的に対応を検討する必要があるのではないかと思います。
 本日,先ほど御紹介がございましたけれども,部会資料の8ページにも書いてございました,8ページの一番下のところに書いてございましたけれども,所有者不明土地の発生を抑制するためには,まず土地の継続保有を政策で支援するほか,土地の流通を促進することが重要であり,所有権放棄は最終的な手段と考えられることから,所有者が保有を望まない土地については,まずは利用意欲のある者に土地の所有権を取得する機会を与えて,それでも引き取り手が現れなかった場合にのみ,土地所有権の放棄を認めることが望ましいと考えられるという文がございますけれども,この指摘は重要であると考えているところでございます。
 すなわち,土地を価値を認める者に譲り渡すようなシステムがあれば,あえて国民や住民負担となる所有権放棄を認める必要はなくて,土地の流通を促進するためのマッチングの仕組みなどの関係も踏まえながら,放棄の要件などについて検討する必要があるかと思います。
 また,もう1点,放棄の仕組みについて,少し申し上げさせていただきます。
 例えば,投機目的で購入した土地が値下がりしてしまったので放棄したいというようなケースで,放棄を認めることが適当かどうかというのは,慎重な検討が必要ではないかと考えているところでございます。こうしたケースの放棄を認めれば,モラルハザードが生じる懸念が高まるのではないかと考えているところでございます。
 所有権放棄は,土地を所有しない者も含めて,国民や住民一般に負担を求めるものでございますので,モラルハザードが生じれば,最終的には放棄もできるんだということになれば,放棄制度の創設によりまして,かえって土地の管理状況が悪化するということにもなりかねないものでございますので,国民の,また住民の経済的利益や全国的な土地の管理水準に大きな影響を与えることでございますので,その重要性に鑑みて,放棄の要件は法律で明確に規定する必要があると考えます。
 さらに,法律で定めた要件に該当するかどうか,放棄する者の意思や経緯なども含めて,確認することが必要でございまして,土地の帰属先ではない公的な第三者機関が審査・認定を行う仕組みが必要ではないかと考えるところでございます。
 また,本日の部会資料の3ページのところに,国土審議会の特別部会の取りまとめが引用されてございます。この中で,市場ベースのマッチングが成立しなかった土地について,地域の公益につながる利益,利用・管理する意義があると認められた場合には,市町村自らが利用・管理,取得をしたり,また,広域に影響が及ぶ場合には,都道府県が利用・管理,取得する場合が考えられ,また,公物や公的施設を管理している国,地方公共団体の立場で,当該公物等の適切な管理の観点から管理,取得する場合もあり得るとの,特別部会の取りまとめでございますけれども,こちらが引用されてございます。
 放棄される土地の性格に応じて,適当とされる機関に土地が帰属する仕組みを構築できれば,土地の適正な利用・管理が確保できるのではないかと考えているところでございます。
 私からは以上でございます。
○山野目部会長 明瀬関係官から説明がありました財務省資料につきましては,これから部会資料2についての審議をお願いする中で,あわせて,御意見や御質問などを承ることがかないますれば幸いでございます。
 部会資料2の審議をお願いするに当たりましては,内容が盛りだくさんでございまして,もちろん,掲げられている事項が相互に密接に関連している側面もございますけれども,まずは若干区切って審議をお願いしたいと考えます。

「第1 土地所有権の放棄を認める制度の創設の是非」「第2 土地所有権の放棄の要件 」に対する意見

 初めに,1ページの第1,土地所有権の放棄を認める制度の創設の是非及び4ページの土地所有権の放棄の要件,ここまでのところについて,御意見,御質問などを承るということにいたします。どうぞ御随意に御発言を下さい。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 弁護士の蓑毛です。
 所有者不明土地の今後の発生を予防する方策として,土地所有権を放棄するということを可能とする制度を設けることは有益であると思いますので,この制度の創設について賛成いたします。
 補足説明にあります必要性,土地所有権,権利の基本的構成,土地を手放すための仕組みとして考えられる他の方策,土地所有権の放棄を認める制度について,いずれについても,書かれていることは妥当だと思っております。
 ただし,今,関係官からもありましたように,この要件をどうするかについては,慎重に考えるべきだと思いますし,土地の経済的価値であるとか,あるいは管理コストであるとか,そういったものを類型化し,適切な要件,プロセスを考えるということを前提とした上で,このような放棄の制度を認めるということについて賛成いたします。
○中村委員 弁護士の中村でございます。
 今の蓑毛幹事からの御発言に,少し補充させていただきたいと思います。
 日弁連のワーキンググループの協議では,土地を手放す制度の創設という導入自体に反対する意見はございませんでしたけれども,部会資料のように,単独行為で放棄とするのか,それとも,要件を満たしているかを誰が判断するのかとかいった観点から,帰属先側が事前に要件のチェックとか,それから,引き受けるか否かを検討するという方向に行くのであれば,それはもはや単独行為と呼ぶようなものであるのかというところも考え,寄附ないし贈与構成を採った方が,帰属先が選択をするというか,意見を述べる機会ができるという意味で,端的ではないかという意見もございました。
 それから,所有者不明土地の発生を抑制するという今回の諮問事項に沿った検討ということであれば,利用しやすい制度であって,負担が少ないということでないと,結局利用されずに,目的を達し得ないということになってしまいますので,今後放棄の要件を検討するに当たって,余り厳格になり過ぎないようにということと,手続が難し過ぎないということは必要かと思います。
 まず方向性についてだけ申し述べました。
○松尾幹事 最初に,土地所有権の放棄を認めるかどうかということと,それを認めるとした場合のその要件に関して,2点申し上げたいと思います。
 第1点は,土地所有権の放棄を考える場合に,その背景として,国が土地に対して,どういう権限や責務を持っているかということについて,基本的な考え方を整理しておく必要があると思います。
 これについては,大きく二つの考え方があるように思われます。一つは,国は土地について,既に私有地になっているものについても何らかの権限,原有権(original property)を保持していて,一種の大地主的な立場を持っていて,土地の管理についての権限と責任を負っているという考え方です。この考え方によれば,私人が土地所有権を放棄した場合には,ちょうど,地上権を設定した土地について地上権の放棄がされると,268条1項本文で,地主に返され,その使用・収益権限が地主に当然帰属するように,土地の所有権が放棄されると,国に返され,その使用・収益権限も当然国に帰属することになり,放棄の意思表示も国に対してされることになると思います。
 もう一つは,既に他人の所有地になったものについては,国は強制収用権限を別にして,とにかく他人の所有権であって,それについて放棄を認めるということは,いったん無主物となり,その先は法律の規定によって帰属先が決まるという考え方です。
 その何れが妥当であるかについては,日本の土地所有制度の沿革,歴史的経緯に遡って,土地に対して国がどういう権限・責務を負っているのかということを確認し,それとの整合性も振り返りながら,考える必要があるのではないかと思います。
 それを前提にして,第2点ですが,土地所有権の放棄を認める場合の具体的な要件ですけれども,土地所有権の放棄を認めることが必要となる問題領域をどうやって絞り込むのかということを,まず考える必要があると思います。
 土地所有権放棄の要件として,先ほど川畑関係官から,要件として考えられることを詳細に列挙していただきました。非常に重要な論点を挙げていただいたというふうに思います。
 それを考える場合の基本的視点として,土地所有権の放棄が認められるべき固有の領域はどういう所かというと,まずは私人間の取引で売買や贈与が成り立たないというような土地だということになりそうです。
 そのうえで,土地が非常に危険な状態になり,一般的にみて私人の手では管理困難になってしまったものについて放棄を認める,といったように限定するのか,それとも,そこまでいかなくても,実際に固定資産税も払っている,ちゃんと管理もしてきたけれども,個人的な事情でちょっと私はもう管理し切れませんというような場合にも放棄を認めるのか,その際には特別な費用負担をしてもらった場合に認めるのかという点について判断する必要があると思います。
 そして,この点の判断は,先ほど第1点として述べました,土地の所有権放棄の理解の背景にある国の権限・責務をどういうふうに捉えるのかということとも連動しており,そのことも考慮に入れて,土地所有権放棄を認めるべき固有の領域,それを踏まえての具体的要件をどう絞り込んでいくかということを整理する必要があるように思います。
○佐久間幹事 最終的には,放棄の要件について申し上げたいんですが,その前提といたしまして,土地の所有権を手放すことができる制度の創設自体は賛成なんですけれども,その制度を創設していくに当たっての基本的視点としまして,今回頂戴いたしました資料の補足説明では,権利放棄自由の原則というのが割と表に出てきているように感じます。その原則を基に,土地所有権についても,恐らくは,本来は放棄することができて当然であるという考え方があり得る。しかるところ,現在はそのようなことになっていないから,これから創設しよう。その場合に,要件を定めるに当たっては,5ページにございますけれども,例えばですけれども,権利濫用に該当しないと考えられる場合を類型化する考え方があり得る,というふうに述べられております。
 ここから申し上げることが,実際の要件設定にどのぐらい,具体的に反映してくるのかはよく分からないんですけれども,スタンスといたしましては,異なるスタンスも十分成り立つのではないかと思っております。権利放棄自由の原則のところで例示されております,4ページですが,519条は債権ですので置いておきまして,268条1項,287条,ほかに例えば275条もあるんですけれども,これらの規定を見ますと,そもそも権利の放棄が自由であることを原則として,出発点として,これらの規定が設けられているかというと,そういう見方もできるとは思うんですが,権利放棄をすることができるとしても,放棄によって影響を受ける者があるときには,その影響を考慮して,この場合にはこの要件の下で放棄を認める,という限定的な考え方が採られているというふうに見ることもできるのではないかと思います。
 そういたしますと,土地の所有権の場合は,地上権や地役権の放棄,あるいは永小作権の放棄と違いまして,直接相手方になる人とか,放棄によって権利関係に直接影響を受ける人がいるわけではございませんけれども,先ほど来出ておりますとおり,国民負担というところに典型的に表れるように,社会的には大きな影響が生ずる。それは,不利益を被る存在があるということだろうと思います。そうすると,土地所有権の放棄を認めるといたしましても,そもそも権利濫用に当たらなければいいんだという考え方よりは,飽くまで精神論になりますけれども,この要件の下でなら認められるだろうというふうに考えるべきなのではないかと,まず思っております。
 その上で,放棄の要件についてですけれども,現在挙げられている要件につきまして,それぞれ個別に反対ということはございません。
 ただ,③はちょっと特殊な場合ですのでこの要件を除いて他の要件を全部つなげて考えたとしましても,例えば,所有者の今の財産状況では管理を継続しようと思えばできるんだけれども,したくないという人も,放棄をすることができる可能性がある要件になっているのではないかと思います。①について,管理費用を全部払えというのであれば,そうはなりませんけれども,一定限度に限る,そして,②の帰属先機関が負担する管理に掛かる費用は比較的小さい。③のような特殊な事情はなく管理をしようと思えばできるけれども,引受先は見付けることができないということになると,十分な資力のある人であっても,場合によっては,これらの放棄の要件を全部充たすことになりかねないと思うんですね。
 したがいまして,私は,少なくとも,当該の人にとって管理を継続することが困難である事情が認められるということは,要件に加えるべきであろうと思っております。長くなりまして,すみません。
○山野目部会長 佐久間幹事の著作の中に,民法総則の概説をなさった御本がありまして,契約自由の原則というものが,原理としてあることは当然であって,民法上,規定の上での根拠もあるけれども,それに対し,単独行為自由の原則というものは,そんな原理原則は当然にはないですよという御説明があって(『民法の基礎1総則』,第4版では44頁),私は拝読して,なるほどと思った記憶があります。もちろん単独行為は,およそ認められないというお話をなさっているものではなく,それが認められるに当たっては,局面ごとに要件の精査が必要でありましょうというお話になってくるものでありまして,今正に,ここで話題にしている土地所有権の放棄というものについて,それを単独行為として構成するかどうかについては,中村委員から御指摘があったように,更に議論を要する側面がありますとともに,佐久間幹事から問題提起を頂いたように,仮に単独行為だとして構成する際にも,その要件について十分な検討が必要であるという,誠にごもっともな御指摘を頂き,関連して,部会資料第2の提案の部分については,③の要件について,取り分けそれを精緻化すべきであるという観点からの御指摘を頂きました。
○藤野委員 ありがとうございます。藤野でございます。
 今,産業界でまとまった方向性というのが明確に出ているということではないのですが,この論点自体が,今後,管理していくのが難しい土地が多く出てくる,という問題意識からスタートしていることを考えますと,現在土地の所有者である方に頑張ってもらうというよりは,一定の範囲で放棄という形を認めて,所有者を管理の責任から解放するということも,今後いろいろ発生する問題を解消する上では,意義のあることではないかと思っております。
 もちろん,放棄後の管理コストの問題とか,様々な問題は出てくると思いますが,技術の進歩によって,管理コストを下げられる可能性もございますし,放棄された土地をずっと国が管理し続けるという前提で考えるのではなくて,むしろ,先ほど関係官の方もおっしゃっておられたように,流通の促進という観点から考える,例えば小さい土地一つだと,誰も買い手が付かないけれども,放棄された土地がまとまってきて,ある程度大きなまとまった土地になったところで,それを使って,新しい取引のチャンスを生むとか,そういった考え方というのもあるのではないかなというふうに思っております。
 したがいまして,次の論点の話になってくるかとは思うのですが,放棄する人と,それを受ける国なり地方公共団体なりとの関係に加えて,さらに放棄された土地が,その後,転々流通するということも想定した上で制度設計を考えていく,例えば,土地に内在する瑕疵の問題も考慮した制度設計なども考えていただけるとよろしいのではないかと思います。
○増田委員 今までの方と少しダブるところありますが,私もこの所有権放棄の制度に賛成であります。この制度を認めないと,逆に,これからの大量の相続時代,それから土地利用の可能性が,だんだん,これから少なくなっていくということを考えますと,社会全体での不利益が大きくなってくるのではないか。そして,この中にも記載してありますけれども,現状,寄附の制度があることはありますけれども,それが事実上,やはり機能,なかなか動かし難いということもありまして,新たに放棄の制度を作るということに賛成であります。
 一方で,先ほど財務省の方から御説明がありましたんですが,やはり土地の管理ということを考えますと,量的な面,どの程度放棄された土地が出てくるのか,あるいはどの程度,やはり考えておかなければいけないのかという量的な面にも,一方で目配りが必要であって,要は,できるだけ使いやすい制度である必要があると思いますけれども,しかし,その後の管理が,かえって逆におろそかになるということを招かないようにしていく必要があると。
 これから個々の具体論になっていくと思いますが,やはり放棄については,一定の要件をきちんと検討して設けるということが必要でありますし,特にモラルハザードにつながらないような仕組み,モラルハザードにつながるものは,きちんとはじくような要件を考える必要があると思いますが,その要件に当たるかどうかを,どこが,誰が一体判断するのかということなども,きちんと検討する必要があると思います。
 まとめて言いますと,やはり今持っている土地を,今回のここでの議論ではないんですが,基本的には利用しやすいようにしていく仕組み作りがもっと必要でありますし,それから流通制度についても,もっともっと手直しが必要だと思いますが,社会の実態を見ると,そちらの方に流していけるような土地よりも,これから所有権放棄を認めなければいけないようなものが相当多く出てくる,そういう可能性があると思いますので,この所有権放棄の制度を今回,要件をきちんと検討することによって新たに設けると,こういうことに賛成であります。
○岡田委員 土地家屋調査士の岡田といいます。
 土地の所有権の放棄を認める制度の創設に関しては,何ら反対するところではございませんけれども,先ほど財務省の方の御説明の中で,放棄による対処は最終手段というお話もございました。確かにおっしゃるとおりだと思いますし,放棄以外の方法で,所有者不明の土地を発生する,回避できるような策というのは,引き続いて検討していく必要があるんだろうとは思っております。
 例えば生前贈与を促進させるような税制措置であったり,それから,私どもは,どうしても実務上,お隣の方にお会いする場面で,所有者が分からない土地,あるいは放棄してしまいたい土地ということを相談される場面がありますけれども,お隣の方が購入する,あるいは引き受ける場面において,何らかのインセンティブ措置があってもいいのではないかなということは,常々思うところでございます。
○今川委員 司法書士の今川です。
 私も,所有権も私権の一つですから,基本的に放棄は認められるべきというふうに考えています。ただ,土地は国土を形成しておりますし,また公共的な性格がありますので,放棄者に対しては責務もあるということから,一定の制約が必要だと思います。
 一定の制約というのは,放棄する人が一定の負担を負うということをベースにすべきと考えています。そして,最終的には国土として,国民全体で,国が管理の負担を受け入れるべきではないかと思っております。
 それで,要件を考えるときですけれども,4ページの第2ですが,①をベースとして考えて,②,④については,これは放棄というよりも,マッチングをどうするかという観点から考えた方がいいと思いますし,③は,これは放棄をする人に負担を負わせていいのか,いい案件なのかどうかという観点で考えていくのがいいというふうに考えております。
 それから,基本的なことになるんですが,ルールを定めるに当たって,土地であるとか個人の事情を考慮するというのもいいですけれども,放棄されようとする土地が存する地域の利用計画がどうなのかというのが非常に大きいと思います。ですから,国土全体に対して,本来は細かく計画が定められているのが理想であろうかと思います。
 その利用計画によって,土地の利用・管理の在り方が決まりますので,放棄のルールが決まる。つまり,放棄する人がどこまで負担をして,帰属者がその後の負担をどこまで負うかというのも,計画によって決まってくると。帰属先機関も,それによって決まってくると思います。
 国が最終的に,国ということは国民全体ですけれども,管理の負担を受け入れるという考え方に立ちますので,放棄をする人が一定の負担を負うにしても,一定以上超えたものは,帰属機関が決まれば,帰属先が負担していくというようなルールを作るべきと思っております。
○山野目部会長 今川委員から,部会資料4ページに掲げております①以下の要件のうち,取り分け①から④の要件について,大変細かく分析していただく御発言をもらいました。少し前の佐久間幹事の③の要件に関する御言及と併せ,今後,①から⑤の全体について,その組合せの可能性も含めて,考えを深めていかなければならないと感じます。
 あわせて,ただいまの今川委員の御発言の中に,恐らくは,①から⑤の中では明示に視点としてお示ししていない,欠けているものについての重要な御指摘も頂きました。土地利用計画との関係という論点でございます。
 ただいま,当部会における調査審議と並行して,国土審議会の計画推進部会におきましては,地域の土地利用構想の在り方を,これからもう少しきちんと見直していかなければならないという論点の検討が進められております。そうした動向もにらみながら,ただいまの今川委員の御指摘も思い起こし,当部会における審議も進めてまいらなければならないと感じます。
 引き続き,委員,幹事の皆様方からの御意見を伺います。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 先ほど,所有権の放棄を認める制度を創設することに賛成と申し上げましたが,具体的にどのような要件を設けるべきかということについて,少し意見を申し上げたいと思います。
 この問題を考えるに当たっては,もう既に複数の委員,幹事の方からも意見が出てきていますが,土地を類型化して考える必要があるのではないかと思います。具体的には,管理コストの観点と経済的な価値の観点から,土地を大きく四つの類型に分けられるのではないかと思います。
 1つ目の類型は,現時点で価値があって,市場で流通することが可能な土地です。このような土地については,放棄して国に帰属させるのは,経済的な観点からも無駄ですし,手放す人からしても経済的に損失ですので,そういった土地の放棄を認める必要はないと思います。
 2番目の類型としては,現時点で経済的価値を見いだすことは困難だけれども,何らかの努力,処理を行うことで,価値を見いだすことができる土地です。これは,例えば,その土地自体が細分化された土地の一部だけれども,周辺の土地を併せて取得して整序等することによって,経済的価値が生まれたりであるとか,あるいは,地方公共団体にとっては防災的な価値があったりといったものがあると思います。こういったものを全て国に取得させて管理するというのではなくて,何らかの方法で地方公共団体等に取得してもらう方法を推し進めることが重要だと思います。
 3番目の類型は,現時点で経済的価値がなく,今後も価値を見いだすことが困難な土地です。ただし,この困難なものの中にも,二つ種類があって,在り方研究会等でも議論されていましたけれども,いわゆる粗放的な管理手法で足りるもの,過大な管理コストが掛からないものです。
 もう一つ4番目の類型として,経済的な価値がない上に,管理コストが過大になるものがあります。これは,先ほど明瀬関係官からも御指摘のあった,崖崩れを起こしているような土地であったりとか,あるいは老朽化した建物が乗っている土地であったりとか,土壌汚染のある土地といったものです。
 基本的には,今我々がこの議論をする中でターゲットとすべきは,3番目の類型,これを最終的に,放棄によって国に取得してもらうべきだと考えます。
 以上申し上げたことと,部会資料2,第2「土地所有権の放棄の要件」との関係は次のとおりです。
 まず,先ほど申し上げた,4番目の類型の土地には,様々な問題があります。この類型は,部会資料2の4ページでいえば③の土地ですが,今回の法改正ではこれは放棄の対象から外した方がいいと思います。これを入れると,財政的な問題等,様々な問題が起こって難しいということもありますし,確かに自然災害等によって,土地の崩落の危険が発生させられてしまった個人をどう救うかという問題もありますが,これは特別法などで,被害に遭った人に対する何らかの支援をするとか,そういったことで解決すべき問題であって,土地所有権の放棄で解決すべき問題ではないと思っております。
 次に,粗放的管理で足りるという土地,これは部会資料2の4ページでいうと②ですが,②の要件のうち「流通も容易なとき」というのは,要件から外すべきだと思います。
 その上で,粗放的管理手法で足りる土地のうち,不動産市場で流通させられるものであるとか,あるいは地方公共団体で取得した方がいいものについては,必ずしも民法の要件で解決するのではなく,部会資料2の4ページの④や8ページの(4)で書かれている手続を基に,ただしもう少し柔軟に,ランドバンクであるとか地元の不動産業者さん等含めて考えながら,いかに流通に乗せていくか,地方公共団体に引き取ってもらうかという仕組みを作って,そういう手続・プロセスで解決していくことがいいのではないかと思います。
 そして,最後に,粗放的管理で足りる土地のうち,市場で流通させることも地方公共団体に引き取ってもらうこともできないものは,無償で放棄を認めていいかというと,そこは考え方によると思うのですが,私は,部会資料2の4ページの①にあるように,土地所有者が土地の管理に係る費用を負担することが,必要だと思っております。
 現時点で土地を所有している者には,責務がありますので,将来にわたって全ての管理費用を負担しろということではありませんが,一部の費用を負担してもらった上で,放棄を認めることがいいのではないかと思います。
○山野目部会長 弁護士会の先生方におかれては,恐らくバックアップの過程の中で,当部会の調査審議と並行して行われている国土審議会の土地政策分科会特別部会において,土地を手放す仕組みについて,土地を類型化してアプローチをしようとする動き,議論が進められているところを見て,そちらの方にお出になっていらっしゃる弁護士の委員の先生と,問題意識に関し,連絡調整をなさっていただいたであろうというふうに想像します。検討を深める上で,有意義な御議論を頂いたというふうに感じます。
○吉原委員 私は法律の専門家ではないので,少し違った視点からの発言になるかと思いますし,ちょっと的外れなところもあるかもしれませんが,御容赦いただければと思います。
 土地を手放す仕組みが必要であるということは,全くそのとおりであると思っています。その上で,それが放棄という法的な手段なのかということについては,時間を掛けた慎重な検討が必要だと思います。仮に放棄を認めるとしても,そこに至るまでのプロセス,そして考え方を,多くの人が共有していくことが大事だと思います。
 放棄ということが法的に認められるようになった場合,その法律行為を,これから10年,20年,30年と多くの人が重ねていく中で,土地というものに対する国民の意識がどう醸成されていくのだろうかということを考えますと,短絡的に放棄というものを認めることは,当然,この部会資料2に書かれているように,差し控えなければいけないわけです。
 少し大きな視点で考えてみますと,なぜ所有者不明土地問題が出てきているかというと,恐らく相続というものが,人口減少社会において,従来の在り方だけでは立ち行かなくなってきているということがあるのだと思います。つまり,法定相続人だけで財産を分割して,継承し,維持管理,利用していくということだけでは,受け取る相続人が少なくなるなかで,立ち行かなくなってきている。
 そうなると,親族以外の受け皿,より具体的には,権利の受け皿,それから管理主体としての受け皿というものを作っていかなければいけない。社会の中で新しい仕組みを作っていくという,大きな構図の中での,この放棄の議論なのだと思っております。
 そうした中では,大きなパッケージとしての政策が必要で,先ほど委員や幹事の先生方から出ていたように,これは万能薬はないわけでして,放棄を認めることで問題の大半が解消するというわけではないわけですから,放棄という手段に過剰な社会的な期待が寄せられないよう,期待値を正しく伝えていくということが,まずあるのだろうと思います。
 その意味では,放棄という言葉が独り歩きをしないように,また法的ないろいろな論争が起きてしまわないように,丁寧な議論の積み上げが必要だと感じているところです。
 長くなって申し訳ないのですけれども,この資料を拝見して,放棄という概念を考える上で,2点大事なことがあると思いました。
 一つは,土地という財が持つ特性です。土地という財は,ほかの財とは違って,次の世代にきちんと引き継いでいくべき公共的な性質を持つものです。そして,2点目は,だからこそ,その公共的な特性を持つ財を所有するということには,当然責務が発生するのであると。
 その責務の部分については,前回横山関係官からご説明があったように,国土審議会土地政策分科会特別部会の取りまとめにおいて方向性が示されたわけですけれども,そうした公共性のある財を所有することには責務が伴うゆえに,それを手放すときには一定の制約が課されるということを,世の中に丁寧に示していくことが必要であると思います。
 そのように考えますと,もしも民法の中に,土地の所有権は放棄できるという条文を盛り込むのであれば,それと対になる概念として,土地の所有権には責務が伴うという条文をセットで盛り込むことが求められるのではないかと思います。
 国土審議会の方で,ようやく,土地の所有者が負うべき責務,それから国や地方公共団体等が担うべき役割というものが議論され,土地基本法に反映していこうという段階にあるわけです。その段階において,放棄という新たな概念が入ることで社会的な混乱が招かれないように,「負動産」というような悲しい言葉が今,広がってしまっているわけですけれども,やはり土地とは代々引き継いでいくべき大切な財であるということを皆が共有できるような立て付けにすることが必要であろうと思います。
○山野目部会長 放棄ということの土地政策上の意味を丁寧に説明していかなければいけないこと,そしてまた,相続法制との連関を図って検討を進めていく必要があるという重要な御指摘を頂きました。
○道垣内委員 これまでの御議論に,別にそんなに異論があるわけではありません。とりわけ,佐久間さんがおっしゃったことは,極めて大切だと思います。ただ,1点だけ申しますと,「所有権は義務を伴う」という条文を置くのはやめていただきたいということです。たしかに,所有者で損害が生じれば賠償責任を負うとか,いろいろなところに,所有権から生じる義務は存在するのですが,一定の歴史的な意味を背負ったEigentum verpflichtet.という規定を現在の時点で置くというのは,勘弁してほしいと思います。
○山野目部会長 所有者の責務を法制上,どこでどのような表現で表していくことが適切であるのかということについては,引き続き,関係する幾つかの審議会における法制上の位置付けについての調査検討を待って考えていかなければいけないと感じます。
 本日は,吉原委員と道垣内委員から,それぞれの観点における重要な御注意を頂きました。
 引き続き,いかがでしょうか。

「第3 放棄された土地の帰属先機関」に対する意見

 第3に,ひとまず進んでよろしいですか。
 それでは,部会資料2の10ページ,第3のところ,帰属先の問題についての御案内を差し上げております。ここについて,皆様方からの御意見を伺います。いかがでしょうか。
○道垣内委員 非常に技術的な話なのですが,放棄の時点では,誰に帰属するかというのが決まっていないという文章になっているわけですね。
 そうしたときに,よく分からないのは,なぜ,放棄の結果として国に帰属するということを前提にして,国が地方公共団体に移転するというのではなく,放棄によって,直接に,放棄者から地方公共団体その他の機関にいくというふうな構図を採らなければいけない理由は何なのでしょうか。
○山野目部会長 部会資料2の10ページで,一つの考え方の候補として,事務当局からお示しした法的構成についての部会資料作成の意図に関するお尋ねの部分を含んでいたと考えますから,事務当局から,もし御説明がおありでしたら,お願いいたします。
○川畑関係官 今御指摘いただいた考えにつきましても,確かにおっしゃるとおりだとは思っております。
 ただ,一旦国に土地が帰属して,そこから地方に動かすということになると,財政法の規律であったり,もろもろの,今,別途設けられているような規制等もございますので,そこは,できれば外して,地方にいくのであれば,それは直接地方にいかせた方がいいのではないかというのが,この資料を作成したときの意図でございました。
○山野目部会長 よろしいですか。
 引き続き御意見を伺います。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 3点あります。
 1点目は,道垣内先生がおっしゃるのと同じような感覚があって,土地を放棄した場合には国に帰属するという考え方を,まず固めるのがいいと思います。その上で,先ほど申し上げましたように,手続的要件とするのか,前置する手続とするのか,ただしワンストップにした方がいいので,土地を放棄したい人は,国にその旨の意思表示するのだけれども,その後の手続として,必ずしも部会資料2の10ページに書かれたようなものでなくて,もう少し柔軟に,民間人が取得したり,地方公共団体が取得したりする仕組み,法的な構成まできちんと詰めていないのですが,何かそういう,しかるべき人に土地を渡すプロセスを考えた方がいいと思います。
 2点目ですが,そのような土地を帰属させる手続に関して,部会資料2の12ページにある「所有権放棄の審査・認定を行う国の機関」については,よく検討した方がいいと思います。土地所有権の放棄についてどのような要件を設けるかは,これから議論される訳ですが,例えば,国の同意は要らない,つまり一定の要件を満たせば,放棄をすれば土地が国に帰属することになったとしても,その要件の認定機関が国の機関ということになれば,運用の仕方によっては,非常に重い手続になって,放棄の手続がうまくいかないおそれがあると思いますので,要件の認定を誰がするのか,それをどのような形で行うかは,もう少し検討する必要があると思います。
 3点目,土地を帰属させる手続に関して,部会資料2の12ページにアとイがありますが,今申し上げたような問題点を含みつつも,基本的にはアのように,地方公共団体と国との関係では,地方公共団体が欲しいと言えば地方公共団体に渡すけれども,そうでなければ最終的には国に帰属するという仕組みがいいと思います。イは,地方公共団体が欲しいと言わない場合であっても,地方公共団体に帰属させるように読めるのですが,地方公共団体の実情等を考えますと,財源の問題からいっても,管理を行う人的資源の問題からいっても,地方公共団体に帰属させるというのは無理があると思いますので,最終的な帰属先は国ということで,制度を創設すべきだと思います。
○松尾幹事 今の蓑毛幹事の御意見に続けてですけれども,土地所有権の放棄を認めた場合の土地の帰属先の問題と,土地所有権放棄の手続の問題は,かなり関連しているところがあると思います。
 土地所有権の放棄,これは意思表示ですけれども,要式行為にするのかどうか,恐らく要式行為にするということになるのではないかと思うんですが,どこの機関の窓口で,どういう要式で意思表示をするのか,そのときに要件を満たしているかどうかの審査をどういうふうに行うかということが問題になります。
 その審査を経て,例えば土地所有権放棄証明書をもらって,それを登記所に持って行けば土地所有権を放棄した旨の登記手続ができるのか,土地所有権を喪失したということの対抗が必要な場合に,そういう手続をとれるのかということまで見越した手続の流れも含めて,土地の帰属先と連動させて議論しておいた方がいいように思います。
 最終的な帰属先については,法的な構成としては,放棄手続の窓口となる機関と,土地の帰属先は別に考えて,放棄された土地の帰属のプライオリティーは法律で決めておいて,最終的に決まった段階で帰属機関に直接帰属という形を採ることは十分可能であると思いますけれども,やはり実質的審査をどこでやって,どういう証明書を発行して,登記手続とどういうふうに連動させるかという問題を考慮しつつ,考えたいと思います。放棄された土地の帰属先のプライオリティーについて,地方公共団体に優先権を認める案が示されておりますけれども,地方公共団体の中にも市町村,都道府県とある中で,市町村が固定資産税を徴収していることをどう考えるか,放棄された土地の帰属先決定の問題とはまったく関係ないか,市町村の権限と責務について議論の整理は必要であるように思います。市町村に優先権なり優先帰属なりを認めるとしても,実施に無理があるような制度設計をすることはできませんが,一応考え方の手順は,しっかり踏んだ方がいいのではないかと思います。
○増田委員 私も簡単に申し上げますけれども,手続的な面と,それから帰属先と,かなり関連している部分があると思うんですね。
 当事者から放棄の意思表示があった後,私も,まず一番身近な自治体で利用性を考える,そして,最終的には国という,そういう出方が現実的だろうと思うんですが,いずれにしても,帰属するまでの期間を時間を区切らないと,そういう土地の利用可能性を余り長く検討されても困るので,一定の時間の中で,最終的に,市町村の方でどうしようかと,多分,通常ですと,普通財産で持つことになると思うんですね。それで,議会などの関係もあるので,時間が思ったよりも長く掛かる可能性があるので,その場合には国で,国に帰属した後,市町村がやはり使いたいとなったときは,国と市町村の間で,従来の手続で,今回の創設されたやつではなくて,従来の手続でやっていくと,多分市町村の方は,固定資産税が取れなくなることはありますが,ほとんど,むしろ当事者がお金を付けて出していかざるを得ないような土地でしょうし,固定資産税の収入というのは,ほとんど期待されていない土地だと思いますので。
 ですから,私は,いずれにしても手続的に,時間で一定の期間を区切って,それで,もし可能であれば,市町村の方がその間にきちんと意思表示すれば,普通財産の方で帰属されるような仕組み,ただし,やはりある程度の,半年とか,そのぐらいの間の中では,最終的には国の方に帰属するような仕組みにしていくという,その手続な面を考えていく必要があると。
 それからあと,誰が一体,要件に該当しているかどうかを判断するかですが,これは最終的には,帰属先は国の組織の中では,財務省の理財ということになるので,できるだけそこから遠い組織,ただし公的なところで,要件に該当しているかどうかをきちんと判断するという,そういうことを考えていく,外形的にも客観的であり,そして不公平になっていない,公平性が保たれるというところをやはり担保するためには,やはり公的な組織でないといけないと思いますし,しかもできるだけ帰属して管理する部局と遠いところ,どういうところがあるか,そういう観点で検討する必要があると思います。
○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
 大体,他の委員の先生方がおっしゃられたことと重なるのですが,私,最初,この資料を拝見して,社内等でも検討していたときに,帰属先機関として,かなり広い選択肢が挙げられていて,ランドバンクとかも含めて書かれていましたので,想定されている放棄という手段が,先ほど蓑毛先生がおっしゃったような4分類のうち特定の場合だけを想定している,というよりは,例えば寄せ集めることで利用価値が生じて取引が可能になる土地や,あるいは,それ以外の類型も含めて対象にしようとする意図があるのかな,と思っておりました。もし,寄せ集めることで利用価値が生じるような土地に関しては,放棄ではなくて,別の形で整理するということであれば,所有権放棄の対象になる土地の範囲が非常に狭くなるので,そうすると,おのずから帰属先機関というのも絞られてくるのかなと思った次第です。
 もちろん,所有権放棄というのを広く認めて,それによって,より多彩な土地の利活用を可能にするというような方向性もあり得ると思っておりますけれども,今日いろいろ議論をお伺いしている限りでは,どちらかというと所有権放棄を認める範囲を狭くする,というご意見が多いようですので,どちらの方向に持って行くか,という前提を明確にした上で,今後,議論を整理していただくのがよろしいのではないかと思います。
○今川委員 今川です。
 12ページに,地方公共団体が希望するときには,と書いてあるんですが,読み方がまずいのかもしれないんですが,希望するということは,寄附にちょっと近くなっていて,こういう概念が今,放棄のところで入ってくるのかな,要件として入ってくるのかなというのはちょっと思いました。
 それと,12ページに書いてある,国の機関というふうに書いてあるんですが,私も,民間人も入った形で,公的な機関としての,ある意味,前さばき機関みたいなものがまず受け入れると。自治体は,公共的な利用とか管理のノウハウはあるんですけれども,流通に乗せるというか,商品として扱うというようなノウハウはありませんので,まずその前さばき機関が,第三者への利用権の設定をするとか,処分をしていくとか,そして,自治体や国が放棄の帰属先として受け入れるというようなことを判断していくというのが,いいと思います。
 その場合に,放棄をしたときに,前さばき機関が受け取るんですけれども,前さばき機関に所有権が必ず移転するとするのか,利用権の設定とか処分先,処分とか帰属先が決まった時点で所有権を取得するのかという,その辺の細かい理論構成は必要と思います。
 それと,この前さばき機関が,ある意味,放棄をしたい,どうしたらいいんだろうと考えている人の駆け込み寺的なもの,相談窓口みたいなものも兼ねることができるのではないかという気もしております。
○水津幹事 放棄された土地の帰属先機関に関する規律について,意見を申し上げます。
 第1は,無主の不動産の帰属先機関を定める民法239条2項との関係です。
 同条項は,土地については,新たな土地が生じた場合と,土地の所有権が放棄された結果,無主の土地が生じた場合との双方を含むものと見ることができます。
 ここで検討されている事項は,同条項の改正に関するものとして,新たな土地が生じた場合も含めて,無主の土地の帰属先機関一般を射程に含んだものなのか,そうではなく,土地の所有権が放棄された結果,無主の土地が生じた場合のみについて,特別に規律を設ける趣旨なのかが少し気になりました。
 第2は,無主の土地の帰属先機関に関する規定の置き方です。
 無主の土地の帰属は,所有権の取得の原因の一つです。遺失物の拾得については,民法は,それが所有権の取得の原因であるという観点から,その原則を定める一方,遺失物の拾得及び返還に係る手続その他その取扱いについて必要な事項は,特別法である遺失物法がこれを定めています。
 そうだとしますと,無主の土地の帰属についても,民法は,その原則を定める一方,その細目は,特別法がこれを定めるとした方が,バランスがよい気がしました。
○山野目部会長 水津幹事のお話を伺って,ほっとしました。
 ここまでの委員,幹事の御指摘で,土地所有権の放棄についての要件の細目,手順,それから要件の認定及びその機関などについて,きちんと規律を整備せよという御指摘を頂いていて,正に今日,そういったことについての多くの御意見を頂くことが重要でありまして,いずれもごもっともなことであると同時に,それを全部民法に書くものであろうかということが,だんだん不安になってきました。むろん,それが必要であるということになれば立案の任を尽くすことになりますけれども,しかし,それは大変であるという気分を抱きます。テクニカルな手段としては,法務省令が定める方法で,とか,民法404条の法定利率みたいに書いてしまう手もありますけれども,しかし多分,ここまでの委員,幹事から御指摘いただいた事項を,法務省事務当局が法務省令に書こうとして立案している姿というものは,いささかイメージしにくいものであって,これは困ったことになったなというふうな感想も抱きましたけれども,しかし,水津幹事から今ヒントを頂き,またそれを受け止めて,今後検討していただくということも,かなうものではないかということを感じます。
 引き続き,御意見を伺います。いかがでしょうか。
○畑幹事 私,民事訴訟法が専門ですので,今の話について,専門的な知見を有しているというわけではないのですが,一定の要件の下で放棄ができるという制度を仮に作るとした場合に,放棄をしたい人は要件を満たしていると思っていて,しかし,国なりの機関の側では満たしていないと判断されたという場合に,そこをどうするのかということも,問題としてはあるかなとは思いました。
 行政的な不服申立てみたいな話になるのかどうかとか,あるいは,放棄をする権利とか地位というのは,そもそもそこまで強いものではないというふうに考えるというのも,判断としてはあるかもしれませんが,いずれにしても,そういう問題も考えておく必要があるかなと思いました。
○山本幹事 先ほどからお伺いしていますと,単独行為としての放棄そのものというよりは,そこに至るプロセスの部分,あるいは,そこに関与する機関が重要であるというような御指摘がいろいろございまして,形としては,特別法というものも考えられるのではないかということがございました。
 もしそういうことになりますと,例えば,一種の行政処分のような仕組みを,そこにかませていくといったようなことも可能ですので,行政処分と,それから私法上の権利変動との関係を特別に法定して整理をするという手順になるのではないかと思います。
 具体的にどうこうというところまでは,ちょっと考えておりませんけれども,そこはいろいろな可能性が,制度としてはあり得ると思います。
○山野目部会長 これから手続の具体像を更に検討を深めていくということになりますと,要件の充足に関して,放棄をしようとする土地所有者の側と受入先の帰属機関とが意見を異にするに至った場合の紛争の処理の方式については,かなり細目にわたる検討をしていかなければいけないであろうというふうに予測されます。その際には,ただいま御指摘いただいたような観点を含め,畑幹事や山本幹事からお知恵を頂戴してまいりたいと考えます。ありがとうございます。
 引き続き,いかがでしょうか。
○松尾幹事 すみません,議論の整理について,一つ確認しておきたい所があるのですが,部会資料2の2ページの2段落目に2というのがあって,土地所有権放棄の基本的構成で,その2段落目,「しかし」というところですけれども,「所有者不明土地の発生を抑制する観点から土地所有権の放棄を認めるに当たっては,土地が無主の状態で放置されることを許容することは困難であり」とあって,その後ですが,「放棄が認められれば,直ちに帰属先機関が所有権を取得するものとする必要がある」とされています。
 この「困難であり」と,その先の「放棄が認められれば」という部分が直ちに結び付くものかどうかということであります。
 つまり,繰り返しになりますけれども,土地所有権の放棄については,放棄されたことによって,一種の大地主としての国に当然帰属してしまうという,地上権放棄のようなスタイルを考えるのか,それとも放棄によって,一瞬無主の状態が生じて,そして法律の規定によって帰属先が決まっていくという構成を採っていくのかという点の確認です。
 現在の239条2項の方は,無主の不動産については国庫に帰属するということですので,そこがちょっと曖昧というか,どちらにも解釈できる感じがいたしますが,今後,所有権放棄の手続を作って,一定の期間,先ほど増田委員から御指摘ありましたけれども,例えば,市町村が手を挙げるかどうかということを待っていて,最終的な帰属先を決める間の期間というのは,これは無主状態と考えるのかどうかという点についても,考え方を整理しておく必要があるように思いました。
○山野目部会長 旧民法財産編26条という規定がありまして,今日の民法やそれを前提とする民法学では,比較的,そういう議論をすることを没却してしまっている傾向がありますけれども,融通の外に置かれたもの,流通の外に置かれたもの,取引外に置かれた(hour du commmerce)財物という概念を提示をしている規律がございました。
 松尾幹事のお話を聴きながら,そういうものを思い起こしまして,ヒントを頂いたと感じます。そのような思考ももちあわせていなければならないと感じますとともに,なかなか重い宿題であって,所有権というよりは,恐らく物の概念ないしは自然公物概念の抜本的再編を要求しているお話になってくるところがありまして,検討を進めていく上で,いろいろ勇気が要る側面もあるかもしれません。
 しかし,ヒントを頂いたようなことについても考え込んでいかなければならないと思うものでございます。
 引き続き,いかがでしょうか。
○道垣内委員 私のこれから発言が,どういう位置付けになるのか分からないのですが,最初は放棄の要件という話が出まして,その放棄の要件の充足については,放棄によって,最終的に所有権を取得するところの国の行政機関が判断するということを前提に,その判断に対して,どういうふうに不服申立てをするのかという話をしていたと理解しているのですが,本当にそうなのかというのが若干気になるところがあります。つまり,仮に放棄というものが,一定の実体的な要件を満たしていなければできないというふうに考えるならば,例えば民法の条文として,「○○の許可を得て放棄することができる」というふうになるはずであって,そして今度,ではそこの「○○」というのに,民法上,何を入れるのですかということになると,恐らく感覚としては,「裁判所」しか入らないような気がするのですね。
 もちろん,手続の仕組み方によって,そこを行政機関にするということは十分可能であるし,さきほど私が申し上げたような条文の形にしなくても,許可を得て,初めて放棄ができるというふうな実体法上の規律と,それをバックアップするための行政法的な規律というもので処理ができるというのならば,それはそれで全然構わないんですけれども,通常のこれまでのいろいろな民事実体法の作りからすると,許可を得て放棄することができるという条文になってしまい,かつそうなると,許可主体には裁判所しか入らないような気がするということも,今後の議論を精緻化していく際に,お考えいただければと思います。
 そしてまた,許可を得なければ放棄ができないということにするということは,増田委員がおっしゃった,どの時点までに帰属先を決めるのという問題にもかなり密接に関係していて,放棄はできますと,それは実体法的な要件が満たされていれば,放棄は実体的にも効果がその時点で発生しますということになると,半年であれ何であれ,地方自治体がオーケーというまでの間,フローティングな状態になるというのは変な話で,その間,無主物になっているとしますと,松尾さんがおっしゃったように,その時点で,即時に国庫に帰属するのではないかという気もいたしますので,その6か月なら6か月という間は,まだ放棄はされていないということで仕組むのか,放棄はされ,国庫には帰属したんだけれども,最終的な帰属先はまだ決まっていないという形で仕組むのかといった選択肢もあるような気もします。併せて今後の検討をお願いするというか,我々もしなければいけないわけですが,ちょっと一言申し上げておきます。
○山野目部会長 道垣内委員から重要な御指摘を頂いて,議論の整理をしていただきました。おまけに条文まで書いていただきまして,許可を受けて初めて放棄をすることができると,あるいは,許可を得なければ放棄をすることができないというような書きぶりの法文になるかもしれないと,本当はこちらの法務省事務当局が考えることですが,描いていただいて,今後の作業の重要なヒントになるであろうと感じます。
 必ずそうなるかどうかは,検討を続けてみないと分かりませんけれども,有力な法文の描きぶりであろうというふうにアイデアを頂戴いたします。
 それと同時に,どこそこの許可をというときが,それが裁判所の審判であるとか許可の裁判であるとかに限定されるものかどうかは,もう少し考えていくことにいたしましょう。本日,吉原委員とか増田委員から,政策的な観点を大いに含ませて,判定する機関を考えてみましょうという御指摘などを頂いたところを踏まえますと,裁判所というのも絶対あり得ないアイデアではないかもしれませんけれども,いろいろな考え方を進めていく中では,求められているものは,何といったらいいでしょうか,逆収用委員会なのですかね。
 今までの右肩上がりの時代の日本社会が持っていた土地に関する第三者判定機関である収用委員会は,土地を取られたくないと言っている国民に対し,いやいや,提供してもらいます,ただし有償ですということで,補償金について争いがあったらどうぞ,ということなどの解決をする機関として設けられてきました。
 もちろん,収用委員会の裁決は行政処分ですので,異論があれば,通常の民事判決手続ではなくて,抗告訴訟によって処理されることになるものでありますが,言わば人口減少社会に向かった日本は,あれと逆立ちするようなものというのが,ひょっとしたら必要であって,土地を持ち続けたくないんですと,費用も余り払いたくありませんと言っている人に対して,第三者判定機関が,いやいや,あなたの希望が,ある要件で認められますけれども,その範囲で許可を与えるという裁定をしますと,不服があったら抗告訴訟を提起してくださいというような道筋になっていくのかもしれません。
 判定機関の在り方は,本日,考えなければいけないということを多くの委員,幹事から御指摘を頂きましたから,引き続き,大きな宿題として認知されなければいけないと感じます。
○道垣内委員 一言だけ,私の立場を申し上げておきます。
 私は,裁判所にすべきであるという発言をしているつもりはなくて,放棄ができるということだけを民法に書いて,あとは行政的な手続によるということになると,この間は誰に帰属しているのかとか,いろいろな問題というのが多分出てくるだろう。そして,また取消訴訟が起こって認められたら,どの時点で放棄が認められたのか。そうすると,やはり,許可があって初めて放棄の効果が生じるというふうな形に仕組んだ方が,恐らくスムーズにいくのではないかと思うわけでして,それは,それを裁判所でないところにしたいときには,どういうふうに全体として仕組んでいけばいいのかという,そういうふうな観点が必要ではないかということであります。意見として,裁判所にすべきであるという意見が出たというふうに御理解いただかないようにお願いいたします。
○山野目部会長 ご主旨は,十分に分かっておりますよ。 
○道垣内委員 議事録上,明確にしておきたいと思います。
○山野目部会長 いずれにしても,道垣内委員からは重ねて重要な御指摘を頂きまして,ありがとうございます。
 ここで,すこし休憩といたします。

          (休     憩)

「第4 関連する民事法上の諸課題」に対する意見

○山野目部会長 再開します。
 部会資料2の,今度は第4のところについての御意見を承ります。1と2に分かれていますけれども,一括してお願いします。ここについて御意見を伺います。
○佐久間幹事 1と2両方について,意見を述べさせていただきます。
 まず,1なんですけれども,これは,先ほどの休憩前に議論がされたところと,あと,ちょっと,私自身の発言で恐縮ですけれども,権利放棄の自由などというのがあるのかということに関わってなんですが,休憩前の最後に,山野目部会長が,土地の逆収用みたいなものですねというふうにおっしゃいました。私は,正にそういうイメージをもっております。今のところ,土地所有権の放棄という言葉が使われておりますけれども,この先,土地の所有権を手放す仕組みができたといたしましても,民法典に,土地の所有権は,例えば先ほどの裁判所の許可を得てでしょうか,これを「放棄することができる。」というふうに書くことになるのかについて,かなり疑問を持っております。
 その続きということになるんですけれども,アとかイも,結論として,建物については,処分をしようと思ったらすることができる。動産についても,処分をしようと思ったらすることができる。その後に誰かが所有権を持ち続けるという形ではない処分をすることもできるということになっており,決着がある意味でついている,かなり安定した状況になっているんだと思うんですね。
 それについて,わざわざ建物所有権の放棄は認めないとか,動産の所有権の放棄は認めるとか認めないとか,そういうことを民法に本当に書けるんだろうか,あるいは書くことが,その含意するところも含めて適当だろうか,ということを非常に疑問に思っております。これがアとイについてです。
 そして,ウについて,実は私,異論がございまして,現在の規定は,放棄をしたらどうなるということは書いてあるんですけれども,放棄について,どういうふうにして共有持分の放棄をするかということは書いていないんですね。
 例えば,今問題となっております,所有を望まない土地というものが共有になっているときに,単に他の共有者に放棄の意思表示をすることだけで一抜けできるというのは,ちょっとあり得ないのではないかと私は思っています。
 それでは,最後まで遅れた人が,単独所有者になって,所有を望まない土地を1人で抱え続けなければいけないことになるからです。土地に限らず,共有持分が増えるというのは,必ずしも利益になるとは限らないということを考えますと,少なくとも,放棄の意思表示を要求し,これも少なくともなんですが,異議がなかった,適時に異議が述べられなかったらその放棄の効力を生ずるとか,あるいは,先ほどの放棄の自由なんかないんだということからすると,他の共有者の同意を得て初めて放棄をすることができる,とすべきではないか。ただ結局,同意を得たら,放棄をするというよりは持分の移転だということになるのではないか。こう考えるのが,私は望ましいのではないかと思っております。
 それから,2について,ごく簡単に意見を述べさせていただきたいんですが,特に(2)についてですけれども,第三者に損害が生じた場合に関して例えば軟弱地を例に挙げて書かれておりますけれども,放棄者の責任は第三者に損害が生じて初めて問題にすることでいいんだろうかということを疑問に思いました。第三者に問題が生じる前に,土地を,例えば国が引き取ってみたら,軟弱地であって,将来問題が生じそうだということになった場合に,民法でいうと担保責任に当たるようなものを考えなくていいかということです。
 それでいいか,というふうに申し上げるのは,両論あるなと思いまして,担保責任を認めることにしておかないと,引取機関としては,相当調査をしてからしか,引き取ることの決断がしにくいと思われるのに対し,他方でしかし,担保責任を追及されることがあるんですということになりますと,これは,負担を免れるために土地を手放すということのメリットを大きくそぐことになりまして,ちょっとどちらがいいのかはよく分かりません。今日の段階では,損害賠償にかかわらず,むしろ担保責任的なものも検討した方がいいのではないか,ということを申し上げておきます。
○中田委員 ただいま佐久間幹事が第4の1のアとイについておっしゃったことに,基本的に共感を覚えております。
 仮に何か規定を置くとなると,物権放棄の自由という原則を書いて,その例外を書くか,あるいは,物権放棄は自由ではないという原則を書いて,その例外を書くかということになるんですが,いずれも非常に書きにくいのではなかろうかと思います。
 それから,建物について別だとすると,現在,無主の不動産は国庫に帰属するという規定がございますけれども,239条2項をどうするのかということが問題となるような気もします。
 また,他の法制との関係も詰める必要があると思います。
 さらに,建物は放棄できなくて,動産は放棄できるとなると,建前というんでしょうか,建物に至る前の段階だったらどうかとか,あるいは他の土地の工作物はどうかとか,非常に複雑な問題が出てきて,限られた時間の中で,そこを詰めることができるのかなということを危惧いたします。
 それから,共有持分については,佐久間幹事の御懸念はもっともだなということを感じましたが,他方で,現行法の下で,既に放棄が認められているわけでございますので,現行法の下でも存在する問題について御指摘になられたと思うんです。そうすると,果たして現行法,その部分について変更するということまでを含意しておられるのかどうかが,ちょっと御趣旨がよく分からなかったんですけれども,現行法について,また255条を更に詳しく書いていくというのは,どうもやはり,これも限られた時間で難しいのではないかなという気がいたしました。
○蓑毛幹事 私も建物の所有権放棄について,少し違った観点から,意見を申し上げたいと思います。
 先ほど私自身が申し上げましたように,土地の所有権の放棄に当たっては,建物等が乗っている場合,特に老朽化した建物が乗っているような場合には,過大なコストが掛かりますので,放棄を認めるべきではないという意見を持っております。
 ただし,最終的に放棄をする際,国に帰属させるときには,建物がない更地の状態で渡すとしても,先ほど申し上げましたように,放棄をするための要件ではなくて,手続・プロセスとして,地方公共団体に引き取ってもらうことを考えたときには,全て更地にしてから手続をスタートするというのは,余りにも無駄があって,地方公共団体としては,建物と土地一緒になった状態で引き取るよというケースもあると思うんです。
 そういう意味で,建物の所有権放棄ができるかという議論とは別に,手続・プロセスのところでは,建物が乗った状態で,市場で流通できないかとか,自治体で引き取れないかとか,そういったプロセスを考えるべきではないかと思っています。
○今川委員 私は,先ほど申し上げましたように,土地所有権は原則放棄できるというふうに立て付けるべきだと思っていまして,したがって建物も同じという考えです。
 放棄に条件を付けて,条件を満たした場合には放棄を認めるというものを細かくしていきますと,結局は,一定の条件を満たしたときには受け取るということになって,寄附に限りなく近くなっていくと思われますので,放棄を認めた上で,放棄をする人間がどこまで負担をするかというような観点で考えたらいいと思っております。
 したがって,建物も放棄は認められるが,個別法で,建物が建っている場合は,土地と建物を併せて放棄をし,建物の除却費用を負担する,あるいは,建物を除却した上で土地を放棄するというようなルール化がいいと思っています。そして,除却費用がない,出せないような人は,個別でまた考えていくと。
 それから,利用・管理されていない建物についてですけれども,これは空家等対策の推進に関する特別措置法という特別法もありますので,そこで,空き家をどうするかということは考えていけばいいと思っております。
○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
 第4の2の方の話になるのですが,よろしいでしょうか。
 先ほどの,放棄の要件のところとも関連するのですが,第2の②のアにございましたような,有害物質が土地にあるかどうかといったような話になってまいりますと,企業間の取引においても,あり,なしを特定するのはかなり難しい,特に,ないことを証明するためには,かなりの費用と時間が掛かるということで,実際にはそこを明確にせずに取引を行うこともありまして,今回の話でも,放棄の時点で常にそれを明確にすることが本当にできるのか,というところは疑問がございます。
 したがって,有害物質などの問題については,必然的に,こちらの第4の2の方の事後的な責任分担の話ということになってくるのではないかと思っておりまして,例えば帰属先機関であるとか,あるいは,更にそこから先に,第三者にその土地がいくということを考えますと,どうしてもやはり,放棄する所有者の方に,最初の時点で表明保証なり,それに代わる何かをしていただくというところが大事になってくるのかなと思っております。
 ただ,一方で,そこの要件をあまりに厳格にしてしまうと,そもそも所有者は放棄で何ら対価も得ていないという状況の中で,そこまで全部責任を負わせるのが妥当かという問題も出てくるかと思います。更に言うと,仮に責任が現所有者,放棄した所有者にあるとしたところで,その所有者が個人の方の場合に,責任を負担する資力があるのかというところもありますので,どういった形でここを制度設計するかというのが,非常に重要なところだと思っております。
 民法などの法律に任せる,というのも一つの手だとは思いますけれども,仮に,放棄された土地を流通させるというようなところまで含めて制度設計を考えるのであれば,逆に,転々と流通した後に取得した第三者が不測の損害を被らないようなやり方というのも考える必要があるのではないかと思っております。
○岡田委員 岡田です。
 今の関連する民事法上の諸問題において,建物の所有権の放棄は認めないものとすることでどうかということでございますけれども,当検討会におきましては,これ,区分建物に関しましては検討外というふうに考えたので,よろしいんでしょうか。老朽化のマンションの問題等もございますけれども,そこをちょっと教えていただけたらなと思いました。
○山野目部会長 つまり区分建物の所有権を放棄すると,敷地との一体処分が要請されている規律の下では,土地所有権の問題と連動してくることになり,かなり込み入ったお話になる。なるほど,いや,これは難儀ですね。
○大谷幹事 建物の所有権放棄は認めないということでございますので,区分所有の建物についても認めないということを,この資料ではお書きしております。
○山野目部会長 岡田委員は,お続けになられることは。
○岡田委員 いいです。大丈夫です。
○山野目部会長 お尋ねだったわけですね。
○岡田委員 はい。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○道垣内委員 すみません,まず,1のウなんですが,佐久間さんがおっしゃったところは,ごもっともではないかと思います。
 中田さんの方から,現行法にある問題であると指摘されまして,それはそうなのですが,佐久間さんは,それに対して回答を用意されていらっしゃるわけですね。つまり,現行法は,放棄したときのことを書いているだけであって,放棄の要件は書いていなくて,ブランクになっているとも解されるので,現行法を変えるということとは必ずしもならないというのが第1点と,第2点は,もう一つの部会資料が,共有に関して,様々なところを再検討しなければならないということになっておりますので,今現在,放棄の問題を扱うときに,255条だけを扱うということになりますと,ピンポイントで扱った感じがするわけですが,他方,共有の議論において,255条を扱わなかったということになると,今度は,そこをピンポイントで排除したといったインプリケーションが出てくる可能性もあります。時間が限られた中で大変ですけれども,私は,検討した方がよいのではないかと思います。
 次に,2の(2)でしょうか,担保責任ですけれども,担保責任というときに,結果として産業廃棄物が出てきたということになったら責任を負うのか,それとも,産業廃棄物が出てくる可能性というものを認識したり,あるいは認識すべきであったのに,それについてきちんと言わない形で放棄をしたといったときに,責任を限定するのかという問題があるような気がいたします。
 というのは,可能性として,ごく僅かでも何かある可能性があるというふうにしたときに,塩漬けにしてしまえば,別に除去費用が発生するということはないのですよね。それに対して,放棄して国に帰属させたり,あるいは,国が一旦取って,何らかの形で利用するというふうな形にしたりすると,それが顕在化し得るわけであって,そうすると,担保責任の肯定は,塩漬けにしておこうという方向に働く規律になってしまうような気がします。そうすると,全体としての本部会ないしは改正の趣旨と,どうも齟齬するのではないかなという気がします。
 そうなるとやはり,一定の主観的な要件を課した上での責任なのかなという気がするということでございます。
○水津幹事 第4の1のアとイのところですが,既に意見が出ているとおり,建物の所有権の放棄は動産の所有権の放棄や土地の所有権の放棄と異なって,一切認められないとする理由は,十分ではない気がします。
 その理由の一つとして,建物は,取り壊せば足りることが挙げられていますけれども,この論理を強調すると,動産の所有権の放棄も,認められないこととなりそうです。しかし,動産の所有権の放棄は,反対に,権利濫用などに当たらない限り,認められるとされています。
 他方,建物は,その放棄によって無主とすることが認められれば,国庫に帰属することとなる点で,動産とは異なります。しかし,同じく国庫帰属とされている土地については,一定の要件の下で放棄が認められるとされています。また,建物の所有者は,土地工作物責任を負うことも,指摘されています。しかし,土地の所有者も,土地の所有に伴う義務や責任を負うとされているため,建物の所有権についてのみ,その放棄は一切認められないとする理由としては,弱い気がします。
 部会資料では,土地の所有権の放棄の要件は,先ほど問題とされていましたけれども,権利濫用に当たらないと考えられる場合を具体化したものであるとされています。動産の所有権の放棄も,権利濫用に当たらない限り,認められるとされています。ここでは,所有権の放棄は,権利濫用に当たらない限り,認められることを前提とした上で,どのような場合に権利濫用に当たるかは,目的物の性質の相違に応じて類型的に異なるという考え方を見て取ることができます。
 そうだとすると,建物の所有権については,その放棄は一切認められないことを首尾一貫した形で基礎付けるためには,建物の所有権の放棄には,常に権利濫用に相当する事情があることを示さないと,難しいのではないかという気がします。
○中村委員 共有持分の放棄に,戻ってよろしいでしょうか。
○山野目部会長 どうぞ。
○中村委員 13ページの第4のウのところについて申し上げます。
 先ほど佐久間幹事から御指摘がありました,共有持分の放棄をした場合に,もしそれがとても持ちにくい,管理しにくい不動産であったというような場合に,先に放棄してしまった者が,出遅れた人に全部負担を転嫁するということになりかねないということにつきまして,私も実務上の懸念を持っております。
 例えば,知らないうちに産業廃棄物を廃棄されてしまったような土地というようなものにつきまして,先に土地の共有持分を抜けた人は負担を免れ,最後になった人は,先ほど検討いたしました難しい放棄の要件を満たさなければ自分は手放すことができないということになるということが,果たして公平なのかという問題が出てくるかと思います。
 申し上げるまでもありませんけれども,共有にはいろいろな形がございますよね。例えば,夫婦で持っているとか,兄弟で持っているとか,親しい間柄で持っている関係であれば,自分の持分を放棄することによって,他の共有者がどれだけの負担を受けてしまうのかということについて,それなりに慮って,放棄するかしないかを決めるということになると思いますけれども,片や,どこの誰が共有者か分からないけれども,遠い昔のいきさつによって共有になっているというようなものの場合には,別の共有者に対して配慮するというインセンティブもなかなか働かない中で,このまま255条を維持してしまってよいのかという懸念を持っております。
 また,ここでは,他の共有者に対する放棄の意思表示を要求するという,同条を維持することを前提とした記載もございますけれども,仮に維持したとした場合には,自分が一体どれだけの持分を持つことになっているのかということを知らないということになりますと困りますので,しっかりした通知のシステムというのは必要かなというふうに感じました。
○山田委員 二つ発言させてください。一つは,共有持分の今話題になっているところで,もう一つは,ちょっと出てきていないことですが,ついでに申し上げます。
 共有持分については,確かに現在の民法255条に規律があるということを前提にしながら,土地の所有権の放棄を認めるという制度を考えるときには,土地の共有持分の放棄を255条によらずに,ここで議論している,要するに国ですか,あるいは引受機関に共有持分が属するような形で,共有持分だけ喪失するということの当否も検討するのがよいのではないかと思います。
 それは,1ページ目にある,土地の関心が失われて適切に管理されない土地が増加し,所有者不明土地の予備軍となっているという指摘は,そのとおりだと思いますし,これに対して,政府を挙げて対応しようとしている一端をここで担っているんだと思うんですが,この問題を解決するために,単独所有権について,放棄をどうしようかというのを今形作っているわけです。
 直前の方の御発言にあったのと,多分重なるのではないかと思うんですが,村落共同体が所有していた山林で,大正から昭和ぐらいに,村の長老たちというんですかね,主要な人たちが10人とか20人で共有登記をしているというものが共同相続になって,そして,入会団体というのが解消して,消滅してというのが,今,恐らく日本に多数あるのだろうと思います。そういったところは,正に共有であるということも加わって,土地への関心が失われて,適切に管理されない土地になりやすくなっているという事情が,更に一層あるのだろうと思います。
 そして,ではそこを255条の規律で解決するのが適当かというと,2,3の方が発言されたように,それは,もちろん中に,私がここを頑張ってやるから皆さん放棄してくださいという人がいれば,それでいいですが,しかし,みんなが関心を持たなくなっているとなると,せっかくここで単独所有権の放棄の制度を作るわけですから,作ろうとしているわけですから,共有持分は255条があるから,それで任せて,少し整理するなり外しましょうというのは大変残念なところです。
 したがって,255条については,ちょうどこれと逆の立場で立ち向かってほしいなと思います。最後やはり,様々な問題があってできないということであれば,それはそれで仕方がないのですが,最初の段階で落としましょうというのは反対です。
 それから,もう一つは,法人が土地所有権を放棄できるかという問題です。
 どこにもこれ,自然人と書いていないので,含まれると考えているんだろうなと予測したんですが,そこはちょっと,明記を当分しておいていただくのがいいように思います。最後,条文にするときには,区別しないならば,わざわざ書く必要はないのですが,事務当局が法人も含むと考えているならば,書いてほしいと思います。
 まだそこはペンディングですということであれば,私の意見は、同じように,自然人であるか法人であるかにかかわらず,同じ仕組みで土地の所有権の放棄はできるというふうにすべきではないかなと思います。
 今,私が最後に申し上げた意見に対しては,直前に申し上げたことと関連すると,相続がどうも所有者不明土地の背後には,多くの場合絡んでいるというところから入りますと,法人は相続がないから外してもいいのではないかという議論はあるのかもしれないなと,立法事実というんですかね,として,外せるのかもしれないなと思うのですが,しかし,実体法上の要件を設けて,それの位置付けはいろいろあるとしても,権利濫用に当たらないタイプのものを実体法上の要件として書き込もうという考え方が一つありましたので,仮にそれに立つと,実体法上の要件を書き込んで,そして,それを事前に審査する何らかの手続も設けようというのが,今日出されている最大公約数だと思いますので,そのときの実体法上の実体的な要件の中に,自然人に限るというのは書くべきではないというのが私の意見でございます。
○中田委員 私は,255条の改正を,最初からすべきでないという意見ではなかったつもりです。
 何人かの方がおっしゃったことですけれども,放棄をすることによって,早い者勝ちで抜けることができるのはおかしいではないかと,これは全く同感でありますし,この資料を拝見して私も最初に思ったことです。
 ただ,その抜本的な解決の仕方として,255条に意思表示プラス適時の異議ということですと,ほかにも波及することがあって,慎重に検討する必要があると思ったので,先ほど申し上げましたが,むしろ方向性としては,今山田委員がおっしゃった,全体として単独所有権の放棄と,それから,それのバリエーションといいますか,共有持分権の放棄というのを併せて考えるという方向が筋だろうと思います。
 ただ,その筋を通すのに,果たして時間的な余裕があるかどうかということが気になるところですけれども,方向はそちらだろうなと思います。
○垣内幹事 先ほど山田委員から御指摘のありました法人の取扱いとの関係で,広い意味では関連する民事上の諸課題ということで,若干私の感じているところを申し述べたいと思います。
 一つは,法人の場合ですけれども,取り分け,ある土地を所有している法人が,例えば倒産して,破産手続が開始されたというときに,しかし,その土地に有害物質がある等の問題があって,なかなか換価が事実上できないというようなことがあり得るかと思います。
 その際,破産手続上の問題としては,破産財団からの放棄を認められるかどうかという問題があって,これは裁判所が許可するかどうかというところに係ってくるところで,いかなる場合に許可をしてよいのかということが議論されているということかと思いますけれども,許可がされないということになりますと,財団にその財産が残るということになり,しかし換価ができなければ,これを所有権の放棄という形で何とかできないかという問題は当然出てくるところで,その場合,所有権の放棄はできないということになりますと,どうやって手続を終結させるのかというような問題が出てくることになろうかと思います。
 仮に,所有権は放棄できなかったのだけれども,これは破産に限らないことですが,法人が解散等によって法人格を失ったというときに,その所有権がペンディングな形になるわけでして,その場合の取扱いはどうするのかといったような関連問題が存在するのかなと思われますと同時に,この問題は,本日の資料で申しますと,2で,放棄された土地に起因して,何らか損害賠償の問題が生じるときに,その責任をどうするかということがあるわけですが,これも,例えば自然人で放棄をした主体が,なお主体として残っているという場合には,適切な分配に関する規律を設けるということで処理することが,第一次的には考えられようかと思いますけれども,法人格が消滅しているというようなものが放棄の主体であるというような場合を想定したときにどうかといった点についても,この問題を検討する際に,一つ留意することが考えられるかなと感じます。
 また,もう1点,これは法人の場合ではないのですけれども,やはり,取り分け資料の15ページの2との関係で,放棄そのものの問題ではないのですが,元々被相続人が土地を持っていて,しかし,その土地が非常に問題があるものであると,本来であれば放棄したいようなものであるというきに,しかし放棄が認めらないということで,しかし相続がその後に発生して,相続人がいずれも相続放棄をしたというようなことがあり得るかと思いますけれども,その際に,やはりその土地に起因して損害が生じたというときに,相続人の責任をどうするのかといったような問題も,2に関連する,広い意味で関連する問題としてはあるのかなと思いますので,この審議会で,部会で正面から議論の対象とするべき問題がどうかという点については,いろいろ御判断にお任せしたいと思いますけれども,関連問題として感じたところがありますので発言させていただきました。
○蓑毛幹事 今,垣内先生からお話がありましたので,私は専門分野としては,倒産・事業再生を主に扱っている弁護士でありまして,破産管財人として,土壌汚染があった土地についての財団放棄ということも経験しておりますので,少し申し上げたいと思います。
 現時点で,東京地方裁判所においては,法人の破産手続で,不動産が残っていて,これがどうしても売れないというときに,どうやって破産手続を終わらせるかというと,破産財団から放棄して終わらせるということをしています。
 この破産財団からの放棄というのは,今ここで議論されている所有権の放棄とは違った概念で,破産管財人の管理処分権から外すという意味です。そして裁判所は,その許可をしないということはなく,許可をして,不動産を財団から放棄させて終わるということをしています。
 放棄をすると,その不動産が法人の管理下に戻ることになって,その意味で法人は,登記簿謄本が閉鎖されても,概念的には残っているということになるわけですけれども,破産法人は実際には不動産を管理することができませんので,裁判所が,破産財団からの不動産の放棄を許可する際には,その後どうやって不動産の管理がされていくのか,管理がされない状態でも大丈夫なのかということを確認しながら進めていくことになります。
 いわゆる粗放的管理で足りるものについては,裁判所は比較的緩やかに放棄を認めますが,例えば工場を操業していた会社が破産して,その土壌に汚染があることが認められた場合には,私の知る限り,東京地裁の運用では,破産管財人の報酬以外の全ての資産を土壌汚染の除去につぎ込んで,なるべく汚染を除去した上で放棄を認めるということをしております。
 例えば税金の未納があったりすると,財団債権の順番としてはどうなるのかという話もあるのですが,実務上は,土壌汚染の除去は税金よりも優先するということで,できる限り土壌汚染の処理をして,放棄するということをしております。
 今,垣内先生からありましたけれども,私としては,破産管財人の選択肢を増やすという意味でも,法人による土地所有権の放棄ということを認めた方がよろしいのではないかと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
 ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
 部会資料2の第4のところにおいて,1及び2について,多岐にわたる御意見を頂きました。第4の1については,アとイについて,その政策的な内容そのものの当否についての御意見も頂きましたし,関連して,どのような規律で民法上表現をしていくか,あるいは表現していかないことがよいのではないかといったような観点からの御心配の御指摘も頂きました。
 それから,ウのところについては,現行255条の運用の下でも存在するが,しかし今後,更に検討していかなければならない問題があるのではないかという御指摘があったことを踏まえ,それを当部会で引き続き,どの範囲で審議の対象としていくかということについて,種々の御意見がありました。事務当局の方で整理をさせていただくことにいたします。
 あわせて,ウのところについては,山田委員から,ここでお示ししている発想とは異なる全く新しい見地から,土地に関する共有持分の放棄について,国庫などに帰属させるという,本日の休憩前に要件や手順について御議論いただいた内容に係る,その規律に服せしめるというアイデアもあるものではないかという注目すべき御提案も頂きました。
 皆さん御覧いただいたと思いますが,山田委員はこういうアイデアマンでいらっしゃいます。誰も考えないようなことをおっしゃっていただき,感じ入るばかりでした。ご提案いただいたことは今後,部会において検討していかなければならないと感じます。
 すこし考えますに,共有持分を放棄して国庫などに帰属するということになりますと,考え込まなければならない問題も生じます。普通の土地もいろいろ荒れ果てている土地があり,悩ましい事例が多いでしょうけれども,さらに共有持分になると,不動産鑑定でいう共有減価が生じ,余計,価格的には困った状況のものを国庫などに帰属させることになりますから,国有財産管理や林野行政のお立場から見れば,種々悩ましい部分があるというお話があるかもしれません。休憩前に御議論いただいた土地所有権一般の放棄の要件の中で,もし山田委員の提案をそこで考えていく際には,共有持分について国庫などを帰属先としてイメージした放棄の要件のところをまた精査しなければいけないという宿題も頂いたものであろうというふうに感じます。
 第4の2のところについては,ここで問題提起を差し上げている損害賠償の問題に加えて,いわゆる担保責任と類似の発想を考える余地がないかどうかという観点の御指摘があり,また,そのような発想で物事を進めたときに,それが法的構成の上でも,いろいろ難しい問題がありますとともに,その政策的な実質的当否の観点から見たときに,いわゆる土地所有権の放棄の自由度に影響する側面があるということの御指摘もあって,いろいろ考えなければいけない難しい問題があるということが分かりました。引き続き事務当局の方で,頂いた意見を議事全般にわたって整理をさせていただくことにいたします。
 部会資料2について,土地所有権の放棄について御議論をお願いしてきたところ,一渡り御覧いただいたということになりますけれども,土地所有権の放棄全体について,何かここで御指摘を補っていただくようなことがおありでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは,この土地所有権の放棄の議論をひとまず区切りとするに当たりまして,私から一言差し上げます。
 土地所有権の放棄という問題提起を差し上げて,意見を述べていただきました件について,ここまで審議で明らかになりましたように,当部会が属する法制審議会に加え,財政制度等審議会及び国土審議会において調査審議が進められている各事項が互いに関連している側面がございます。つきましては,これらの審議会の事務当局を務め,当部会に関係官をお出しになっておられる各省におかれましては,引き続き緊密な連絡調整をなさっていただき,政府として整合性のある施策を企画・立案していくことがかなうよう,各段の御協力をお願い申し上げます。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立