遺言者の死亡前に「相続させる」推定相続人が死亡した場合の遺言の効力

遺言者の死亡前に受遺者が死亡した場合は、原則として遺言の効力は生じ ないとされています。そして、その場合には、受遺者が受けるべきであった遺産は相続の対象になるとされています。
このような考え方は、「相続させる」旨の遺言のついても同様に考えられてきました。たとえば、昭和62年6月30日法務省民事局回答は、「相続させる」と いう遺言の文言であっても、このような遺言は遺贈についての民法994条1項と同様に考えて、推定相続人が先に死亡した場合は遺言の効力を否定して当該財産は 相続の対象として扱うこととされていました。
また、下級審の判例も、代襲相続人に特定財産を相続させる旨の記載がない限り、遺言の該当部分は無効であるということを前提に 判断をしていていました(札幌高決昭61・3・17、東京地判平6・7・13、東京地判10・7・17、東京高判平11・5・18等)。
ところが、東京高裁平成18年6月29日判決は、「相続させる」旨の遺言で推定相続人が先に 死亡した場合には、代襲相続人が遺言により相続する旨の判断 を示したため、実務が一時混乱しました。
しかしながら、最高裁平成23年2月22日判決は、「「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡 以 前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから, 遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずる ことはないと解するのが相当である。」と判示し、この問題に決着がついたのです。
したがって、「相続させる」旨の遺言を作成する場合には、推定相続人が先に死亡することも想定して、その場合の定めもしておく方が賢明と言えます。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立