【資料51】民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案のたたき台 (1)

第2 共有等
1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、その使用の対価を償還する義務を負う。
② 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。

(補足説明)
部会資料40の4と、基本的に内容は同じである。表現ぶりについては、よりわかりやすいものとするべく、改めている。
2 共有物の変更行為
民法第251条の規律を次のように改めるものとする。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)を加えることができない。
(補足説明)
部会資料40の1においては、変更行為に該当するものであっても、共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しない行為については、民法第252条の規律により持分の価格の過半数により決定できるとすることを提案していた。これに対しては、第17回会議において、「共有物の改良を目的とし」という要件に関して、客観的に価値を高めるものでない行為についても過半数により決定できるようにすべきであるという意見や、「著しく多額の費用を要しない」という要件に関して、その内容が不明確であり、費用という切り口による限定をすべきではないという意見があった。
これらの意見はいずれも、目的や費用の多寡を問わず、客観的に共有者に与える影響が軽微であると考えられる場合には、持分の価格の過半数により決定することができるとすべきというものであると考えられるところであり、これらの意見を踏まえて、変更行為に該当するものであっても、その形状又は効用の著しい変更を伴わない行為については、後記3①の規律に基づいて、持分の価格の過半数により決定できるとすることとした。
3 共有物の管理
民法第252条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の管理に関する事項は、民法第251条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
② ①の規律による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
③ 共有者は、①及び②の規律により、共有物に、次のアからエまでに掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(次のアからエまでにおいて「賃借権等」という。)であって、次のアからエまでに定める期間を超えないものを設定することができる。
ア 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
イ 前号の賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
ウ 建物の賃借権等 3年
エ 動産の賃借権等 6箇月
④ 各共有者は、①から③までの規律にかかわらず、保存行為をすることができる。
(補足説明)
1 本文①、②及び④について
本文①、②及び④は、部会資料40の2(1)①から③までと基本的に同内容である。
表現ぶりについては、第17回会議における議論を踏まえ、よりわかりやすいものとするべく、改めている。この規律は、遺産共有にも適用されることを前提としているが、配偶者居住権が成立した場合には、他の共有者は、配偶者居住権者の使用収益を受忍すべき立場になるため、別途、消滅の要件を満たさない限り配偶者居住権は存続し(民法第1032条第4項、第1038条第3項参照)、本文①の規律に基づいて配偶者居住権を消滅させることはできないと考えられる。また、第三者に使用権を設定している場合においても、同様に、本文①の規律に基づいて当該使用権を消滅させることができないと考えられる。
2 本文③について
部会資料40の2(1)④において、持分の過半数の決定により設定した使用権は、所定の期間を超えて存続することができないとする規律を設けることを提案していたが、第17回会議における議論を踏まえ改めて検討すると、持分の過半数の決定により設定することができる使用権に関する規律を設ける必要がある一方で、持分の価格の過半数をもって共有物に関する長期間の賃貸借契約を締結した場合には、その契約は基本的に無効になると解されるものの、持分の過半数によって決することが不相当とはいえない特別の事情がある場合には、変更行為に当たらないとする考え方もあることから、所定の期間を超えて存続することができないとする規律を設けることは、過半数によって決することができる管理行為の範囲を過度に狭めることになりかねず、相当ではないと考えられる。そこで、本文③において、本文①の規定によって、共有物に、所定の期間を超えない賃借権等の使用権を設定することができる旨の規律を設けることとした。
3 なお、共有者全員の合意とその承継(部会資料40の2(2))及び共有物の管理に関する手続(部会資料40の3)については、第17回会議における議論も踏まえ、特別の規律を設けないこととした。
4 共有物の管理における催告
共有物の管理における催告について、次のような規律を設けるものとする。
共有者が他の共有者に対し1箇月以上の期間を定めて共有物の管理に関する事項の決議に関し意見を述べて決議に参加すべき旨を催告した場合において、その期間内に意見を述べない共有者があるときは、その共有者は、その決議に参加しない旨を回答したものとみなす。この場合には、当該事項は、決議に参加した共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
(補足説明)
部会資料41の第1の1と、基本的に内容は同じであるが、意見を述べない者を決定から除き、意見を述べる者の過半数で決することを明確にする趣旨で表現を整えている。
第17回会議では、全員の同意を要する変更行為も新たな規律の対象に含める案(部会資料41の第1の1(注1))に賛成する意見や、裁判所の決定を要求する案(部会資料41の第1の1(注2))に賛成する意見もあった。
もっとも、部会資料41の第1の1の補足説明でも記載していたとおり、裁判所の関与を要求することは、当事者の負担が重く相当でないとの指摘や、裁判所が判断すべき事項が特になく、裁判所の関与を求める意義に乏しいとも考えられるとの指摘があり、第17回会議でも、裁判所の関与を求めない案に賛成する意見があった。また、裁判所の関与を求めないこととも関連するが、新たな規律の対象には、全員の同意を要する変更行為を含めるべきではないとの意見に賛成する意見もあった。
以上を踏まえ、本文のとおり提案している。
なお、この規律は、遺産共有にも適用されることを前提している(後記11参照)。
5 所在等不明共有者がいる場合の特則
所在等不明共有者がいる場合の特則について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)を加えることができる旨の裁判をすることができる。
② 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、次のア及びイに掲げる裁判をすることができる。
ア 当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判
イ 共有者において当該他の共有者以外の共有者に対し1箇月を下らない期間を定めて共有物の管理に関する事項の決議に関し意見を述べて決議に参加すべき旨を催告し、その期間内に意見を述べない共有者があるときは、その共有者は、その決議に参加しない旨を回答したものとみなし、決議に参加した共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判
(2) 手続等
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イの期間が経過しなければ、(1)の裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産について(1)の裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所が(1)の裁判をすることについて異議があるときは、当該他の共有者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ イの届出がないときは、裁判所が(1)の裁判をすること。
② 裁判所は、当該他の共有者等が異議を述べなかったときは、(1)の裁判をしなければならない。
(注)(1)の裁判に係る事件は当該裁判に係る財産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 (1)(要件等)について
本文は、部会資料41の第1の2と基本的な内容は同じである。ただし、問題となる場面が複数あるため、それに応じて裁判の内容を書き分けている。
なお、部会資料41の第1の2では、裁判所の関与を必要としない案(同(注1))や、対象となる行為を限定する案(同(注2))を取り上げていたが、第17回会議での議論状況を踏まえ、取り上げていない。
本文①では、「共有物に変更を加えることができる旨の裁判」としているが、後記9及び10との対比からも明らかなとおり、ここでいう裁判の対象となる行為に、共有者が持分それ自体を失うこととなる行為(持分の譲渡のほか、抵当権の設定など)は含まれない。
この規律は、遺産共有にも適用されることを前提している(後記11参照)。
2 (2)(手続等)について
本文①及び②は、部会資料41の第1の2(注4)と内容は同じである。
なお、(1)の裁判は、非訟事件に該当するので、非訟事件手続法第2編(非訟事件の手続の通則)が適用されることとなるが、管轄の規定など個別事件の規定については所要の規定を整備することとなる。(注)では、管轄について部会資料41の第1の2の補足説明に記載していた内容を記載した上で、所要の規定を整備することを記載している。
6 共有物の管理者
共有物の管理者について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有者は、3の規律により、共有物を管理する者(②から⑤までにおいて「共有物の管理者」という。)を選任し、又は解任することができる。
② 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。③において同じ。)を加えることができない。
③ 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
④ 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
⑤ ④の規律に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
(補足説明)
部会資料41の第4と内容は同じである。ただし、本文①は、その選任又は解任が前記3の規律によって行われることを明記しているほか、本文③は、前記5の提案を踏まえたものとしている(本文③の対象には、共有者が持分それ自体を失うこととなる行為(持分の譲渡のほか、抵当権の設定など)は含まれない。)。なお、本文③の裁判の手続は、基本的に、前記5の(2)と同じである。この規律は、遺産共有にも適用されることを前提としている(後記7参照)。
なお、第三者を管理者とした場合の管理者と共有者との間の委任契約の関係や、共有者の1人を管理者とした場合の管理者と他の共有者との関係については、部会資料41の第4において一応の整理をしているが、いずれにしても、管理者との間の実際の契約内容等によって最終的に定まることとなると解されるため、特段の規律を置かないこととしている。
7 裁判による共有物分割
民法第258条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
③ ②に規律する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
(補足説明)
第18回会議においては、いわゆる賠償分割の規律について、判断要素を明確化すべきという意見があった一方で、賠償分割が現物分割に劣後するかのような疑義を生じさせるべきではないという意見もあるため、これらの意見をそれぞれ反映して適切な規律を設けることは困難であることから、本文においては、部会資料47の考え方を基本的に維持することとした。
なお、賠償分割について、部会資料47②イのように「金銭を支払わせて、その持分を取得させる方法」とすると、金銭の支払が持分取得の条件となるとの誤解を生じさせるおそれがあるため、本文②イにおいては、「共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」とすることとした。
8 相続財産に属する共有物の分割の特則
相続財産に属する共有物の分割の特則について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前記7の規律による分割をすることができない。
② 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、①の規律にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前記7の規律による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について前記7の規律による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
③ 相続人が②ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前記7①の規律による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日(当該相続人が同項の規定による請求をした場合にあっては、当該請求をした日)から2箇月以内に当該裁判所にしなければならない。
(補足説明)
1 本文①について
部会資料42の第1の2(2)では、現在の判例の理解(共有物分割請求訴訟に係る判決では遺産共有の解消をすることができない)を基本的に維持した上で、その例外を定めることを提案していた。もっとも、そのような例外を定めるためには、現在の判例の理解を原則として維持することを示さざるを得ないため、本文①では、その旨を明示している。
2 本文②について
部会資料42の第1の2(2)と内容は同じである。表現ぶりについては、第17回会議での議論を踏まえつつ、よりわかりやすいものとするべく、改めている。
3 本文③について
本文資料42の第1の2(2)の補足説明では、共有物分割請求訴訟の中で相続人間の分割もすることを前提に審理が進められていたが、後に異議の申出がされ、それまでの審理に無駄が生ずる事態も起こることを防止するための措置を講ずる必要がある旨を記載しており、第17回会議でも、同様の指摘があった。
当該訴訟の中で相続人間の分割もすることができるかどうかは、訴訟の進行を考える上で重要であり、早期に決定すべき事柄であると考えられるが、相続の開始から10年間が経過していた場合には、それまでに遺産の分割をするかどうかについて検討する機会が十分にあったと考えられることから、共有物分割の訴えがあった当初の段階で、当該訴訟において相続人間の分割をすることにつき異議の申出をするかどうかを決することを求めることとしても許容されると考えられる。
そこで、本文③のとおり提案している。なお、「当該相続人が前記7①の規律による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日」とは、当該相続人が訴状の送達を受けた日となることを想定している。裁判による共有物の分割は、本質的には非訟事件であるものの伝統的に訴訟手続で処理する取扱いが確立しているが、民法上は、その旨が明確にされておらず、訴訟で処理することを前提とする文言が用いられていないことから、ここでは、訴状の送達等の用語を用いない表現としている。
4 その他
第17回会議では、地裁と家裁に同時に事件が係属した場合の処理につき言及する指摘が複数あった。共有物分割請求訴訟において当該共有物につき遺産共有関係も解消することについて期間内に異議の申出がされず、その訴訟で遺産共有関係が解消される見込みとなった場合であっても、直ちに、当該共有物の遺産共有の部分が遺産から除外されるものではないが、相続開始から10年を経過し、遺産分割は法定相続分等で処理されることとなり、一部分割も基本的に許される状態になっていることから、事案ごとの判断ではあると思われるが、共有物分割請求訴訟の帰趨を待たずに、当該訴訟の対象を除いて遺産分割をすることもできると解される。
9 所在等不明共有者の持分の取得
所在等不明共有者の持分の取得について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
② ①の請求があった持分に係る不動産について前記7①の規律による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が①の請求を受けた裁判所に①の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
③ 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
④ 共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
⑤ ①から④までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(2) 手続等
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イ、ウ及びオの期間が経過しなければ、(1)①の裁判をすることができない。この場合において、イ、ウ及びオの期間は、3箇月を下ってはならない。
ア 所在等不明共有者の持分について(1)①の裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所が(1)①の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ (1)②の異議の届出は、一定の期間までにすべきこと。
エ イ及びウの届出がないときは、裁判所が(1)①の裁判をすること。
オ (1)①の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が(1)①の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。
② 裁判所は、①の公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、①(イを除く。)の規律により公告すべき事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。
③ 裁判所は、①ウの異議の届出が①ウの期間を経過した後にされたときは、当該届出を却下しなければならない。
④ 裁判所は、(1)①の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。この裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
⑤ 裁判所は、申立人が④の規律による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。
⑥ (1)①の裁判の申立てがあった裁判所が①の公告をした場合において、その申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が②オの期間が経過した後に(1)①の裁判の申立てをしたときは、裁判所は、その申立てを却下しなければならない。
(注)(1)①の裁判に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 (1)(要件等)について
(1) 本文①及び③から⑤までについて
本文①、④及び⑤の内容は部会資料41の第2の①、②、(注1)及び(注5)と、本文③の内容は部会資料42の第1の3とそれぞれ同じである。
なお、本文③で、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合とした上で、共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限ってこの規律の対象としているのは、相続は発生しているものの、遺産共有の状態が生じていないケース(例えば、相続人不存在など)を除外するためである。
(2) 本文②について
第17回会議では、遺産分割の調停の申立てがある場合に、遺産分割調停と所在等不明共有者の持分の取得手続との役割分担について言及する指摘があった。遺産共有に限らず、通常共有のケースにおいても、他に分割請求事件が係属しており、その中で、所在等不明共有者の持分も含めて全体について適切な分割を実現することを希望している共有者がいるケースでは、基本的にはその分割請求事件の中で適切な分割をするべきであり、それとは別に、所在等不明共有者の持分のみを共有者の1人が取得する手続を先行させるべきではないと思われる。
そこで、本文②のとおり提案をしている。なお、第17回会議では、相続開始から10年を経過した後に、やむを得ない事由があって具体的相続分による分割を求めることができるケースでは、新たな規律を用いるべきではないのではないかとの趣旨の指摘があったが、そのケースも含め、本文②のとおり遺産分割の請求をし、届出をすれば、遺産分割が優先される。
2 (2)(手続等)について
本文①(ウを除く)、②及び⑥は、部会資料41の第1の(注2)(注3)の内容を具体的に書き下したものである。
本文①ウ及びそれに関連する②及び③は、(1)②のとおり異議の届出を認めたことに伴い、その届出期間を定めるものである。
本文④及び⑤は、部会資料41の第1の(注4)の内容を具体的に書き下したものである。
なお、(1)①の裁判は、非訟事件に該当するので、非訟事件手続法第2編(非訟事件の手続の通則)が適用されることとなるが、管轄の規定など個別事件の規定については所要の規定を整備することとなる。(注)では、管轄について部会資料30の第2の1(1)等の補足説明に記載していた内容を記載した上で、所要の規定を整備することを記載している。
10 所在等不明共有者の持分の譲渡
所在等不明共有者の持分の譲渡について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
② 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
③ ①の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
④ ①から③までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(2) 手続等
① 前記9(2)①ア、イ及びエ、④から⑥までの規律は、(1)①の裁判に係る事件について準用する。
② 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判により権限を付与された共有者が(1)①の事件の終了した日から2箇月間その権限を行使しないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。
(注)(1)①の裁判に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 (1)(要件等)について
(1) 本文①及び③について
本文①及び③の内容は、部会資料41の第3と基本的に同じである。ただし、①については、所在等不明共有者以外の共有者は自らその持分を譲渡するものであることや、不動産の持分の全部を売却することが前提となっていることを明確にするために、裁判の内容につき、所在等不明共有者以外の共有者の同意を得て所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与するのではなく、所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与することとしている。また、第17回会議での議論を踏まえ、本文③では、時価相当額の支払請求権が発生するのは、上記の譲渡権限が付与されたときではなく、所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときで
あることとしている。
(2) 本文②について
本文②の内容は、部会資料第42の第1の4と同じである。
(3) 本文④について
前記9と同様に、所在等不明共有者の持分の譲渡でも、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)にも新たな規律を準用することとしている。
2 (2)(手続等)について
(1) 公告等
公告等については、前記9(2)①ア、イ及びエ、④から⑥までなどと同様の規律としている。
(2) 裁判の効力
部会資料41の第3(注3)のとおり、この権限付与の裁判を受けた共有者が、長期間にわたって譲渡をしないといった事態が生じ得ることを防止する観点からは、権限付与の裁判については、譲渡をすることができる期限(権限付与の効力の終期)を定めることが考えられる。また、通常、裁判の申立てをする際には、譲渡をする第三者が定まっていると考えられ、あまりに長期間権限の行使を認めることは、相当でないと考えられる。他方で、権限付与の効力の終期を一律に定めると、例外的な事情があるケースに対応することができない。
以上を踏まえ、本文②では、原則として、所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判により権限を付与された共有者が事件の終了した日から2箇月間その権限を行使しないときは、その裁判は、その効力を失うとしつつ、この期間は、裁判所において伸長することができるとすることを提案している(期間の伸長がされ、権限行使期間が長期となると、事情の変更により、供託した金額が相当でなくなるケースもあり得るため、伸長は飽くまでも例外的に認められるものであり、譲渡の見込みがあり、それほど間を置かずに譲渡することができるケースに限られると解される。)。
なお、ここでは、譲渡の効力がその終期までに有効に生じていなければならないことを前提としている。そのため、停止条件の成就(他の共有者の持分の譲渡の効力の発生)も、権限行使期間の終期までに完了している必要がある。他方で、持分の移転の登記は、この終期までに行われている必要はない(第17回会議での意見を踏まえたものである。)。
11 相続財産についての共有に関する規定の適用関係相続財産についての共有に関する規定の適用関係について、次のような規律を設けるものとする。
相続財産について共有に関する規定を適用するときは、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
(補足説明)
部会資料42の第3では、遺産共有において持分の価格の過半数で決する際には法定相続分(又は指定相続分)を基準とすることとしていた。また、部会資料42の第1の3及び4では、所在等不明相続人の共有持分の取得又は譲渡を可能とする規律を導入することを提案していたが、その対象となる共有持分の割合は、法定相続分又は指定相続分の割合によることとしていた。
判例によれば、基本的に、遺産共有にも、民法第249条以下の規定が適用されるところ、部会資料42で掲げた規律以外にも、その基準となる持分が問題となるため(前記9及び10参照)、従前の議論を踏まえ、本文では、相続財産について共有に関する規定を適用するときは、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とすることとしている。
なお、部会資料42の第3では、新たに設ける共有に関する規律が、原則として遺産共有にも適用される旨を記載していた。このことを変更するものではないが、現行法においても、共有に関する規定は、原則として、遺産共有にも適用されると解されているものの、その旨を明示的に定める規定はないため、ここでは、その旨を特に明示することとはしていない。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立