法制審議会民法・不動産登記法部会第16回会議 議事録

○山野目部会長 配布資料について説明を差し上げました。お手元にそろっておりますでしょうか。
  それでは,早速,ただいまお話がありました参考資料8につきまして,事務当局から説明を差し上げます。
○大谷幹事 参考資料の8について御説明いたします。
  法務省におきまして,土地所有権の放棄制度の利用見込み等に関しまして,民間の調査会社に委託してインターネットを利用したアンケート調査を実施いたしました。
  調査は,2月28日から3月4日までの間,スクリーニング調査と本調査の2段階方式で実施されました。スクリーニング調査では,日本全国に居住する20歳から79歳までの約5万サンプルを対象として,土地の所有状況や所有権放棄制度が創設された場合の利用意向の有無等について質問が行われています。
  また,本調査では,スクリーニング調査で現在自己の世帯で宅地や農地,林地のいずれかを所有している,若しくは今後所有する見込みがあると回答した者であって,かつ土地の所有権放棄制度を利用する意向があると回答した者の中から約1,600サンプルを抽出いたしまして,土地所有権の放棄制度の利用希望の有無,放棄したいと考える土地の所在やその物理的状況,国の審査機関に手数料を支払うことに関する意識等について質問が行われています。
  この参考資料では,この調査に基づく利用見込み等の推計結果を記載しております。資料下段の(2)の欄を御覧ください。ここでは,宅地・農地・林地ごとに利用希望率,認可要件充足率,放棄見込率という3種類の推計割合をお示ししています。
  左側の欄に利用希望率とありますけれども,これは一番下の(注1)にあるとおりで,土地を所有している世帯の中で土地所有権放棄制度の利用を希望する世帯の割合を推計したものであって,宅地所有世帯の13.16%,農地所有世帯の22.10%,林地所有世帯の25.81%,平均すると土地所有世帯のうちの20.36%が土地所有権放棄制度の利用を希望していることを意味しております。
  利用希望率の右側の欄,認可要件充足率ですけれども,これは下段の(注2)にありますけれども,土地所有権放棄制度の利用を希望する世帯の中で,その土地につき中間試案で示された認可要件を満たすことが見込まれる世帯の割合を推計したものであり,平均すると4.51%となっています。
  また,その右側の欄,放棄見込率の欄ですけれども,これは(注3)にありますが,土地を所有している世帯の中で,その土地についてこの制度を利用して認可を受けることによって所有権を放棄することが見込まれる世帯の割合を推計したものになりまして,平均すると0.95%となっています。この推計結果によると,全国の土地のうち約1%の土地が所有権放棄制度を利用して放棄される可能性があることを示していると考えられます。
  放棄される可能性がある土地の割合については,もちろん現在御審議いただいている認可要件等によって変動することが想定されますけれども,本日の調査審議の際の目安として御参考にしていただければと考えております。
  参考資料8の説明は以上です。
○山野目部会長 ただいま説明を差し上げました参考資料8について,もしお尋ねの段がある際は,この後の部会資料36に関する審議の際に仰せいただきたくお願い申し上げます。
  本日の審議の内容に入ります。
  初めに,土地所有権の放棄を審議事項といたします。部会資料36をお取り上げくださいますようにお願いいたします。
  部会資料36の初めのページのところに,ここで提案申し上げる土地所有権の放棄に関する規律のアイデアを御案内しております。御案内を差し上げているとおり,前提として民法の規定に,法令に特別の定めがある場合を除き不動産の所有権は放棄をすることができないものとするという規律を設け,このことを前提とした上で,その法令の定めの一つの例として,土地所有者は,法律の定めるところに従い,審査機関の認可を受けて放棄の申請をすることとし,ただし,放棄申請をしようとする所有者は,その申請に先立って売却,貸付けその他の処分について必要な努力をしなければならないということを想定し,認可は,四つの要件を掲げてございますが,これらについてのチェックを経た上で認可を与えるかどうかが定まるものとするという規律の構想をお示ししてございます。
  あわせて,放棄をする際には政令で定める額の認可に係る手数料,それから土地の管理に係る手数料を納めなければならないとされ,さらに,その土地に係る損害賠償責任を検討しなければならないような局面について,損害賠償責任や認可の取消しに関するルールの構想をお示ししているところでございます。
  補足説明まで含めますと,部会資料の20ページまでとなります。21ページに別な話題が示されておりますけれども,少し性格が異なりますので,初めに補足説明も含めますと部会資料の最初のところから20ページまでの土地所有権の放棄を認める制度の創設に関してお諮りをすることにいたします。御随意に御意見を仰せくださるようにお願いします。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 今日配布していただいた参考資料8について,確認と質問です。
  二段階の調査のうち本調査の調査対象者は,「現在,宅地や農地,林地のいずれかを所有しもしくは今後所有する見込みがある者で,かつ土地の放棄制度を利用する意向がある者」とされていて,そのサンプル数が1,574サンプルとなっています。そして,推計結果を見ると,利用希望率は,土地を所有している世帯(A)の中で,土地所有権放棄制度の利用を希望する世帯(B)の割合で算出することとし,これが平均で20.36%となっています。そこで質問なのですが,この本調査のサンプル数1,574がBを指しているのでしょうか。サンプル数と,利用希望率との関係を御説明いただけますか。
○大谷幹事 この利用希望率と出しておりますのは,スクリーニング調査の方で,土地を所有していますと,かつ制度ができたら利用を希望しますとお答えになった方の率を示しております。ですので,1,574の本調査のサンプルとはまた別の数字になります。
○蓑毛幹事 認可要件充足率は,土地所有権放棄制度の利用を希望する世帯(B)の中で,その土地につき試案の認可要件を満たすことが見込まれる世帯(C)の割合で算出することとされていますが,これと,本調査の1,574サンプルとの関係はどうなりますか。
○大谷幹事 本調査の1,574サンプル,こちらは所有している人だけではなく,所有する見込みがある人というのも含まれていますので,認可要件充足率では,そのうちの「所有している」と御回答になった方で認可要件を充足していることが見込まれるとお答えになった方が4.51%という形になっています。
○蓑毛幹事 利用希望率はスクリーニング調査を基礎に算出し,認可要件充足率は本調査を基礎に算出していて,利用希望率を算出する際のBの値と,認可要件充足率を算出する際のBの値は,異なる数値ということですね。よく分かりました。
  この調査は,所有権放棄制度を創設した場合に,どの程度の国民がこの制度を利用することになるのか,それによって国にどの程度の管理負担のコストがかかるのかということを推計する上で重要だと思います。ですので,この調査の結果が,制度を作った場合の実態に近いものになるような内容になっていることが望ましいと思います。そのために,具体的にどのような質問をしたのか,回答に当たってどのような選択肢が示されていたのか,回答の分布がどのようになっているかということを,後で構いませんのでお示しいただければと思います。特に,本調査の対象者に対して,試案の認可要件をどのように示したのか,放棄をするためには,一定の手数料がかかることを示した上で希望を聞いてみたのかについて知りたいと思います。
○大谷幹事 アンケートでは,中間試案の内容を丸めた形でお示しをし,それで自分の土地がそれに当たっているというふうな形でお答えになった方を,この中では「要件を充足している」という形でカウントしているわけですけれども,管理の手数料の額は示しているわけではなくて,お金を払ってでも放棄したいというふうにお答えになった方の数字を採っております。
○蓑毛幹事 分かりました。この資料についてはこれで結構です。
○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
  今回御提案を拝見いたしまして,まず最初の2行のところで,元々今まで議論していた中では所有権を放棄できるという前提の下で,例外的に権利の濫用というような話で土地所有権の放棄を制限するかどうかというお話になっていたかと思うんですが,今回の部会資料では,放棄することができないという規律を設けるということが原則になっております。私から見ると何か原則と例外が今までとは逆転しているのではないかと思ってしまうのですが,これは法制的な観点からこのような書き方をせざるを得ないということなのか,それともまたちょっと別の意図でこう書かれたのかというところはちょっと教えていただければと思っております。
  あと,中身に関して申し上げますと,4の(1)のところで,放棄を認可する要件として,取得原因を相続又は遺贈,かつ相続人であった場合に限るというふうにされていることに関しては,やはりちょっと狭いというところはあるのかなと思います。現時点であまり大きな制度にはできないという事情は重々理解するところですが,この要件だと補足説明にも書いていただいているとおり,当然に法人は入らないということになりますし,あるいは,ほかの取得原因で土地を取得されて,でも今はちょっと持て余しているという方の分も入らないということになってきますので,冒頭の原則の規定の仕方とも関わるとは思うのですが,将来のことまで考えて,この制度を小さく産んで大きく育てるというような可能性も残していただければということは意見として申し上げたいと思います。
  あと,(3)(4)の要件に関してなんですが,まず(3)のところで,土地所有権の放棄を認める要件として筆界の特定までは不要,という形で整理していただけたことにつきましては,これまで意見等を申し上げていたところですので,反映していただけたのは非常によかったなと思っております。
  あと(4)につきましても,例えば土壌汚染等が存在しないことの証明のためにボーリング調査のようなものをやる必要はないということを補足説明に書いていただいている。これも要望等で申し上げてきたとおりなのかなと思っておりますので,この点は非常によいのではないか,よい方向性ではないかと思っておるんですが,同時に,崖地等は基本的には過分の費用を要する管理困難な土地ということで所有権放棄の対象から除外するということは依然として書かれております。この点に関してはこれまでの部会でも議論があったところだと思いますし,今回補足説明を拝見すると,補助金等の交付を受けて所有者が工事をすればいいというようなふうにも読めるのですが,であれば,結局のところやはり公費を投入して管理するということには変わりはないというところもございます。何よりも,実際,崖地のような土地の場合は,国が平時に管理するコストだけを見るのではなく,万が一その土地が災害とかにつながったときにもたらされる社会的なコストの大きさというものもちょっと考慮していただく必要もあるように思いますので,そこまで検討していただいた上で,これも所有権放棄を認める対象に含めるという考え方はできないのかというところは,意見として申し上げさせていただければと思っております。
  すみません,いろいろ申し上げましたが,ひとまず以上でございます。
○山野目部会長 後ろの方でたくさん御意見を頂きましたとともに,冒頭のところで規律の表現に関して法制的な背景があるかどうかについて,事務当局の確認を求めるお尋ねがありました。
○大谷幹事 第1の一番最初の2行の問題でございますけれども,ここは元々所有権の放棄というのは自由にできるのではないかという議論,確かに中間試案の前までに部会資料でも書いて御議論をお願いしていたところでございますけれども,中間試案でお示しした内容をよく考えると,あれはあれで相当厳しい要件の下で放棄を認めるということになっています。結局のところ,所有権の放棄というのは自由にできないという方向に近い内容になっていたのではないだろうか,例外的にできるものというものを示すことになっていたのではないかという,その中身の問題としてそういうところがあるかなと思いました。それから法制的な観点でいえば,現行法では土地所有権の放棄ができるのか,できないのか分からないという出発点があって,実際に放棄が認められた例はあまり聞かないというところですので,基本的にできないという方向で整理をした上で,放棄ができる例外的な場合というのを新たな仕組みとして作るということを改めて提案したというところでございます。
  4の(1)のところ,相続を取得原因とするものに限るということに関しましても,法人か自然人かで,中間試案の範囲では自然人だけが放棄できるという方向でどうかということを本文の提案としておりましたけれども,法人が放棄するのは難しいと考える理由については,法人は自らの意思で土地を取得しているということ挙げておりました。しかし,自然人であっても,自らの意思で土地を取得している人というのは,法人と何が違うのだろうかというところがございましたので,やはり法人と自然人とで線を引くのはなかなか難しいのではないか。その一方で,相続によって土地を取得した人というのは自己の意思では必ずしもなくて,相続放棄か承認かということを選ばされた中でやむを得ず引き受けたものもあるだろうと,その場合の相続を取得原因として土地を取得して持っている方の負担を免れさせるという趣旨で,新たな考え方として(1)というものを御提案をしています。
○山野目部会長 藤野委員,お続けになることがおありですか。
○藤野委員 いや,この点に関しては。
○山野目部会長 よろしいですか。
○蓑毛幹事 部会資料36の土地所有権の放棄について,日弁連のワーキンググループでの議論を踏まえて意見を申し上げます。
  今,大谷幹事から御説明があったところではありますが,今回の提案では「不動産は,法令に特別の定めがある場合を除き,その所有権を放棄することができないものとする」となっていて,中間試案で「土地の所有者は,法律で定めるところによりその所有権を放棄できる」とされていたのと比べ,原則と例外が逆転していますが,これを元に戻すべきだという意見がありました。
  それから,本文1から3については,基本的に賛成します。ただし,本文3の「売却,貸付け等の処分その他の行為を試みなければならない」ということの具体的な内容を明確にしてもらいたいという意見があり,また,この要件については,放棄申請者にとってさほどの負担とならないような手続にすべきだという意見がありました。
  それから,最も議論になったところが本文4のところで,本文4(1)の要件については反対意見が多数でした。本文4(1)は,放棄申請の対象地の取得原因を相続等に限定する結果,法人である土地所有者を一律対象外にしていますが,これは法人が共有者に含まれるケースを一律除外するという方針とあいまって対象を不合理に限定する考え方であって,土地が将来管理不全状態となり,最終的に所有者不明土地化することを抑制するという今回の土地所有権放棄の制度創設の意義を大きく損なうものだと考えます。
  先ほどの大谷幹事の説明にもありましたが,今回の提案は,相続等によって土地を取得した者にはやむを得ず土地を引き受けたという面があるとして,あたかもその者に対する恩恵として土地の所有権放棄を認めるかのようです。しかし,この部会の使命は土地所有権の放棄を可能とすることによって,所有者不明土地の発生を抑制する方策を審議することにあります。そうであれば,国に管理コストを不当に転嫁することなどを避けるために,土地所有権の放棄に一定の要件を設けて対象をある程度絞り込むことは必要だと思いますが,それは当該土地を誰が所有しているのか,あるいは土地の取得原因が何かという過去の経緯によって判断されるのではなくて,主として放棄の申請時点における当該土地の性状や当該土地に関する権利関係,事実関係,こういったものに着目して要件を設けて判断すべきだと考えます。
  仮に現在の案が採用されれば,例えば自然人について,土地を所有していて放棄したいが,取得原因が相続以外なので放棄できないという場合に何が起こるかというと,次の代で相続になるのを数十年待って,それから放棄するということになると思われます。そのように放棄の時期を遅らせるだけの結果になることが,土地の適切な管理という観点から合理性があるのか疑問です。
  また,法人においては,廃業や倒産により,土地が管理されずに放置されて管理不全化が起こり,それから長い期間が過ぎれば所有者不明土地化が起こることが十分考えられます。
  このように,本文4(1)の要件を設けることは,土地所有権の放棄の制度を創設して,現時点で適切に管理されている土地が将来管理不全状態となって最終的に所有者不明土地化することを抑制するという政策目的に沿ったものとは言えないように思われます。
  したがって,所有権を放棄することができる土地の取得原因には制限を設けず,また法人についても土地の所有権の放棄を認めるべきであると考える次第です。
  次に,仮に本文4(1)の要件を設けるとして,その場合,部会資料10ページ以下に説明されている,取得原因が混在する共有地の所有権放棄をどう考えるべきかについて意見を申し上げます。
  ここでは,アで自然人と法人が共有している土地,イで土地の取得原因が相続等である自然人と取得原因が相続等以外である自然人が共有している土地,これらについてはいずれも所有権放棄を認めるべきでないとしながらも,ウでは相続等で土地を取得した者が他の共有者の共有部分を取得して土地共有関係を解消すれば,土地の所有権を放棄することが可能ということが書いてあって,ア又はイの土地であっても,土地所有権を放棄し得る救済手段を提示しています。
  このような救済手段があること自体については賛成します。しかし,これでは土地の所有権放棄をするためには,相続により持分を取得した者が他の共有者から共有持分を買い取って,しかし最終的には所有権放棄が実現できなかったときには,その土地の管理責任を一手に負うという結果になります。共有持分を全て取得した者一人に,このようなリスクを負わせる制度創設は適切ではないと考えます。
  そこで,ウに記載した手法を認めるのであれば,端的に,共有である土地については共有者の全部又は一部が相続等により共有持分を取得した場合は,全ての共有者が共同して行うことによって土地の所有権を放棄することができるとすべきです。また,ウの内容について,提案の本文から読み取れるとは言い難いので,これは補足説明ではなく提案本文に記載していただければと思います。
  少し長くなっていますが,続いて,部会資料1ページの本文4(2)から(4)の要件について意見を申し上げます。
  国に管理コストを不当に転嫁すること等を避けるため,土地所有権の放棄に一定の要件を設けて対象を絞り込む必要があるという観点から,これらの要件を設けることについて賛成するという意見が多数でした。ただし,その内容について,部会資料の補足説明に詳しく記載されているにもかかわらず,本文4(2)から(4)では具体的に記載されず,「政省令で定める」となっています。しかし,本文4(2)から(4)は土地所有権放棄の可否に直結する要件であるので,その内容のうち重要な部分については,法律に定めるべきだという意見が出されました。
  技術的あるいは細目的な事項に限って政省令の定めによるということはよいのですが,重要部分については法律で定めるべきであるというものです。部会資料の補足説明に記載されている内容を基に,具体的にワーキンググループで考えた文案を申し上げます。
  例えば(2)については,「担保権又は使用及び収益を目的とする権利その他これに準ずる権利について対抗要件が具備され,あるいは第三者に不法占拠されている土地」と法律に定めればよい。(3)については「土地所有権の存否,帰属又は範囲について争いがある土地」と定めればよい。(4)については幾つか号を設け,本文で「次に掲げる土地その他管理又は処分に過分の費用を要する土地」と定めた上で,1号で「建物,工作物,車両,人工的埋設物その他の土地の性質に応じた管理を阻害する有体物がある土地」。2号として,「傾斜度が30度以上であって,その崩落を予防する相当な措置が施されていない土地」。これは急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第2条を参考にして考えたものです。3号で「土壌汚染対策法第2条に定める特定有害物質がある土地」。4号で「土地の管理に当たって他者との調整に多額の費用を要するなど当該土地の管理以外の目的での費用を過分に要することとなる土地」。このような形で法律に定めればよいのであって,これ以外に技術的,細目的なことがあれば政省令に委ねるのがよいという意見がありました。
  それから,本文5の要件,手数料の納付について賛成します。賛成しますが,いわゆる粗放的管理が可能な場合には,管理に関する費用は生じないのではないかという意見がありました。粗放的管理の場合でも,一定の手数料を徴収する必要があるということであれば,例えば単位面積当たり幾らの費用がかかるのかなど,現時点で事務当局にお考えがあれば,お示しいただければと思います。
  本文6,7,8については賛成します。本文9も,基本的には賛成ですが,青天井の損害賠償が認められるということだとすると,利用を妨げる結果となりますので,その辺りをどう考えるのかという意見がありました。
  本文10についても,基本的に賛成意見多数です。ただし,例えば,土地所有権が放棄されていることを前提に,相続放棄することなく相続を承認した相続人がいた場合に,所有権放棄の認可が取り消されて所有権が戻ってくるということになると,不意打ちになるだろうと。この点をどう考えるのか,例えば職権取消しについて期間制限を設けるなど,何らかの手立てが必要ではないかという意見がありました。
  長くなりましたが以上です。
○山野目部会長 部会資料の第1で提示している事項について,全般的な御意見を頂き,取り分け4について詳細な御意見を開陳いただいたところであります。
  委員・幹事からは4のところでもよろしいですし,ほかの点でもよろしいですし,引き続き御意見を承りますが,その前にお尋ねが一つありまして,5のところで管理に係る手数料についての,これはまだここで決め切るという性質のものではありませんけれども,しかし想定されているような運用がもし事務当局において検討途上であるならば,可能な限り紹介してほしいというお求めがありましたから,その点について事務当局から発言をお願いいたします。
○大谷幹事 この管理のための手数料が幾らになるかということは,現時点でこれぐらいということをお示しできるものはございませんけれども,今,国有財産の管理に関して伺っているところでは,客観的な数字として200平米ぐらいの宅地であれば10年間で80万程度の管理費用がかかると伺っております。それは客観的な現にあるコストの問題ですけれども,それを一つの目安といいますか,スタートとしてどのような管理手数料を求めていくかということは,引き続き検討していきたいと思っております。
○山野目部会長 お尋ねの部分について蓑毛幹事,何かおっしゃることがおありでしょうか。
○蓑毛幹事 いや,特にありません。
○山野目部会長 國吉委員,どうぞ。
○國吉委員 ありがとうございます。
  この土地所有権の放棄の前提条件として,パブリックコメントのときには筆界が特定されることということであったんですけれども,今回はそれが一応要件としてはないということなんですけれども,そもそもこの所有権の放棄をする前提として売却・貸付け等の処分その他の行為を試みるという要件があります。この売却・貸付け等を試みるということの前提としては,不動産の特定がされていなければ恐らくこれは何も進まないのだろうと思います。そうすると,おのずと例えば地籍更正登記をするなりなんなりをするという手続がどうしても必要になってこざるを得ないのかなと思っています。
  そうすると,必然的にこの売却・貸付け等の処分を試みる場合には,筆界そして所有権界が特定されていなければ,これらの行為には及べないという前提条件なんだろうと思います。その前提条件があるにもかかわらず,土地の境界については所有権界を確認できればいいという一応立て付けになっているんですけれども,この立て付けだとすると,そもそも筆界それから境界については確認がされていなくても,例えば筆界と所有権界はそもそも一致しているものを,わざわざ所有権界だけ暗黙のうちに,もしかしたら恣意的にでも決定されてしまう機会があるんだろうと思いますけれども,そういうことが条件となるとすると,その後,例えば国に帰属した土地を,では処分するなり利用するなりするときの管理はどうするのかということになってきてしまうんだと思います。
  ですので,この辺のちょっと所有権の確認をすればいいなというようなところを,例えば所有権を放棄したい所有者さんはむしろ弱い立場の人間ですので,恐らく境界はどうでもいいやなんていう考えをなきにしもあらずだと思います。
  ですので,将来の例えば国が管理する状態に持って行くためにも,そこはきちんとしたものを前提としなければ,後々のそれから管理,処分等については進めないのではないかという疑義がありますので,御意見として申し述べたいと思います。
○山野目部会長 御意見を承りました。
  沖野委員,どうぞ。
○沖野委員 ありがとうございます。
  2点,細かい点なんですけれども,教えていただきたいことがあります。
  一つは,主体あるいは利用の場面についてですけれども,法人ですとか取得原因による限定等をどう考えるかという御指摘が出ているのですけれども,その点ではなく,むしろ原案によった場合の考え方です。一つ気になっておりますのが,相続財産法人の場合です。必要がないということで相続人が全部相続放棄をするとか,そういうような場合について,相続の局面でもこれはやはり原案の下でも対象になるのかなという気がするものですから,その点はどうかというのを確認させていただければというのが1点目です。
  2点目ですが,3の要件のところですが,相当な努力をするという中に今回,売却,貸付け等の処分という形で記載されています。試案の段階では譲渡等になっていたかと思いますけれども,貸付けというのが具体的に入りました。誰か使ってくれる人というのを探さなければならないということかと思います。それ自体は,土地の管理が十分に行われないということに対する予防として努力をするということは分かる気もするのですけれども,この制度自体は放棄の制度で,帰属を変更していくというものです。終局的に所有者不明になってしまうというような事態を避けて,もう帰属自体を国庫の方にさせてしまうという制度だということからしますと,貸付けというのは貸借ということでよろしいでしょうか,土地を使ってくれる人がいるかというのを探して,そういう人がいても,しかしもはやこの後誰が所有権自体を持って行くのかということについては了解も見通しもないというような場合だと,やはり放棄ができてもいいように思うものですから,この貸付けというものが具体的に入った理由について,それが本当に必要なんだろうかということについてちょっと理解が及ばないものですから,もしよろしければ御説明いただければと思います。
○山野目部会長 2点は御意見でいらしたようにも感じますが,お尋ねということで頂戴いたしましたから,相続財産法人の問題と貸付けの点について,事務当局の現時点での所見をお願いいたします。
○大谷幹事 ありがとうございます。
  まず相続財産法人ですが,沖野委員御指摘のとおり,この場合も相続で,相続財産法人というものが持っているというか,相続財産法人そのものが財産で構成されるわけですけれども,その相続財産法人も土地所有権の放棄をするということは可能ではないかとは思います。ただ一方で,相続財産法人になっているということは,管理人がついて清算をした上で,最後に残った財産については国庫に帰属するということになっておりますので,相続財産管理人が所有権の放棄をするということが理屈上あり得るわけですけれども,所有権の放棄ということをしなくても,最終的に残ってしまったときには国庫に帰属するということになりますから,実際に管理の手数料を負担してまで相続財産管理人が土地の所有権の放棄をするということは少ないのではないかと考えております。
  それから,2点目の貸付けの点でございますけれども,これも中間試案の際にはこういう表現を採っておりませんでしたが,例えば,農地については,農地バンクという仕組みがございます。農地については農地バンクで貸付けのあっせんなどもされて,現在の所有者ではない方に耕作をしてもらうということを一つの政策的な目的としてやっておるところがございます。こうした農地のような場合を念頭に置きますと,まず農地バンクを利用して貸付けを受ける方がいないかということをお聞きした上で,それでも誰も利用してくれないというときに,土地所有権の放棄ということを許すということでどうかということで,これは農地政策と関連してのことでございますけれども,こういうような形にしてはどうかという提案でございます。
○沖野委員 1点目については分かりました。
  2点目については,なお制度と整合するんだろうかというのは気になりますけれども,政策的な判断からそちらに誘導したいという観点から入っているものと理解しました。それ以上には申し上げることはありません。
○山野目部会長 道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 ありがとうございます。
  蓑毛さんがおっしゃったことがちょっと私よく分からなかったところがあるので教えていただければと思うんですが,例えば4の(1)で相続以外であるということを求めるとか,あるいは法人は駄目だよというふうな話だとか,そういう話について,こういうふうな一般的な制限を設けるのは妥当ではないのではないかという話をされまして,しかし,実質的に見ますと,放棄のために取得をすることを認めていいのかという問題があるという話も併せてされたのだろうと思います。
  そうであるならば,ある程度の実質的な審査というのをせざるを得なくなるのではないかという気がするんですね。
  その実質的審査をするということと,4の(2)から(4)を非常に明確にしようと,具体的な基準を明らかにして明確にしようというのとがどういうふうな関係に立つのかというのがよく分からなくて,また8も賛成だとおっしゃったんですが,8というのは実質的にあまり審査しないというのが,ある程度,前提になっているような気がして,そうしますと,相続とか法人とかということが,それだけの理由では放棄を認めないという方向にはつながらないはずだという話と,形式的な要件審査で処理をしようという8は賛成だというのとが,どういう関係にあるのかが私にはちょっと分からなかったんですね。
  それが大きな点,2点目は非常に小さい話です。それは,今後は逆に蓑毛さんのおっしゃった話に乗って,4の(2)というところを精緻化すると,明確化するというところで,対抗要件が具備されているという話をされたような気がするんですね。しかし,これ第三者が担保権を設定して,相続以外の事由で取得がされていると,それはその時点で担保権は対抗できないというものになっているわけですし,逆に言うと,これは本人が担保権を設定しておいてそれで放棄をするというのは,それはおかしいという話も含んでいるんだと思うんですね。
  そうなると,対抗要件の具備は不要ではないかという気が私はいたしまして,細かな話ですが,対抗要件が必要だとおっしゃったんだとするならば,それはちょっと違うのではないのという気がいたします。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれましては,今何か仰せになることがあれば伺いますし,あるいは弁護士会でまた持ち帰って御議論になるということでもよろしいですけれども,いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 私の能力では,道垣内先生の疑問に答えられるかどうかよく分かりませんが,答えられる範囲でお答えします。道垣内先生からは,実質的審査・形式的審査という言葉があり,手続と実体法上の定めとの関係についてのご質問であったと思いますが,私は手続や審査について特に言及した訳ではありません。私が申し上げたのは,部会資料1ページの本文1で「土地の所有者は法律の定めるところに従い,土地の所有権を放棄することができる」とあり,本文4がその法律の定めについて記載しているわけですが,4(1)の実体的要件については不要,それから,4(2)(3)(4)について補足説明で詳細に説明されている内容は,法人を含め,モラルハザードを避ける等の観点から,適切な実体的要件であると考えるが,それは法律で定めるべきものであり,細目的なところのみ政省令に委ねるべきだと申し上げました。実体的要件を政省令に委ねず,法律に規定すべきということと,実質的審査か形式的審査かということが,どのように関係するのか,ちょっと理解できませんでした。
  本文8が実質的審査をしないことを前提としているというのがそうなのか,あるいは,私の意見との関係については今整理できていませんので,お答えできません。
  それから,対抗要件が必要かどうかというのは,部会資料に記載している点を踏襲して述べましたので,これは事務当局の方からお答えいただければと思います。
○大谷幹事 今多分,道垣内委員はその規定を置くとすると難しいというか,説明がつきにくいというところがあるのではないですかとおっしゃったものと理解をしておりましたけれども,実態として担保権がついている場合には放棄できないという考え方もあるのだろうとは思っています。
  ただ,今のところ,結局登記で担保権が消えてしまうというか,国の方には対抗できないということになるのであれば,それはもう放棄を許してもいいということになるのではないかということで,部会資料は作っております。
○山野目部会長 道垣内委員,お続けください。
○道垣内委員 いや,差し当たっては結構です。どうも。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  次,佐久間幹事にお願いします。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
  2点申し上げたいと思うんですが,一つは,取得原因の制限についてです。この点につきまして,蓑毛幹事から弁護士会の御意見を御紹介いただいたわけですけれども,なるほどもっともとは思いました。しかしながら,一応この要件として今原案で絞られているのは,現在所有者不明土地問題として一番大きな発生原因であると思われる相続を契機に土地が放置されるということを何とかしようということがあるということが一つ。
  モラルハザードというものを,所有者のですね,防がなければいけないということがもう一つ。さらには,何といってもこれうまく成立したといたしましても,初めて認められる制度となりますので,一体どういう行動を国民がとることになるかというのも分からないわけですので,いずれ見直しをすることはあってもいいと思うのですが,最初は少し控えめな出発点をとる方がいいのではないかと考えておりまして,以上の次第から,原案に私は賛成いたします。これが1点目です。
  2点目は,これはすごく大ざっぱなというか,中身の話ではないんですが,蓑毛幹事がやはりこれもおっしゃったことなんですが,冒頭で,第1の定め方を変えるという御提案が今日されています。不動産について法律に定めがあればそれに従って所有権を放棄することができるというのが試案での御提案だったわけですが,本日お示しになっているものは,不動産は法律で特別な定めがある場合を除き放棄することができない,繰り返しますが,所有権を放棄することができない,となっております。
  私は,これは先ほど蓑毛幹事がおっしゃったことだったと思うんですが,元の方がいいと思っています。それはなぜかと申しますと,民法に不動産の所有権の放棄について定めることはいいのかなと思うのですが,それがほかの権利の放棄になるべく影響を及ぼさないようにした方がよろしいのではないかと思っています。
  補足説明のところでは,動産については放棄が許されているではないかというふうに書かれておるわけですけれども,動産についても全くその単独行為として自由に意思表示をするだけで放棄することができると考えている方がどれほど多くあるかについては,やや疑問に思っております。
  そういったところについてまで波及をさせないということからいたしますと,元のように,所有者は法律で定めがあれば所有権を放棄することが不動産についてはできるというふうにしておくならば,ほかの権利についてはどうか述べていないということに,私の感覚ではできるのではないかと思います。そこで,前のようにするほうがよいのではないかと申し上げました。
○山野目部会長 佐久間幹事の御意見2点を承りました。
  中田委員,お待たせしました。
○中田委員 ありがとうございます。3点あります。
  1点目は,ただいま佐久間幹事のおっしゃった,第1の冒頭2行の民法に所有権放棄ができないという規律を置くということについてです。
  これは,置くとした場合に,どうして不動産については所有権を放棄できないのかということの理由付けを明確にする必要があるのではないかと思います。その一つとして考えられるのは,所有権の内容である「処分」には放棄を含まないという説明です。しかし,そうすると動産にも及ぶということになりますから,これではうまくいかないと思います。
  2番目に考えられますのは,物理的に滅失させることができるかどうかということです。しかし,土地については滅失させられないけれども,建物や土地の定着物あるいは立木法の適用のある立木などについては,そうはいえないので,この説明もうまくいかないだろうと思います。
  三つ目に考えられますのは,民法の規定として239条2項で不動産については所有者がいなければ国庫に帰属するというのがありますので,これと結び付けるような説明があるのかなと思います。ただこれは,今回資料を拝見して急に思い付いたことだけですので,全く自信がありません。
 仮に民法に大原則のようなものを置くんだとすると,その理由付けを明確にすることがほかとの関係でも必要になってくると思います。現に,この資料の中でも共有持分の放棄について,甲案,乙案ございますけれども,そういうところとも関係してきますので,もしも規定を置くのだとすると,その内容,理由付けを明確にする。それが明確にならないのであれば,その規定を置かないという選択肢もあるかもしれません。
  第2点は,管理手数料についてです。これは,先ほど具体的な数字でイメージがつかめたんですけれども,これは認可の後も毎年払うということになるのか,それとも認可の際に一括して払うのかです。そこは私としては認可の際にもう精算してしまう方がいいのではないかと思っております。もしもその後も払わせるということになりますと,その回収リスクもありますし,その後亡くなったりした場合にどうなるのかということを考えると,非常に面倒になります。
  3点目は,9(2)の損害賠償請求の期間制限5年ということでございます。これは,申請者が知っていた場合,これは20ページの最後のところに有害物質を埋めたことを秘して申請した人についての言及がありますが,例えばそういう人についても5年の期間制限が及ぶのかというと,やや疑問に感じました。
○山野目部会長 中田委員の御意見,3点承りました。
  続きまして,松尾幹事お願いいたします。
○松尾幹事 ありがとうございます。
  土地所有権の放棄に関する原則をどう定めるかという点について,既に多くの意見が出されておりますが,私も原則として不動産について所有権放棄を認めないというよりは,所有権放棄は認めうるけれどもかなり厳しい要件が付きますよという方がよいのではないかと考えます。
  理由は三つありまして,一つは,従来の裁判例では土地の所有権の放棄について,原則として認めうるけれども,権利濫用等に当たることを理由に,放棄を前提とする請求が絞られてまいりました。権利濫用に当たるという実質的理由が何なのかということについて,議論があったように思います。その権利濫用に当たらない場合について,法律が特に定めて要件を満たした場合には認めますよという方が,従来の土地所有権放棄をめぐる制度との連続性を保ち得るのではないかというのが第1点です。
  それからもう一つは,この要件を満たした場合には,部会資料36の第1の8で審査機関は認可をしなければならないというふうになっていますけれども,要件をクリアすれば認可をしなければならないという制度構成をとるとすれば,原則は所有権放棄を認めるという立脚点に立つことになるのではないかと思います。
 それから,3番目は,先ほど中田委員の方から御指摘がありましたけれども,もし不動産に限って所有権の放棄を認めないということになると,ほかの制度へのインパクトとして,動産については否定できないこととの法理上のバランス,不動産の共有持分権の放棄を認めるかどうかということについて,部会資料36の22ページ下から10行目以下でも指摘されている規律の問題も考えなければならないということで,波及する問題が大きいと思いますので,原則はできるけれども厳しい要件がつくというスタンスの方がよろしいのではないかと思います。原則できないというのはちょっとインパクトとしては大き過ぎるのではないかと感じた次第です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  山本幹事,お待たせしました。
○山本幹事 ありがとうございます。
  4点ほど,いずれも細かい点ですけれども,本文で申しますと9と10の部分です。
  まず第1点は,9の部分に関してですけれども,説明の方で申しますと19ページから20ページにかけての部分です。これは,先ほど中田委員からも御指摘がございましたが,ここでの案は会計法の30条ないし31条の方の考え方に寄せて時効を考えると。すなわち,会計法の30条,31条のように,行政上の事務処理上の便宜等の観点から,画一的に比較的早期に金銭債権債務の行使について確定をさせるという除斥期間に比較的近い考え方がここでは示されていると理解を致しました。
  立法のやり方としては,そのように会計法の方に寄せるやり方と,それからどちらかというと民法の消滅時効の規定の方に近づけ,知ったときからという時点を起算点にするやり方があります。ここでの案は認可のときからということなのですが,知ったときからという形で民法の方に寄せるやり方もあるのではないかと思います。どちらがいいか,私はちょっと定見がないのですけれども,一つの考え方として,ここに示された案もあるかと思いますが,議論の余地はあるのではないかと思います。
  それから,第2点は,20ページの4行目の部分ですけれども,ここで損害賠償請求と認可の取消しとの関係が書かれておりまして,ここでは,そこまではっきりと書かれていないのですけれども,放棄をした人の財産権を保護するという観点からいうと,損害が莫大に生じて,損害賠償請求を国が行う前に,認可の取消しをすると,そちらの方が放棄をした者にとって負担が少ないということであれば,できるだけ早くそちらの方の措置を取るべきであるといったことがあるのではないかと思います。
  先ほど蓑毛幹事から,損害賠償の額が非常に大きくなるという話がありまして,一つそれを抑えるためのやり方として,むしろ認可の取消しを早期にした方が放棄者にとって負担が少ないということであれば,それをやるべきということになるのではないかと思います。
  それから,第3点は,同じく20ページの,すみません,非常に細かい話ばかりで申し訳ないのですが,(2)の直前にあります「なお」の部分で,行政訴訟が提起される場面は実際には想定し難いということです。例えば,放棄者が真の権利者であるかというようなことは,初めに審査されるので,実際には後から実はその人が権利者ではなかったという事態はあまり想定されないのかもしれませんが,仮にそのような権利の帰属に争いがあったような場合には,恐らく行政訴訟ではなく,通常の民事訴訟で争われることになるのではないかと思います。これは私もちょっと考えがまとまっていないところで,かなりマイナーなケースですので,そこまで考える必要は現在のところはないのかもしれません。
  それから,最後ですが,20ページの認可取消しの期間制限の話です。20ページの最後に書かれております。これは,先ほど蓑毛幹事からも御指摘がございましたけれども,一般的に申し上げれば,行政処分の職権取消しをする場合の要件を事細かく書くことは,あまりないのではないかと思います。一般的には,どれぐらいの期間がたっているかということ,それから取り消す公益上の必要性がどれだけ大きいかということ,それから私人の側の帰責事由がどれほど大きいかという,大体そういったファクターを考慮して,一般的には判断することになるのではないかと思います。
  ただ,立法としてはある程度明確にしてしまうというやり方もあり得るかと思います。例えば期間を5年とか10年という形にして,その上で例えば放棄者が知っていた,放棄者の側に帰責事由があるという場合には,無期限といったようなやり方も一つあるかもしれません。そこまで細かく書くことが適切なのか,あるいはむしろ通常行われているように一般的な利益衡量でもって処理をするのがいいのか,どちらかということになるのではないかと思います。
  すみません,あまりまとまりのない話で申し訳ございませんでした。
○山野目部会長 山本幹事がおっしゃった2点目のお話でありますけれども,認可を取り消した方が放棄者である私人に対してあまり不利益が大きくならないというときには,そのように導くべきだというお話は,規律表現としてもう少しその趣旨のことをはっきり書いておいた方がいいという御意見の御趣旨も含むものでありましょうか。
○山本幹事 そこはなかなか書き方が難しいところがありますが,明確にそこまでもし決めるのであれば,書くというやり方も一つあるのではないかと思います。ただ,行政処分の際にこういうことが問題になる類例があまりないので,実際どう書くかというと,私も具体的なアイデアは現在のところ持ち合わせておりません。
○山野目部会長 御意見の趣旨,よく理解することができました。ありがとうございます。
  水津幹事はお手を下げられましたか。
○水津幹事 では,土地所有権の取得原因の制限について,質問いたします。
  4(1)の規律は,相続人に対する遺贈を相続と同じように扱っています。補足説明では,その理由として,特定財産承継遺言と相続人に対する遺贈の機能は,類似していることなどが指摘されています。しかし,特定財産承継遺言の性質は,相続であり,受益相続人の受益は,相続人として相続財産を包括承継することと結び付いています。このことは,受益相続人が相続を放棄したときは,その者は,その受益を失うことに示されています。これに対し,相続人に対する遺贈の性質は,相続ではなく,贈与に類するものであると考えられます。そうであるとすると,相続人に対する遺贈を相続と同じように扱い,受遺者である相続人が遺贈を承認して土地所有権を取得したときに、その土地所有権を放棄することをその者に認めてよいのかどうかが,土地所有権の取得原因を制限する趣旨との関係で,少し気になりました。
○山野目部会長 お尋ねとおっしゃいましたが,水津幹事から御指摘いただいたことに注意をして検討を進めなければいけないというふうに受け止めればよろしいでしょうか。
○水津幹事 そのようにしていただければと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  安高関係官,どうぞ。
○安髙関係官 ありがとうございます。林野庁でございます。
  2点ほどちょっとお話をさせていただきたいと思います。
  まず,11ページの(5)権利の帰属に争いがないことの記述についてでございますが,その末尾の12ページのところに,所有者が一筆の土地の一部を放棄したいと考える場合ということも想定をされているという記述がございます。こちらについて,ちょっと懸念点がございますので,一言申し上げさせていただきたいと思います。
  本文のとおり,分筆した上で放棄の申請をすると,要件を満たしている場合であれば,土地の一部の放棄も当然認めることになるということは認識しております。ですが,森林を例にとりますと,育ちがいい森林ですとか林道脇の近くて施業がしやすい森林といったような条件のよい森林は引き続き所有をされて,それ以外の不必要な,厄介なところだけを放棄しようとするといったモラルハザードと言えるような放棄の申請が行われるというケースも出てくるという懸念があるという点でございます。これは懸念点ということで一言ということでございます。
  もう1点でございます。これは12ページの(6)のところに,隣接する土地の所有者との間で境界について争いはないことのうち,3パラ目,先ほど國吉委員からも御指摘があったところでございますが,管理の対象である土地の所有権の境界が明らかであれば足り,公法上の筆界が特定することを要求する必要はないという記述があるところでございます。林地については,筆界が特定されていないという割合が非常に高うございますので,筆界特定を放棄の要件とすると,制度自体が機能しなくなるという考え方はあるのかなというふうに理解しております。
  一方,放棄後に筆界を特定するとなった際には,登記の手続を含めて発生する手間ですとかそれにかかる費用といったコストについては,国,ひいては国民の皆様方に転嫁されるということになるところでございます。そうして最終的にその筆界と所有権界が一致しないといった場合については,国とその隣接所有者との間で実務上トラブルになってしまうという可能性もあるのかなと。そう考えますと,筆界を特定させた上で放棄申請をしていただくというのがよいのかと思うのですが,そうでなければ,管理に係る手数料,この算定にそのコストも加味しておく必要が出てくるのではないかと,そういった考えもあってよいのではないかなと考えているところでございます。
  また,せめてその筆界が特定されていなくても,しかるべき水準の測量図の提出,そういうものが必要ではないかと考えているところでございます。
  こういった境界についてどの水準で放棄を認めるかということを検討するに当たり,最終的には決めの世界になるのかなとは思うのですが,そのような点も踏まえた上で,筆界が特定されていなくとも,それでも放棄を認めるというふうにするかどうかというのは,判断が必要かなと考えているというところでございます。ありがとうございます。
○山野目部会長 2点の御注意を承りました。
  後ろの方の点は,前の方の点とともに検討いたしますが,どちらかというと,筆界特定が必ず必要であるという規律に,かつてそういうふうに考えていた時期もありますけれども,あれに戻すことは重いお話になってまいりますから,費用の方でうまく処置ができるものであれば,そちらの方が穏当な解決であろうと考えますけれども,本日,國吉委員からも御意見をお出しいただいているところを踏まえて引き続き検討することにいたします。ありがとうございました。
  垣内幹事,お待たせしました。
○垣内幹事 ありがとうございます。垣内です。
  1点,ちょっと細かい点で恐縮なんですけれども,確認の質問をさせていただければと考えております。内容的には,資料の1ページの4の(1)の理解,それから,若干は8ページの本文の最後の段落,法人格なき社団等に関する記載に若干関連することになるかと思います。
  具体的には,入会権の対象となっているような土地で,共有の性質を有する入会権のような場合に,入会権者が実質的には社団になっているような場合とそうでない場合と両方考えられるのではないかというふうに理解をしておりますけれども,本日の御提案で4の(1)の考え方によりますと,そういった場合にはそういう権者全員の同意というか,全員の認可の申請があっても,これは放棄ということは許されないという理解でよろしいでしょうかというのが御質問でございます。よろしくお願いいたします。
○山野目部会長 お尋ねを頂きました。事務当局からお願いいたします。
○大谷幹事 8ページのところに書いておりますけれども,法人格なき社団については,個人が相続しているというのとはまた別のことになるんだろうと,どちらかといえば団体に近いということに,法人に近いということになりますので,法人格なき社団については放棄は認められない,この4の(1)には当たらないということになると理解をしております。
○垣内幹事 入会権者が法人格のない団体を形成しているとまでは言えないような場合もあるのではないかというふうに,ちょっと民法の理解が間違っているかもしれませんけれども,そのような場合については,そうしますとどうなりますでしょうか。
○山野目部会長 民法の理解は垣内先生のおっしゃるとおりです。
○大谷幹事 そうですね,結局のところ,法人格なき社団ではないということで共有になっているのだということであって,それで相続で取得しているということであれば,全員で放棄をするということであれば,それはあり得るのではないかなと思います。
○山野目部会長 垣内幹事,お続けください。
○垣内幹事 分かりました。ありがとうございます。
  これはまた私の民法の理解のあれなんだと思うんですけれども,何か入会権というのが相続によって取得されるのか,それとも,何というんでしょうか,住民であって世帯主であるみたいなことで,相続とは別の形で取得されるのかというのがちょっとよく理解できていないところがあるんですけれども,相続によって取得されると考えて適用される場合もあるという,そういうことになりますでしょうか。
○大谷幹事 今,いろいろ御指摘を頂きまして,現時点でそうかなと思いましたけれども,もう少しよく考えて整理をしたいと思います。
○山野目部会長 垣内幹事,よろしいですか。
○垣内幹事 はい,どうもありがとうございます。
○山野目部会長 垣内幹事からは,ひとまずそういうことですかというお話を頂いたところでありますが,後でまた今後に向けての宿題の整理を差し上げようというふうに感じておりますけれども,今後検討しなければならない点の一つとして,取得原因が混在している土地についての放棄の在り方は,蓑毛幹事からも具体的な幾つかの御指摘を頂いているところでありますし,垣内幹事からお話いただいたところも,入会権者が権利能力なき社団を構成していないとき,全員が相続によって承継したと考えられるときには,部会資料でお出ししている案でも土地所有権の放棄が可能になるかもしれませんが,混在している場合についての扱いとそれほど隔てなければいけないかというようなことを考えながら,入会権の構造にも注意を払いつつ,問題提起を頂いたことについて考えをまとめていくということになりましょうから,ただいまの御注意をそのような今後の検討の中で活かしてまいりたいと考えます。
○潮見委員 すみません。質問が1点,それから意見が1点,それからお願いが1点,3点ぐらい御発言したいと思います。順番からいったら意見の方がいいかもしれません。
  先ほどの山本幹事の御発言にも関わることですけれども,この第1の9に関わるところです。5年の期間の起算点のところです。私も先ほどの御発言でおっしゃられたことにも同じように感じるところがありまして,この起算点については,国が放棄者に対して求償する機会を奪われないようにするためにも,これは認可された時ということではなくて,要件が充足されないことを知ったときというところで考えた方がよろしいのではないかというように思いました。
  また,5年の期間というのがこれでいいのかというのは,先ほど中田委員が,登記者が悪意の場合ということを想定しておっしゃられましたが,それ以外にも何かありそうな気もするんですよね。例えば畑にされた土地のところから6年か7年たった後で汚染物質が出てきたような場合に,そうしたときに国の方に最終的にそのリスクを負担させるという結果で終わってしまうというのが果たしてよいのかどうかというのは,いろいろな考え方があっていいかと思います。これが1点目です。
  それから,2点目の質問に関わることは,同じ9のところの(1)の本文とただし書といいますか,本文に関わることなのですが,(注2)の4の(4)の政省令で定める内容……というふうなことが書かれていますが,例えば㋔の場合に,9の(1)の本文の4に規定する要件を満たしていないことによって国に損害が生じたということは,想定されているんでしょうか。このような場合にそういう事態があるのかということを,ちょっとお伺いしたい。
  後の補足説明等のところを読んでいますと,要するにこういう場合には管理主体となる行政機関の意見を求めて,それでいいかどうかというものをそこで考えてもらって,それで過分の費用を生じないという認定評価がされた場合に放棄というものが認められるという中で進んでいくというように書かれています。そうであるならば,後で何か起こったときに4に規定する要件を満たしていないことによって国に損害が生じたということが,因果関係の話ですけれども,そういうことが起こり得るんだろうかというところがちょっと分からなかったというところなので,これは教えてくださいということです。
  最後にお願いというのがあります。それは,9の(1)にこれも関わるのですけれども,こういう本文ただし書の構造をとるということは,私は理解できます。ただ,こういう本文ただし書構造をとった場合に,放棄者が,自分が無過失であるということについての立証責任を負うことになります。もちろん,証明がしやすいという場合もありましょうけれども,先ほどの例えば(注2)のところの㋓ですね。こういう埋蔵物とか土壌汚染があるという場合に,では無過失ということを放棄者が立証しなければいけないということになれば,考え方次第ではかなり厳しい事前の調査義務,あるいは情報収集義務というものを放棄者が負担するような形で解釈がされるリスクもないわけではありません。実質的に無過失責任が課されてしまうような局面があり得ないとは言い切れないところがあります。
  ですので,ここからがお願いで,法改正がされたときには,解説とかが出されると思います。そういうところで,あまり過酷な調査義務,事前の調査義務,あるいは情報収集義務というものを放棄者に課すことがないように,少しその辺りは説明を丁寧にしていただければ有り難いというところです。これがお願いです。
○山野目部会長 1点目の御意見は,山本幹事から問題提起を頂いたところについて,更にお立場を表明していただきましたから,有り難く承りました。
  2点目のお尋ねは,ただいま事務当局から説明をいたさせます。
  3点目のお願いというのは,ああお願いなのですね,というふうに承りました。この本文とただし書の構造そのものが駄目だというふうに潮見委員に叱られてしまうと,あまりほかに書きようがないものですから,困るなという気もしないではありませんでしたが,法令の意味内容の説明において留意していただきたいというまことに穏当なお話を頂きましたから,お願いの向きはもとより承りました。
  事務当局からお尋ねにお答えくださるようお願いいたします。
○大谷幹事 9の(1)の4に規定する要件を満たしていないことによってということにつき,今潮見委員の御指摘にあった(注2)の㋔のような場合はどうなのかということですが,基本的にはこの㋔の要件が実は満たされていなかったんですということは,あまり想定されないのではないかと思っております。ここで一番ありそうなのは,放棄者は権利関係に争いがないというふうに言っておったけれども,実は争いがあったであるとか,今も御指摘がありましたけれども,(注2)の㋓の,土地に埋設物や土壌汚染があるということが後になって分かったということがケースではないかと思っております。
  先ほど潮見委員から損害賠償請求権の期間について御指摘がありましたが,部会資料の作りといたしましては,国の方の損害賠償請求権というのを重く見て,主観的な起算点とするかどうかということはありますけれども,やはりある程度事務処理上の便宜というものを考えながら,また,土地所有権の放棄をした方が,特に実は土壌汚染があったんだということを知らないで放棄した人が,いつまでも取り消されるということもどうなのだろうかというところがありますので,一応客観的な起算点ということでどうかと考えて,こういう提案をしております。
  また,際限なく損害が発生してしまって,無過失であることを立証できないで,結局損害賠償責任を負ってしまうということがあるのではないかということがありましたけれども,そこも具体的な損害が生じてしまったときにはやむを得ないところがありますけれども,山本幹事から御指摘がありましたように,具体的な損害が発生していないのであれば,取消しをして,国の方で持っているとどうしても国の方ではきちんとした管理をしないといけないので,土壌汚染が発見されたらその土壌を入れ替えるというようなことをするけれども,それが通常の方が持っているのであればそれは必要ないということもあり得るところですので,そういう場合には取消しをしてお返しをするということもあるというふうに考えておりました。
○山野目部会長 潮見委員,お続けください。
○潮見委員 そうであるならば,除斥期間としないのですか。
○大谷幹事 会計法の規律との関係がありますが,先ほど山本幹事もありましたけれども,除斥期間のようなものという形で作るということもあるのかなと思います。
○潮見委員 こちらの部分について,会計法とは少し切り離した形で除斥期間という形で組むというのは難しいという御趣旨でしょうか。
○大谷幹事 除斥期間として組むということもあり得るのかなと思いますが,これも結局のところ,時効制度との関係でどういうふうに仕組むのか,会計法との関係もいろいろあると思いますので,必ずそうできるとは思っていませんで,取りあえずこういう形で提案をしているというところでございます。
○潮見委員 ありがとうございました。
○山野目部会長 潮見委員の御指摘を踏まえて,期間のことはさらに検討することにいたします。
  吉原委員,どうぞ。
○吉原委員 ありがとうございます。
  第1の土地所有権の放棄を認める制度の創設について,法令に特別の定めがある場合を除き,その所有権を放棄することができないものとする規律を設けるという2行について賛成いたします。
  また,4の(1)取得原因を相続又は遺贈に限定することにも賛成いたします。このようにしたことで,今回のこの議論の背景,それから所有権放棄の制度を設ける趣旨というものが明確になったと受け止めました。政策目的に合致したものであると考えます。
  その上で,放棄できると書く,あるいは放棄できないと書く,いずれにしろ世の中に与えるインパクトというのは非常に大きいものがあると思います。仮に放棄できると規定した場合,一般国民の受け止め方としては,できると原則書いてあるということは大部分ができて,例外的にできないというふうに受け止めてしまうのではないかと想像しております。ただ,今日配布されました参考資料8を見ますと,放棄見込率は1%程度ということで,ごくごく限定的です。このような推計を見ますと,放棄できないと書く方が一般国民の受け止めとしては実態に即したものと理解を得やすいのではないかと考えます。
  土地の承継について,これまで相続の承認とそれから相続放棄という限られた選択肢が用意されていたわけですけれども,今回,所有権放棄の規律を設けることによって,その間に新しい制度が生まれてくると。これを,放棄できないという原則を置きつつ限定的に認めていった場合,ではなぜ限定的にしか認めないのかということについて,もう少し本質的な理由を考える必要もあると思っております。
  先ほど中田先生から,ここでもし原則放棄ができないとするのであれば,それはなぜでしょうかという問題提起がございました。ここがやはり多くの国民が疑問に思うところだろうと思います。実態としてモラルハザードを生むからとか,管理コストが国や自治体にかかってしまうからという,そういう理由は当然あるのですけれども,果たしてそれが放棄を原則認めない本質的な理由なのだろうかということは,まだちょっと考え中なところがあります。
  なぜ原則認めないのか,それは土地という財の特性によるものなのか。もし,逆に原則認めるとした場合,その理由は何なのか。そこをもう少し突き詰めて考えることが,普通の人にこの制度を周知していくときに必要だろうと思います。
  それを考える上で,最後1点ですけれども,第1の書き出しが不動産はとありまして,ただそこ以降の1,2と続いていく部分は,土地のとなっているわけです。建物については滅失できますが,土地はそれができないという性質上の大きな違いがあります。
  この後ろの方で建物についての扱いも出てきますが,ここで不動産と置いて,土地と建物という性質の違うものを一律に大きくうたってしまって,後々解釈上の混乱が出ないのかということはちょっと思っているところです。
○山野目部会長 御意見を頂きました。
山田委員,お待たせしました。
○山田委員 ありがとうございます。届いていますでしょうか。
○山野目部会長 届いています。
○山田委員 発言を始めます。
  先ほどお話が出ていました入会,あるいは入会権に関することについて,一言意見を申し上げます。
  過去のある時期まで入会権が成立していたと認められる例というのが全国に多くあるだろうと思います。それらは,管理が行われていない土地となっているものが少なくないのではないかと思います。共有の登記が行われている場合というのもあろうかと思います。
  このように考えてきますと,8ページの本文の下3行に書かれていることは,少し,今私が想定しているような例を考えると,この制度に乗ってこない可能性があるというおそれを感じます。特に,法人格なき社団等の実態は法人と変わらず,土地を取得するのはその組織の活動の一環としてであり,土地所有権の放棄を認めるべき必要性が低い点では法人と同様であることから,土地所有権の放棄の主体とすることは現時点では難しいと考えると書かれています。これは,法人格なき社団一般については当たるところがあると思うのですが,先ほどの御発言にもありましたように,入会団体が法人格なき社団の性質を持っていると認められる場合があります。それを自らが土地を取得したんだと考えるのは,当たらないのではないかと思います。
  今日の次の話題の共有とも関連しますが,共有持分の形式を持った権利がかつての入会団体の構成員の子孫というんでしょうか,卑属に共同で帰属しているということがあろうと思います。それらは厳密な意味で相続なのかどうか,確かに難しいところがあるのですが,自分で購入した,自分で自発的に取得したというのでないのは明らかでありますので,是非,そういう例についても今回の土地所有権の放棄にうまく乗せることができるように,事務当局ではお考えいただきたいと思います。
○山野目部会長 入会権のことが大きな宿題であることがよく分かりました。どうもありがとうございました。
  引き続き委員・幹事の御意見を承ります。いかがでしょうか。
  よろしいでしょうか。
  それでは,部会資料36の「第1 土地所有権の放棄を認める制度の創設」につきまして,本日,委員,幹事,関係官から様々な御意見を頂きました。いただいた御意見の全てについて,これから精査して改めて議事を整理いたします。それらの全てを繰り返すことはいたしませんが,大きな二つの宿題が浮かび上がってきていると感じます。
  第1点は,部会資料でいいますと最初のところで問題提起をしていることですが,不動産所有権の放棄の可否について,民法に規定を置くか置かないか,置くとした場合にどのような規律表現で置くかということについて,本日の御議論において主に民法の先生方からは,それが他の権利の放棄に波及する影響等について慎重に検討するようにというお求めを頂きましたし,また吉原委員その他の委員からは,ここで設けられるルールの規律表現が国民に対して与えるメッセージとの関係で,また別の性質のことでありますけれども,十分に注意するようにという御指摘もいただいたところでありまして,本日の御議論をもう顧み,ここを整理しなければならないと感じます。
  もう一つ大きな宿題がある点は,4の全般についてお話を頂いたところであり,どれも重要でありますが,取り分け4の(1)との関係におきましては,4の(1)のように相続に限定することの適否そのものについても御議論があったところでありますけれども,仮に相続に限定するということにした場合においても,取得原因が混在する土地の放棄の要件,手順をどのようにするかということについては,なお考え込まなければいけない点がたくさんあるということが明らかになってきたと考えます。取得原因が混在する土地というものは,言い換えれば所有権の一部を相続等によって取得したけれども,他はそのような部分になっていないという局面でございます。蓑毛幹事が弁護士会の御意見を受けておっしゃったように,所有者不明土地管理制度を用いるか,あるいは他の共有持分を取得するという手順を経なければ,また経た上でであっても,土地所有権の放棄に結び付くことができないというリスクを冒して,ここのところの手続を進めなければならないという困った状況に当事者を置くことの適否等について,更に考え込まなければいけないと感じられるところであります。
  この点についても,委員,幹事,関係官からお出しいただいた御意見等を踏まえ議事を整理することにいたします。特段の御意見がなければ,第1のところについての今日の段階での審議を終えるということにいたしますが,よろしゅうございましょうか。
  それでは,部会資料36はまだ残っていますけれども,本日の部会の会議が始まってから相当の時間が経過しておりますから,休憩といたします。

          (休     憩)

○山野目部会長 再開いたします。
  部会資料36について,引き続き審議をお願いいたします。
  休憩前に補足説明を含めますと20ページまで済んでいるところでございます。それに続く21ページのところで,「第2 関連する民事法上の諸課題」といたしまして,共有持分の放棄の新しい規律の在り方について,御覧いただいているとおりの甲案と乙案をお示ししているところでございます。ここについては,委員・幹事の御意見をお出しいただき,それを踏まえて今後に向け方向を見定めていくということになりますから,どうぞ御意見を仰せくださるようにお願いいたします。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 部会資料21ページの第2については,日弁連のワーキンググループの中で,意見が分かれています。不動産は管理の負担が動産と比べて重いということ,現在も実務上は持分放棄の登記をする際には共同申請で他の共有者の協力が必要であることから,乙案でよいという意見がありました。
  一方,乙案のように不動産に限る理由はなく,動産についても管理の負担を押し付けるという側面があることから,共有持分を放棄するためには,他の共有者全員の同意を必要とする甲案に賛成だという意見もありました。統一的な見解は出ていないという状況です。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
  私は,甲案がいいと思っております。ただ,理由は共有持分の放棄を自由に許すべきではないということが前提として私の中ではありまして,その場合に不動産に限る理由は少しもないのではないかと思うから甲案がよい,という程度のことです。
  ただ,その上で気になりましたのが,仮に甲案にした場合に,補足説明では,結局のところ全員の同意を得て放棄するということで,按分帰属だということは譲渡と変わらないではないか,255条の死亡者に相続人がないときはというのは残すのかもしれませんが,持分を放棄したときというところは除く,それで済むのではないかというところが気になりました。気になりましたというのは,それでは駄目だというつもりもないのですけれども,そのような選択をした場合に,結局のところ,いや放棄はできるんだよね,後の処理はともかく,というふうなことにならないのかなということがやや心配に思ったところです。
○山野目部会長 中田委員,どうぞ。それとも,お下げになりましたか。
○中田委員 ありがとうございます。甲案,乙案迷っているんですが,検討課題として,他の共有者の一人でも反対したときに,放棄による解決ができなくなるということの問題があるかどうか,その問題があるとして,どちらが大きいのかということがあるかと思います。それから,甲案を採る場合に,株式や無体財産権などの準共有における実務に及ぼす影響はあるのかないのかということ。それから,三つ目といたしまして,今佐久間幹事もおっしゃいましたけれども,255条の死亡して相続人がないときの規律が残るとしますと,その放棄プラス同意との整合性は甲案,乙案どちらの方がより高いのか。その辺りが考慮要素かと思いました。結論が出ていなくて申し訳ございません。
○山野目部会長 重要な御指摘を頂きました。ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
  そうしましたならば,本日幾つかお出しいただいた御議論を踏まえて議事を整理することにいたします。
  本日の御議論の状況を承ると,甲案,乙案いずれかに絞ってお話を進めていくということには直ちにはなりませんけれども,今後の検討に当たって,甲案,乙案というふうにあるうちの甲案を採用する場合に関して言うと,法制上の規律の表現の問題と,それとは性質を異にする実態との関係の問題と,二つほど注意すべき点があると感じます。甲案でまいります際には,255条の現在の法文から相続人不存在の場合を残し,放棄に関する規律を単純に削除するという仕方で規律表現をするのと,甲案で今お見せしているこの文章そのものを規律表現にするということとの二つの選択肢を見て,利害得失を検討していくということになると考えます。これは法制上の検討事項です。
  もう一つは,中田委員から御指摘がありましたが,甲案を採用した場合には,土地建物以外にもこの規律が波及していくことになります。もちろん,土地建物以外の全ての財産について,念のため検討をすることは必要でありますけれども,今日の経済社会において実態上その重要な役割を演じている株式会社の場合の株式,その他これに準ずるようなものについて,何か思わない帰結を招くのではないかということは実態,実務との関係で注意をしておく必要がございますから,この点については事務当局においてこの方面の実務や法律運用に精通している方の意見を聴取するなどして,遺漏のない検討を進めていきたいと考えます。
  半面において,乙案を採用する場合には,これはこれとして本日も御議論いただいたようにあり得る解決であるとともに,規律の表現の上におきましては,本日休憩前に御議論を頂いた土地所有権の放棄に関する議論の中で出ておりましたように,民法に不動産の所有権の放棄についてどのような規律を置くか,あるいは置かないこととするかということについて,本日結論が得られておりませんけれども,その帰すうをにらみながら,当面の補足説明20ページまでのお話においては,不動産の所有権の全部を放棄するということを中心イメージにお話をしていましたけれども,一部を放棄するということについてのルールであるとも言えるこの乙案について,最終的にあちらの方の議論の結論を見定めた上で,法制上の表現としてどのようにする解決が最も適切なものであるかということについて,改めて整理を要すると感じられるところでございます。これは,この観点を踏まえて今後また検討を進めてまいるということにいたします。
  特段の御意見がなければ,部会資料36についての審議を了したことにいたしますけれども,よろしゅうございましょうか。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立