相続財産のうち、賃貸住宅があり、相続開始後、毎月4万円の家賃が発生していたとします。相続人は配偶者と子供二人。5か月後(つまり、家賃が20万円たまった)、遺産分割により賃貸住宅は配偶者が相続する旨の遺産分割協議が成立しました。さて、20万円はだれが取得することになるのでしょうか。
相続財産に預金や賃貸住宅などがあった場合、相続開始後にそれらから生じた利息や家賃などの果実はどのような性質があるのか考える必要があります。まず、これらの果実が相続財産ではないことは明らかです。なぜなら、相続財産とは、相続開始時に存在した財産のことを言うのですから、相続開始の際に存在していなかった果実は相続財産ではないということになります。
次に家賃が「5万円」という金銭債権であることにも着目しておきたいものです。
遺産分割の効力が相続開始に遡ることを考えると、相続開始時に遡って元物の所有者が定まるのですから、果実も、元物の所有者となった物が取得するという考え方もあるでしょう。しかし、判例は、賃料について、「遺産から生じる賃料は遺産とは別個の財産であり、各相続人に帰属する」としています。しかも、賃料は金銭債権であるので、各相続人が相続分に応じて分割債権として確定的に取得するという趣旨の判断をしているのです。
もっとも、相続人全員が合意すれば、果実も遺産分割の対象として遺産分割協議をするというのが家庭裁判所の実務のようです。
最判平成17年9月8日
遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属するものであるから,この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は,遺産とは別個の財産というべきであって,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取 得するものと解するのが相当である。遺産分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。