【資料50】財産管理制度の見直し(管理不全土地管理制度及び管理不全建物管理制度)

1 管理不全土地管理制度
(1) 管理不全土地管理命令の要件等
管理不全土地につき、管理人による管理を可能とするために、次のような規律を設けることで、どうか。
① 所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(③の管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。
② 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
③ 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。
(注) 裁判所は、管理不全土地管理命令等の一定の裁判をする場合には、その対象である土地の所有者の陳述を聴かなければならない旨の規律や、これらの裁判に対する即時抗告に関する規律を設ける方向で検討する。また、裁判所が管理不全土地管理命令をする場合において、その対象である土地の所有者の陳述を聴く手続を経ることによりその申立ての目的を達することができない事情があるときは、その所有者の陳述を聴くことを要しない旨の規律についても、併せて検討する。
(補足説明)
1 提案の趣旨
現行法においては、管理不全土地による侵害又はその危険が及ぶ近隣の土地の所有者は、土地の所有者に対し、所有権に基づく妨害排除請求等を行使することができるが、管理人による管理は想定されていないので、土地について継続的な管理が必要であるケースなどには、必ずしも対応することができない。
部会資料39においては、管理不全土地の適切な管理を実現するための新たな手段として、管理人による管理不全土地管理制度を設けることを提案していたが、第17回会議においては、その方向性自体については異論がなかった。これを踏まえ、本部会資料においては、その内容を整理し、改めてその制度の創設を提案するものである。
2 本文①について
部会資料39においては、「所有者が土地を管理していないこと」を要件として提示していたが、管理を全くしていないケースだけではなく、管理をしているもののそれが適切ではないケースも問題となり得るため、ここでは、所有者による土地の管理が不適当であることを要件とすることを提案している。
なお、第17回会議においては、その要件をより絞り込んだ文言とすべき旨の指摘があった。もっとも、今回の提案は、単に他人に権利侵害等が生じているのではなく、土地の管理が不適当であることを要件としており、他人に権利侵害等が生じたことのみによって安易に管理人が選任されるといった事態は生じないものと解される。
3 本文②について
所有者不明土地管理制度(部会資料43)についてではあるが、第18回会議では、土地にある動産の管理は、土地の管理に必要な範囲で管理人が行えば足りるのであるから、土地とその土地にある動産とを同列に並べるような規律ぶりは避けるべきではないかという指摘があった。
この指摘は、管理不全土地管理制度における動産の取扱いに関する規律にも当てはまると考えられる。
そこで、本文②では、管理不全土地管理命令の対象は飽くまでも土地であることを前提としつつ(本文①参照)、その効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ旨の規律を設けることを提案している(なお、これと同様の規律を所有者不明土地管理制度においても設けることを検討することが考えられる。)。
4 土地の所有者の陳述聴取等について
部会資料39の本文第2の1(1)ア(注)では、土地の所有者の手続保障を図るための規定を設ける旨を注記し、同(4)では、緊急の対応が求められるケースを念頭に、陳述聴取の例外を設けることを提案していたところ、第17回会議においては、これに賛成する意見があった。
このことも踏まえ、注の前段では、土地の所有者の手続保障の観点から、管理不全土地管理命令等の一定の裁判をする場合には、土地の所有者の陳述を聴くこととし、また、即時抗告に関する規律も設ける方向で検討する旨を注記している。また、注の後段では、緊急性のある事件にも対応する観点から、裁判所が管理不全土地管理命令をする場合において、その対象である土地の所有者の陳述を聴く手続を経ることによりその申立ての目的を達することができない事情があるときは、当該所有者の陳述を聴くことを要しないとすることについても併せて検討する旨を注記している。
(2) 管理不全土地管理人の権限等
管理不全土地管理人の権限等について、次のような規律を設けることで、どうか。
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。
② 管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、これをもって善意で〔かつ過失がない〕第三者に対抗することができない。
一 保存行為
二 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
(補足説明)
1 管理人の処分権限等
(1) 処分権限を認めることについて
部会資料39本文第2の1(1)イでは、管理不全土地管理人は、保存行為及び性質を変えない範囲内における利用改良行為をすることができるとすることを提案していたところ、これについては異論がなかった。
また、保存行為等を超える行為については、裁判所の許可を得てこれをすることに賛成する意見があった。これに対して、処分行為まで認めることについては、土地の所有者の財産権の保護の観点から、反対する意見もあった。
もっとも、このような反対の意見を前提としても、土地の所有者に実質的に損害が生じない場合にまで、保存行為等を超える行為をすることを一律に否定する必要はないように思われる。
そこで、本文では、管理不全土地管理人は、保存行為及び性質を変えない範囲内における利用改良行為については、裁判所の許可を得なくてもすることができるとし、他方で、それを超える行為については、裁判所の許可を得てすることができるとしている。
(2) 処分行為が認められる場合について
保存行為等を超える行為については、最終的には、個別の事案ごとに、土地の所有者に実質的に損害が生じないかどうかを中心に裁判所がその許可の適否を判断することになるが、土地を売却するなどの処分行為については、例えば、次のようなケースが考えられる。
ア 管理不全土地の所有者の明確な同意があるケース
管理不全土地管理人において処分行為が必要であると判断し、管理不全土地の所有者が管理不全土地管理人に対して明示的に処分行為に同意をしているケースでは、その処分行為等を否定する理由は特にないので、基本的に認められると解される。
イ 管理不全土地の所有者の明確な同意がないケース
管理不全土地管理人による処分行為について管理不全土地の所有者の明確な同意がないケースで処分行為を許可するに当たっては、費用等の負担の観点から管理不全土地管理人による管理を継続することが相当でないが、単に管理不全土地管理命令を取り消して土地の管理を所有者に戻したのでは土地の管理不全状態が解消されず、他人に損害を与えるおそれがあることなど、管理不全土地について処分行為をする必要性が要求される。
その上で、処分行為がされても、管理不全土地の所有者に実質的な損害が生じないことが必要となるが、そこでは、実際に土地を使用することができなくなることによって所有者に損害が生じないのかという問題と、処分の対価が適正であるかという問題とがある。
管理不全土地上の建物に居住しているなど、所有者が当該土地を実際に利用しているケースにおいては、処分行為によって所有者に著しい損害が生ずることとなるので、裁判所は基本的に許可をすることができない(そもそも、このケースでは、土地を管理人に管理させることが適切ではなく、相当性を欠くので、管理命令が発せられないことが多いように思われる。)。他方で、所有者が当該土地上にゴミを放置しているのみであるなど、その土地を実質的に使用しておらず、その土地を使用することができないこととなってもその生活等に特段の支障が生じないケースにおいては、許可が認められることがあると考えられる。また、処分行為の対価が適正である必要がある。
いずれにしても、管理不全土地の所有者の意見は、上記の判断をする上で、重要な考慮要素になると解される。
2 管理不全土地管理人による管理等の対象となる財産について
第17回会議においては、管理不全土地管理人が土地の処分等によって得た財産(価値転化物)が管理等の対象となるのかが明確でないとの指摘があったが、ここでは、管理不全土地管理命令の対象である土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産に加えて、価値転化物等の管理人が得た財産も対象となることを明記している。
なお、管理不全土地管理命令が取り消された場合には、管理人が、その土地等をその所有者に引き渡さなければならないこととなるのは、所有者不明土地管理命令が取り消された場合と同様である。また、所有者がその受領を拒絶する場合など、民法第494条の要件を満たす場合には、同条に基づき弁済供託をすることができると考えられるが、この弁済供託の規律とは別に、所有者不明土地管理命令と同様に、供託に関する特段の規律を置く必要があるのかについては、引き続き検討する。
3 法的構成等について
管理人がそもそもどのような権限を有しているのかを明確にするため、本文①では、管理人の権限を明記した上で、保存行為等を超えるものについては、裁判所の許可を要するとしている(このことによって、本文②が本文①の権限を制限するものであることが明確となり、本文②ただし書(後記補足説明4)の第三者保護規定で対抗することができないものが何かも明確になるものと解される。)。
また、裁判所の許可を得ずに、保存行為等を超える行為をしても、土地の所有者に対して効果が生じないことを前提としている。所有者不明土地管理制度では、そのことを「無効とする」との文言で表現していたが、裁判所の許可を要件とする民法上の他の制度においては、無許可では効果が生じないことはある意味で当然のことであり、そのような文言は特に用いられていないため(民法第859条の3参照)、本部会資料でも、「無効とする」との文言は用いていない(所有者不明土地管理制度についても同様にするのかは改めて検討する予定である。)。
4 第三者(取引の相手方)の保護の規定について
管理不全土地管理人が、裁判所の許可を得るべき行為をその許可を得ずにした場合には、その行為が上記のとおり原則としては無効となるにしても、取引の安全の観点から、取引の相手方を保護するための規律を設けることが考えられる(管理不全土地管理人は、所有者不明土地管理人と同様に、自己の名で行為をするものであり、その権限は代理権そのものではないとすると、表見代理の規定は直接適用されないと考えられる。)。
そこで、本部会資料では、善意(又は善意無過失)の第三者には、本文②本文の制限を対抗することができないとすることを提案している。
なお、第三者の保護要件に関し、所有者不明土地管理制度と同様に、善意であれば足りるとすることも考えられるが、所有者不明土地管理制度では、土地の処分権限が管理人に専属していることなどから、取引の安全をできるだけ保護する観点から無過失を要件としないことを提案していたのに対し、管理不全土地管理人には処分権限が専属しないことや、表見代理の規定とのバランス等を考慮し、少なくとも、ここでは、善意無過失を要件とすることも考えられる。
また、ここでは、表見代理の規定などと同様に、「第三者」との表現を用いている。
表見代理の規定では、「第三者」は、代理人が取引をする直接の相手方を指すと理解されており、ここでも同様に相手方を意味すると理解して、相手方以外の第三者は、例えば、民法第94条第2項を類推適用して処理すると整理することも考えられるが、その解釈の在り方を検討するに際しては、善意であれば保護されるとするのか、それとも無過失まで要求するのかも踏まえて検討する必要があるように思われる。
5 必要な処分(給付を命ずる処分)に関する規律を置くことの是非について
部会資料39の本文第2の1(3)では、管理不全土地管理人が管理を拒まれた場合の対応として、裁判所が土地の引渡しその他の給付を命ずる処分をすることができるとすることを提案していたが、第17回会議では、概ね賛成との意見があった一方で、土地の所有者の権利への配慮の観点から、慎重に検討すべきとの意見もあった。
改めて検討すると、そもそも、土地の所有者が管理不全土地管理人による管理を拒む行為をすることが想定されるケースでは、管理不全土地管理人に管理をさせることが相当ではなく、物権的請求権等の他の方策により是正すべきとも思われることから、そのような阻害行為が想定されるケースの多くは、相当性を欠くとして管理不全土地管理命令が発令されないと考えられる。
また、管理不全土地管理命令が発せられ管理不全土地管理人が選任されたが、その土地の所有者が管理不全土地管理人による土地の立入りを不当に拒んだりすることは、管理人の管理権を侵害するものであり、管理人は、管理権侵害を理由に、訴訟においてその妨害行為の停止を求めることができるし、緊急を要するケースでは、民事保全を活用することも考えられる。
これらを踏まえ、本部会資料では、必要な処分(給付を命ずる処分)に関する規律を置くことについては、提案していない。
(3) 管理不全土地管理人の義務等
管理不全土地管理人の義務等につき、次のような規律を設けることで、どうか。
ア 管理不全土地管理人の義務
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
② 管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
イ 管理不全土地管理人の解任等
① 管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。
② 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
ウ 管理不全土地管理人の報酬等
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
② 管理不全土地管理人の管理に要した費用は、管理不全土地管理命令の対象とされた管理不全土地等の所有者の負担とする。
エ 命令の取消し等
裁判所は、管理すべき財産がなくなったときその他管理を継続することが相当でなくなったときは、申立人、管理不全土地の所有者又は管理不全土地管理人の申立てにより又は職権で、管理不全土地管理命令を取り消さなければならない。
(補足説明)
1 本文アについて
本文ア①は、部会資料39本文第2の1(1)ウと同じである。
また、管理不全土地管理命令は、共有持分を単位として発せられるものではないが、その対象となる土地が複数人の共有に属する場合には、特定の共有者の利益を犠牲にして他の共有者の利益を図るような行為をすることは適当でないと考えられる。そこで、本文ア②では、新たに、誠実公平義務を設けることを提案している。
2 本文イ及びウについて
部会資料39本文第2の1(1)エ及びオと、基本的に同じである。第17回会議においては、特段の反対意見はなかった。
3 本文エについて
部会資料39本文第2の1(1)カと基本的に同じであるが、「管理すべき財産がなくなったとき」を取消事由として明示している。
管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産は、管理に要した費用に充てられる(本文(3)ウ)。そして、その残財産がその所有者に引き渡されるなどして、管理の対象財産がなくなったときは、管理不全土地管理人による管理の対象がなくなるので、管理を継続する必要がないと考えられる。
そこで、管理すべき財産がなくなったときその他管理を継続することが相当でなくなったときを、取消事由とすることを提案している。
2 管理不全建物管理制度
(1) 管理不全建物管理命令の要件等
管理不全建物につき、管理人による管理を可能とするために、次のような規律を設けることで、どうか。
① 裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(③の管理不全建物管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。
② 管理不全建物管理命令の効力は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
③ 裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。
(補足説明)
1 本文①について
部会資料39の本文第2の2では、管理不全建物管理制度を設けることについては、管理不全土地管理制度や所有者不明建物管理制度の検討を踏まえて引き続き検討することを記載していたところ、第17回会議においては、この方向性には特段の異論はなかった。
管理不全建物についても、管理不全土地と同様に、現行法上の物権的請求権などの仕組みだけでは必ずしもまかないきれないケースもあると考えられる。また、借地上の空家が管理不全となっている場合の問題も指摘されているところであり、土地の所有者と建物の所有者が異なるケースにも対応するためには、管理不全土地管理制度とは別に、管理不全建物管理制度を設ける必要があると考えられる。
なお、所有者不明建物管理制度については、部会資料44で、所有者不明土地管理命令が発せられていることを要件とするかどうかなど、複数の案を提案していたところ、建物について独自に管理命令を発する必要性の観点から、所有者不明土地管理制度とは別に、所有者不明建物の管理制度を独立して設けること(甲案)に賛成の意見が比較的多かったことを踏まえ、所有者不明建物の管理制度を独立して設ける方向で検討している。
そこで、本文では、管理不全建物について、利害関係人の請求により、裁判所が管理不全建物管理人による管理を命ずる処分をすることを可能とする規律を設けることを提案している。
なお、その要件については、管理不全土地管理命令の要件と同様であるから、前記本文1の補足説明を参照されたい。
2 本文②について
管理不全建物管理命令が、借地上にある管理不全建物について発せられるケースもあるが、この場合に、管理不全建物管理人に借地権に関する権限を認めないとすると、その適切な管理に支障を来すおそれがある。
そこで、管理不全建物管理命令の効力は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に加え、当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶとすることを提案している。
なお、この場合も、賃料の支払義務を負うのは、土地の賃借人(建物の所有者)であって、管理不全建物管理人ではない(部会資料44の5ページ参照。なお、管理不全建物管理人は、訴訟の当事者適格を有するものではないことについては、管理不全土地管理人に関する部会資料39の17、18ページの記載を参照。)。また、管理不全建物管理人は、建物を管理するために、裁判所の許可を得て、管理する財産から賃料の支払をその判断ですることはできると解される。
(2) 管理不全建物管理人の権限、義務その他の規律
管理不全建物管理人の権限、義務その他の規律としては、管理不全土地管理人についての本文1(2)及び(3)と同じ内容の規律を設けることで、どうか。
(補足説明)
1 提案の趣旨
前記のとおり、管理不全建物管理制度は、管理不全建物についても現行法上の物権的請求権などの仕組みだけでは必ずしもまかないきれないケースがあると考えられることから、管理不全土地管理制度の創設と同様の観点から、建物の適切な管理を可能とする仕組みを設けるものである。
そのため、建物について固有の検討をしなければならない点(上記本文②における敷地利用権の取扱い)を除いて、基本的には、その制度設計としては、管理不全土地管理制度と同じものとすることを想定している。
そこで、本文では、管理不全建物管理人の権限、義務その他の規律としては、管理不全土地管理人についての本文1(2)及び(3)と同じ内容の規律を設けることを提案している。
2 管理不全建物の取壊しについて
第17回会議においては、管理不全建物を取り壊すことの可否について確認を求める意見があった。
管理不全建物の取壊しは、建物の売却などと同じく、処分行為に該当するので、管理不全土地を処分する場面(本文1(2))と同様の規律が適用され、裁判所の許可が必要となることを想定している。
問題は、実際にどのような場面で取壊しをすべきかであるが、最終的には管理不全建物管理人及び裁判所の個別の判断であるものの、建物の所有者の財産上の利益を害する程度が一般的には大きいことから、慎重に検討すべきものであると解される。そのため、実際に認められるのは、建物の所有者が同意をしているケースや、建物が廃墟となっていて倒壊の危険があるなど、その建物を全く使用することができず、修繕をすることもできないケース、取壊し費用に比して修繕費用が高額となるケースなど限定的な場面であると思われる。
また、実際上の問題として、費用の捻出をどのようにするのかが問題となる。申立人が予納金の形で一時的に負担し、後に回収することも考えられるが、実際に回収ができる見込みがなければ申立人がこれを負担しようとしないこともあり得ると思われ、そのことを踏まえると、費用の面から見ても、管理不全建物管理人等が取壊しの方法を選択する場面は限定的ではないかと思われる。
(3) 区分所有法における専有部分及び共用部分について
管理不全建物管理命令に関する規律は、建物の区分所有等に関する法律における専有部分及び共用部分については、対象としないとすることで、どうか。
(補足説明)
区分所有者による専有部分等の管理が不適当である場合には、区分所有建物の管理に支障を生ずることもあり得る。
しかし、建物の管理に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合又はそのおそれがある場合にまで至っていれば、他の区分所有者の全員又は管理組合法人はその行為の停止措置等を請求することができる等とされており(建物の区分所有等に関する法律第57条から第59条まで)、一定の対応をすることができる。
また、所有者不明建物管理制度に関する部会資料28(8ページ)でも記載したように、区分所有法制の在り方については、当部会における共有制度の見直しの帰結も踏まえつつ、別途、区分所有関係の実態を踏まえて検討されるべきものと考えられる。
そこで、区分所有建物の専有部分等については、管理不全建物管理制度の対象から除外することとし、区分所有者によって適切な管理のされていない区分所有建物への対応については、区分所有者の所在不明によって適切な管理がされていない区分所有建物への対応と併せて、区分所有法制の在り方の観点から検討されるべき将来的な課題とすることが考えられる。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立