法制審議会民法・不動産登記法部会第18回会議 議事録

 部会資料45も財産管理制度の見直しでございますけれども,こちらは,不在者財産管理制度及び相続財産管理制度についてお諮りするものであります。
  部会資料45の1ページは,不在者財産管理制度の見直しについて,第15回会議でお諮りした部会資料34と基本趣旨が同一内容のものをお示ししてございます。
  それから,おめくりいただきまして2ページから後にまいりますと,相続財産管理制度について,これも第15回会議でお諮りしたように,部会資料34で御案内した方向に基づき,一言で申せば,統一的な相続財産管理の制度を設けるという構想の骨格を維持し,さらに,法制的な準備を踏まえた文言の整理を含めたものを御提示申し上げております。
  4ページにまいりますと,4ページの下の方,(2)のところで,相続人があることが明らかでない場合の相続人の捜索,探索等の手順,それから相続債権者及び受遺者への弁済等の手順についての基幹のリズムのことについて,部会資料34でお諮りしたとおりのものをお出ししております。
  隣の5ページにまいりますと,相続の放棄をした者の義務に関し,部会資料29でお諮りしたものと基本趣旨を同じにするものをお示しした上で,第13回会議において議論になったことについて,補足説明で若干の御案内を差し上げているものでございます。
  不在者財産管理制度と相続財産管理制度を分けないで,部会資料45について,一括して御意見を承るということにいたします。中村委員,どうぞ。
○中村委員 ありがとうございます。
  日弁連ワーキンググループでは,まず,1項の不在者財産管理制度につきまして,(1)の供託の規律については賛成多数でした。
  (2)の職務内容の限定に関する規律を設けるかどうかという点につきましては,これを設けないということに対して賛成意見と,もう一つは,裁判所が管理対象財産を限定することなどが可能となる仕組みを,引き続き検討した方がいいという意見とがありました。
  第15回の部会で宇田川幹事から,この職務内容の限定に関する規律を設けることに関しての,いろいろな難しさという御懸念が示されていましたことは承知しておりますけれども,あらかじめ定めることができるという規定であれば,そのとき御指摘のあったような御懸念のない事例,可能であり,かつ,適切な場合にだけ,この規定を利用すればよいという考え方もあり得ることから,引き続き検討してみてはどうかという意見もございました。
  それから,2項の相続財産管理制度ですが,(1),(2)を通して賛成意見が多数でした。その上で,幾つか提案がありまして,一つ目は,これも第15回の部会で宇田川幹事から御指摘があったことと同じなのですが,各制度による管理人の権限が競合する事態が生じて混乱することの無いように,管理人,相続人の権限や優劣関係を整理してほしいという要望がございました。今回の部会資料の先ほど検討しました43の2ページに,所有者不明土地管理人と不在者財産管理人等との競合という項目を設けて説明いただいており,それについては理解できるわけなんですけれども,この項目では,不在者財産管理人等との競合という題名ではありますけれども,ほかの管理人制度との関係については,特段のお示しがなかったと思います。改正後の実務におきまして,要件という面からは複数の制度の利用が可能であるように見える場合に,どれを選ぶのが適切か,選択の指針にするために,先ほどの資料43のような説明を設けていただけると有り難いという指摘が出ておりました。
  それから,もう一つは,各制度の管理人となった者の行動指針を御検討いただけると有り難いという意見です。特定人の利益のためなのか,より公益に即したものと見るべきなのかというような,行動のための指針ということです。
  3項の相続の放棄をした者の義務については,賛成多数で特段の異論はございませんでした。
○山野目部会長 弁護士会の意見をお取りまとめいただきまして,ありがとうございます。
  木村幹事,どうぞ。
○木村(匡)幹事 ありがとうございます。
  まず,一つ目は,不在者財産管理制度の見直しのうち,本文の1(2)の職務内容の限定に関するところですが,部会資料の補足説明において,運用上の工夫により同様の結果を得ることは不可能ではないと考えられ,第15回部会でも現にそのような運用が行われている旨の記載があり,そのような運用が行われているということは承知しておりますところ,このような運用におきましても,不在者の財産全体に管理が及ぶということを前提とした上で,一応の不在者の所在調査や財産調査を行うことによって,不在者の利益を保護するという不在者財産管理制度の趣旨も踏まえた運用が行われていると認識しておりまして,その点を御参考までに付言させていただきたいと思います。
  これが1点目でございまして,二つほど2の相続財産管理制度の見直しに関して御教示いただきたい点がございます。1点目は,先ほど中村委員からもございましたけれども,法改正後も残る既存の相続財産管理制度と新しい相続財産管理制度との関係についてですが,例えば,家事事件手続法200条1項の相続財産管理制度と新しい相続財産管理制度との優劣,例えば,家事事件手続法200条1項の相続財産管理人が既に選任されている場合に,新しい相続財産管理人制度の選任の申立てがなされたケース,又はその逆のケース,そういったときに,その帰趨についてどのように考えたらよいのか。また,両者が重複選任されてしまったといった場合,それぞれの権限の範囲や優劣について,どのように考えたらよいのか。そもそも重複選任といったことがなされないように,申立てを受けた裁判所において,他の裁判所で相続財産管理人が選任されているのかどうかを把握することができる仕組みといったものも考える必要があるのではないかといった点が問題として考えられましたので,何か御教示いただけるところがあればご教示ください。
  もう一つが,相続財産管理制度の関係で,本文のアのただし書でございます。相続財産管理人が選任できる場合から,相続人が1人である場合でその相続人が相続の承認をしたときが除外されるということになっております。例えば,成年後見制度が利用されているケースで,被後見人が死亡しまして,唯一の相続人が非協力的ないし無関心であって,熟慮期間が経過したにもかかわらず,相続財産を後見人から引き継ごうとしないといったような事態が考えられますが,こういった場合に,供託できない財産については,後見人であった者が相続財産を無報酬で,裁判所の監督を受けることもなく,事実上管理しなければならないことになります。こういった事態に,相続財産管理人の選任ということで対応できるのかについては,現在は,法文上そういったことも検討できなくもなかったのではないかと思われますが,これが,今後相続人が1人である場合において,その相続人が相続の承認をしたときというのが明文で除外されるということになった場合に,法文上これがもうできなくなってしまう,検討がもうできなくなってしまうというようなことも考えられ,何かこういった問題に参考になるようなことがあればご教示いただけますでしょうか。
○山野目部会長 都合3点にわたる御意見ないしは問題提起を頂きました。
  1点目のみ,不在者の財産の管理に係る御指摘でありまして,職務内容の限定に関して,法制上の規律を置かないという方向を,この部会資料45で提示しておりますけれども,それに関連する御知見の披歴を頂きました。一つ前に中村委員から,弁護士会の中の一部の皆さんの御指摘として御要望があった事項,そのお考えとの間で,引き続きこの部会資料で御提示申し上げているような考え方を題材として,意見交換を重ねていただければ有り難いと感じます。これが1点目でございます。
  それから,2点目の家事事件手続法200条の関連のこと,及び3点目に御指摘いただいた成年後見年の死後の事務の円滑な終了と相続財産管理制度の運用,新しく設けられる制度との間にエアポケットが生ずるおそれはないかという観点からの御指摘,これら後ろの都合2点については,いずれもどのようにすべきかということについて,むしろ今後において裁判所との間で御相談を重ねていくべき事項であると感じられますけれども,現時点において,御指摘を承ったところを踏まえて,法務省事務当局において何か考えているところがあれば,御案内を差し上げます。
○宮﨑関係官 まず,1点目の家事事件手続法200条で選任される,いわゆる遺産管理人と,今回の本文,相続財産管理人との関係なんですけれども,先に遺産管理人が既に選任されている状態で,その後相続財産管理人の選任の申立てがされた場合において,その遺産管理人が全て相続財産の全般を管理しているという状態でしたら,相続財産管理人を更に選任する必要性は普通はないのではないのかと思われますので,後の方にされた相続財産管理人の選任の申立ては却下されるということが考えられると思います。また,その逆も同じようなことが言えるのかなと思いまして,先に相続財産管理人が選任されている状態で,後から遺産管理人の選任が申し立てられた場合には,後の方にされた遺産管理人の選任の申立てが却下されるということが通常はあり得るだろうと考えておりました。
  また,既に重複してそれぞれが選任されてしまった場合については,普通は両方の管理人に,いずれも管理を継続させるという必要はない場合が多いのではないかと思われますので,どちらかを取り消すことが考えられるのかなと思っております。どちらを取り消すのかということについては,個別事案の判断になるかとは思いますが,一つの考え方としましては,家事事件手続法200条の遺産管理人の選任に係る保全の必要性がなくなったと認められると判断をして,そちらの方を取り消すという運用も考えられるものと思われます。
  今のが家事事件手続法200条の関係でして,もう一つが,相続の承認との関係でございますが,現行の民法第918条第2項に基づく相続財産管理人の選任というのがございますが,こちらの選任を申し立てることができるのは,相続人の熟慮期間中に限られると解釈されていると考えられまして,そういう意味では,現行法下においても唯一の相続人が相続の単独承認をした場合であれば,同法に基づく相続財産管理人の選任の申立てはできなくなるものと考えられます。もっとも,お尋ねのケースにおきましても,相続の単純承認がされていないと認められるのでしたら,現行の民法第918条第2項と同じく本文の相続財産管理人の選任を申し立てることができるとも考えられます。
  実際の実務で,相続開始時から3か月を経過した後に,民法第918条第2項による相続財産管理人の選任が認められているというのも,そういったケースではないのかなと考えられます。
○山野目部会長 事務当局から一応御案内を差し上げました。
  家事事件手続法200条との関係については,御案内申し上げたように,裁判所と引き続き相談していく必要性が大きいであろうと感じます。
  それから,成年後見人の死後の事務の関連も同様でありますけれども,民法873条の2の規定が議員提案による民法改正で追加されてから,その運用上浮かび上がっている課題も整理した上で,こちら側の相続財産管理の制度の整備をにらんだ上で,更に検討していかなければならない事項もあるであろうと感じます。このたびの法制審議会の答申の中で,873条の2の規定に手を触れるということにはなりませんけれども,そこに検討すべき課題があるという可能性はあり得るものであります。
  いずれの点につきましても,引き続き裁判所と御相談していくということで,木村幹事におかれてはよろしゅうございましょうか。
○木村(匡)幹事 はい,ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  引き続きいかがでしょうか。
○水津幹事 相続の放棄をした者の義務について,気になっていることを申し上げます。
  提案では,相続財産に属する財産を占有するなどとされています。占有というと,物,つまり不動産及び動産が念頭に置かれているようです。他方,財産というと,物以外の財産も含まれます。規律の対象を物に限定するのであれば,財産という文言は,物に改めた方がよいと思います。もっとも,この場合には,物以外の財産の扱いについて,規律が欠けることとなります。
  これに対し,規律の対象を財産一般とするのであれば,物以外の財産の扱いについても,規律が欠けることはありません。もっとも,この場合には,占有という文言は,改めた方がよい気がします。民法以外の法律の中には,例があるようですけれども,民法では,財産の占有という概念は,用いられていないように思われるからです。
○山野目部会長 水津幹事の御注意を伺い,よく理解することができました。どのような文言として整理したらよいか,よく考えてみることにいたします。ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
  相続人があることが明らかでない場合の基幹のリズムの見直しに関する民法952条以下の見直しにつきましては,賛成であるという簡単な御指摘のほかに,特段の御議論がありませんでしたけれども,ここは,この方向で進めてよろしゅうございましょうか。
  もし,これがこの方向で実現することになりますと,相続開始から特別縁故者の不存在確定まで含めますと,13か月もかからないと登記上及びその前提となる実体関係上の処理ができないという,現在の民法が抱えている大変な不便,そして社会経済情勢を踏まえると,今後ますます深刻になってくるであろうこの問題につきまして,かなり抜本的な対策が講じられるということになってまいります。
  引き続き,この観点も委員,幹事の御意見を承りながら,規定整理の構想を進めてまいるということにいたします。
  部会資料45について,特段の御指摘がなければ先に進ませていただきますけれども,よろしゅうございましょうか。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立