定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義されており、そこでいう「定型取引」とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」とされていますので(法548条の2)、定型約款に該当するかどうかは、
① ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引
② その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの
③ 契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された
④ 条項の総体
のいずれにも該当する契約であることが要件といえるでしょう。そこで、これらの要件を検討していくことにします。
① ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引
「不特定多数の者を相手方として行う取引」とは、相手方の個性に着目せずに行う取引という趣旨です。この要件により、例えば、労働契約において利用される契約書のひな型は「不特定多数の者を相手方として行う取引」に関する契約書とは言えず、定型約款に含まれないということになります。なお、一定の集団に属する者との間で行う取引であれば直ちに「不特定多数の者を相手方とする取引」に該当しないというわけではなく、相手方の個性に着目せずに行う取引であれば「不特定多数の者を相手方とする取引」に該当し得ることを前提としていることが部会資料86-2-1頁に記載されています。
② その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの
「その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」の典型例は、相手方が不特定多数であり給付が均一である場合があげられ、ある企業が一般に普及しているワープロ用のソフトウェアを購入する場合などは、事業者間の取引ではあるが、上記の要件を満たすので、その場合には、定型約款に当たります。
一方、仮に当事者の一方によってあらかじめ契約書案が用意されていたとしても、製品の原材料の供給契約等のような事業者間取引に用いられる契約書は定型約款に含まれません。なぜなら、当該取引においては、通常の契約内容を十分に吟味し、交渉するのが通常であり、この種の取引は画一的であることが両当事者にとって合理的とまではいえないからです。
事実上の力関係等によって交渉可能性がないこともあるが、そういった場合であっても、プロ同士の取引であって、画一的であることが両当事者にとって合理的といえないのであれば、定型約款には当たりません。
以上と類似するものとして、基本契約書に合意した上で行われる個別の売買取引などがあります。このような取引においては、基本契約書で合意したところに従い、契約条件の詳細は定められていて、個々の発注時には対象物の品質、数量等のみを示して取引が行われることが少なくありません。しかし、このような取引については、別途基本契約で内容を十分に認識して合意しているものであり、個別の発注時に基本契約書で定められた取引条件に拘束されるのは基本契約の効力によるものと解されます。したがって、このような取引は「定型約款」による取引とはいえないものと解されます (部会資料83-2-38頁参照)。
③ 契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された
この要件は文字どおりです。
④ 条項の総体
「条項の総体」とは条項の集まりという意味です。「実務解説改正債権法」(359頁)では、「1枚の契約書における一部の契約条項群のみが「定型約款」に該当することはあり得る。例えば、個品割賦販売契約書の裏面に細かい字で印刷されている契約条項群(いわゆる裏面約款)などは、当該部分が定型約款に該当すると解される」としています。