【資料43】財産管理制度の見直し(所有者不明土地管理制度)

(1) 所有者不明土地を管理するための新たな財産管理制度として、次のような規律を設けることで、どうか。
ア 所有者等を知ることができない土地の管理
① 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又はその共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(②により選任される所有者不明土地管理人をいう。)による管理を命ずる処分をすることができる。
② 裁判所は、①の命令をする場合には、当該命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。
(注)所有者不明土地管理に関する事件の事物管轄につき、地方裁判所だけでなく簡易裁判所にも管轄を与えることについて、どのように考えるか。
(補足説明)
1 本文(1)ア①の要件について
(1) 探索方法について
第15回会議においては、他人の所有物を管理させることから、要件としては相当厳格にすべきであり、最低限の探索方法を明示すべきという意見もあったが、他方で、具体的な調査の程度は土地の抱える事情等に応じて個別具体的に判断されることが望ましく、探索方法について特段の明示をすべきではないという意見もあった。
部会資料33の補足説明で記載したように、所有者不明土地管理制度では、裁判所が発令の要件該当性の判断をすることとなるから、必要な調査を尽くしても所有者等を知ることができない所有者不明土地に当たるかどうかについては、裁判所が事案に応じて適切に判断すべきことになると考えられるため、本文では、部会資料33の要件を維持し、探索方法について特段の明示はしていない。
なお、第15回会議においては、探索方法は曖昧にすべきではないという意見や、裁判所における実務運用上の支障がないようにすべきとの指摘もあったことを踏まえ、これまでの議論の整理が必要となると思われる。
(2) 表題部所有者不明土地について
ア 表題部所有者不明土地の所有者の探索
部会資料33の本文(1)ア(注)で記載したように、表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律(表題部所有者不明土地法)に規定する所有者等特定不能土地及び特定社団等帰属土地については、同法に基づく特定不能土地等管理命令等の規律のみを適用することを想定しているが、他方で、同法第15条第1項の表題部所有者の登記がされていないものについては、登記官における探索が開始している場合を含め、所有者不明土地管理制度に基づく管理命令がされ得ることを想定している。
この点に関連して、第15回会議においては、表題部所有者不明土地である場合に、どこまで調査をすれば所有者不明土地管理制度における所有者不明といえるのかについて、整理が必要であるとの指摘があった。
表題部所有者不明土地であっても、必要な調査を尽くしても所有者等を知ることができない所有者不明土地に当たるかどうかを裁判所が事案に応じて判断することになる点では、表題部所有者不明土地でない土地と同様である。
ただし、表題部所有者不明土地の所有者の探索の方法は、登記名義人の住所及び氏名が正常に登記されている土地とは自ずと異なってくる面がある。例えば、氏名のみの土地やいわゆる記名共有地(表題部所有者がAほか〇名とされているもの)においては、表題部所有者として登記されている者が誰であるかを把握するために、周辺土地の閉鎖登記簿や旧土地台帳を調査し、同一氏名について住所が記載されている者が存在しないかなどの調査をすることになると考えられる。
また、表題部所有者不明土地法に基づく登記官による探索(同法第3条)が開始している場合には、必要があると認められれば、裁判所の調査嘱託の方法によってその探索の経過に関する資料を入手し、これを要件該当性の判断資料として活用することも考えられる。
イ 表題部所有者不明土地法に基づく探索への影響
表題部所有者不明土地について登記官による探索が開始された後に、所有者不明土地管理命令がされた場合であっても、所有者不明土地管理命令それ自体によって土地の登記の適正化がされるわけではないことから、この管理命令が発せられたことが直ちに登記官による探索に影響を与えるものではないと思われる。もっとも、所有者不明土地管理人が土地を第三者に売却し、第三者名義の登記がされた場合や、これが見込まれる場合などは、登記官による探索を続行することは相当でないと考えられることから、登記官による探索は中止されること(表題部所有者不明土地法第17条)が考えられる。
2 所有者不明土地管理人と不在者財産管理人等との競合について
第15回会議においては、任意後見契約に関する法律第10条第3項を参考に、他の規定に基づく管理人が選任された場合における所有者不明土地管理命令の帰趨(管理の終了等)に関する規律を設けてはどうかとの意見もあった。
所有者不明土地管理人と不在者財産管理人が仮に同時に併存した場合の権限の優劣について検討をすると、所有者不明土地管理人が選任されているときは、その土地の管理処分権は所有者不明土地管理人に専属することとなる(後記本文イ①)から、不在者財産管理人がその土地について管理処分権を有することはない(不在者財産管理人の管理処分行為は効力を有しない)。その意味では、両者の優劣は明確になっているため、それ以上の手当は不要であるように思われる(所有者不明土地管理人が選任された場合には、その旨が登記される(後記本文イ④)こととしているから、不在者財産管理人において、所有者不明土地管理人の選任の事実を知らずに土地について取引行為などを行うケースは、稀であると考えられる。)。
なお、不在者財産管理人が選任されていることに気付かずに、所有者不明土地管理人が選任された場合でも、上記の点は同様である。登記記録を確認するなどし、所有者不明土地管理人が選任されたことに気付いた不在者財産管理人は、当該土地について権限を行使したい場合には、所有者不明土地管理人の選任等の取消しを求めることになると考えられる。
3 申立権者について
(1) 利害関係人
部会資料33の本文(1)ア①と同じく、利害関係人を申立権者としている。
ここでいう利害関係人とは、所有者不明土地を適切に管理するという制度趣旨に照らして判断されるものであるから、不在者の財産全般を管理し得る不在者財産管理人の選任の申立権者である利害関係人とは、その範囲が必ずしも一致するものではないと考えられる。
いずれにしても、一般論としていえば、所有者不明土地管理命令の申立権者である利害関係人としては、その土地が適切に管理されないために不利益を被るおそれがある隣接地所有者や、一部の共有者が不明な場合の他の共有者、その土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者がこれに当たると考えられるほか、民間の買受希望者についても、一律に排除されるものではない。
なお、この点に関連して、民間の買受希望者が申立てをしようとする場合に、登記名義人等の戸籍謄本等を取得することができるかとの指摘があったが、土地を購入する具体的計画を有する者が戸籍法第10条の2第1項に基づく第三者請求をすることは一律に否定されるわけではないものの、交付請求に至った具体的事情を勘案した上で、その判断は慎重にされるべきものと解される。
(2) 時効取得を主張する者について
第15回会議では、所有者不明土地を時効取得したと主張する者も、ここでいう利害関係人に含まれ、選任された所有者不明土地管理人を被告として訴えを提起することができるかについて、確認を求める意見があったが、取得時効が認められれば土地の所有者不明状態を解消することが可能となるため、一般論としては利害関係人に該当すると考えられる。
所有者不明土地を時効取得したと主張する者の申立てにより所有者不明土地管理人が選任された場合には、選任された所有者不明土地管理人としては、時効取得を主張する者の主張の適否を検討し、場合によっては、時効取得を主張する者から訴訟の提起を受け、その被告となって応訴し、認容判決がされた場合には、所有権の移転の登記をすることになる。その登記がされれば、管理すべき財産がなくなるので、土地管理命令が取り消される。
なお、所有者不明土地管理人が土地の所有権の移転の登記を申請する権限を有するかどうかという問題もあるが、登記義務者たる土地所有者の管理処分権の行使の一環として、このような権限も有するものと考えられる。
4 管轄裁判所について
第15回会議においては、所有者不明土地管理人の選任の申立件数が多くなると見込まれるとして、身近な簡易裁判所も管轄裁判所とすべきとの意見があった。
民事事件については、地方裁判所が基本的な第一審であり、簡易裁判所は比較的少額、軽微な事件のみを管轄することとされているところ(裁判所法第24条、第33条第1項)、所有者不明土地管理人の適切な選任や監督、場合によっては土地の売却の可否とその代金の当否などについての法的判断が必要になることに照らすと、清算人の選任事件(会社法第478条)や表題部所有者不明土地法における所有者等特定不能土地等の管理に関する事件など民事における財産管理事件を基本的に取り扱うこととされている地方裁判所においてのみ取り扱うとすることが考えられる。
これに対しては、所有者不明土地は都市部よりも地方部に多いと考えられることから、地方部にも多くある簡易裁判所にも競合して管轄を与える必要があるとの指摘がある。もっとも、地方裁判所にも支部があることや、郵送による申立ても可能であり、申立て後も含め申立人が裁判所に来庁しなければならないケースは限られると思われることから、地方裁判所のみを管轄裁判所としても、地方部に存する所有者不明土地について、地方部に居住する利害関係人が管理命令の選任の申立てをするニーズに対応することが可能であるとも考えられる。
所有者不明土地管理制度における事物管轄の在り方は、検討中の所有者不明建物管理制度や管理不全土地管理制度等にも連動し得るものであるが、どのように考えるか。
(参考)
全国の地方裁判所の数:本庁50、支部203、合計253
全国の簡易裁判所の数:438
不在者財産管理人の選任事件の新受件数(平成31年1月から令和元年12月まで)
:約3000件
相続財産管理人の選任事件の新受件数(平成31年1月から令和元年12月まで)
:約5000件
5 裁判を受ける者について
管理命令がされると、これにより管理人に選任される者の法律関係が形成されることから、管理人は裁判を受ける者に当たり、決定の告知(非訟事件手続法第56条第1項)の対象となる。
また、所有者不明土地の所有者は、管理命令により管理処分権を制限されることとなるから「裁判を受ける者」に当たると解されるが、不明となっている所有者に対して現実に告知することはできないから、失踪宣告の場合などと同様に、その決定は所有者に告知することは要しないとの特則的規律を設ける必要があると考えられる(家事事件手続法第148条第4項参照)。
なお、いずれにしても、当該土地の登記において管理命令が発せられたことは公示されるので、所在等が不明とされた所有者が当該土地を処分等する際には、それによりそのことを知ることができる。
6 その他
第15回会議では、所有者不明土地管理人となるべき者の円滑な管理の観点からは、管理の方法を限定できるようにした方がよいのではないかとの意見もあったが、部会資料33の補足説明で記載したように、そのような限定をし、権限自体を制約することは、取引の安全の観点からも、慎重であるべきであるように思われる。もっとも、裁判所が事案に応じて管理の在り方について所有者不明土地管理人に指示をすることは考えられるが、その指示の在り方については、実務運用に委ねることとするほか、他の法制を参考に何らかの形で規律を設けることも考えられる。
イ 所有者不明土地管理人の権限等
① ア①の規律により所有者不明土地管理人が選任された場合には、ア①の命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該土地の上にある動産(当該土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。
② 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。
a 保存行為
b 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
③ ②に違反して行った所有者不明土地管理人の行為は、無効とする。ただし、〔所有者不明土地管理人は、〕これをもって善意の第三者に対抗することができない。
④ ア①の命令があった場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、当該命令の対象とされた土地又はその共有持分について、当該命令の登記を嘱託しなければならず、当該命令を取り消す裁判があったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、当該命令の登記の抹消を嘱託しなければならない。
(補足説明)
1 本文について
部会資料33から大きな変更はない。なお、動産に関する権限の規律は、本文①の中に取り込んでいる。
2 裁判所の許可を得ないでした行為の効力
(1) 第15回会議においては、本文③の「これをもって善意の第三者に対抗することができない」とする規律について、対抗することができないことの対象は、無効であることではなく、権限が制限されていること(権限が適切に行使されていないこと)ではないかとの指摘があった。
この規律の意図するところは、所有者不明土地管理人が許可を得ないでした行為であっても、許可がないことに関して善意の第三者(行為の相手方を含む)はその有効を主張することができる(その第三者に対しては無効を対抗することができない)というものであり、その趣旨は、「これをもって善意の第三者に対抗することができない」という文言で表現されていると考えられる。
そのため、本文では、「これをもって善意の第三者に対抗することができない」という文言を維持している。
(2) 第15回会議においては、「所有者不明土地管理人は、これをもって善意の第三者に対抗することができない」との規律について、「所有者不明土地管理人は、」との文言を付すべきではないとの指摘もあった。
確かに、許可に反して当該土地が売却された場合に、それによって不利益を被るのは土地の所有者等であるから、土地の所有者等が第三者にその無効を主張することができないとすべきであり、その観点からは、「所有者不明土地管理人は、」との文言を付すべきではないとも思われる。
もっとも、所有者不明土地管理人が選任されている場合に、当該所有者自身が無効を主張するケースは稀であり、実際には、処分等をした当該所有者不明土地管理人、又は改任後の所有者不明土地管理人がその無効を主張することになると考えられるし、所有者不明土地管理人が無効を主張できないことによって結果としてその背後にいる所有者等もその無効を主張できないことになると解される。他の法制との比較の観点からも、この表現が不相当とまではいえないと考えられる(信託法第66条第5項、表題部所有者不明土地法第21条第3項など)。
3 債務の弁済について
部会資料33の補足説明(11ページ)に記載したとおり、所有者不明土地管理人には所有者の財産及び負債の状況を調査する権限がないため、土地所有者の負う債務の弁済は、所有者不明土地管理人の職務の内容に当然に含まれるものではないと考えられる。
他方で、所有者不明土地管理人が土地を売却するとともに、その代金をもって土地に設定された抵当権の被担保債務を弁済して抵当権の設定の登記の抹消登記をすることが土地の管理上相当であるケースにおいて、所有者不明土地管理人が把握し得た情報を踏まえてその債務の弁済をすることが適当であると判断される事案もあると思われ、そのような事案においてまで、所有者不明土地管理人が弁済をすることが一律に禁じられるものではないと解される(ただし、所有者不明土地等の所有者の所有に属する財産の処分に際しては、裁判所の許可が必要となる。)。もっとも、所有者不明状態になっても抵当権が実行されないまま放置されている土地につき、調査権限のない所有者不明土地管理人が、被担保債権の残額を正確に把握した上で弁済することが適当と判断することができるケースは限られるのではないかとの指摘も考えられる。
ウ 所有者等を知ることができない土地の管理の開始
所有者不明土地管理人は、就職の後直ちにア①の命令の対象とされた土地又はその共有持分の管理に着手しなければならない。
(補足説明)
部会資料33と同じである。
エ 所有者不明土地等に関する訴えの取扱い
① ア①の命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。
② ア①の命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴訟手続で当該所有者不明土地等の所有者を当事者とするものは、中断する。
③ ②により中断した訴訟手続は、所有者不明土地管理人においてこれを受け継ぐことができる。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
④ ア①の命令が取り消されたときは、所有者不明土地管理人を当事者とする所有者不明土地等に関する訴訟手続は、中断する。
⑤ 所有者不明土地等の所有者は、④により中断した訴訟手続を受け継がなければならない。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
(補足説明)
1 訴訟手続の中断及び受継
土地管理命令が発せられると、所有者不明土地等の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属し、当該所有者不明土地等に関する訴えの当事者適格は、所有者不明土地管理人が有することとなる。
そのため、土地所有者を当事者とする所有者不明土地等に関する訴訟(例えば、所有者の所在が不明となっている土地が崖崩れ寸前となっているため、隣地所有者が、当該所有者を被告として、所有権に基づく妨害予防を求める訴えを提起しているような場合が想定される。)の係属中に土地管理命令が発せられた場合には、土地の所有者は当事者適格を失い、所有者不明土地管理人が当事者適格を有し、他方で、所有者不明土地管理人を当事者とする所有者不明土地等に関する訴訟の係属中に土地管理命令が取り消された場合には、土地の所有者が当事者適格を有する。
そして、これらの場合に、新たに訴訟追行をすべき者による訴訟手続への関与が可能になるまでは一定の時間を要することからすると、新たに訴訟追行をすべき者又は相手方から手続の続行を申し立てられるまでは、訴訟手続の進行を停止すべきであると考えられる。
そこで、本文では、訴訟手続の中断及び受継に関する規律を設けることを提案している。なお、この規律をどの法律に書き込むのかについては、他の法制とのバランスを踏まえて検討するべき問題であると思われる。
2 裁判所の許可の要否
第15回会議においては、訴訟行為に関する裁判所の許可の要否について、考え方の整理を求める意見があった。
所有者不明土地管理人が行おうとする訴訟行為の内容によっては、裁判所の許可を得なければならないものと考えられる。そして、不在者財産管理人又は相続財産管理人と同様に、所有者不明土地管理人が原告となって訴訟を提起する場合には、基本的には裁判所の許可が必要となるが、所有者不明土地管理人が被告となって応訴する場合には、裁判所の許可は必要ではないと考えられる。
この場合の説明の仕方としては様々な考え方があると思われるが、不在者財産管理人が応訴することについて、大判昭和15年7月16日(民集19巻15号1185頁)は、旧民事訴訟法第50条第1項(現第32条第1項)を根拠として裁判所の許可を不要としていた。他方で、旧家事審判規則第106条第1項により選任された相続財産管理人が応訴することについては、最判昭和47年7月6日(民集26巻6号1133頁)は、民法第103条の保存行為に当たることを根拠として裁判所の許可を不要としており、手続法的な説明と実体法的な説明のいずれもあるものと思われる。
オ 所有者不明土地管理人の義務
① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その職務を行わなければならない。
② 所有者不明土地等が数人の共有に属する場合において、数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理人が選任されたときは、所有者不明土地管理人は、その対象とされた共有持分を有する共有者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(補足説明)
1 善管注意義務の相手方について
第15回会議においては、所有者不明土地管理人は、必ずしも土地の所有者のために選任されるわけではないのに、善管注意義務の相手方を土地所有者とすることは、整合するのかという趣旨の指摘があった。
所有者不明土地管理人は、土地の適切な管理を実現するために選任されるものであるが、他方、善管注意義務の相手方を土地所有者とすることは、所有者不明土地管理人が土地の所有者の利益を害さないように行動しなければならないということを意味するものであって、所有者不明土地管理人の選任の目的と排斥しあうものではないと考えられる。
2 土地所有者と所有者不明土地管理人との間の利益相反行為について
第15回会議においては、土地所有者と所有者不明土地管理人との間の利益相反行為に関する考え方についての整理を求める意見があったが、所有者不明土地管理人が土地所有者の土地を自ら買い受けるような利益相反行為をすることは、その法的地位(代理人とみるかどうか)にかかわらず、民法第108条の直接適用又は類推適用により、許されないと考えられる。
カ 所有者不明土地管理人の解任等
① 所有者不明土地管理人がその任務に違反して所有者不明土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を解任することができる。
② 所有者不明土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
キ 所有者不明土地管理人の報酬等
① 所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用は、所有者不明土地等の所有者の負担とする。
② 所有者不明土地管理人は、裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
(補足説明)
1 本文カについて
部会資料33本文(3)アから特段の変更はない。
2 本文キについて
第15回会議においては、管理に要した費用等を、所有者不明土地やその土地上の動産等に限らず、土地所有者の負担とする規律を設けるべきではないかとの意見があった。
所有者不明土地管理人は、土地の所有者に代わって土地を管理する者であるから、その管理費用及び報酬は、土地の所有者が負担すべきと解される。
表題部所有者不明土地法では、費用の前払及び管理人の報酬については、その対象とされた所有者等特定不能土地から支出することとされている(第27条第1項)一方で、所有者の財産一般についての負担の規定は置かれていないが、これは、所有者等特定不能土地の性質上、事後的にその所有者を特定することが期待し難いため、所有者の財産一般から費用等を回収することは予定されないことによるものと考えられる。これに対し、本文ア①の所有者不明土地について管理人が選任される場面には、管理命令の時点で所有者が特定されているケースも含まれており、また、事後的にその所有者が特定される可能性も事案によって様々であるから、所有者の財産一般から費用等を回収することができるケースもあると考えられる。これらの違いに照らすと、所有者不明土地管理制度においては、管理費用等を所有者の負担とする旨の規律を置くことが考えられる。
また、このように考えると、費用の前払及び報酬の支払原資についても、土地や土地上の動産に限定する必要はないと考えられる。
そこで、本文①の規律を設けるとともに、本文②の規律については部会資料33から修正したものを提案している。
ク 所有者不明土地の管理命令の取消し等
① 所有者不明土地管理人は、ア①の命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該土地の上にある動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その所有者のために、当該金銭を当該土地の所在地の供託所に供託することができる。
② 所有者不明土地管理人は、①による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
③ 裁判所は、所有者を知ることができないことを理由にア①の命令をした場合において所有者及びその所在を知ることができたとき、所有者の所在を知ることができないことを理由にア①の命令をした場合において所有者の所在を知ることができたとき、所有者不明土地管理人が管理すべき財産がなくなったとき(所有者不明土地管理人が管理すべき財産の全部が①により供託されたときを含む。)
その他命令の対象とされた土地又はその共有持分の管理を継続することが相当でなくなったときは、所有者、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、当該命令を取り消さなければならない。
④ ③によりア①の命令が取り消されたとき(所有者及びその所在を知ることができた場合又は所有者の所在を知ることができた場合に限る。)は、所有者不明土地管理人は、当該所有者に対し、その事務の経過及び結果を報告し、所有者不明土地等を引き渡さなければならない。
(補足説明)
1 土地の所有者が死亡した場合の取扱い
第15回会議においては、所有者が所在不明であるとして所有者不明土地管理人が選任されたが、その所在不明の所有者が死亡していたことが判明していた場合に、管理命令の取消事由となるのか、また、所有者不明土地管理人によって行われた処分行為はどうなるのかについて、検討を求める意見があった。
この問題は、①所有者の死亡(又は失踪宣告)によって所有者不明土地管理人の権限が影響を受けるかどうか、②所有者の死亡が取消事由に当たるか、③所有者の死亡後に相続人が判明したとして管理命令が取り消された場合に、所有者不明土地管理人が既にした行為の効力に分けられるが、それぞれ次のように考えられる。
まず、①所在不明となっていた所有者が死亡した(又は当該所有者について失踪宣告がされた)としても、所有者不明土地管理人の権限が当然に消滅するものではなく、管理命令の取消しがされるまでは、決定が効力を有するので、権限は存続しているというほかなく、その行為の効果は相続により所有者となった者に帰属すると考えられる。
次に、②所在不明となっていた所有者が死亡していたことが判明した(又は当該所有者について失踪宣告がされた)場合に、このことが取消事由となるかどうかであるが、所有者が死亡し、その相続人の存在及び所在が判明すれば、土地の所有者の存在等が判明したことになるので、取消事由になるものの、その相続人の存在及びその所在が判明しなければ、土地が所有者不明状態であることには変わりがないので、死亡が判明したことのみをもって直ちに管理命令の取消事由に当たらないと解される。
③その相続人の存在及びその所在が判明したとして管理命令が取り消された場合における所有者不明土地管理人が既にした行為の効力は、結局、管理命令の取消し一般に遡及効を認めるかどうかの問題に帰着すると考えられる。そして、管理命令が有効にされて、それを前提に取引等がされている場合に遡及的にその効力を覆滅させることは取引の安全を害するから、管理命令の取消し一般に遡及効を認めることはできないと解される(現行の不在者財産管理制度においても、取消の効果は、将来に向かって生ずるものにすぎないと解される。)。
2 その他
第15回会議では、所有者不明土地管理人が土地を売却した場合におけるその後のプロセスの確認を求める指摘があった。
所有者不明土地管理人が土地を第三者に売却した場合には、所有者不明土地管理人は、買主と共同して所有権の移転の登記をするとともに、売却によって得た代金を供託し、その上で、管理すべき財産がなくなったことを理由として土地管理命令の取消しがされ、土地管理命令の登記の抹消の嘱託がされることが想定される(一旦管理命令が取り消されると、所有者不明土地管理人であった者はその土地についての権限を基本的に有しないこととなるから、土地管理命令の取消しがされる前に、所有権の移転の登記の申請などの必要な事務が行われるべきであると考えられる。)。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立