法制審議会民法・不動産登記法部会第16回会議 議事録

 それでは,続きまして,共有物分割の方法を審議事項といたします。
  部会資料の37をお取り上げください。部会資料37の1ページに第1として示しているものが唯一この資料で御提示申し上げている内容でございます。
  1ページで太字で示している内容のとおりでございますけれども,現行の258条の規律に手直しをするという構想をお示ししております。
  ①のところは,現行法の法文とあまり変わりませんけれども,「又は協議をすることができないとき」という従来も解釈上認められてきた内容を明文化しようとしております。
  ②は,いわゆる全面的価格賠償又は部分的価格賠償の可能性があり得ることを法文に明示する際の一つのサンプルを御案内しています。
  ③は,現行258条の法文を手直しする中で,競売分割の順序,位置付けについて,新しい①②の規律を念頭に置きながら整理を試みて,規律表現を提示しているところでございます。
  ④は,現在の258条に存在しないものを提示しています。しかし,実務上も従来これに当たることが行われてきているところでございまして,なおかつ共有物分割の訴えが形式的形成訴訟であるということに鑑みますと,原告となる当事者など,当事者に対して細かく予備的請求を添えるというような対応を求めることは適当であるとは考えられませんから,それらのことを考えた上で,④の規律を置き,このような主文における措置を採ることができること,それわ裁判所が採ることができるということを明示しようとするものでございます。
  第1でお示ししている事項について,委員・幹事から御随意に御意見をおっしゃっていただきたいと望みます。いかがでしょうか。
○中村委員 日弁連のワーキンググループでの議論を御紹介したいと思いますが,今回のこの本文の部分は,法律専門家にとってもやや読みにくいものになっているのではないかという意見が多数出ておりました。いろいろな御配慮があってのことだと推察はいたしますけれども,やはり国民にとって読みやすく分かりやすいものをということから,少し書きぶりを工夫した方がよろしいのではないかという意見が多数です。中間試案のときの案の方が分かりやすいという意見はかなり出ておりました。
  本文の②と③及び補足説明の4項に関して申し上げますと,中間試案では現物分割と価格賠償とに検討順序の先後関係はつけないということと,競売分割は補充的な分割方法とするということが書かれていて,今回も趣旨としては同じにされていると思うのですけれども,しかし,本文②だけを読みますと,特別の事情があると認めるときに賠償分割が可能であるというように読めてしまいはしないかというような指摘も上がっておりました。補足説明の4ページに書かれていますように,判例に述べられている一定の事情が必要であることを表すために家事事件手続法や95条を参考にこの文言を使っておられるということですので,この補足説明を読めば分かるわけですけれども,本文だけで分かるだろうかというところが気になっております。
  さらに,補足説明の4ページの中ほどに,平成8年最判が判示しているような判断要素を全て明示し,法文化することは困難というふうに記載されているのですけれども,これにつきましては,例えば借地借家法の更新拒絶の正当事由の条文のように,判例によって考慮されてきた要素というのが法文上に書き込まれている例がありますが,4ページの冒頭に挙げられております最判の平成8年の判断要素を条文に記載すると,かなり長くはなろうかと思いますが,こういうことが考慮されるのだということが条文上明示されて,国民にとっては分かりやすいということになりはしないだろうかというような提案も挙がっておりました。
  ④と補足説明の5ページ5項以下の説明に関しましては特段の意見はございませんでした。
○山野目部会長 中村委員から弁護士会の御意見を取りまとめておっしゃっていただきました。御意見を受け止めて今後の審議を進めてまいるということにいたします。
  あまり意味のない感想を1点申し上げますけれども,中村委員のおっしゃるとおりで,中間試案の方が読みやすいと感じます。私も感じます。併せて,参考までに御案内申し上げますけれども,いつもそうです。この部会に限らず,中間試案の文章というものは読みやすくて,その後,要綱案に向かっていくにしたがって,よく言えば法制的な洗練を重ねていくことによって,しかし,そのことは裏返して言うと国民の視線からはやや遠くなっていくという,その法文立案上の作業における宿命がございます。
  しかし,申し上げていることは,宿命だからいいではないかと居直って申し上げているものではなくて,中村委員が御注意いただいたように,そうはいっても法制的に正確であると同時に,国民から見て理解され,親しまれる法文にしていかなければいけないということは,もとより当然のことでございますから,御注意を承ります。道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 お願いしますと言われても本当は困るのは,山野目さんと同じことを言おうと思ったんですね。
○山野目部会長 恐れ入ります。
○道垣内委員 中間試案の方が読みやすいという中村さんの御意見に全面的に賛成ですというのが僕の話の中心になります。共有物分割について判例で進展してきたところのものというのは,民法の現在の条文だけ見ますと,現物分割をするのか,それとも競売をして価格で分割するのか,その二者択一のように読めてしまうところ,複数の不動産があるときに共有者に1個ずつ例えば帰属させて,そのでこぼこを金銭で調整しようというふうにしてみたり,あるいは,ある人に完全に帰属させてあとは金銭だけで調整しようとか,場合によっては一部を共有に残そうとか,様々な方法を認めてきたということなのだと思うのですね。
 そして,それは,実は遺産分割のときに認められてきたものが,共有物分割の方でも認められてくるという形がとられてきたわけですけれども,以前は,共有物分割ではリジッドな方法しか用い得ないと考えられていたものですから,柔軟な方法が採れる遺産分割手続を利用すべきであり,共有物分割の方に流してはいけないといった話が,たとえば,特定の財産についての相続持分の第三者に対する譲渡などの場合について学説上説かれたりした時期というのもあるわけです。それが,だんだんと柔軟になってきて,共有物分割であっても柔軟にできるからいいじゃないということになったわけです。
  ただ,遺産分割については,そもそものところで民法906条に,いろいろな事情を考慮してできますよという実体法の規定があって,その後にそれを受ける手続的な規定があるという形になっているんですね。それに対して,通常共有に関しましては,906条のような規定がないということになりますと,この分割の手続みたいなことが書いてある条文の中に,いろいろな事情が考慮できるというのをきちんと書き込んで,分かるような形にしなければいけない。ここに,遺産分割の場合の条文の作り方との違いというのが出てくるのではないかという気がいたします。
  さて,そうなったときに,いろいろな事情があるだろう,特別な事情というのは全部書き込むのは難しいだろうというのはいろいろ分かるんですけれども,2,3ですね,つまり現物分割とか競売とか,価格弁償による調整とか,そういうものを組み合わせることができるんだよというルールがどこかに明文で欲しいんですね。本日配られている案だけ見ますと,それこそ特別な事情があるという,非常に特別なときに,金銭の支払いだけでやるんですみたいに読めてしまう条文になっているわけでして,そうではなくて,一部は現物で分割するのだけれども価格賠償などを使って調整する。そういうのがきちんと出るようにする必要があるんだろうと思います。
  中間試案の方が分かりやすいというのは,中間試案のときには裁判所は次に掲げる方法により共有物の分割を命ずることができると書いてあって,現物分割と価格賠償と競売による換価というのが三つ書いてあって,組み合わせていいというふうにはクリアに書いていなかったように思いますけれども,それでも三つあるんだよということが明示され,その組み合わせがありうるというのが,比較的読みやすい形になっていた。
  今回,何か読みにくくて,三つの選択,特別な事情があるときだけ特別な方法が選択できるというだけであるかのような感じで,長い判例法理の共有物分割についての進展というものを生かし切れていないような気が,申し訳ないながらするわけでありまして,中村さんとかがおっしゃったことと基本的には同じだろうと思います。
○山野目部会長 道垣内委員から,中村委員からお出しいただいた意見を更に深く掘り下げる観点の整理の御提示を頂きました。ありがとうございます。
  引き続き委員・幹事の御意見を承ります。
  松尾幹事お願いします。
○松尾幹事 ありがとうございます。
  私も今問題になっております部会資料37の第1の②の特別の事情ということについては,現物分割も賠償分割も特に順位はないということであれば,ここは特別の事情があれば認めるというよりは,「相当と認めるときは」という表現ぶりもあると思います。
  ただ,実際問題としてこの賠償分割がうまく機能するためには共有者間の公平を害しないという制度的な保障があるということが大前提になるように思います。
  そのときに一番問題になるのは,賠償分割するときに,共有物を取得する共有者から持分権を譲渡する共有者に対して,きちんとお金が払われるということをどうやって保障するかという点です。その点に関して,第1の④で,共有物分割を命ずる場合に,当事者に対して金銭の支払い,登記義務の履行等の給付を命ずることができるとあります。これが意味することの確認ですが,賠償分割を認めるときに,例えばABCが土地を共有していて,Aが全部取得することを認めてお金をBCに払うというときに,BCに対しては持分権をAに譲渡して登記をしなさい,AはBCに対してその評価額を払いなさいということを引換給付とすることが,この④を使って可能と理解してよいでしょうか。もしそれができるとすると,賠償分割の使いやすさが出てきて,相当と認めるならばそれを活用していきましょうということもあるのかなと感じた次第です。ちょっと誤解があれば,また正していただきたいと思います。
○山野目部会長 ④の規律は,現行の家事事件手続法の下においてほぼ同じ文言があるものをここにも規律として明示して表現しようとしているものでありますから,家事事件手続法の運用がどうなっているかというようなことを参考として見ておく必要もあります。
  事務当局において,そうした点を見据えながら何か御紹介いただける情報があったらお教えください。
○大谷幹事 ②では,債務を負担させるという形で,部分的価格賠償の場合,全面的価格賠償の場合,両方があり得るということで書いておりますが,それは債務を負担させるということにとどまっており,それに更に④の方で債務名義とすることができるということで,これに基づいて強制執行が可能になるということを表現しているつもりでございます。
  引換給付に関しましては,裁判所が相当であると認めた場合には引換給付を命ずるということもあるのではないかなと思っております。
○山野目部会長 引換給付の判決は書くことができるという趣旨の御案内を致しました。
  松尾幹事,お続けください。
○松尾幹事 ありがとうございます。
  引換給付を命じることは賠償分割を使う上では,共有者間の公平を担保するという意味で重要な機能ではないかと思います。
  特に賠償分割を認めるということは,この後出てくる代金分割との関係では,実質的に共有者に優先取得権を認めることになりますので,そういう制度を使いやすくするということについては,私は理由があるのではないかなと思います。
  今の点を確認していただいて,実務上も運用できるのであれば,非常によいのではないかと思った次第です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○潮見委員 すみません。1点だけ意見を申し上げます。
  というか,これ第1の②のところの下線を引いた部分なのですが,この表現です。家事事件手続法の規定の文言表現を参考にしてこのような形にしたのだと思いますけれども,先ほど中村委員がおっしゃったこととは違う意味で,中間試案の方では,ここは持分の価格の賠償というところが表現に出ていたんですよね。ところが,今回お示しになられているこの下線部分では,「共有者の一人又は数人に他の共有者に対する金銭債務を負担させる方法による分割を命ずることができる」ということで,持分の価格の賠償なのだということが消えているんです。もちろんこの金銭債務を負担させるというところで,これは持分の価格ということを基準にして考えるのであると理解するのであれば,これはこれで構わないのかもしれませんけれども,突然と読めば,では金銭債務を負担させるときに,いろいろなファクターを考慮に入れて裁判所が適切と思われる額というものを,あるいは適切と思われる金額を負担させるということができるんだとも読めないわけではない。むしろ,誤解のないように,持分の価格の賠償ということがはっきりと出るようにした方がいいのではないかという感じがいたしました。
  家事事件手続法の場合は,これは遺産の分割審判ですから,なかなか持分価格の賠償というのを文言表現として使うのは難しいというところがあって,この種のルール化がされているんだと思いますが,こちらの方はそのような制約がないものですから,むしろはっきりと書かれた方がいいというのが私の個人的な意見です。
○山野目部会長 ただいまの点は御意見としておっしゃっていただきましたが,事務当局に趣旨の確認のみはしておいた方が,この後の委員・幹事に御議論をお進めいただくことが容易になると感じますから発言を求めますが,金銭債務を負担させると書いてある個所は,特段の事情がない限り持分の価格を賠償させるという運用を念頭に置いてのことであると理解してよろしいですね。
○大谷幹事 そのとおりでございます。部分的価格賠償,いわゆる2分の1,2分の1で共有している土地を7対3で現物分割をしたとき,20%分をお金で払うというのを,それは持分の価格を賠償させる方法というふうに呼ぶのかどうかというところも問題があるかなということで,今のような形にはなっております。
○山野目部会長 こういうところがこの②について読みにくいと言われるゆえんであろうとは感じます。その点でも結構ですし,ほかの点でもよろしいですが,委員・幹事の御意見を引き続き承ります。いかがでしょうか。
  藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
  先ほどから先生方がおっしゃっている本文の書きぶりの問題の話に正になってくるかとは思うのですが,やはり私も最初に拝見したときに,①と②がフラットに並んでいるというふうにあまり読めなかったというところがございます。
  従前から合理的に,共有者が土地の細分化を防いで全面的価格賠償で整理したいというような場面でも,現行法の条文を前提とすると果たして価格賠償になるのか,もしかしたら現物分割の方に持って行かれてしまうのではないかという不安があって,なかなか制度を使いづらいという声が事業者から出ていた中で,①と②が基本的に並列に位置づけられるということは,非常にいいことだなと思うのですが,今回の部会資料で拝見した本文の書きぶり,特別の事情という表現は少しひっかかります。③と比較すれば,②は①とフラットといえばフラットで,一定の要件を満たせばいずれも選択できるということになっているんだなというのは分かるんですが,やはり法律専門家の先生方ですらなかなか読みづらいというふうにおっしゃるということは,一般の企業実務家にしてみれば,よりそういうところはあるのかなと思いますので,ここは①と②が対等になっているというところがより明確に出るような形でやっていただけるとよいのではないかと思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
  私も今回の案は,実は何回も読んでいて分からないのは自分だけなのかなと思ったんですけれども,皆さん分かりにくいというふうにおっしゃいまして,安心しました。
  その上で,潮見委員から,中間試案では持分の価格の賠償というのがはっきり出ていたけれども,今回の②ではそれが出ていないのでうんぬんというお話がございました。そのとおりだと思うんですが,もし仮に今後中間試案に近い形で検討していただくことがあるとしたらということなのですが,その検討にならなかったら意味のない発言になるんですけれども,価格賠償という,そこに言う賠償というのが,私は今普通に使われている賠償とやや違う意味になっていると思うのですね。別段不法行為をしたわけでもないし,債務不履行があったわけでもなく,正規の手続に従って取得をした所有権について,ただ保障をしなければいけないというのか,償金を払わなければいけないというのか分かりませんが,賠償では多分,今の普通の使い方でいうとないのではないかと思うのです。もし御検討いただくのであれば,私の勘違いかもしれませんけれども,その点を考慮しながら検討いただければなと思います。
○山野目部会長 佐久間幹事の御意見の全体を承りました。
  私の個人的趣味を申し上げる場所ではありませんが,私は,共有物分割のときに使う賠償という言葉が大嫌いでありまして,本当は用いたくありません,もう実務上定着している言葉であって,これを用いないと言語的な伝達がしにくいものですから,せめてもの抵抗として冒頭に②を御紹介するときにいわゆる全面的価格賠償又は部分的価格賠償を許容しようとする規定であるというふうに御案内して,ささやかな抵抗を致しました。
  佐久間幹事からは,更に法文にするときに注意をしなさいというふうな御指摘もいただいたところであります。ありがとうございます。
  引き続きいかがでしょうか。
  今のところ,②のほかについても御指摘があったところですけれども,一番御議論が多い点は②でありまして,なおかつ②の中を更に小分けしてまいりますと,二つの点が検討しなければならない点として浮かび上がってきております。一つは,特別の事情があると認めるときは,という,この文言を置いていることをめぐって,このままでは座りが悪いということが多くの委員・幹事から共通してお出しいただいているところでありますけれども,しかし,更にどうしていったらよいかということについては,幾つか悩ましい点がございます。松尾幹事からは,この文体の骨格を維持しながら「特別の」という表現がよろしくないから例えば「相当と認めるときは」といったような御提案を頂いています。
  確かに,「特別」と書くときには,特別に先立ってその前の方に標準が何であるかが示されて,それに対する特別でありますから,道垣内委員のお言葉で言うと,遺産分割の場合の906条に相当するようなものがあって,それを踏まえた「特別」になりますので,そういうものがないならば,もっと簡素な表現の方向にするという引き方があるという示唆があったところであります。
  半面において,中村委員からは,弁護士会の御意見の御紹介という形で「特別の事情があるときは」というところをもう少し言語的表現を更に豊かにする方向を考えるべきであるというお話があり,借地借家法28条の書きぶりのようなものを参考として,考慮要素を列記するアイデアが考えられないかという御提案も弁護士会においてあったというヒントを頂いたところであります。
  いずれにしても,現在のこの言葉の置き方が座りがよくないということが委員・幹事から指摘を頂いたところであります。
  ②に関してもう1点は,「金銭債務を負担させる」という表現をもって,いわゆるつきの賠償でありますけれども,全面的価格賠償や部分的価格賠償の実務を進めていくことのガイドとして適切かという問題提起もございました。読み方によっては,これは保証金か何かを積ませるみたいな軽い話みたいに読めなくもないような規律表現になっている側面がございますから,ここは何か工夫ができないかというような観点からの御指摘もありました。これらの点についてでもよろしいですし,ほかの点についてでもそうですが,引き続き部会資料37について御意見を承ります。いかがでしょうか。
  ただいま差し上げた整理のようなことを踏まえて,事務当局が議事の整理に当たるということで進めてよろしゅうございますか。
  それでは,この②のところを中心に,本日は重要な御意見,御指摘を幾つか賜ったところでございますから,これらを踏まえて議事の整理を進めるということにいたします。ありがとうございました。
  部会資料37をめぐる審議はここまでとし,休憩といたします。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立