賃借人が原状回復すべき部分が一部分の場合、賃借人の負担すべき補修費用の算出はどのようにすればいいですか

原状回復は毀損部分の復旧ですから毀損部分に限定する必要があります。しかしながら、通常、当該部分のみの補修工事を施工単位としない場合には、毀損部分の補修工事が可能な最低限度を施工単位を負担対象範囲として算出すべきです。

この場合、毀損部分と補修工事施工箇所にギャップがあるケースが問題となります。

例えば、壁等のクロスの場合、毀損箇所が一部であっても他の面との色や模様あわせを実施しないと商品価値を維持できない場合があることから、毀損部分だけでなく部屋全体の張替えを行うことが多いと思われます。しかし、賃借人の負担すべき修繕義務という観点からは、賃借人にどのような範囲でクロスの張替え義務があるとするかということが問題となります。

この点、当該部屋全体のクロスの色・模様を一致させるのは、賃貸物件としての商品価値の維持・増大という側面が大きいというべきであり、当該部屋全体のクロスの張替えを賃借人の義務とすると、原状回復以上の利益を賃貸人が得ることとなり、妥当ではありません。

一方、毀損部分のみのクロスの張替えが技術的には可能であっても、その部分の張替えが明確に判別できるような状態になり、このような状態では、建物価値の減少を復旧できておらず、賃借人としての原状回復義務を十分果たしたとはいえないとも考えられます。

したがって、クロス張替えの場合には、毀損箇所を含む一面分の張替費用を賃借人の負担とすることが妥当と考えられます。

※この回答は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局 平成23年8月)を引用しています。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立