法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議 議事録

○山野目部会長 再開いたします。
  部会資料42をお取り上げくださるようにお願いいたします。
  部会資料42は,遺産の管理と遺産分割に関する見直しについてお諮りするものであります。
  1ページの第1は,「一定期間後の遺産分割」ということで,10年が経過した後については,具体的相続分を考慮しない遺産分割をしてもらうという規律の提案をし,第14回会議に引き続き,同じ趣旨の提案を差し上げています。
  同じく1ページの「2 分割手続」の(1)のところでは,960条以下の規定に従い,遺産分割の手続で,そこで述べることをしてもらうということをお示ししているものであります。(2)の「通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則」として,共有物分割訴訟の中で,遺産分割として扱われている内容を取り上げる場面を認めようという提案を差し上げ,ただし,それは10年が経過した後であって,かつ,遺産分割事件が家庭裁判所に審判又は調停の形で係属している場合において,関係する相続人から異議が出されなかったときに限るというふうな要件設定で,規律の提案を差し上げているところであります。
  4ページの方にまいりまして,遺産共有の場合にあっても,所在不明などである相続人がある場合の持分の取得について,先ほど休憩前に御議論いただいた部会資料41の提案と同じ内容のものを,こちらでも考えようという提案を差し上げております。
  6ページにまいりまして,4も同じ話でありまして,通常共有のときと同じように,所在等不明相続人がいる場合の不動産の譲渡について,それを考えようという提案を差し上げています。
  部会資料の6ページの一番下の5の例外のところは,やむを得ない事情によって10年以内に遺産分割をすることができなかった場合の救済策を,第14回会議に引き続き話題としているところであります。御提示申し上げている内容の考え方の方向が少し異なっておりまして,前回は,どちらかというと,価額請求によって問題処理をしようという方向が有力になってきたところでありますが,本当にそれでよいかという観点から改めて考えた上で,期間終了間際6か月の時点で起きた変則的な事態に伴って,このような困った状況になった場合については,なお遺産分割の請求等について,例外的な取扱いを,それそのものについて認めようという方向の提案を差し上げているところであります。
  8ページにまいりまして,6のその他で,遺産分割の申立ての取下げ等に関する規律の見直しの提案を差し上げ,9ページ,第2のところは,以上の提案を踏まえた上で,第2の「遺産分割禁止期間」,それから第3の「遺産共有と共有の規律」について,お示ししているような提案を差し上げているものであります。
  最後に10ページでありますけれども,第4の「共同相続人による取得時効」については,新たな規律を設けることが,そこに補足説明でお示ししているような幾つかの観点から困難ではないかという見通しを踏まえて,これについては規律を設けないものとするという提案を差し上げているところでございます。
  部会資料42の全体について,委員,幹事から御意見を承るということにいたします。
  いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 今回の部会資料42について,弁護士会のワーキンググループの中では,前回の部会資料31と比べて非常に分かりやすくなったという意見がありましたので,まずその点を申し上げます。
  順々に申し上げますが,第1の1と2は,前回と同じで,賛成です。
  2の(2)「通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則」について,前提として,この特則がどのようなことを意味しているのかということと,どのような場合を想定しているのかということについて,確認させて下さい。今回,席上に配布していただいた図を示しながら,御質問いたします。
  下手な図で恐縮ですが,図1,図2,図3を書きました。
  図1は,部会資料42で例示されている,2ページのA,B,C,Dの関係を図にしたものです。すなわち,A及びBが各2分の1の持分を有する共有状態の土地がある場合に,Bが死亡し,C及びDが各2分の1の法定相続分で相続したときということで,これが,通常共有と遺産共有が併存している場合の典型例として挙げられています。
  今回,この特則を提案する理由というのは,部会資料42の3ページに書かれているように,この図1の場合には,現行法では,Cが協議によらずに共有物の全部を取得するには,共有物分割と遺産分割の手続の双方を経なければならないところ,共有物分割手続の中で一回的に解決する方が,相続人にとっても便宜であること。したがって,共同相続人の有する遺産分割上の権利を侵害しない限りにおいて,一定の要件を満たせば,このような場合に共有物分割の手続によって,一回的な解決をできるようにするということだと理解しました。
  そこで,念のための確認なんですが,図1の場合には,部会資料2ページの①,②の要件を満たせば,CがA及びDに対して,民法258条1項に基づき,共有物分割請求ができることになるということを提案されていると理解しましたが,そのような理解で正しいでしょうかというのが,一つ目の質問です。
  次に,図2ですが,これは,図1の状態から,Aも死亡して,その相続人としてEとFが出現したという事例です。
  この事例は,一見すると,現在の権利者であるCないしFは,いずれも遺産共有状態の共有者であって,通常共有と遺産共有が併存していないようにも見えます。しかし,この事例も,Cが協議によらずに共有物の全部を取得するためには,共有物分割と遺産分割手続の双方を経なければならない,具体的には,Dとの間の遺産分割と,E及びFとの間の共有物分割請求が必要になるということで,この二つの手続が必要になるという状況は,図1の場合と全く同じです。したがって,この図2の場合も,今回提案されている特則の対象となっていると理解しています。
  つまり、通常共有と遺産共有が併存しているということの意味は,図2で「共有」「遺産共有」と書いたとおり,C及びDの遺産共有,E及びFの遺産共有に加えて,C及びDとE及びFの通常共有,これが併存している。この不動産については,このような形で遺産共有と通常共有が併存しているということなので,図2の場合も,この特則の対象になると理解していますが,それでよろしいでしょうかというのが,2番目の質問です。
  2番目の質問に関連して,今の理解が正しいとすると,部会資料1ページの(2)本文に書かれている規律,すなわち,「財産が数人の相続人及び相続人以外の者の共有に属する場合において」という表現が,これは,図1の場合を想定していると思うのですが,図2の場合も,これに読み込めるかが,疑問に思いました。
  図3ですけれども,これは,図2と似ていますが,これは数次相続の事例で,元々AとBが通常共有でなく,遺産共有であった場合です。この場合,Cとしては,D,E及びFとの間で,Xの遺産分割手続を行い,Dとの間でBの遺産分割手続を行うことが可能であり,かつ,今回の改正で,相続開始から10年間が経過した場合には,具体的相続分の主張が制限される結果,遺産の一部分割が基本的に認められるだろうということで,X及びBの遺産の一部分割として,不動産の分割を実施すればいいということになり,したがって,数次相続の場合は,今回の特則の対象とする必要はないと整理されたと理解していますが,それでよろしいでしょうか。
  図3の場合に,Xの遺産分割手続とBの遺産分割手続を一回的に解決するためには,2つの遺産分割手続が併合されることが必要ですが,実務的にそのような併合が認められるのか,その辺りの見通しについて,お聞かせいただければと思います。
  一旦ここで切りたいと思います。
○山野目部会長 それでは,今日,蓑毛幹事からお配りいただいた1枚ものの資料についてのお話を頂いたところでありますから,蓑毛幹事のお話の途中でありますが,ここで切って,1枚ものについてお示しいただいた三つの図の関連は,事務局に資料の案内の趣旨の確かめを求めておられるということであると受け止めますところから,事務当局からお話をください。
○脇村関係官 ありがとうございます,脇村です。
  まず,先生に頂いた質問については,いずれも,はいという答えなんですけれども,図1については,おっしゃるとおりだと理解しています。
  図2につきましても,実は,なかなかどうやって書いていいのか難しかったんですけれども,意図としてはそういった,いわゆる遺産共有以外のものも混ざっていることを含めて考えておりましたので,射程に入っているという理解しておりました。あと,この後,どこまで表現をきれいにできるかは,改めて考えたいと思います。
  図3の図形につきましても,おっしゃるとおり考えておりまして,従前の実務はどうかとか,併合最終的にどうかという議論あるんですけれども,いずれにしましても,理論上は,併合した上で,かつ,一部分割を活用すればできるであろうと理解しておりまして,今回の改正でこういった議論がされたことは,きちんと紹介をし,考えていただくように促すことになるんだろうと思います。
  もちろん,一部分割に相続人が反対しているケースなどは,結局難しいケースあるかもしれませんけれども,皆さんが基本的にいいというケースについては,スムーズにできるのではないかと思っています。
  図1の関係で少しだけ,先生おっしゃったとおりなんですが,1点だけちょっと補足的なお話をさせていただきますと,先生の方から,CがA,Dに対して共有物分割請求できるという意味でしょうかとお話がありましたが,できるという意味につきましては,とりようによっては二つの意味があるかなと思っていまして,単純に,Cが単独で共有物分割訴訟を請求できるという問題と,プラス,CがDとの関係との解消もできるという,この二つの意味があると思っていまして,部会資料で書いていますのは,主眼は,どちらかといいますとDとの関係についてメインで議論していますが,もちろんこういったことになりますと,Cが単独でしやすくなるというのはそのとおりではないかと思っています。
  この規律でなかった場合でも,併存している場合について,共有者の1人,相続人の1人が,自分たちの遺産関係と共有者,通常共有者との関係の分割を単独でできるかどうかという解釈論はあるとは承知していますが,いずれにしても,お答えとしては,この部会資料としては,はい,ということだろうと理解しています。
○山野目部会長 図1から図3まで,内容の理解は,全て蓑毛幹事にお見通しいただいたとおりであるということを御案内し,太字で示す規律表現については,御指摘も踏まえて,なお検討していくという案内がありました。
  蓑毛幹事,お続けください。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。
  脇村さんがおっしゃったのは,恐らく最判平成25年11月29日の射程の関係をおっしゃったのだと思いますが,あの判例の射程がどうあれ,今回の提案で,先ほど申し上げたとおり,CがA及びDに対して共有物分割請求の訴訟を提起できるとしていただければ,この制度が非常に,実務上使いやすくなると思っております。
  続けて申し上げてよろしいでしょうか。
  部会資料1ページから2ページにかけての(2)で①と②の要件を設けることについて,これは,前回の部会資料31では,①だけが要件であったものが,甲案としてあったのですが,これに②の要件が付加されたと理解しています。つまり,10年経過後であっても,原則は遺産分割を行うということであって,共同相続人の有する遺産分割上の権利を重視して,②の要件が付加されたと理解しています。
  この点について,日弁連のワーキンググループでは,②は不要という意見も若干ありましたが,②の要件を設けることはやむを得ないという意見が大半でした。
  ただし,②の異議がいつまでも言えるということになると,共有物分割請求の訴訟が非常に不安定になり,審理の無駄が起こりますので,この異議の申出については,一定の期間に制限すべきだという意見が多数でした。また,この特則に基づく共有物分割請求訴訟が起こされた時点では,遺産分割の審判も調停も係属していなかったにもかかわらず,訴訟提起後に,言わば後出しのように遺産分割の請求をして,異議を言うということについては,更に強い制約をすべきではないかという意見もありました。
  続いて,3の「不動産の所在等不明共有者の持分の取得」については,賛成が多数でした。ただし,少数説として,相続開始から10年を経過するまでは,この限りではないという要件について,これは,共同相続人の有する遺産分割をする権利には関わらないので,不要であるとの意見がありました。
  部会資料6ページの4,所在等不明相続人がいる場合の不動産の譲渡についても同様で,これに賛成する意見が多数ですが,ただし書は不要という少数意見がありました。
  6ページの5の例外規定等については,賛成意見が多数でした。
  ただし,やむを得ない事由という定め方ではなくて,具体的にその事由を明示すべきという意見がありました。また,共同相続人の全員が同意をして,具体的相続分の主張ができるようにすると合意している場合には,10年経過後もそのような主張を認めてよいのではないかという意見がありました。
  部会資料8ページの6,遺産分割の申立ての取下げ等については,賛成します。ただし,前回も申し上げたことで,部会資料で反論されてもいるのですが,遺産分割事件の中止の規定は入れて欲しいという意見が,現在も残っています。
  それから,第2の遺産分割禁止期間,1,2については,いずれも賛成です。
  第3の遺産共有と共有の規律についても賛成ですが,①の「特別の定めがない限り」という文言について,特別の定めがなかったとしても,通常共有と遺産共有とで,性質上違った考え方をすべきものがあるかもしれないので,例えば,「その性質が許さないときを除き」といった規定の仕方の方がよいのではないかという意見がありました。
  最後,第4の共同相続人による取得時効については賛成です。
○今川委員 この部会資料42については,全体的には賛成の方向で特に意見はありませんが,一つ,第1の2の(2)の補足説明4のところで,蓑毛幹事もおっしゃったんですが,濫用的な異議申出の対策はしっかりすべきであるということと,同じ補足説明4の最後の「また」というところの3行の部分ですが,これは,家裁と地裁との連携,情報の共有を説明されていると思うんですが,裁判のIT化に関しても,法制審議会で議論されていますけれども,ITを積極的に促進をして,ITを駆使しながら,裁判所間で情報を共有する,連携をしていくということが必須であると考えております。
  それと,これは質問ですが,5の例外規定についてですけれども,この例外規定が該当するときは,3の持分取得とか4の不動産譲渡もやはり禁じられるという考え方でいいのかどうかという点です。多分禁じられるのだろうと理解していますが,ひょっとして気が付かずにやってしまうこともあるのではないかという意見が,我々の検討チームの中からあがっており,これも裁判所間の連携でうまく防げるのかどうか,また,気づかずに譲渡してしまった場合などは,どのようにして回復していくのかということも気になります。
  実際,そういうことはまずないだろうというお考えなのか,その辺りのお考えを教えてください。
○脇村関係官 今のやむを得ない事由の件なんですけれども,論理的な問題はちょっと置いておくとして,実際上の問題として,特に所在等不明相続人にやむを得ない事由があった場合の処理につきましては,もともと異議があった場合のために公告期間を設けるという前提にしておりますので,公告をして,当然異議が出して,やむを得ない事由があるんだからみたいなことになれば,それは止まるということなんですけれども,そもそも自分が権利を主張すれば止まる制度にしていますので,結局,機会を与えて何も言わなかったということに,論理的にはなるのかなと思っていますので,何といいますか,結果的には,相続人の方から公告機会があるにもかかわらず権利主張しなかった場合と同様に,そのまま処理がされて,あとは,残りのものについて,家庭裁判所で,今度別途本当に出てきた後に遺産分割を請求した場合には,それを前提に処理がされていくんだろうと考えていました。
  結局,機会あって言わないということと同じ処理かなと思っています。
○今川委員 所在不明共有者や所在不明相続人が出てきた場合だけではなくて,例えば相続人間で,不動産の譲渡の許可を申し立てている場合に,所在が分かっている他の相続人の1人に例外に該当する正当な事由があって,分割調停を申し立てていくということがあったときに,裁判所の連携がうまく機能すれば,バッティングしているというのが分かると思うんですが,そもそもそういうバッティングもないわけではないと思ったんですね。
○脇村関係官 まず前提として,ちょっとまだ私も煮詰まっていないところありますけれども,今回の仕組みを作る場合には,少なくとも登記上の相続人には通知が行くことになっていますので,そういった人たちが,どういうアクションを取ったとき,この手続がどうかという問題なのかなと思っています。
  従前は,自分が取りたいというときについて,同じような申立てをしてくださいということを今,念頭に置いていたんですけれども,今,今川委員がおっしゃったのは恐らく,では,遺産分割を申立てしているケースもあるのではないかと。そのときには,この遺産分割の申立てしているんだから,この持分譲渡といいますか,取得について止めるべきではないかという御意見かなと伺っていて思いましたので,少しそこは,改めて検討したいなと思います。恐らく,やむを得ない事由がある場合に限らず,ほかの人が遺産分割をするんだから,あなた1人だけ抜けるのやめなさい,1人で取るのはやめなさいですかね,持分取得やめてくださいというようなことを言わせるべきではないかという御指摘かなと,今伺っていて思いましたので,もし今,今日御意見あれば頂きたいですけれども,そういったアクションの取り方について,また改めて検討したいと思います。
○今川委員 続けてよろしいでしょうか。
  今,脇村関係官がおっしゃったことで,部会資料41に関わってくるんですが,持分取得の場合は,他の共有者に裁判所から通知するという規定,注意書きがありますが,譲渡の場合はその規定がなく,1人が譲渡の許可の申出をしても,他の共有者には通知しないと思っているのですが,やはりする通知という前提なんでしょうか。
○脇村関係官 そちらの方は,最終的に同意が必ず要件になりますので,嫌だったら同意しなければ権限を行使できませんので,そういう意味では,大丈夫かなと思っています。
○今川委員 分かりました。はい,了解しました。
○山野目部会長 今川委員と脇村関係官の今の意見交換で明らかになってきたことの一つとして,相続人の一部が所在不明であるときの持分の取得とか不動産の譲渡については,それらの手順を進めることができるということについて,一つ前に御審議いただいた通常共有のときと同じ規律をこちらに持ってこようとしていますけれども,遺産分割が問題になるかもしれないという,そのような意味で遺産共有という特殊性を有しているステージにおいて,単に通常共有のときの手順をコピー・アンド・ペーストして済む話かということは,もう一度いささか慎重に考えてみる必要があって,今川委員が御指摘のとおり,例外規定との関係がありますし,それ以外にも,ひょっとすると持分取得とか譲渡の権限を与える許可の裁判の手続が進んでいる途中で,ほかのそのような動きを考慮して,一旦止めなければいけないとか,やり直そうとしなければいけないとかという要請を感じさせる場面があるかもしれませんから,今,脇村関係官が少し視野を広げて検討してみますとお答えを差し上げたとおりでありまして,少しそこのところを,御注意を踏まえて検討してみたいと考えます。ありがとうございます。
  そうしたら,司法書士会からは以上ということでよろしいですか。よろしければ、次は佐久間幹事にお願いしようと考えます。
○今川委員 以上です,はい。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
  今の点なんですけれども,5の例外規定ですが,この規定が,3とか4,2には及ばないということでよろしいんですかね。2というのは,通常共有と遺産共有の場合の特則については及ばないということでよろしいんでしょうか。すみません,まずそれを教えていただければと思うんですが。
○脇村関係官 脇村です。
  はいといいますか,2につきましては,そうですね,関係ないと。ここは通常共有の,ある意味,持分の決め方という前提を考えていましたので,ここについては,そこはリンクしないと考えていました。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
  そうすると,3と4には及び得るということなのですが,先ほどのお話で少し気になったことがございまして,3と4の裁判所に,例えば,処分とか持分取得の許可,許可と言っていいのか,ちょっと分かりませんけれども,それを求める請求があった場合に,その審理がされているときに,5の例外規定に当たるということが出てきたならば審理を止める,というのは分かります。けれども,もし既に許可された,あるいは請求が認められた,それで譲渡が認められる,あるいは持分取得が認められるということになった後に,この事情がありましたと出てきた場合,裁判で認められたものまで覆るということが,何か先ほどの受け答えではあり得るとも聞こえたんですが,それはそうなんでしょうか。もしそうだとしたら,ちょっと問題ではないかなと思うのですけれども。
○脇村関係官 私,申し上げました趣旨としましては,やっている最中に,遺産分割なり,あるいは共有も同じかもしれませんけれども,共有分割請求等が別途された場合には,場合によっては,そもそも止めた方がいいのではないかということを,一つ,もしかしたら検討すべきなのかなと思ったということを申し上げました。
  その上で,後で考慮すると言いましたのは,やり直すというよりは,遺産分割前に持分譲渡等が,普通の場合,普通の相続をやった場合についてはされるわけですけれども,そういったことを,後の遺産分割では,ある意味考慮して判断する,論理的には,遺産分割の審判なりの中で,かつてそういうのがあったということを前提とした遺産分割,極端な話は,もう遺産がなくなっていますので分割しようがないんですけれども,そういった事後処理が,場合によってはあるのではないか,さらに,そのときには,906条2などの活用もあるんではないかということを申し上げたつもりでして,そういう自体をひっくり返そうということは考えていませんでした。
○山野目部会長 佐久間幹事,お続けください。
○佐久間幹事 いや,それだったら結構です。
  申し上げたかったのは,このやむを得ない事由が何かということにも関わるんですけれども,この例外規定が,前回の価額償還という調整の仕方から変わったということは,それはそれとしてよろしいんだろうと思うんですけれども,価額償還で処理をしようという前回までの流れとしてあったのは,この10年が経過した場合には,いろいろな意味での処分がなるべく容易になるように,そして,効力が安定するようにということであったと思います。その点は,今回のように例外規定のあり方を変えるとしても,なお留意する必要があるのではないかと思いました。
○山野目部会長 よく分かりました。
  手続を止めることはあるけれども,手続をひっくり返すことはないという解決を,皆さんが抱くイメージとしながら,引き続き事務当局に置いて検討してもらうことにいたします。
○山田委員 ありがとうございます。聞こえますでしょうか。
  二つあります。一つ目から発言いたします。
  部会資料42の6ページから7ページに関しまして,「5 例外規定等」のところです。この点については,私,賛成でありまして,前提となっている第1の1,2も含めて賛成です。特に,今発言をさせていただきましたのは,具体的相続分に基づく価額の支払請求というものが,今回,5の例外規定等のところで補足説明には触れられていますが,それについては,制度的な手当てをしないというお考えを示されているという点についてであります。
  具体的相続分については,初歩的なことですが,法的な利益であり,そして経済的な価値であることは,確かなところであります。したがって,具体的相続分がこのような,第1の1から始めてですが,ルールにすることによって,その帰趨というか消長についてどう考えるかということを整理する必要があるのだろうと思います。事務当局でこういうふうに整理された過程で,イメージをお持ちであれば,お教えいただきたいと思います。
  結論は,私,こういう解決が簡明であり,よいと思うのですが,しかし,具体的相続分をどういうふうに考えると,こういう具体的なルールを適切に基礎付けられるかという点について,お考えをお伺いしたいということです。
  それから,もう一つは,今のことと関係しないですが,簡単なことですので,続けて発言してよろしいでしょうか。
  部会資料42の1ページ,2の分割手続,(2)の通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則に関してであります。少し前に,ここは発言が集中したところですが,遅れてしまって申し訳ありません。
  通常の共有と遺産共有が併存している場合に関する規律を,今回のこの遺産分割に関する手直しに合わせて行うという趣旨と理解しました。そうしますと,このゴシック,太字で書かれているところの第2段落の「財産が数人の相続人及び相続人以外の者の共有に属する場合」という,この表現についてちょっと疑問がありますので,発言をさせていただきます。
  蓑毛さんの文書,先ほどお使いいただいたものですが,私もこれを使って,一言発言を続けさせていただきます。
  蓑毛さんの文書の図1ですが,一番単純な基本的な場合ですが,このとき,AとCが同一人物だというケースもあると思います。すなわち,AとBが元々通常の共有だったと。Bが亡くなって,C,すなわちAが相続人としてDと共同相続したという例であります。これは,通常の共有と遺産共有という言葉を使っていると,通常の共有と遺産共有が併存しているという言葉に素直に当たるのですが,それを,相続人及び相続人以外の者というのに言い換えますと,少し紛れが出てくるように思います。
  ここについては,それでも大丈夫なのだということであれば,とやかく申し上げたいということではないのですが,ちょっと疑義が,私には生ずる余地があると思いましたので,一言発言させていただきました。
○山野目部会長 二つお尋ねがありまして,一番目のお尋ねで,事務当局の方から所見を述べてもらいます。
  後段は,お尋ねというよりは,むしろ文言の注意を頂いたと受け止めるべきかもしれませんが,あわせて,何かあれば案内ください。
○脇村関係官 脇村です。
  後者の方からいきますと,すみません,ほかのいい用語があれば是非教えていただきたいというのが正直なところでございまして,私も考えていますが,是非よろしくお願いいたします。
  最初の御説明では,恐らくこの部会資料,第1の1の書き方にも関係してくることかと思っていまして,恐らくイメージとしては,法定相続分の共有持分がある,あるいは,そういったのを修正する,具体的相続人の利益,権利といっていいのかもしれませんが,そういったのが,一定の機会によってなくなっていくんだろうなというようなイメージで捉えていたところです。
  ただ,今の書き方ですと,その辺が,家裁はこうするみたいな書き方になっていて,うまく表現できていないのではないか。実際問題として,従前の議論でも,みんなの合意があれば,それに従ってやっていいんだとすると,家裁はと書くと,調停どうするんだというようなこともありますので,少し表現は,どうしたらいいかというのをまた考えたいと思いますが,イメージとしては,そういった権利が一定期間で消えるというんですかね,そういったことではないかというようなことを,私自身はイメージしておりました。
○山田委員 分かりました。
  通常の共有,遺産共有の方の表現については,私が対案を考えて発言したわけではありませんので,適切な時期までに思い付きましたら,事務局に会議の外でお伝えしたいと思います。
  それから,例外規定の方ですが,やはり時間がたつと消えるという考え方になるのだろうと,今,お話を伺って思いました。そこが,恐らく遺産分割においては,具体的相続分は主張できないけれども,それとは別に,地方裁判所で価額相当分の支払請求が成り立つのではないかという考え方を,封ずるというか,とらないとすることの根拠になるように思います。
  その点,まだこの部会で意見が分かれているのであれば,決めなければいけませんし,あるいは,そこは今後の運用に任せるということもあるのかもしれません。しかし,今回事務局がお考えになっている考え方で部会の意見が一致するならば,遺産分割の外でも10年がたった後,具体的相続分を法的な利益として,それに基づく金銭の支払いを求めることができるということにはならない解決の手がかりを明らかしておくことが,私は望ましいと思います。
○山野目部会長 山田委員から二つ問題提起を頂きました。
  整理をいたしますと,1枚ものの紙の図1に関連して,文言の御注意を頂いた点は,今後とも検討することにいたしますし,委員,幹事においても,何かアイデアを得られた際には,事務当局の方にお伝えいただきたいと望みます。
  図1について,山田委員から御指摘いただいた文言に関する御注意,それから,しばらく前に図2に関連して蓑毛幹事から規律表現が論理的にうまくいっていないという疑問の提示を頂いた点があり,いずれの点についても,文言の整理に努めてまいります。
  皆さんに読み込んでいただき,本当によくいろいろな点をお気づきになる,感銘を受けると申したら変ですけれども,感銘を受けてお話を聞いておりました。何か補足説明を読んでしまうと,ふむふむ,そうだよなと,私などは凡庸な性格をしていますから,文言に疑問を抱かないで見てしまったものですけれども,なるほどと感ずる諸点を鋭く御指摘いただき,有り難いことでます。
  それから,山田委員がもう一つ御指摘いただいたことというものは,それとして,また別な重みを持っておりまして,10年を経過した後の具体的相続分はどうなるかということに関して,ここまでの,本日までの部会審議の成果の確認として,確実に言えることは,例外規定に当てはまる場合があり得ることを留保して,遺産分割においては考慮されないことになると,ここまでは争いがないものとして固まっておりますが,なお,金銭の支払請求権として存続することがあると考えるか,ないと考えるかについて,確かに御注意があったように,ここではっきりとした議論をしてこなかったかもしれません。今回提案がこういうふうに,少し方向が改められたことによって,初めてその問題が意識されるという側面もあるかもしれません。
  山田委員からは,金銭の支払請求権として存続させることは相当でないという解決の御提案を頂き,根拠を含めてごもっともだであると感ずるとともに,このことは,何となく後で学者の解釈に任せましょうとか,運用で工夫しましょうとかというサイズの話ではありませんから,具体的相続分の,正に山田委員がおっしゃったように,消長の話は,国民が相続に関する法律関係について有し得る法的地位の根幹に関わることですから,何となく意見交換をしませんでしたけれども,こうなりましたというわけにはまいりません。本日でも結構ですし,この後の審議の機会でも結構ですから,委員,幹事の間において,意識をしていただいて,御意見をお出しいただきたいと望みます。
  今話題になったことでも結構ですし,それ以外の点でも,引き続き承ります。中田委員,どうぞ。
○中田委員 ありがとうございます。
  ただいまの山田委員の指摘された問題は,当初から潜在的には意識されていたのではないかと思います。遺産分割の期間制限が当初話題になったときに,その期間制限を設けるということは,具体的相続分についての,言わば除斥期間を設けるようなことになるのではないかと,こんな問題点の指摘もあったかと思います。
  具体的相続分と申しますか,特別受益ないし寄与分について,10年で消えてしまうというように考えるというのは,これはかなり思い切った方向でありまして,そう軽々には言えないのではないかと思います。
  その上で,例外規定についてなんですけれども,5の例外規定,これを考える際には,処分の相手方である第三者との関係と,内部で具体的相続分を主張できるかどうかということは,分けて考えるべきだと思います。これは,先ほど佐久間幹事の御指摘から明らかになってきたことだと思います。内部で具体的相続分を主張できるのはどんな場合か,それがやむを得ない事由のある場合だということで,これは分かりやすいと思いました。
  以前,第14回会議において,全当事者の合意による期間の延長というものについて御検討をお願いしたんですけれども,やはりそれは無理だということで,御検討いただいたことには感謝したいと思います。ただ,これは利害が対立することでして,つまり,特別受益のある人は,その10年に逃げ込んでしまうと,そこで得をするということになりますので,意図的な引き延ばしであるとか,あるいは,もっと言うと,10年を詐害的に経過させてしまうというようなことになってくると困りますので,やはりやむを得ない事由による対応というのは必要だろうと思います。
  そういたしますと,やむを得ない事由の前に括弧書きがあって,遺産分割を禁止する定めがあることというような例を挙げること,これはこれで明快ではあるんですが,何か法律上の障害がある場合に限って,やむを得ない事由が認められるということになると,それはやはり狭いのではないかと思いますから,この括弧はない方がいいように思いました。
  この5については以上です。
  それから,あと,全く細かいことというか,詰まらないことなんですが,その直前の4,所在等不明相続人がいる場合の不動産の譲渡というところの第2パラグラフの3行目に,「不動産を売却することができる」とあるんですが,ここだけ「売却」になっていて,「譲渡」ではないのは何か理由があるのかどうか,これは細かいことですが,お教えいただければと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  御意見の前段は,括弧書の例示はしない方がよいという御意見を承りました。
  後段の字句の指摘は,筆が滑った間違いだと思いますが,事務当局の方……,間違いだとうなずいています。売却ではなくて,譲渡することができるというものが相当であると考えられますから,次回から注意をいたします。
  中田委員,お続けになることがあったら,お願いいたします。
○中田委員 ありがとうございました。結構です。
○潮見委員 非常に簡単なことで,教えていただきたいという趣旨の質問です。
  先ほどから少し問題にもなっていました,第1の2の(2)の②,席上配布資料でいけば,②のところは2ページ目の2行目になりますが,この②についてです。遺産の分割の審判事件又は調停事件が係属する場合において,相続人が当該請求に係る訴訟において,相続人間の分割をすることに異議の申出をしたときということがありまして,簡単な確認なんですけれども,仮に異議の申出をしなかった場合,遺産に属する共有持分というものは,いつの時点で遺産分割の対象から,つまり審判事件,調停事件の対象から外れるという理解をされているのでしょうか。その辺りを,少し教えていただきたいということがあります。
  もちろん,先ほどから,これは弁護士会の意見でも出ていましたような,異議の申立期間を何とかしろとか,あるいは相互の手続の間の連携というものをきちんとしなければいけないというのは,私も同感ですけれども,それを踏まえてなお,分かりにくかったところがありますので,教えていただけませんでしょうか。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  ②の異議の申出がされないということになったときの,共有物分割請求訴訟を与っている地方裁判所の方の対応ははっきりしているものでありまして,共有物分割の審理を続ければいいということになるであろうと考えます。
  半面,この異議がないときの審判事件,調停事件を与っている家庭裁判所はどうすればよいかは,ちょっと迷う,という問題について,今,事務当局の現時点での考えを尋ねますけれども,恐らくそういうことがあることから,裁判所同士が緊密に連携してくださいと,今川委員からITの時代ですよというお話があったものだろうとも受け止めています。
  事務当局からどうぞ。
○脇村関係官 判決確定時かなとは思っておりまして,共有物分割訴訟が終わったというか,認容判決か,効力発生して初めて外れるのかなと思っていましたが,すみません,もしかしたら違う考えがあるのかもしれません。
○潮見委員 もしそうであれば,その間,審判,あるいは調停もそうですよね,この手続はどういうふうなことになるのでしょうか。
○脇村関係官 すみません。
  私のイメージとしては,待つんだろうなというのが第一感でございまして,プラス,話がついているんであれば,除いて一部分割をやるということかなと思っていましたが,家庭裁判所の方で終わった後を見据えないと駄目だと思うのか,当事者と相談して残りやろうというのかは,適宜判断していただけないかなと思っていました。
○山野目部会長 家庭裁判所が待っているという扱いになるから,今川委員がおっしゃったように,裁判所間で連絡を緊密にしてくださいというお話になるものであろうと思います。
  潮見委員,お続けください。
○潮見委員 考え方は分かりましたけれども,実際に調停とかをやったことがある人間からするのは,なかなか大変かなということはあります。特に,共有物分割請求訴訟というものが長引いた場合に,特に遺産分割の辺りで,一部分割をうまく使えれば問題がないとは思うんですけれども,結構,どこまでが遺産の範囲であって,それをどういうふうに分割するのか,全体を見極めないと先に進めないというようなことも,まま見受けられましたから,その辺りは,もちろん裁判所間の連携ということと,当事者を納得させるということで,うまくいくのかもしれませんけれども,やはり少し気になるということだけは申し上げておきます。ありがとうございました。
○山野目部会長 潮見委員のお話を伺っていて,なるほどこの局面に立たされた家庭裁判所の事件運営は,いろいろ悩ましい,特に時間が長く経過するようなことになってきますと,悩ましい局面があるだろうということが,実感として分かってまいりましたから,事務当局において検討を続ける際,裁判所の方とも運用を含めて御相談を申し上げながら,検討を進めるということにいたします。ありがとうございます。
○松原関係官 松原でございます。
  第1の2の(2)に関係して,3点申し上げさせていただきたいと思います。
  まず1点目は,異議申出期限の関係で,この点は,蓑毛幹事からも異議申出期限を定めることが望ましいのではないかという御発言がありましたが,最高裁としても同様の意見でございます。
  ただ,この場合に,部会資料で御提案されているように,裁判所,これは共有物分割訴訟が係属している地裁ということになろうかと思いますが,地裁が期限を定めるとした場合,期限設定の有無や期限の長さが裁判所によって異なるとなりますと,やはり家裁において予測可能性を欠くことになり,遺産分割手続の進行上混乱が予想されますので,この点に関しては,法律上一律に異議の申出期間を定めることが望ましいのではないかと思われます。
  2点目は,先ほどおっしゃっていた地裁と家裁間の情報共有の方法という点でございますが,部会資料にございますように,共有物分割手続と遺産分割手続の間で判断の齟齬が生じないようにするためには,家裁において,遺産分割手続の中で,共有物分割訴訟の係属の有無及びその結果,異議の申出の有無,裁判所が申出期限を設定するとした場合には,異議の申出期限がいつまでかなどを把握する必要がありますが,現行の枠組みを前提とする限り,これらの情報は通常当事者からしか入手できないため,正確な情報収集について隘路があるように思われます。地裁と家裁の間の緊密な連携というお話も頂きましたが,家裁においては,どの地裁に共有物分割訴訟が提起されているのかというのは,現行の枠組み上はなかなか分からないということもございますので,家裁がこれらの情報を確実に入手できるための仕組みでありますとか,また,家裁にこれらの情報が提出されずに,地裁と家裁の判断に齟齬が生じた場合の効果について,御議論いただければと思います。
  3点目に関しましては,これも,一部先ほどの議論の中で出ていた点ではございますが,共有物分割訴訟の結果が残余財産の分割に与える影響についてでございます。遺産共有部分が共有物分割訴訟の中で分割された場合で,かつ,遺産分割手続において,具体的相続分の主張が可能な場合も考えられると思われますが,このような場合に,当事者の一部が民法906条の2の同意をしなかった場合には,遺産分割手続において,残余財産のみを分けていくことになると思われます。その場合,共有物分割訴訟の結果取得したものを,残余財産の分割に影響させるのか否かというのが,実務上一つの争点となり得ると思われます。共有物分割訴訟を経ている場合の残余の遺産分割への影響について,当事者間で意見が統一できない場合にどのように考えるのかに関して,規律の要否も含めて御議論を頂ければと思います。
  引き続き,第1の5の例外規定に関して,2点ほど,御質問と発言をさせていただければと思いますが,まず,このやむを得ない事由に関して,どのように解釈するかということに関して,今後,このような規律が設けられた場合には,実際の訴訟において,病気療養中であったとか,海外勤務を命じられて日本にいなかったなどの,属人的な事情が主張されるということが予想されるように思われます。このような事情がやむを得ない事情に該当するかについてはどのように考えていらっしゃるのかについて,もし今のお考えがあれば,お聞かせいただければと思います。
  また,この点の補足説明の2で,遺産分割期間経過後に相続人となった者の取扱いについての記載がございまして,遺産分割期間経過後に相続人となった場合については,これは,やむを得ない事由の一つとして考えられるという記載がございますが,遺産分割期間の経過後に相続人となる場合としては,死後認知あるいは再転相続のいずれかであると思われますが,死後認知の場合については,そもそも価格賠償しか認められていないこととの関係性が問題になりますし,また,再転相続の場合については,そもそも再転被相続人が遺産分割の申立てをすることができたのではないかと思われることとの関係,これは,やむを得ない事由が再転相続人にのみ認められれば足りるのか,それとも再転被相続人にも認められる必要があるのかということにも関わるのかもしれませんが,この点についても,更に検討する必要があるのではないかと思われます。
○山野目部会長 松原関係官から幾つか問題提起を頂いたことについて,ほかの委員,幹事から御意見があれば,今承りますし,特段なければ,引き続き検討することにいたします。
  それから,お尋ねとして1点頂いた,御発言の順番でいうと,おっしゃった後ろから二つ目の事柄は,お尋ねということでお話しいただきましたから,現時点での事務当局の考えを尋ねますけれども,意見としては,属人的な事由もやむを得ない事由として扱った方がよいという感覚もおありでおっしゃったようにも聞きましたけれども,そのような受け止めでよろしいですか。
○松原関係官 そういうわけではなく,そこも含めて,どういうふうにお考えかというところをお聞かせいただければということでございます。
○山野目部会長 分かりました。
  事務当局の方で考えがあれば,お話をください。
○脇村関係官 ここについてはいろいろな御議論あろうかと思いますが,参考になるのは,やはり今の債権の消滅の起算点のできるときの解釈について,客観的に判断していこうという議論かなと思います。ただ,そこは別に,属人的なものを排除しているわけではなくて,主観的なことではなく,客観的状況からしたら,やむを得なかったねということが言えるかどうかで決まってくると思いますので,そういった議論が従前参考になろうかと思います。
  ただ,今,例に挙がっていた病気ですとか,そういったケースは,従前そういった債権消滅について,当然には左右しなかったと思いますので,もちろん意思能力というか,被後見人があって,後見がないような,正に時効の停止のような,停止と言わないですね,完成猶予などの議論があると思いますが,そういったのを参考に,属人的であっても,客観的であれば,それは主観的な認識ではないですが,客観的状況であればやむを得ない事由があるということは,一つ考えとしてあるのかなと思っています。
  あと,死後認知の話,ちょっと誤解かもしれませんが,現行法で,死後認知があり,遺産分割されていたケースは価額請求ですけれども,今回は,遺産分割していないケースなので,余り現行法の死後認知の関係は考えなくても良いのかなと,ちょっとすみません,うまく言えないですけれども,ちょっとまた考えたいと思います。
○山野目部会長 しばらく前に,平川委員が別な場面で話題にされたような,この場合でいうと,相続人が認知症などに罹患して判断能力が減退しているけれども,成年後見人を選任する手続が今進んでいる最中で,必ずしも進捗していません,という状態で,この10年の期間の満了を迎えるような場面を想像すると,なかなかいろいろ考え込まなければいけなくて,険しい判断を求められるというようなことは,今,脇村関係官も少しそれに近いことをおっしゃいましたけれども,考えられるところでありまして,そういった場面があるからいろいろ中田委員が問題にされた,括弧書の例示を入れるかどうかというところの触り方が非常に微妙で,慎重を期さなければいけないとも感じられます。
  松原関係官,お話をお続けになることがあったら,お話しください。
○松原関係官 ありがとうございます。
  第1の6の「その他(遺産分割の申立ての取下げ等)」に関する部分について,2点だけ付加させていただければと思います。
  1点は御質問でございますが,この点,前回の部会資料31では,同意擬制の規定を設ける必要性についての記載がございましたが,今回の部会資料では,この点についての記載がございませんでした。これは,提案の規律を設ける場合,同意擬制の規定を設ける必要があるということに関しては特段変更はないという理解でよろしいでしょうか。
○山野目部会長 という1点でよろしいですか。
○松原関係官 2点目は,先ほど蓑毛幹事の方から,日弁連のワーキンググループの方で中止規定を設けてもらいたいというような御発言があったとお伺いしました。
  この点に関しましては,いろいろな考え方があるところだとは思いますけれども,現在の実務を前提としましても,具体的相続分の主張制限規定の適用を回避するために,遺産分割事件を維持しなければならないような事案については,調停委員会において,民事訴訟が係属した場合に,具体的相続分の主張制限に関する規定の存在を伝えるなど,十分な説明を行った上で,当事者がそれでも遺産分割事件の維持を希望するのであれば,それ以上に取下げの促しをしないということで足りるようにも思われます。
  また,遺産分割事件が維持される場合には,事案ごとに適切な期間を空けて期日指定をし,当事者から民事訴訟の進捗状況を確認するなどしながら,遺産分割事件の進行について協議することなどによって,適時適切に訴訟結果を把握することが可能ですし,当事者から書面により適宜報告がされるのであれば,期日を取り消して,再度指定することを繰り返して,期日の出席や口頭での説明を求めないということも可能ですので,この点については,現在の実務を前提としても対応することが可能であり,かつ,柔軟なかつ適切な対応ができるのではないかと考えておるところです。
  他方で,家事事件手続法の立法の際にも指摘されていたことではございますが,仮に中止規定を設けた場合には,熱心な当事者と不熱心な当事者がいる事案で,熱心な当事者にとって不利益な訴訟結果が出た場合に,中止決定がされたままになってしまうというリスクが少なからずあるように思われます。このように,現在の実務を前提としても,運用の工夫により中止規定の趣旨,目的は十分に達せられ,むしろ中止規定よりも利点が大きいと思われるのに対して,実務上の弊害も予想されるところではございますので,中止規定の必要性,相当性については,慎重に御検討いただければと思うところでございます。
○山野目部会長 後段は意見として承りました。
  前段がお尋ねでありましたから,事務当局からお願いいたします。
○脇村関係官 すみません,前段は書き忘れていました。基本的に,考えに変更はございません。改めて,次回出させていただく際には,明示したいと思います。
○山野目部会長 松原関係官,今の回答でよろしいですか。
○松原関係官 ありがとうございました。
○山野目部会長 ただいま松原関係官から何点か問題提起を頂いたことについて,現時点で伺っておく御意見を聴取しておきます。いかがでしょうか。
  よろしゅうございますか。
  それでは,後でまた議事録を見ていただいて,幾つか問題点の指摘を頂いたところについて,委員,幹事がお考えになることを,改めて御指摘いただければ有り難いと考えます。
  松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
  誠に細かな点の確認で申し訳ないんですが,部会資料42の第1の3,同4ページの「相続開始時から10年を経過するまでは,この限りではない」ということの意味についてです。蓑毛幹事から配布していただいた資料の図を使わせていただいて,その図の3のケースで,一番下にE,F,C,Dとあって,CがこのE,Fに対して共有持分の取得の請求をしたいと考えたときに,Aが亡くなったのは5年前,Xが亡くなったのは10年前というときに,E,F個人個人で考えれば,まだ相続開始から5年しかたっていないので,10年経っていないということになるんでしょうけれども,その前のE,Fが相続したXの相続開始からはもう10年たっているので,この場合には,この10年の制限がかからないと考えてよいでしょうか。これは基本的に数次相続が生じた場合の考え方になるんだと思いますが,それが質問の第1点です。
  それから,第2点は,この制度を使うときに,先ほど部会資料の41の方でお伺いすべきだったのかもしれませんけれども,例えば,E,Fにその共有持分の取得請求をするときに,その供託金額は,Eに幾ら,Fに幾らと個別的に供託しなければいないのか,それとも,Aを相続した分という形で,まとめて供託することを許す趣旨かという点です。もしE,Fそれぞれについて計算しなければいけないということであれば,E,Fの相続開始からはまだ10年たっていないから取得請求できないことになってしまいそうですが,それだと共有持分の取得がかなり難しくなると思われますので,確認できればと思いました。
○山野目部会長 前段のお尋ねの方が根本的なことで,後段がその発展といいますか,付随的なお尋ねであると受け止めまして,いずれも現時点での事務当局の考えを尋ねてみることにいたしましょう。
○脇村関係官 ちょっと,うまく言えるかどうかあれなんですけれども,少なくとも第1次相続から10年たっていないと,第1相続自体の持分取得はできないと思っていました。ただ,そこで言っている取得というのは第1次相続の持分全部でございますので,例えば,そのうちの相続人の一部が不明だけれども,残りは不明ではないというケースについては,多分使えないんだろうと思っていました。
  プラス,再転相続については,そういう意味で,今のE,Fですかね,Eだけの持分を取りたいというケースについては,当然Eの被相続人の死亡時から10年たっていないといけないという整理かと思っていましたので,先ほどおっしゃっていた,一番最初から10年たっていたからといって,当然使えないという整理かと思っていましたけれども,一部しか使えないケースは使えず,一部だけのケースについて使いたい場合には,その人の10年がプラス要るのではないかと,私としては考えていたところです。
  そういう意味で,供託の金額も,全員合わせて取ると,第1次相続の持分全部ですかね,取るときについては,全額を,ある意味その人の相続人全員に対して供託するということかなと理解していました。
○山野目部会長 そうするとあれですね,X死亡から10年経っていれば,A死亡から10年経っていなくても,EとFのをまとめてCがこちらによこせということは,言えるということですね。
○脇村関係官 はい。ちょっとすみません,うまく,多分そうだと思います。
○山野目部会長 松尾幹事は言えるだろうという前提でお話を始められたと理解しますし,そうであろうという気がしますけれども,違いますか。
○脇村関係官 そうですね,はい。
○山野目部会長 そこはそのように考え,供託金は,だから,分けないでまとめて供託するという解決で,整合性をとるというお答えになると考えますけれども,松尾幹事,何かお考えと違っていたり,何か前提や理解が異なっていたら,お続けください。
○松尾幹事 この共有持分の取得制度を,共有者不明土地の実情に即して使いやすいものにしていくためには,10年以上前に死亡したAを相続したEとFの持分を一括して供託することが許されるべきではではないかと思いました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  引き続きいかがでしょうか。
  しかし,大変ですね。これが出来上がったときに,こういうもの大学の試験とか何かに出すものですかね。とても何か,ここで議論していてもかなり難しい話ですけれども,解けるものですかね。そういうことは,そのときのその立場の人たちが心配してすればいいことではありましょうけれども。
  ほかにいかがでしょうか。
  それでは,部会資料42について,大筋,部会資料42の全般でお出ししている論点について,御理解や賛成の御意見を頂いたとともに,細部については,繰り返し確認をいたしませんけれども,今後考えを深める中で,明らかにしていかなければならない細目の点が,かなり豊かに御指摘いただいたと受け止めます。この時点で,既にたくさん御指摘を頂いておきませんと,後々どこかでつまずくということになりますから,御指摘を数々頂いたことは,大変有り難かったと感じます。
  部会資料42にいての審議をここまでとして,次回以降,またここで扱った題材について,お諮りをするということにいたします。
  本日御用意をいたしました部会資料39から部会資料42までについての内容にわたる審議を終えました。
  次回の部会会議について,事務当局から案内を差し上げます。
○大谷幹事 御案内します。
  次回の日程は,9月15日の火曜日,場所はこちら,大会議室なのですが,普段,最近午後1時からお願いをしておりましたけれども,会場の都合で1時30分スタートにさせていただきたいと思います。1時30分から,枠としては午後6時までと,早く終わればそれまでということになりますけれども,枠としては午後6時までを予定させていただければと思っております。
  テーマといたしましては,実体法関係で,二巡目に入ってまいりましたけれども,財産管理制度や相隣関係等について,部会資料をお作りをして御審議をお願いしたいと思っております。
  次回もまた,希望する委員の方には,ウェブで部会に御出席いただく方法によって開催させていただきたいと思っております。
○山野目部会長 第18回会議の開催について御案内を申し上げました。
  その点を含め,この際,委員,幹事から部会の運営について,何か御意見,お尋ねがあれば承りますが,いかがでしょうか。
  よろしゅうございますか。
  それでは,本日も長時間にわたり審議に御協力を頂きまして,ありがとうございました。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立