実質的に夫婦関係にある場合でも、婚姻届を提出していない関係を「内縁関係」といいます。 内縁関係の場合、法律上の夫婦と違い、お互いが相続人となりません。つまりお互いの財産について一切の相続権が発生しないことになります。
内縁の配偶者といえるためには、内縁に必要とされる婚姻意思および夫婦共同生活の実態の存在が必要です。夫婦別姓などの理由で婚姻届を出さずに事実婚を続ける場合、従来の内縁とは区別され、内縁と同様の法的保護が与えられるかどうかは未知数です。
このように、社会的には夫婦としての実態を備え、夫婦共同生活を送っているにも関わらず、何らの保護も与えないのは妥当でないという考えから、内縁関係を法律上の夫婦に準ずる関係として、内縁の配偶者に対して法律上の保護がなされる場合があります。
たとえば、判例では、内縁の配偶者の居住する建物に対する居住の保護について、非居住相続人からの明け渡し請求を権利の濫用として排斥し、家主からの明 け渡し請求を相続人の賃借権を援用して排斥しました。相続人がいない場合は、借地借家法36条によって、内縁の妻の借家権の継承が認められています。
祭祀財産の承継については、被相続人の指定が優先するので、被相続人の指定があれば生存内縁配偶者が祭祀主催者となります。被相続人の指定がない場合でも、被相続人と生計を異にしていた相続人ではなく、内縁の妻が祭祀主催者とされたとされた事例もあります。
これらのほか、健康保険の保険給付(健康保険法3条7項)、厚生年金保険の遺族厚生年金(厚生年金保険法3条2項)、労働災害の遺族補償年金(労働者災 害補償保険法16条の2第1項)、公営住宅の入居者資格(公営住宅法23条1項)、育児・介護休業の申出や深夜業の規制(育児介護2条4項)などがあります。
このように内縁関係者に対して保護がされつつあるものの、完全ではありませんので、内縁関係にある者が自分の死後にパートナーに財産を残したい場合には、生前贈与や遺贈により借地上の建物を内縁の妻名義にしておく必要があります。