法制審議会民法・不動産登記法部会第16回会議 議事録

○山野目部会長 再開いたします。
  部会資料38をお取り上げください。「不動産登記法の見直し(2)」を審議事項といたします。
  部会資料をお開きいただきますと,第1として「相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み」というタイトルの下で,幾つかの問題提起を差し上げています。1として,登記所における他の公的機関からの死亡の情報の入手・活用につきまして,新しい制度の施行後に登記申請をする所有権の登記名義人となる者に対し,検索用情報の提供を必ずしてもらうということを求め,それらを発端として登記所が他の公的機関から死亡の情報を入手する仕組みの整備をする構想などが考えられており,さらに,それを踏まえて登記所が死亡情報を不動産登記に反映させるための仕組みということも構想されているところでございます。
  これを踏まえて,それらと関連させながら相続登記の申請の義務付けという,この部会においてずっと御審議を頂いてきた事項について,区切りとなる提案を差し上げています。相続による登記,それから特定財産承継遺言による登記,相続人である受遺者の権利取得の登記について義務付けをするという中間試案で示していた方向での考え方を提示してございます。
  あわせて,相続登記の申請義務違反の効果について過料が考えられるという観点から,部会資料を用意しておりますが,この点については適否をめぐって意見があるところでございますから,委員・幹事から御意見をお出しいただきたいと望みます。
  さらに,相続登記申請義務の実効性を確保するための方策として,仮称でありますが,相続人申告登記という新しい制度を設けようということも提案しているところでございます。そのほか,若干の事項について考えられる新しい制度や従来の制度の見直しの提案を差し上げております。そこまでの範囲で,その後,相続等に関する登記事項の簡略化のお話もございますけれども,そこまでいかない範囲のところでございますから,お手元の部会資料で申しますと,補足説明も含めますと27ページの相続等による登記手続の簡略化の手前のところまでの範囲でまず御意見を承ることにしたいと考えます。どうぞ委員・幹事から御随意に御意見をお出しくださるようにお願いいたします。いかがでしょうか。
○橋本幹事 弁護士会の議論状況についての御紹介と,若干質問も入るんですが,させていただきます。
  まず第1の1関係ですが,登記所が他の公的機関からの情報連携で死亡情報を入手する仕組みを創設するということ,これについては,中間試案の段階からも日弁連としては方向性としては賛成ということで意見を述べています。ただ今回,中間試案では戸籍副本データシステムか住基ネットかという両立てだったのを,住基ネットの方にかじを切られた提案ですので,この点について補足説明を読んでなるほどなと思ったところはあるんですけれども,法定相続人の方に将来的に情報を連携させていくというのがやはり目的なんだろうと思いますので,副本データシステムだといろいろ負担が大きいとか,得られる情報が限られるというような記載はあって,消去法的に住基ネットだというような説明になっているんですが,住基ネットの方が積極的に優れているんだよというのがちょっとなかなか理解しづらくて,将来的な法定相続人の方に踏み込んでいくには負担は大きいけれども,やはり副本データの方が長い目で見ると優れているのではないのかなという指摘がありまして,その辺りをどのようにお考えなのか,もうちょっと説明を頂けたらと思います。
  それから,検索用情報を申出をさせるということについては,特に異論なく賛成の方向ですが,この検索用情報についての定義が,生年月日等と,「等」となっているので,具体的にどういった情報までを想定しているのか,具体的にちょっと明示していただいた方がいいかなと思います。
  それから,登記申請の義務付けの点ですが,中間試案の段階でも日弁連としてはこの部分については反対という御意見を申し上げております。抽象的なレベルでの義務,相続が発生した場合は相続人が登記しなければならないものとするという抽象的な規定にとどめて,過料の制裁までいくのは反対だという意見を申し上げていたんですが,現時点でもまだその意見は基本的には維持しております。
  ただ,後に相続人申告登記という制度を創設する,これについては賛成で,申告登記がなされれば義務は果たされたという御理解だということですので,であるとすれば,申告登記の限度で過料の制裁付きとして,共同相続の登記,そこがなかなか難しいのかもしれないですけれども,という意見がありまして,相続登記全般については抽象的義務の限度にとどめるべきだけれども,申告登記については過料付きでもいいのではないかという意見はありました。それで,申告登記を創設するということについては賛成です。そこまでですかね。
○山野目部会長 お尋ねが2点と意見を一つ頂きました。
  お尋ねの1点目は,住民基本台帳ネットワークと戸籍副本データ管理システムとの特質の比較検討に関わります。
  2番目は,検索用情報が生年月日等になっている,この「等」とは何かということであり,細かく読んでいただいたという感想を抱きつつす,事務当局から案内を差し上げることにいたします。
  3点目に御意見としておっしゃっていただいた点は御意見として承りますが,御提示申し上げている案を相続人申告登記をすれば過料の制裁は科せられないことになるということについて,弁護士会の御意見は過料とともに義務付けるのは相続人申告登記までにしてくれというお話であり,やや言いぶりは異なりますけれども,表裏の関係であり,規範内容の論理的内容は同じであろうと感じますけれども,しかし,御意見としておっしゃっていることは受け止めさせていただきます。
  事務当局からお願いします。
○村松幹事 まず第1点目の戸籍との連携の話でございます。
  御指摘がありますように,戸籍の方で身分関係の情報は管理していますので,そちらの方から所有者不明土地の解消につながるような情報,元々死亡情報と言っていましたけれども,それに加えて法定相続人の情報が取れるようになれば,それを取得するのは望ましいのではないかという点は正におっしゃるとおりでございまして,そういう状況が出来上がりましたら,そこはもう正にすぐに情報を頂きにいくということを基本的には想定するのだと思っております。
  ただ,現時点において,戸籍の方でどういう準備状況かといいますと,なかなか今お話にあったような,ある方の法定相続人をぱっと分かるような状態にするというところまではまだ具体的な計画が立てられておらず,まずはマイナンバー連携を行うという前提で,その範囲内で計画を立てているという状態ですので,現状においては,まずは死亡情報を住基ネットから取得するというところで具体的な制度設計あるいはシステム整備を行っていくというのが穏当なのではないかというところでございます。
  ただ,繰り返しですけれども,先々,そういうことが可能になったあかつきには,もちろん私どもとしても情報を取得していくというところになりますし,民事第一課はもちろん民事局内の兄弟の課ですので,そういったところについてこちらの方からまた要望という形になるかもしれませんけれども,話はしなくてはいけないとは思っておりますが,具体的に情報が取得できる体制がどう整えられていくのかという部分で申し上げますと,今言ったような状況ですので,現状では,ここでは固いところの住基ネットからの死亡情報の取得というところでまずは考えてはどうかというところになります。
  それから,検索用の情報というところで,「等」という部分ございます。中間試案でも等になっていたかもしれませんけれども,この部分,一応基本4情報と言われるものがあと性別もございますので,性別も場合によっては書いていただくのかという部分がございます。
  あと,それから住基ネットをこれで検索するというためだけのものではなく,ちょっとこれは登記側で,せっかく申出していただくので,併せて情報を取得できないかなという話があるのが振り仮名でございます。この部分については,ここでははっきり書いておりませんけれども,後ろの方の所有不動産目録証明制度でも活用できるのではないかと。つまり,名寄せを行うときなどにこういう情報も含めて保持しておいた方が効率的に行うことができるのではないかということがありそうですので,まだはっきり具体的に決めたわけではありませんけれども,そういったものが差し当たりは考えられるのかなというところでございます。
  それ以外,今の段階では先ほど申し上げたとおり戸籍との連携は考えられておりませんので,それ以外の情報というのは,差し当たりは考えていないところになります。
○橋本幹事 すみません,分かりました。
  1点意見言い漏らしたのでちょっと追加させていただきます。
  相続人申告登記ですけれども,これ,登録免許税は非課税とはできないんでしょうか。非課税とすべきであるという意見がありましたので,御紹介します。
○山野目部会長 登録免許税の規律の在り方については,根拠法を所管しているのが法務大臣でないこととの関係もあり,当部会に対して審議を求めた総会に対して法務大臣が発出した諮問の事項の外にあるというふうに,厳密に申せばそういうふうな整理になりますけれども,しかしそうであるからといって,私が申し上げたいことは,議論をしないでください,というお願いではありません。相続人申告登記というそれ自体はここで議論すべき事柄でありますけれども,そこでもしその方向でいくとすれば,設けられようとしている制度の機能,立て付けと密接に関わる事項でございますから,ただいま橋本幹事から問題提起を頂いていた観点は,委員・幹事において御議論いただきたいと望みます。
  それとともに,今お尋ねの仕方で御発言を頂きましたが,どうなりますかというお尋ねそのものに関しては,この場いささか見渡しても答える人はおりません。今の橋本幹事のお話は,その観点に留意ししてまいりますということを私から御案内するということでお許しを頂くことがかないますでしょうか。
  ありがとうございます。引き続き御発言を承ります。いかがでしょうか。
  今川委員,お待たせしました。
○今川委員 司法書士会,今川です。
  弁護士会さんの意見と重複する点はあるとは思いますけれども,まず登記所が他の公的機関から死亡情報を入手する仕組みについては,個人情報の取扱いに配慮するということを当然の前提として賛成をしております。
  定期的に照会を行うということについて,どれぐらいの頻度かという素朴な疑問があるのと,費用対効果も含めて今後検討課題だろうと認識しています。
  連携先システムについては,先ほどの戸籍の情報という意見もありましたけれども,我々としては固定資産税情報との連携も引き続き検討を続けていただきたいという意見です。
  それから,検索用情報等の「等」の中ですが,補足説明の4で触れられていますし,今,村松課長からも御説明がありましたが,振り仮名を考えておられるということと,外国人の場合について,登記事項ではなく検索用情報としてローマ字表記の申出も考えていると書いてありますので,是非併せて検討していただけたらと思っております。
  連携先システムから取得する情報ですが,高齢者消除はどうなのかと思います。相続開始の原因ではないので,入手情報はなるべく絞り込む方がいいのではないかということで,消極の意見が多かったです。
  1の(注1)については賛成を致します。生年月日等の情報の申出を義務としたとしても,さほど過度な負担にはなりませんし,検索の精度を上げるには有益だろうと思います。
  それから,この新しい制度の施行時に既に所有権の名義人となっている者については,義務ではなく任意でいいのではないかと思います。ただ,登記名義人へ様々な方法によって周知をするとか,広報については積極的に行う必要があると思います。司法書士会としましては,既に名義人となっている者の申出の場合は,単なる本人確認ではなくて,登記名義人との同一性を確認するために,例えば登記識別情報を提供させる等厳格な本人確認が必要であるという意見を申し上げていたのですが,補足説明を読みますと,元々中間試案においても申出人と登記名義人との同一性を証明する情報の提供を前提としていたとされておりますので,安心しておりますし,今回そのことを明確にする観点から,(注1)の中に自己が当該不動産の名義人であることを証する情報というふうに明確に書いていただいたのは,分かりやすくて有り難いと思っております。
  (注2)ですが,表題部所有者についても相続が発生した場合に適切な登記がされるべきなのは,権利登記と変わるところはないので,本制度を導入すべきだと思います。
  登記所が死亡情報を入手した場合の不動産登記に反映させる仕組みですけれども,これも個人情報に配慮することは当然として,登記の公示機能を少しでも高めていくという観点から賛成であります。
  最後の住所宛ての通知については,今回の提案ではしない方向ということになっております。通知をすることは全く無駄だとは思いませんが,コストを考えると見送るということでよいと思います。
  これも,ほかの様々な方法によって相続登記の促進に関する周知を国民にしていくということが必要だろうと思います。
  公示の具体的な方法ですけれども,省令等によって定めるということですが,何らかの符号を表示するということで,そういう方向で検討されているのは賛成であります。
  それから,補足説明資料13ページの5の所有権の登記名義人が法人である場合と,所有権以外の登記名義人の場合については除外するという提案ですが,その方向で賛成であります。ただ,そこの理由付けのところで,所有権の名義人の場合は,虚無人名義の登記を防止するために住所を証する情報を提供しているというのが一つの切り口というか,メルクマールとして書かれておりますが,それはそれとして,我々とすると以前から意見として申し上げておりますとおり,所有権以外の名義の登記であっても,住所を証する情報を提供すべきであると考えます。このような規律を設けていただきたいと思っております。
  なぜなら,所有権以外の名義人について,死亡情報を入手してそれを公示するかどうかという公示のニーズやコストの問題と,所有権以外の名義人についても探索するための確実な手立てを残しておくというのは別問題であると考えておりますので,これについては引き続き検討いただきたいと思っております。
  第1の2の「相続登記の申請の義務付け」ですけれども,単に公法上の義務を課すことについては実効性とそれから私的自治の観点から消極ではあるのですが,相続登記の未了が所有者不明の発生の大きな原因の一つであるということと,今回,土地基本法に土地所有者の責務というのが定められており,その趣旨は十分理解をしておりますので,もし何らかの義務付けを課すとするならば,その方向性としては必要かつ最小限度のものとすべきであるという基本的な立場に立った上で,二つのことを前提としてこの登記の申請の義務付けに賛成を致します。
 その一つは,(注1)の1段落目に記載のとおり,遺産分割がされる前であっても法定相続分での登記の申請又はこの次の(3)で提案されている相続人申告登記の申出をした場合にも申請義務が履行されたものとするということ。
  それからもう一つ,二つ目の前提としては,過料の規定はやはり消極でありまして,これを行わないということを前提として義務付けに賛成をします。
  (注1)のただし書ですけれども,相続人申告登記又は法定相続分での登記がされた後,さらに遺産分割協議がされること,遺産分割協議の登記についても義務を課すかという点ですけれども,この二重の義務については消極であります。遺産分割がされた場合は,対抗関係に入ることもありますので,登記申請を期待することもできますので,新たに登記申請義務を課すべきではないと考えております。
  それから,第2の②③の場合でも,期間については①と同一にしていいと思っております。同一にしたとしても酷とは言えないだろうということで賛成です。
  (注4)の表題部所有者について,同様の規律を設けるべきであると考えております。ただ,相続人申告登記を表題部所有者についても適用していくという場合には,かなり公示方法の技術的な側面について検討しなければならないというのは理解をしております。
  この規律の施行時において現に相続が発生している場合はどうするかという問いかけが(注5)ですけれども,所有者不明土地の発生を将来に向けて抑えるということに加えて,現在存在する所有者不明土地問題の解消というものも非常に重要になってきますので,施行時に名義人が既に死亡している不動産についても,この本文の規律に準じた規律を置くべきだろうと思います。ただ,数次相続が発生している場合もありますので,過度な負担とならないように措置を講じるべきだろうと思います。
  義務履行の期間,今回1年,3年,5年というふうに提示されましたが,何年がいいかというのはなかなか意見が分かれるところです。相続人申告登記をすることで,申請義務が履行されるということを前提とするならば,その期間は比較的短期でいいだろうと思われます。ただ,あまり短期とすると,相続人申告登記だけ取りあえず急いでやって,それで安心して帰って遺産分割協議が放置されるということにもなりますので,そこは検討していかなければいけないと思います。
  過料については,先ほども申し上げましたように,登記官がその主観的要件を含めて認定をするのが困難であると思われるのと,過料に処される可能性があるから登記をするという意識が果たして働くかというその実効性にも疑問がありますので,消極であります。
  相続人申告登記(仮称),これについてはもう全面的に賛成であります。今回,補足説明4に出てきましたように,他の最寄りの法務局で管轄外の不動産も含めて申告登記の申出をすることができるという案,是非これは相続人の利便に資するものでありますので,そのようにしていただきたいと思っております。
  それから,登記申請義務の履行に利益を付与する方策ですけれども,これは何といっても先ほどもお話が出てきましたけれども,相続人申告登記も含めて非課税とすると,そういうインセンティブを与えていくということは,非常に重要ではないかと思います。
  「(4)その他」で,不動産所有者の特定を登記記録に基づいて行うという,このような法制度を置くということについて,提案のとおり,これは個別の規定ごとに検討していくべきだと考えております。
○山野目部会長 高齢者消除は情報連携の対象から除いた方がよいという意見をおっしゃいましたか。
○今川委員 はい。
○山野目部会長 そうですね,分かりました。
  御意見いただきましてありがとうございました。
  佐久間幹事,お願いいたします。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
  私は,相続人申告登記について,創設することそのものについては反対ではありませんけれども,中間試案が作成される前の段階から申し上げていたことですが,これをあまり過大に受け止めることは,不動産登記制度そのものの観点からして適当ではないのではないかと思っております。過大にというのは,どの点に関わるかと申しますと,特に11ページの(注1)の下線が引いてある部分の一つ上のところですが,相続による所有権の移転の登記の申請義務が相続人申告登記がされたことによって履行されたものとするという点に関わります。ここは実は私にはすごく違和感がございまして,過料の制裁についてどうするかということはともかくといたしまして,本来ここで登記の申請の義務付けで求めているのは,権利の登記のはずだと思うのです。
  その権利の登記が権利関係について全く公示力のない相続人申告登記がされたことによって,履行されたものとみなすというのは,ちょっと私には理解し難いというふうにしか申しようがありません。過料の制裁を科す点については科さないというのであれば,それはある程度は理解できますけれども,相続人申告登記をしたならば,共同相続登記,遺産分割後の登記等について,もうされたことと同じになるんだというのは,ちょっとおかしいのではないかと思うというのが一つです。
  その前提といたしまして,相続人申告登記でいいことにしようということについては,私の見るところでは理由が二つ挙げられているように思いました。一つは,私的自治の原則との関係,もう一つは国民負担の軽減です。国民負担の軽減のところは特に申し上げることはありませんけれども,私的自治との関係については,私は違う理解をしています。確かにこれまで不動産登記については非常に広い場面におきまして私的自治に委ねられてまいりましたけれども,権利の登記に関して申しますと,偉そうに言うまでもないことですけれども,二つの機能がございまして,一つは対抗要件が備わるという面,もう一つは,権利について社会において公示されるという面があります。
  対抗要件の側面に関して申しますと,これは正に個人の権利のみに関わる事柄ですので,私的自治に全面的に委ねればよいと思いますけれども,公示の側面は個人の権利がどうのこうのという問題ではなく,社会の利益の問題でございますので,私的自治に委ねるかどうかは,それは一つの判断であろうと思うのです。これまで私的自治に委ねられてまいりましたのは,私の理解では,ということでありますけれども,対抗要件主義を採っているので,その対抗要件主義を介して,個人は自らの利益を守るために社会の利益につながることとなる公示を備えるであろうと考えられてきて,ほぼ全面的に私的自治に委ねられてきたのではないかと思います。
  しかるところ,今般問題となっておりますこの相続を契機とする権利の登記の義務付けに関しましては,対抗要件主義を前提として個人の私的自治に委ねればいいではないかという考え方が機能しないではないか,あるいは機能しないおそれがあるのではないかということから,義務付けの話に来ているのであろうと思います。
  そこで,これまで私的自治に委ねられてきたのだからという理屈は,必ずしもそれが説得力あるものではないのではないかと思っております。これは単なる理由の問題なのですけれども,そうであるといたしますと,最後に国民負担の軽減のために相続人申告登記でいいことにしようというのであれば,それはもう権利の移転の登記について義務付けしないのと同じではないかと思っているところであります。
  これが意見でございまして,あと最後にちょっと伺いたいのですが,相続人申告登記に関しましては,各相続人がすることになるわけですよね。そうだとすると,3人相続人がいて,1人だけ相続人申告登記をしましたというと,その人は義務を履行したことになるけれども,あとの2人は義務は履行していない,そこで,例えばですけれども,申告登記をした人がチクって,こいつ義務を履行していないぞとなると,過料の制裁を仮に科すとすると,過料の制裁がその2人には科されるおそれがあるというふうになるということでよろしいんでしょうか。それとも,1人の人が相続人申告登記をすると,ほかの人は名前が全然出てきていないんだけれども,その人も義務を果たしたことになるか。これはどちらと理解すればよいのかお教えいただきたく存じます。
○山野目部会長 佐久間幹事から意見とお尋ねを頂きました。前半の方で御意見としておっしゃっていただいた点にいずれも留意しますし,取り分け11ページの(注1)に関連して相続人申告登記の効果が過料を課さないこととするか,それとも義務付けられている相続登記の義務を履行したものと擬制するということに近いものですけれども,要するに擬制するという規律表現をとるかということについては,よくよく注意をしてほしいという御意見はよく理解することができますから,法文の立案に際して御指摘を忘れないようにいたします。
  後段でお尋ねという仕方で頂きました事項,例えば戸籍上は一つの戸籍文書を見るとABCが推定相続人であることが分かるという際に,そのうちのAが相続人申告登記の申出をすると,BCとの関係で過料の制裁が発動される可能性は残るか,残らないかといったような問題について,どのような規律運用を考えているかというお尋ねを頂いたところでありまして,これは委員・幹事において御議論を頂きたいとも感じますが,差し当たってこの部会資料が伝えようとした規範内容がどのようなものであると考えられているか,事務当局から何かお考えがあったらお話しください。
○村松幹事 御質問の点ですけれども,ABCといて,うちAだけが申告登記をしたというケース。その場合はもちろんAだけの名前が登記には載るという前提です。その場合にBとCについては,もちろん義務は履行されていないという状況が生まれているという前提になります。
  したがって,主観的要件の具備などありますので,一概に直ちに過料の制裁ということになっていくのかどうかというのは,またそちらの問題がございますけれども,義務違反があるかないかという点に関していいますと,BCについては義務違反の状態が解消されているわけではない。そういう意味では,人単位で義務の履行の有無というのは考えられるというのが基本的な発想になっております。
  前半部分についても,私として感じているところを申し上げますと,確かに義務化に関しては賛否両論ございまして,反対の立場からすると,私的自治というものを重く見るという立場があるのはそのとおりですけれども,しかし,それだけではなかなか世の中回っていかないのではないか。現にこういう問題が起きているという御指摘は事務当局としてもそのとおりであろうというところで考えているところでございます。
  権利の登記の義務付けをしたという形になりながら,しかし,権利の移転の登記ではない,ある意味報告型であるにもかかわらず,なぜ申告登記で義務が果たされたといえるのかというのは,私どもからすると基本的には登記の公示がしっかり果たされていない,相続の局面でということに関しては,まず第一にはやはり死亡したということが登記面に表われていない,ここが一つ問題なので,それを何とかしたい。またそれから,本当は,パーフェクトに言えばもちろん相続人への権利移転,それ自体をすべからく明瞭に登記に表すことを徹底的に追求するというのもございますけれども,しかし,所有者不明土地問題の解消という観点からいいますと,まずは相続人が分からない,誰に連絡していいのかよく分からない,こういう点が特に大きな問題として指摘されているという点に鑑みて,そうすると,本来的にはこの二つ,死亡しているという事実と相続人の地位にありそうな方というものと,この二つの事実の公示というのが果たされていないというのが,完全にというわけではありませんけれども,特に大きな問題だという認識の下,これを何とかする方策を考えたい。
  現存するような権利移転の登記をすれば,それはもちろん満たされているわけですけれども,しかし,そういった方策に加えて,義務を課した趣旨が先ほどのもののようなことであるとすれば,新しい申告登記でも義務が履行されたというふうに見ることができるのではないかという,一応はそういう発想もあるのではないかというところで提案させていただいているというつもりでございます。
○山野目部会長 前段と後段の両方について,佐久間幹事から引き続きお話を頂きますけれども,その前に,後段で話題になっている相続人申告登記の制度のイメージを少し確かめておきたいと考えます。
  事務当局にお尋ねですけれども,一つの戸籍に関する事項の証明書を見ると,そこにABCの3人が推定相続人であることが分かるという内容が記載されていて,それを提供してきたAが相続人申告登記の申出をした,その申出に係る事案を扱う登記官は,それを受けて職権で相続人申告登記をしますけれども,Aのみを相続人であるというふうに記録するものですかね。それとも,その文書を見るとBCも相続人であることが登記官にとって顕著であるときに,BCを書いてあげることはしないという扱いを前提に今の議論がされたように聞こえましたけれども,そのようなイメージで今の制度を考え込んでいこうとしていますか,という確認が1点と,それからもう一つは,仮にAのみを書くという扱いのときに,これから登記官のところに行こうとするAに,BとCが自分たちが忙しいから一緒にそれ申請しておいてくれないか,と求めた場合には,代理権限証明情報さえ出せば,AがA自身及びBの代理人兼Cの代理人としてABCを記録する相続人申告登記の出をすることは可能であるという理解でよいか。まだ制度の具体的な姿を考え込んでいない段階かもしれませんけれども,現段階で何かお感じになっていることがあったらお教えください。
○村松幹事 現状考えているところでは,いずれも御指摘のとおり,両方ともイエスという答えになると思います。Aだけが申告登記では名前が出る。Aさんからの申出なので,Aだけを出します。また,BCも併せて代理が,業ではないケースにおける代理ですけれども,代理自体はもちろん認めて構わないだろうと思いますので,そういうものは一般論としては想定しているところです。
○山野目部会長 佐久間幹事,お話をお続けください。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
  2点目については,特に申し上げることはございません。
  1点目についてですけれども,村松幹事がおっしゃったことについては,理解はいたします。しかしながら,私はやはり違う考え方を持っておりまして,相続人申告登記というのは確かにお手軽でよろしいと思うのですけれども,それさえしておけばいいんだというイメージが定着いたしますと,更に一層権利の登記がされにくくなるのではないかと思います。
  ですから,繰り返しますけれども,過料については相続人申告登記をした方については科さないということはあると思いますけれども,そうであっても,権利の登記はしなければならないんだと,結局その部分は訓示規定にしかならないのかもしれませんけれども,そこは残すべきではないかと私は思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事の御意見の趣旨はよく理解いたしました。御意見を念頭に置いて検討を進めることにいたします。
  説明の仕方が苦労を要する部分がございまして,国民に対して過度な負担を強いるものではありませんよ,御安心くださいという観点からアプローチしていきますと,相続人申告登記さえしてくれれば,義務はすっかりきれいに果たされたことになりますという口ぶりになりますし,反面,国民に対して相続による権利変動があったら,きちんと登記をしてくださいという方向で国の制度を運用していきますから御協力くださいということを呼びかけていくという見地からいうと,たやすく義務はすっかり果たしたことになるという説明では誤解を招きます,ということもそうなのでありまして,規律の表現を法制上どのようにするかという点とともに,そこのところについての言葉の選択が国民に対してどのようなメッセージとして伝わっていくかということに留意しなければなりませんから,ただいま佐久間幹事と村松幹事との間で意見交換があって,そこで出された観点がいずれも重要であるというふうに受け止めながら検討を進めてまいるということにいたします。
  藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
  企業実務の観点から申し上げますと,これは従前の部会でも申し上げてまいりましたとおり,やはり実際に用地管理,用地取得の実務を担当している立場から見ると,正に今回の御提案の第1の1の(2)で示されている登記所が死亡情報を不動産登記に反映させてくれるという仕組みですね,符号であったとしても,それが分かるというのは,最初の段階で,用地関係業務の初動でどう動くかというところで,非常に有り難いというか,非常に有益な制度なのではないかと思っております。
  あともう一つが,正に相続人申告登記でございまして,これも実際に誰が動いているか,実際に相続人の立場にあるということを認識しておられるかということが真っ先に分かるという意味では,その土地に利害関係を持つ立場というか,その土地に対して関心を持っているという者にとっては,非常にそういうのがあると有り難いというところはあるかと思います。これは正に村松幹事が先ほど強調されていた点で,企業の実務にとっても非常に有益な制度になるのかなと思っているところです。一方で,今気になるところがあるとすれば,部会資料18ページのところにございます,施行時に所有権の登記名義人が死亡しておられる場合にどうなるかというところです。これも従前からいろいろ質問等はさせていただいていたところなんですが,やはり今一番実務で問題になっているところというのが正にここでございますので,これに関しては過料制裁とかを科すのはさすがに酷であるというのは非常によく理解できるところではあるんですが,一方で,これがそのまま放置されていると,新しい制度を作っても効果が半分になってしまうのかなというところはございますので,せめて誰か一人でも相続人が申告するようなインセンティブが出るような形で何かやっていただけるとよいのかなと思うところはございます。また,先ほどからいろいろ御懸念というかご指摘が他の先生方から出ているとおり,相続人申告登記で止まってしまう場合というのも考えられるのかなと思うところで,それがいいというわけではないんですが,現実問題としてそうなったときに,例えば登記所が死亡情報を反映させるという仕組みの中で,相続人申告登記にも符号を付けてやるということは想定されているのかどうかというところは,最後に確認をさせていただければと思っております。
  というところで,制度としては非常にすばらしいものができつつあるなと思う一方で,細かいところではまだもう少し詰めていくべきところがあるのではないかというところで意見を申し上げた次第です。よろしくお願いします。
○山野目部会長 藤野委員から頂いた御意見は受け止めました。
  それから,御疑問として御提示いただいたことですが,お示ししている部会資料では死亡情報を入手したときには所有権の登記名義人の死亡に係るものについて,それと分かる符号を付するということになっておりますけれども,相続人申告登記によって相続人であるという記録がされたものについて,類似の符号処理を考えるのかというお尋ねがありました。事務当局からお願いします。
○村松幹事 申告登記をされた方が亡くなられたという状態になったときに符号を付すという施策を講ずるかどうか,これはまだ実はこちらとしても検討中でございます。ニーズが一定ありそうだなとは感じておりますけれども,他方で,またそれだけ登記所側の負担が増えてまいりますので,そういったところができるかどうか,そこはちょっと検討したいと思っておりますが,ニーズの御指摘は承りました。
○山野目部会長 藤野委員,よろしいですか。
○藤野委員 はい。連携可能なのであれば,というか,正式な登記がなされないことを前提にシステムを作られるというのはなかなか大変かなとは思うのですが,ニーズとしてはございますというところは,改めて申し上げます。
○山野目部会長 ありがとうございました。
  國吉委員,どうぞ。
○國吉委員 ありがとうございます。
  今回のこの不動産登記法の相続の義務,そして登記所における検索用情報を取得するというようなところについては賛成でございます。この事案の発端が,やはり所有者不明土地問題というのが大前提で,簡単に言いますと,登記所のデータだけでは所有者が発見できないというところからスタートしているんだと思います。その所有者を探索するなり特定するための情報を登記所が多く取得するというのが,外国人の問題もありましたけれども,非常に重要だと思っております。
  その中で,相続登記の義務化ですけれども,今,相続申告登記等の御議論がありましたけれども,やはりこれ相続登記が大前提なことには変わりがないのだろうと思います。ちょっと情報的に私どもも例えば相続が発生した段階で現時点でどのくらいのパーセントで相続登記がされていないのかという情報は持っておりませんけれども,通常であれば,例えば売買であるとか,それから敷地なりを有効利用しようとすれば,当たり前のように相続登記をするんだろうと思うんですね。それがないという大前提として申告登記をするんだということだと思います。
  ですので,そうであるならば,やはり基本は国民の皆さんに発信するのは,相続登記が当たり前ですけれども大前提にあるんだと,その中でどうしてもやむを得ずそれができない場合において初めて申告登記をするということを,大きな声でというか,啓蒙していただきたいと思います。
  ですので,この過料については,どうしても義務を課すのであればやはり過料が必要なんだろうと思います。表示に関する登記の義務化の問題でも,それほど我々の表示に関する登記を実務としてやっている者について,過料という問題については特に問題になることはないのかなとは考えております。
  あと,表題部所有者については,この後一括していろいろなところで議論をしていただくということで,また継続して是非お願いしたいと思います。
○山野目部会長 あまり過度に図式化してお話しすると,単純化のし過ぎであるというふうに叱られてしまいますけれども,伺っていて,司法書士会は過料に冷淡で,土地家屋調査士会は過料に慣れているという構図を頭のなかで描きました。ありがとうございました。
○山本幹事 非常に細かい点を一つだけ御質問したいと思いますが,23ページから24ページにかけてのところに,今話になっている相続人申告登記について,申請の仕組みによらないと書かれています。初めの方に書かれていることは理解いたします。権利の登記のような手続ではなく,もっと簡易な手続によると。それからそこで審査される内容に関しても,客観的な事実に関わる問題であるということです。
  ただ,その次のところで,申出という仕組みを設けることとした場合,またと書かれているところですけれども,これは,申出というのは一種の届出であって,届出の後に職権で処分が行われるというイメージかと思ったのですけれども,そうする必要があるのでしょうか。基本的に申請のスキームでその後の通知であるとか不服申立て等の手続を考えてもいいような気がいたします。
  例えば納税申告の場合などと違って,単なる義務であるだけではなく,やはり自分の情報を表示してもらうという言わば権利としての面もあるのではないかという気がいたしまして,そうだとすると,基本的な仕組みとしては申請と考えて,ただ簡便な手続にするとか,通常の権利に関する登記とは違う手続にするというやり方もあるかと思ったのですけれども,ここであえて非常にはっきりと特別な手続を考えると,5の直前のところで書かれているのは,やはりこうでないと法制上はまずいということがあるのでしょうか。
○山野目部会長 どうして申出で職権ですか,というお尋ねに対して,事務当局からお願いします。
○村松幹事 恐らく山本幹事がおっしゃいましたように,これは広く見れば申請に対する一種の応答の部分があるという整理になってくると思います。ただ,登記官側での主体的な判断事項もあるだろうしというところで,申出というものが一応あり,それをキックオフにして更に登記官側での行動があっての登記に至るのだという,一応その2段階の整理ということにした方が,整理としては整っているのではないかとは考えたところです。
  広い意味で申請応答型であるのは恐らく間違いないので,恐らく権利としての側面も,おっしゃるように当然ございますので,その部分について申請型の行政処分としての不服手続というのをある程度想定しながら,登記としての手続も作るということになりますけれども,不動産登記法の中での従前の申請というものとの差異を付けつつ,しかし登記官側の作用というのが普通の不動産登記の申請とは違う部分がやはり残りますので,そこの部分については差をつけて整理をした方が,今後の各所への説明がしやすいのではないかなというところを考慮してございます。
  また,ここの辺りは法制的な整理もありますので,もしかするとまたちょっと形を変えてというところはあるかもしれませんが,実質としてはそういうところを考えております。
○山野目部会長 山本幹事から御懸念というか疑問として御提示いただいたことを,ただいま村松幹事からも御案内申し上げたとおり,引き続き検討してまいります。改めて考えてみますと,申請に対して登記官が却下するか認容して登記を実行するかという手続構造ではなくて,申出を職権発動のきっかけとして構成するという現在お示ししている相続人申告登記のこの法的構成をとったときには,申請とどこが異なるか,あるいはどこが違ってくる可能性があるかという問題について,気付く範囲でも幾つか気になる点はあります。
  二つ申し上げますと,一つは不動産登記手続に内在的な問題ですけれども,申請がされてそれを登記官が認容したときには,登記が完了した後で登記完了証を当事者に対して,つまり申請人に対して与えるということが現在の不動産登記に関する法令の規律であります。それを申出にしたときには,現在の不動産登記規則の法文上は,登記完了証を出すということには当然にはなりませんから,もし同じ解決をとるとすれば,不動産登記規則の関連する規定を見直す必要があります。
  それからもう一つ,今度は行政手続との関係においては,権利に関する登記であると表示に関する登記であるとを問わず,現在の制度の運用は申請がされたのに対して登記官が拒む,却下処分をするということになりますと,これが行政処分になります。行政不服審査請求の対象になるのみならず,行政事件訴訟法に基づいて抗告訴訟を提起して,取消訴訟や,場合によっては義務付けを請求することが可能であるという理解で運用されておりますが,それが申出をきっかけとして職権でするという構成に変えたというか,そちらを採ることによって,行政救済法の適用との関係で何か違いが生ずるか,あるいは生じないかといったようなことを検討してまいらなければなりません。
  反面において,申出をきっかけとして登記官の方でしてあげるという言い方が適切かどうか分かりませんけれども,国民に過度な負担をかけるのではなくて,登記官の方が職権でいわば国の給付,サービスとして,してあげるという構成によった方が,相続登記を励行してくださいというムーブメントの関係からいうと,国民に親しんでもらうものとしてメッセージを伝えることができるという側面があるかもしれません。そのことの延長ですけれども,例えば橋本幹事から問題提起を頂いたように,登録免許税を課するという取扱いを相続人申告登記についてするのは,政策的には問題があるとも感じられますから,登記官が職権で登記をするという整理もあり得ると考えられます。
  そういったことを考えると,していることの実質は同じですけれども,届出を契機として相続人を登記簿に記録するということは同じで,考え方の整理はどちらでも中身は同じだからいいではないですかというわけにはいかなくて,細かく考え始めると幾つかの論点がございます。山本幹事から問題提起を頂いたことなどをきっかけとして,制度として整えるまで検討を続けてまいるということにいたします。
○松尾幹事 この相続人申告登記と権利の登記としての相続登記との関係について,部会資料38の11ページの(注1)で,相続人申告登記の申出をすれば,相続登記等の代わりになるということなんですけれども,両者の関係を考えてみたときに,完全に代替するというよりは,相続登記についてはいろいろ遺産分割も時間がかかるだろうから,それはすぐにはできないという事情もあるかもしれないけれども,とにかく相続が発生したということについては知らせてください,その後できるだけ早く遺産分割をして相続登記をしてくださいというのが制度趣旨なのではないかと思います。そうすると,相続人申告登記さえすれば,完全に相続登記に代替してしまうというのはちょっと本来の制度趣旨ではないのかなと思います。
  そうであるとすれば,申告期間について,相続による権利取得の事実について知ったときから1年,3年,5年とありますけれども,これらについても相続人申告登記の方はもうちょっと短くするとか,それと本来の相続等による取得の登記とは必ずしも同じにしなくてもいいのではないかという気もいたします。
  相続人申告登記は例えば1年以内とか,あるいは6か月以内とか,早くやってもらって,そうすれば相続登記の方は本来3年が5年になって,それで遺産分割の準備に入ってもらうというような運用はできないものかどうか。期間についてまで全部同じにして,相続人申告登記で代替できますよというと,先ほど佐久間先生からのお話もありましたけれども,何かそれで終わってしまうのではないかという気もして,相続人申告登記と相続登記がつながっているということについて,もう少し制度的にこの両者の関係をうまくつなげられないかという気がいたします。
○山野目部会長 松尾幹事がおっしゃるのは,飽くまでも一つの例でありますけれども,例えば相続登記の義務付けの本則の期間を5年と定めておいた上で,1年以内であれば相続人申告登記をすることにより過料の制裁は免れることができますというような組合せがあるものではないかというアイデアを提供してくださったというふうに受け止めます。アイデアを頂きました。
  その場に立った相続人が,何と言ったらいいでしょう,人間行動分析というのですかね,どういうふうに動いてくれるんだろうかということを幾つかシミュレーションしてみないといけないということが委員・幹事の御発言を幾つか伺っていて感ずるところであります。
  今の松尾幹事がおっしゃったことを一つの何か楽しいアイデアであると感じたとともに,そうすると,手っ取り早く,素早く動く人は1年以内に取りあえずもう相続人申告登記をやってしまって,あとは知らないよとなってしまう可能性もあるし,そういう方向を助長するとすると,多分松尾幹事やしばらく前に佐久間幹事がおっしゃったことの本意には反するし,いや,そういうふうに動く人ばかりではないですよというふうな実態予測が得られるならば,御指摘いただいたようなアイデアが一つの有力な案になってまいりましょうし,今の御意見をきっかけに,また様々な想定を考えて,検討していかなければいけないということを感じます。
○村松幹事 今の点でお話を伺っていて,想定をというところなのですけれども,何となく事務局として松尾幹事のおっしゃった観点で考えていたのは,1年,3年,5年と書いてありますけれども,恐らく我々からすると1年という短い期間で①の部分とかは整理をした上で,ここから先は,今は資料上は両論を掲げていますけれども,(注1)のただしの傍線のところですね,そちらの方でもう一度義務を課すかという点が挙げられていますが,お話を伺っているとこの再度の義務というのが一番近いのかなという気もいたしました。遺産分割が終わったら遺産分割による相続登記を義務としてやっていただきましょうというふうに言うのかどうかというのは,本当に両論,今日も意見がそういう意味では出ているようなところがあるような気がしておりますけれども,これは本当になかなか事務局としても,さあどうしたものかしらというところが非常に難しく,まだ決定的に何かというところがないなと感じておりますので,また引き続きここはよく検討したいと思っています。
○中田委員 いずれも細かい御質問だけでして,結論に結び付かないことなんですけれども,3点ございます。
  一つは,過料ですけれども,これは筆ごとに科されるという理解でよろしいでしょうか。
  それから2番目は,過料に処せられた場合にそれに連動するサンクションというものが何か実際上あるんでしょうか。
  それから3点目ですが,法定相続分の相続登記を第三者が代位によりしたという場合には,これは相続人は義務を履行していないという状態になると思うんですけれども,そうすると,遺産分割を一定の期間内にしなければいけないということになるのかどうか。以上3点お教えいただければと思います。
○村松幹事 1点目については,正に運用の問題になってくるかと思いますけれども,概念的には筆ごとという理解になろうかと思いますが,実際過料の制裁をどのような金額で科すということになっていくのかという部分については,必ずしも掛け算というものでもない,そういう運用があるのではないかなと考えておりますが,まだここは議論が必要かなと思います。
  それから②について,過料の制裁を受けた上で更に何か過料の制裁を受けたことで追加的な不利益が課されるかということの御質問だったかと思いますけれども,我々としてはそういったものは特にないのではないかと思って立案はしております。もしかしたらちょっと見落としが何かあるのかも分かりませんが,特段そういうものはないのかなと思っております。
  それから,代位の形で法定相続分での相続登記がされるケース,確かにございます。そのケースについては,自分でしたものではありませんけれども,本人がしたものと同じように扱うということで義務は果たされていると見るのかなと,むしろそちらの方で考えておりました。
○山野目部会長 中田委員,お続けください。
○中田委員 ありがとうございます。
  第3点について,書き方だけの問題だと思うんですけれども,11ページの(注1)のところでは何か自分でしたというように読めたものですから,もしそういう御趣旨であれば,それを明らかにしていただければと思います。
  それから,第2点については,これは全く私,知識がないのでお聞きしているだけなんですけれども,何か過料に伴う社会的なといいますか,あるいはほかの制度との関係で不利益があるのかないのかということが,実はこの後の問題でも出てまいりますので,お教えいただければと思った次第です。しかし,今のところは,追加的な不利益がないだろうということでしたので,それを前提に考えてみたいと思います。
  ありがとうございました。
○山野目部会長 中田委員からお尋ねがあったうちの1点目は,あまり考えられていなかったことであるとは感じますし,現実に部会資料でも過料通知を現実にするのは慎重な運用を想定しているということで,そこで何と申しますか思考停止になっていたものであろうと考えますけれども,現在の規律表現で法文が書かれた場合の形式論理を言えば,筆ごと,筆ごとというか,厳密に言うとこれは建物も入りますから,1個ごと又は1筆ごとについて,過料は刑法上の犯罪ではありませんけれども,犯罪構成要件の考え方になぞらえて言えば一罪が成立するという理解になるものでありましょう。ただし,これは元々行政上の秩序罰である過料に関して,刑法総論的な思考を緻密に当てはめていろいろな議論がされるということの蓄積が恐らく今までなかったであろうと思うのですね。
  例えば,刑法でいえば併合罪の関係になるような場面について何か特別の操作をするかとかいったような議論がないまま今日に至っていて,100筆の土地を持っている人が不動産の相続人の登記を怠ったら,例えば5万円掛ける100の過料を科せられることになるか,そうではない何らかの調整はあるかといったようなことは,一つの理論上の宿題であるかもしれません。いずれにしても,非常に謙抑的に発動していきますという部会資料の御案内と併せて,また中田委員においても御検討いただければとお願いします。
  2点目で御指摘いただいた事項は,村松幹事から御案内したとおり,私も今思い起こしておりますが,懲役刑などに処せられたときに何々の資格を奪われるとかという場面は,中田委員も御存じでいらっしゃるように幾つかの場面でありますが,過料に処せられると何とかという場面は,あまり記憶の範囲ではありませんね。しかし事務当局においてなおきちんと調べておくということはもちろんでございます。
  代位に関しては,考えられている解決は,村松幹事の方から現段階の事務当局の考えを御案内しましたから,中田委員から御注意いただいたように,それを規律として表現していく際に注意をすることにいたします。
○佐久間幹事 すみません,もう一度申し上げるまでもないのかもしれません,もう終わりかけたのに申し訳ありませんが,先ほど村松幹事がおっしゃった事務局としては,何でしたっけ,相続人申告登記がまず例えば1年以内にされて,その後,例えば更になのか,相続開始時からなのかちょっと分かりませんが,5年程度以内に遺産分割の登記がされる,それを義務化するんだということなのかなというふうにおっしゃったように思うんですが,もし私が今申し上げたことが理解として間違いでなければ,私はそれがいいと思っておりまして,そうすることが中田先生が3点目で確か少し言及されたと思うのですが,遺産分割の義務化というんですか,遺産分割の促進にも資するということになると思います。ですので,この11ページの(注1)の下線部のただしのところの検討を是非進めていただきたいと思っております。
○山野目部会長 承りました。
  ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
  それでは,相続登記の義務付けまでのところの審議は,今日頂いたところを踏まえて議事の整理を続けることにいたします。
  本日お届けしている部会資料の38は,御審議を頂きました部分に続けて,相続に関する登記手続の簡略化という問題提起を差し上げています。これについては,(1)といたしまして,遺贈による所有権の移転の登記の登記手続の簡略化として,相続人を受遺者とする遺贈に関して,不動産登記法60条の規定とは異なり単独申請を許容するという方向での方針を打ち出しているところでございます。
  それから,(2)として法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化というお話でありまして,先ほど佐久間幹事にも話題にしていただいた局面でありますけれども,一旦法定相続分による登記がされた後で遺産分割などによる権利変動があった際の登記を更正の登記によっていたさせるということはどうかという提案を差し上げておりまして,より詳しく申し上げれば,部会資料の30ページでございますが,30ページの上の方に太文字で①から④と示しているこのいずれについても,権利に関する更正の登記で処するという解決を考えたいという方向を示しており,これについてどのように考えるかというお尋ねを差し上げているところでございます。
  あわせて,30ページの一番上には不動産登記実務の運用により対応するという前提で,不動産登記に関する法令の,取り分け法律の改正はしないという前提での構想を示しているところでありますけれども,考え方によっては法律改正によって問題を扱うということもあるかもしれません。いずれにしても,委員・幹事におかれては,①から④の全体を見て御意見を仰せいただきたいと望みます。あわせて,①から④のうちの③及び④については,一旦登記名義人となった者に対する通知を登記官からするという一種のサービスを付加して丁寧に進めるということも考えられるところであり,そのようなことまでする必要があるかどうかということの問題提起も添えてございますから,こちらも意見をおっしゃっていただきたいと望みます。
  部会資料の32ページにまいりますと,一番下のところでそれとは異なるお話として所有不動産目録証明制度,仮称でございますが,その創設について中間試案で提示していたものと骨格を同じにするものを提示してございます。補足説明も含めますと37ページの第2の手前のところまでになりますけれども,この範囲で委員・幹事の御意見を承るということにいたします。いかがでしょうか。
  橋本幹事,お願いします。
○橋本幹事 ありがとうございます。
  まず,3の(1)ですが,これについては弁護士会としては異論ありません。
  (2)なんですが,①から④について,更正登記で単独申請という方向性については異論がないんですが,実務の運用で対応するという点については,反対というか,いかがなものかと,なぜそういうふうにするのかという真意をお尋ねしたいんですが,やはり共同申請原則の例外を広く認めるということになりますので,そこは法文で明示すべきではないかという意見が強いものがありました。
  それと,この③④についての32ページの4の上に書いてある(注)ですけれども,これはその方向でやっていただきたいと考えています。
  4もいいんですよね。所有不動産目録証明制度を創設するということについては,大きな異論はありませんでした。賛成方向なんですが,ちょっともう割り切るという政策判断と理解しますけれども,35ページ,36ページ辺りにこの目録証明書を第三者が取得する可能性について注意が必要だというふうに規律がいろいろ書いてあるんですが,他方において代理人による申請は排除されないという前提で考えられているので,そうすると,債権者が債務者に対して目録証明制度の申請の委任状を事前に取ってしまうというケースが考えられまして,それをやられるともう身も蓋もないというか,もうフリーで行ってしまうので,それはもう仕方がないという割り切りで制度設計をやらざるを得ないだろうなと思います。
  更に言えば,我々弁護士は債権者側・債務者側両方の代理をやりますので,債権者側で代理をする場合には債務名義を取っていれば民事執行法の改正で取れるという立て付けですが,その前の段階で債務名義がなくても弁護士法23条の2による弁護士会照会制度によってこの証明書の情報を実質的に入手することができてしまうだろうという点もちょっと問題かなとは思うんですが,それでもこういう制度があった方がメリットは大きいかなと思うので,そういう点に注意しつつ賛成という意見です。
○今川委員 まず3の遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化ですけれども,現行,特定財産承継遺言は単独申請が認められています。相続人に対する遺贈というのは実質的には特定財産承継遺言と変わるところはないというふうに理解しております。
  そして,特定財産承継遺言による登記は,戸籍事項証明書等に加えて遺言書を添付することにより登記の真実性が担保されているという前提です。相続人に対する遺贈の登記も同じように戸籍事項証明書プラス遺言書を添付して行うというものですので,単独申請を認めたとしても真実性の担保が劣るものではないというふうに理解をしております。
  次に,一旦法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化ですけれども,本文の提案について賛成です。実務の運用によって対応していくということも含めて賛成であります。ただ,前提としては,運用でこれを認めるというのは,相続法の枠内での限定的な例外的措置なので,不動産登記制度の共同申請主義の原則を変更するものではないので,この取扱いが更に売買や贈与などの登記にまで手続簡略化の名の下で単独申請を許容するということは,あってはならないことだということは大前提であります。
  それと,登記の目的を所有権更正とされた上で,所有権更正となると登記原因は錯誤というふうにセットみたいに考えられているのですけれども,今回,錯誤ではなくて①から④の態様に応じて,例えば①であれば遺産分割というふうにして,①から④までの意味が登記原因からも分かるようにしていくということについて賛成であります。
  この更正登記についても非課税とすべきだろうと考えております。
  ④については,部会資料の一つ前に提案されているように遺贈による所有権の移転登記手続の簡略化が認められるということが前提となります。まずそこで簡略化が認められるとしたら,④について,法定相続分による登記がされた場合であっても,単独申請で認めてよいということであります。
  補足説明の(注)ですが,③と④については他の相続人に対する通知をするということですが,司法書士会としては通知をする必要はないのではないかという意見が多いです。補足説明によりますと,前住所通知制度を参考にして他の相続人を保護するという観点からとあります。とすると,そもそも法定相続分による相続登記を経ていないで,遺言によって権利を取得した相続人が直接単独で申請を行う場合についても,他の相続人を保護する必要があるのかどうか,権利を取得しない相続人に対する通知を行うかどうかということを検討すべきということになってしまいますが,今までそのようなことは議論されたことがないし,必要性があるとは思えませんので,この③④の場合のみに通知をするということについては不要であるという意見です。
  それから,ちょっと関連ですが,遺産分割協議を経た登記と,それから法定相続分による登記は,どちらも登記原因は「年月日相続」となりますので,非常に細かいお話になりますが,登記記録上からはその権利関係が遺産共有なのか,遺産分割協議を経た後の共有状態であるのかというのが分かりませんので,遺産分割協議前の法定相続分による相続登記なのか,遺産分割協議を経た後の相続登記なのかが分かるような登記原因というものも今後検討はしていただきたいと思います。
  4の所有不動産目録証明制度ですけれども,これはもちろん賛成であります。
  (注3)について,表題部所有者もやはり対象とすべきだと思います。システム上の難しい問題はあるのかもしれませんが,やはり表題部所有者も対象にした方がいいと思います。
  (注2)に関して,今弁護士会さんの意見もありましたけれども,債権者からのプレッシャー等があるのではないかという点なんですが,これは本制度を置くということとはまた別に,検討していただくという補足説明になっていましたけれども,その方向でいいのではないかと考えております。
○山野目部会長 弁護士会と司法書士会から御紹介いただいた御議論の範囲で若干の議事の整理を差し上げておきます。
  3の(2)の法定相続分で一旦相続登記がされた後の登記手続の簡略化に関して,両会からどちらも部会資料30ページの上の方の①から④の全てについて簡略化する方向に賛成であるという大筋の意見を頂きましたとともに,細部を伺うと,少し検討しなければいけないことがあります。
  一つは,①から④の全体について,法制上の措置を講じて簡略化を明らかにするか,運用の見直しで処するのかということについては,異なる感覚の御意見の御披露を頂きました。橋本幹事に引き続き御理解を頂きたいことですけれども,御意見を理解するとともに,法文にちょっとしにくい面があって,つまり,例えば遺産分割でいうと今まで実務は圧倒的に持分の移転の登記でやってきていたところを今回は更正の登記に変えるものですが,変えるといっても従来の持分の移転の登記でやってきた扱いが,そうするのですよというふうに何か法律に書いてあったものではないし,確固とした先例があってそうなっているわけでもなくて,それが実務で普通であるということでしていたところを直そうするものでありますから,少し法文が書きにくうございます。この点は御理解ください。
  ただし,①から④は簡略化する,という法文は書けないですけれども,①から④のことをするときには,更正の登記の申請権者はこの人であるというような書き方をする解決は,従来の不動産登記法の法文の書き方として不自然ではありませんから,御指摘,御要望も踏まえて考えてまいるということにいたします。
  それから,③④について登記名義人への通知ということをするかどうかについて,弁護士会からお出しいただいた議論と司法書士会からお出しいただいた議論の方向性が,形だけ比べると一致しておりません。これは,引き続きこの通知の要否について,しかしどちらも伺っていると引き続き丁寧に考えてほしいという御趣旨だったというふうに受け止めますから,また事務当局において検討するということにいたします。
  また,司法書士会からは,①から④をするときは当然非課税ですよねとおっしゃられましたが,ここ何もしないと1,000円かかると思いますね。1,000円をゼロにするという御意見であるかどうかも,御意見の趣旨を伺っていまいりたいと考えます。
  それから,法定相続分で登記をした場合において,登記原因が相続になり,それから遺産分割した場合も直接それをすると相続になるから区別してほしいという実務上の需要のお気持ちは,しばしばその悩みを聞きますし,よく分かります。それをやり始めると,譲渡担保が登記原因だったときに実行された譲渡担保か,そうでないかみたいな区別もしてくれとか,いろいろ現場からはそういう声が上がってきていて,それをこの機会に事務当局において全部精査せよということも大変な話になりかねません。可能な限りで御要望の趣旨を受け止めて,検討を続けてまいるということにいたします。
  水津幹事,お願いします。
○水津幹事 では,相続人に対する遺贈に関する登記手続の簡略化について,29ページの小括の上のところに述べられていることとの関係で,意見を申し上げます。
  3(1)の規律の趣旨については,まず,次のような考え方をとることが考えられます。すなわち,特定財産承継遺言は単独申請ですることができるのに対し,相続人に対する遺贈は共同申請でしなければならないとするのは,両者の機能的な類似性を考慮すると,合理的でない。この考え方によるならば,相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記以外についても,その趣旨が当てはまります。そのため,この考え方によるならば,補足説明でも指摘されているように,不動産を目的とする所有権以外の権利の移転の登記についても,相続人に対する遺贈によるものについては,同様の規律を設けるべきであることとなります。そのほか,これと同じことは,船舶や自動車等といった登記・登録を要する動産についても,当てはまります。さらに,相続人に対する遺贈による債権の移転についても,民法899条の2第2項の規定に準ずる規律を新たに設けるべきであることとなりそうです。
  これに対し,3(1)の規律の趣旨については,次のような考え方をとることもできます。すなわち,相続人に対する遺贈も,遺贈にほかならない以上,相続の性質を有する特定財産承継遺言とは異なり,原則どおり共同申請によらなければならない。もっとも,補足説明にあるように,不動産を目的とする所有権の移転の登記に限っては,相続登記の申請の義務化と併せて,所有者不明土地問題の解決を図るという観点から,その手続の簡略化を認めるべきである。この考え方によるならば,今回の提案のように,相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記に限って,新たな規律を設けるべきであることとなります。
  相続人に対する遺贈による権利の移転を公示する手続について,これを一般的に簡略化する規律を設けないとするのであれば,前者の考え方ではなく,後者の考え方を基礎に据えることとなり,その結果,今回の提案が支持されることとなるように思いました。
○山野目部会長 水津幹事が理論的な観点から注意すべき点を御指摘いただいたことを理解いたしました。御指摘いただいたことは受け止めて,今後の検討の参考にするということにいたします。
  水津幹事が直接おっしゃっていることではありませんが,そのことを発端として事務当局に対し念のため理解を確認します。相続人を受遺者とする遺贈を単独申請ですることができるというお話は,それはそれとして理由とか説明については多々御注意があったものの,大筋において委員・幹事から御支持を頂いているところでありますとともに,これはあれでしょうかね,単独申請でできるということであって,仮に共同申請でやってきたときに,何かそれを却下する理由はないような気がいたします。そこは,これは飽くまで理論的な問いであって,めったにそんなことをする必要はないと考えますが,そのことが1点と,それからもう一つ,遺言執行者が申請してくるときは,もちろん従前の実務どおりそれも許されるという理解でよいであろうとも感じます。この2点,いかがでしょうか。
○村松幹事 御指摘のとおりであると考えておりまして,共同申請でももちろん可能だという従前の枠組みを残した上で,追加的にといいますか,こういう形での単独での申請も認めると,申請の根拠規定を1個付け加えるような,そういう位置付けになろうかと思います。
○山野目部会長 水津幹事,お続けになることはありますか。
○水津幹事 とくにございません。
○山野目部会長 よろしいですか。
  引き続き委員・幹事から御意見を承ります。いかがでしょうか。
○國吉委員 4の所有不動産目録証明制度なんですけれども,これも賛成でございます。これは,前回のときの議論にもお話をしましたけれども,特に,例えば都市部でもそうですが,いわゆる固定資産税等がかかっていないような,例えば都市部における道路内の敷地民有地などは,御本人も所有しているかどうかというのを知らない場合が多うございます。そうすると,やはり相続のあったときに相続登記漏れという状況が結構散見されます。そういったものを防ぐためにも,やはり個人というか,自己の持っている所有不動産がどれだけあるのかというのを客観的に判断できるというようなこういう制度を作っていただくというのは,所有者不明土地の解決についても非常に有益だと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。
○山野目部会長 道路の端っこに長く細長い筆である土地って,困りますよね。ほったらかしにされることがよくあって。國吉委員が御指摘のとおり,この制度が設けられれば今よりは,劇的にそうなるかどうかは分かりませんけれども,関係者自ら気付いていただける可能性は高まりますね。御指摘ありがとうございます。
  垣内幹事,どうぞ。
○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。
  1点確認の質問で,今話題になっておりました4の所有不動産目録証明制度に関する点ですけれども,従前,中間試案の補足説明の段階で,債権者代位の取扱いについて記載がされていたかと思います。そこでは,債権者代位権の客体とはしないものとすべきであるという説明が見られたんですけれども,そうした理解というのは,今日の御提案でも受け継がれているという理解でよろしいのでしょうかということと,併せて中間試案の補足説明で破産管財人等についての言及があったのですけれども,それについては現段階ではどのような整理になっているでしょうかという御質問でございます。よろしくお願いいたします。
○村松幹事 債権者代位については,中間試案の補足説明どおりで対象にならないという前提で考えてございます。
  また,破産管財人等を始めとする者については,引き続きちょっと今検討をしておりますので,また改めてお示ししたいと思います。
○山野目部会長 垣内幹事,お続けください。
○垣内幹事 分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
  おおむね御意見を伺ったというふうに受け止めてよろしいでしょうか。
  それでは,登記手続の簡略化及び所有不動産目録証明書の制度に関しては,本日段階で御意見を承ったという取扱いとし,お出しいただいた御意見を踏まえて引き続き検討をしてまいるということにいたします。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立