法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議 議事録

 それでは,本日の審議に進みます。
  部会資料39をお取り上げください。部会資料39は全体として管理不全土地への対応ということを扱ってございます。
  まず,委員,幹事の皆様に,「第1 管理措置請求制度」についてお諮りをいたします。
  部会資料1ページにおいては,第1の1といたしまして,相隣関係の規律として,甲案として,他の土地について,そこに記されているような土砂の崩壊,汚液の漏出,悪臭の発生,工作物・竹木の倒壊などによって自己の土地に損害が及び,又は及ぶおそれがある場合に,その原因除去,予防工事を請求させることができるという案を示すとともに,乙案として,物権的請求権の行使が可能であるかどうかについて,解釈上疑義がある天災事変の場合を特に出して示すという仕方で改めて規律を整理して示しているもの,これが乙案でございますが,それを示し,併せて丙案として,これらの局面において被害を被るおそれのある土地所有者自らが,それらの措置をすることができるという仕方も考えられるのではないかということで,甲案,乙案,丙案の三つをお示ししているところでありますから,これらを見ながら,どういうふうに進むべきかということについて,委員,幹事の御意見を承りたいと考えます。
  5ページに行っていただきまして,2として,現に使用されていない土地における特則を設け,ただいま1でお話ししたような権利行使に関して,取り分け甲案又は乙案で進んだ場合には,第1次的には当該他の土地の所有者に対して,それらの措置をさせるものでありますが,それに困難がある場合の土地の所有者の対応についての特例的な規律の提案をお示ししているところであります。
  7ページにまいりまして,費用の問題を取り上げ,それぞれにただし書など,要件の細目をお示ししているところでありますが,一言で申し上げれば,甲案は,問題を抱えている他の土地の所有者などが費用を負担すべきであるという考え方を提示しているのに対して,乙案は,等しい割合で,権利行使をする側と,それを求められる側との間で負担を分かち合うべきではないかという考え方を基本とする提案をお示ししているところでございまして,ここも甲案と乙案とを並べてお示ししているところでありますから,どのように進むべきかということについて,やはり委員,幹事の御意見を承りたいと考えます。この範囲で,まず委員,幹事の御意見を承ります。いかがでしょうか。
○中村委員 日弁連のワーキンググループでは,様々な意見が出ました。一番広く制度構築を認めるという方向での見解では,甲案プラス丙案といいますか,全ての場合に請求権を認めるとともに,天災その他避けることのできない事変による場合には自ら除去ないし予防工事をすることができるということを明示するのがよいという考え方が一方でございました。
  他方で,(注1)には物権的請求権の要件と同程度の所有権侵害が必要であることを前提とするとの記載がありますが,このことを要件として法文に書き込むべきであり,それがない限り,現時点では甲乙丙案ともに反対であるという意見もございました。また,これを法文に書き込むのはなかなか難しいだろうという理解の下,少なくとも,後に一問一答などの公定解釈といいますか,何か示される場面で,このことはきっちり書き込んでほしいという意見もございました。
  天災と不可抗力による侵害がある場合に,土地所有者が自ら妨害排除ないし予防工事をすることができるとすることで,迅速に危険を除去できる仕組みを作りたいという点がこの制度の主眼であろうと思うわけですけれども,この思いは共有しているところです。
  他方,丙案を採用する場合には,一定の場合に法的手続を経ることなく自力執行ができることを認めることにもなりますので,簡便・迅速に事態に対応できるという利点はある一方で,天災その他避けることのできない事変であれば私権への介入がフリーハンドになるおそれがありはしないかという懸念を覚える実務家も多かったということだと思います。現行法下では,丙案が想定しているような場合は物権的請求権を被保全権利として,恐らく断行の仮処分の決定を得て執行するということになると思われますが,申立人自らに工事をさせてほしいという態様においては,被保全権利と保全の必要性をかなりしっかり疎明しないと決定が出ないわけですので,何かそれにもう少し近づけるような要件設定ができないかというようなことなどを含め,引き続き検討することには賛成です。
  第2項の,「現に使用されていない土地における特則」に関してですけれども,先ほどの1項に反対する意見では2項にも反対するということなのですが,甲案に賛成する見解は2項に賛成という意見と,あと①のaの通知に対する異議の対象が,部会資料では工事をすべき旨に対する異議のように読めるのだけれども,現に使用されていないに該当しないという異議もあり得るのではないか,この要件の認定は意外に難しいのではないかという意見も出ておりました。
  3項の「費用」については,甲案賛成意見と乙案賛成意見に分かれておりました。乙案につきましては,天災その他の事変による場合であっても,元々の管理が不全であったために,その天災等に耐えられなかった,あるいは管理不全であったために被害が甚大になったというケースもあり得るところですので,このようなただし書を設けるということについても賛成しています。
  それから,文言の使い方についてですけれども,第1,1項の冒頭の柱書きのところですが,「管理不全土地の所有者に対する」というふうになっているのですが,今回,管理不全土地に限らない作りになってきているかと思いますので,その辺りの文言の調整を今後お考えいただければいいのではないかという意見も出ていました。
  長くなりました,以上です。
○山野目部会長 弁護士会の御意見をまとめていただきまして,ありがとうございます。
  藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
  まず,管理措置請求制度の1番のところ,甲案から丙案までの案について申しますと,ここは,先ほど中村先生もおっしゃっていたような迅速な対応が必要だというところのニーズが事業者にも強く,自ら原因の除去や予防工事ができるということを明記してほしいという意見が強く出ております。したがって,今,出ている甲乙丙の案の中では,やはり丙案ということになってくるということでございまして,今回の提案の中で,例えば隣地が他の土地という表現に変わったとか,そういったところに関しては非常によい方向に,変えていただいているのではないかと思う一方で,やはり,この自分たちでできるというところは,一定の要件を課すにせよ明記していただかないと,なかなか実務上,当事者の話合いに委ねているだけではどうしても解決しないと。それで,結果的に自然災害等が起こって被害がより大きくなるというような事態もございますので,そこはやはりきちんと書き込む形にしていただけないかというところがございます。
  また,2の「現に使用されていない土地における特則」に関しても,1で丙案では駄目だという話になった場合には,当然これは入れていただきたいというところでございます。補足説明に書いていただいている,正当防衛とか緊急避難として一定の管理措置が正当化される場合もあるという御指摘につきましては,これで実務を動かすことはできない,正当防衛に当たる可能性があるから大丈夫だと言われても実務は動けないという意見は,事業者の方からかなり強く出ているというところでございまして,正当防衛とか緊急避難というのは,あくまで事後的な救済法理に過ぎないのではないか,というところもございますので,やはりここも自分たちで,本当にいざとなればできるというところは明記していただきたいところでございます。
  最後,3の「費用」のところですが,こちらについては,やはり甲案の方がよろしいのではないかと思っております。放置したもの勝ちにならないようにということで,原則,所有者の負担,原因を作っている土地等の所有者の負担ということにしていただいて,その一方で,様々な考慮要素を明記していただくことで,より柔軟な解決を図るという方向性に賛成したいと思っております。
  乙案は,比較的基準が明確に見えるのですが,フィフティー・フィフティーで負担するか,あるいは責めに帰すべき事由のある方が負担するかということで,選択肢がまず限られてしまうという問題がございます。また,現実には,これはもう実際に災害等が起こってしまったときの話なんですが,複数の土地に起因して,例えば山から何かが崩れてきて,それが事業者の土地に流れ込んで,さらにその事業者の土地から周辺の田畑に流れ込むとか,そういう複合的な事情で複数の土地が絡むような場合に,このルールで果たして処理できるのか,関係する土地ごとに一個一個請求を立てていけばできるのかもしれませんけれども,それは迂遠な解決策のようにも思えますし、このような複合的な事象が起きたときに,処理が非常に硬直的になってしまうのではないかという懸念もあるところですので,やはり甲案のように比較的フレキシブルに事情に応じて判断ができるというような制度設計がよろしいのではないかというふうに考えておるところでございます。
  以上,一通り意見を申し上げました。
○山野目部会長 各論点について御意見を頂きました。道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 補足説明のところに物権的請求権の話だというふうに書いてしまうと,物権的請求権一般のこととの関係がちょっと分かりにくくなるので,相隣関係の問題として書くというふうな説明が,特定の案についてですが,ありまして,私は,相隣関係の問題として書けば,どうして物権的請求権の一般論への跳ね返りというのがないと言えるのかというのが若干疑問だったのです。しかし,現在の民法の相隣関係の規定のところには土地相互の関係として様々なことが規定されておりますので,それの一類型であるということで,より一般的な物権的請求権の問題とは区別して考えられるんだというふうに説明するのは,まあ,あり得るのかなと思うようになりました。したがって,そのような説明はそれでいいのかなと思いました。
  2番目なのですが,費用負担の問題なんですね。この管理措置請求制度等々に関しましては,恐らくこれは当該他の土地ですね,自分の土地に一定の影響を及ぼしている他の土地について,そこについて工事をするといったことなどが前提になっているのだろうと思います。それだから,本来的には当該他の土地の所有者にやらせるというのがあって,しかし,不可抗力のときはあまりにかわいそうではないかといって均分にしようとか,そういう話につながってくるのでしょうけれども,例えば私が土地を有しているとして,隣の土砂が崩壊してきたり,汚液が漏出してきたりすると,私は自分の土地にはきちんと土留めというか,留める作業等をすると思うんですね。
  つまり,侵害があると自分の土地にも一定の工事をするはずなのです。長々と漏出など続いていては嫌ですから。しかし,それは自分の土地についての工事であり,この管理措置請求の中身ではないから,自分の土地の工事をする人が費用を負担し,そのあげくに,隣の土地の工事について場合によっては折半というのは,僕はバランスがおかしいのではないかという気がいたします。どこかで勘違いがあるのかもしれませんので,2番目についてはお教えいただければと思います。
○山野目部会長 道垣内委員から御意見を頂いて,最後に勘違いがあるかもしれないのでお教えを,とおっしゃっていただきましたが,私が伺っている印象では勘違いはないように感じますが,何か大谷幹事の方からございますか。
○大谷幹事 今,道垣内委員の御指摘のように,自分の土地で防御措置をするということもあり得るのだろう。その場合の費用を,今でもそういうことは多分されていて,相手方に請求するということはされていないのかなという気はいたしますけれども,それが絶対にできないのかというのは,もう少しよく考えてみたいと思います。
○山野目部会長 道垣内委員,お続けになることはおありでしょうか。
○道垣内委員 いえ,請求できると書けというつもりはないのです。私は,どちらかといえば,甲案といいますか,当該他の土地の所有者だろうと思っていて,それでバランスがとれるのだろうと思います。片方の土地の工事代金額だけが折半というのは,何かどうもバランスが崩れているのかなという気がするということでございます。
○山野目部会長 乙案についての問題点の御指摘はしかと承りました。ありがとうございます。
○潮見委員 潮見です。
  第1の1のところについてのみ,意見を申し上げます。
  言いたいことは二つありまして,「権利の内容について」と挙がっていることについてです。既に弁護士会,あるいは藤野委員の御発言にもございましたが,この内容を忍容請求というふうに考えるのか,相手方に対する行為請求というように考えるのかという,これが一つの問題です。それから,もう一つは物権的請求権との関係です。
  前者の方ですけれども,藤野委員がおっしゃられたことも分かるのですが,忍容請求権のような考え方を採ったら,弁護士会の意見の一部にもございましたように,他人の所有権,あるいは所有権限に対する介入という度合いがあまりにも強過ぎるという感じがいたします。要するに,物を所有している人が,その所有物に対して持っている権限を,自分が代わって行使していろいろなことをやるということがメインになってくるのが忍容請求権の基本ですから,それはちょっとあまりにも強過ぎるかなと思います。弁護士会の御意見の一部にもございましたように,仮処分という方法もありますし,そのようなことを考えると,丙案というものは厳しいかなという感じがいたします。その意味では,相手方に対する行為請求,除去請求,あるいは予防工事請求という形で,実体法上の請求権というものは立てた方がいいのではないかという意見です。
  それからもう一つは,物権的請求権との関係で,甲案を採るか,あるいは乙案,丙案のような考え方を採るかというところです。不可抗力を原因とする管理不全のような場合に,物権的請求権,妨害排除,あるいは妨害予防請求権が使えるかどうか分からないとあります。しかし,土砂崩壊なんていうことがあるときに,それを放っておくことができないから,この管理措置請求のような形で新しい制度を設けて,それに対応するというように,つまり物権的請求権が使えない,あるいは使えるかどうか不安な場合に,こうした請求権を立てるという形で考えていくんだったら乙案とか丙案,まあ,乙案だと思いますけれども,土砂の崩壊とか,土地のその他の理由によって所有権が危険にさらされているという天災地変,不可抗力の場合に限定してよいのか。むしろ,土地の所有権自体が危険にさらされているときに,その除去を求める権利というものを,当該危険にさらされている土地の所有者に認めるべきであるということで考えるのであれば,乙案のような限定というものは要らないのではないかという感じがいたします。後ろの方にある,費用負担面で調整がうまくできるようなルールが作られて,しかも,その妨害状態というものがどんな場合がということに関して,これは甲案も乙案もそうですけれども,ある程度明確な形で列挙ができるのであれば,乙案のような天災地変に限定する必要はない,むしろ危険にさらされている土地所有者の権利保護という観点から,管理不全土地への介入ということを一般的に認めても構わないのではないかという感じがいたします。
  ついでに,余計なことですけれども,先ほど弁護士会の方々の御意見の中で,(注1)に書いている所有権侵害が必要であるということを明記するうんぬんという意見があったようですけれども,甲案の書き方,あるいは乙案の書き方でも,物権的請求権において言われている土地所有権に対する妨害排除請求等々が問題になっている場面での所有権侵害というものと同じものであるというのは,直感的な私の印象ですけれども,不法行為を研究している人間からすると,この中に十分に含意されているというふうにも感じるところです。
  最後は感想です。
○山野目部会長 大きく2点にわたる御意見,更に若干の御指摘を頂きありがとうございました。佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
  今,手を挙げた後に潮見先生がお話をなさって,ほとんど同じだなと思い,手を挙げる必要はなかったかと考えてもいるのですが,少しだけ違うというか,付け加えることもあるかとも思いますので,申し上げさせていただきます。
  まず,第1の1について,私は甲案がいいと思っております。物権的請求権との関係で,不可抗力等の場合に物権的請求権には慎重な意見があるというふうに補足説明では書いてあるわけですけれども,物権的請求権の行使自体についてできないという見解は本当にあるのでしょうか。費用負担の面で考慮すべきであるという意見はよく聞くところですけれども,先ほど潮見先生がおっしゃったところだと思うのですが,物権的請求権自体を行使できないというのは余り聞いたことがないように思います。
  例えば土地所有者というのは通常の場合,占有者でもあるわけですよね。そうだとすると,占有保持や占有保全の訴えができるわけで,占有保持や占有保全の訴えについては,これは明文があって,基本的に何ら留保はないということになっています。そのことからしても,物権的請求権について明文の規定がないのはもちろんそうですけれども,物権的請求権の場合に,占有者に認められる請求が,所有者等の物権者には認められないという考え方は,恐らくないように思います。結局,繰り返しですけれども,潮見先生がおっしゃったとおりのことではないかと思っています。
  費用負担についても,確かに不可抗力の場合には,それで全面的にいいのかということについての疑義はないわけではありませんけれども,折半こそが正しいというふうな積極的な考え方も必ずしも言われていないと思いますので,費用負担もやはり原則としては相手方といいますか,侵害者の方がすべきであろうと。先ほど道垣内先生がおっしゃったことも含めて,そうであろうと思います。
  その上で,5ページにございますように,2の甲案を採った場合ですけれども,特則が要らないのかということについて,特則を設けることを比較的積極的に考えた方がいいのではないかということを最後に申し上げたいと思います。
 1の場合は管理不全土地一般の問題であるのに対し,2の場合には妨害している方の土地の所有者が,土地の管理に結局関与していないという場合ですので,この場合については,先ほど来出ておりますけれども,慎重な手続を設けた上で,忍容請求が認められてもよいのではないかと。どうしてもそうすべきだとまでは言いませんが,そういうことがあってもいいのではないかと思います。それはどうしてかと申しますと,後で管管理不全土地の管理命令の話が出てまいりまして,そこでの説明で,管理不全土地の管理命令について,管理者が置かれたんだけれども,その管理者の管理を例えば土地所有者が妨害するというときに,実効的な排除の方法が必ずしもないのではないかというふうなことが,確か書かれていたと思うのですね。そういったときに,妨害されている側の土地の所有者の権利として,そのような妨害に対して有効に対処するために,この5ページの2の制度を使うということはあり得ると思います。また,管理されていない土地について,その管理不全状態が継続している場合は管理者を置くということは有効な手段だと思いますけれども,一回的,あるいは比較的短期で措置が終わるという場合についてまで,管理者をどうしても置けというのは過剰かなとも思います。
  最後に,細かいことなんですが,もしそのような形で管理者の制度と並べて考えるのだとすると,管理者の方では,前回までは「現に管理されていない」というふうな文言だったのが「現に」というものを取られたところ,この5ページの2のところでは,「現に使用されていない」という前回のままの文言になっております。仮にの話ですけれども,この2の提案がこのまま残っていくとしたならば,この文言でいいのかということを考える必要があるのではないかと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  潮見委員のお話と全く重なっているということではなくて,やはり佐久間幹事からも有益な御意見を頂きました。
  松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
  まず,部会資料39の第1の1の甲・乙・丙案ですけれども,やはりオルタナティブというよりは,かなり性質というか,観点の違うものがあるように思います。特に丙案については,現行民法215条の自然流水が低地で閉塞したときに,高地所有者は疎通工事権ができるという規定の要件を少し広げたものとしての位置付けであるというふうにも拝見しました。そうしますと,仮に丙案をとる場合は,215条との関係をどういうふうに理解するか,215条を吸収するような形になるのか,あるいはそれと併存していくということなのかという点は,確認したいと思います。丙案については,潮見委員が御指摘されましたように,やはり他人の土地に立ち入って工事をするという点で,所有権に対する制約が非常に強くなるので,そこはかなり要件を絞っていく必要があると考えられます。その意味でも,215条との関係を意識しつつ検討していく必要があると思います。
  それから,費用負担については,行為請求の場合には原則相手方の費用で,忍容請求をして自分がやるときには自分の費用でというのが基本であるというふうに私も思います。しかし,その上で,とりわけ不可抗力による場合で,双方ともに利益を受けるにもかかわらず,相手方だけが負担する,あるいは自分だけが負担するということになると,どうにも不公平というときに,費用の半分ないし一部の分担を求めるという余地はあってもよいと思いました。
  その点については,215条は自らの費用でと定めていますので,それについては費用の一部を相手方に求める余地を認める形で調整を図る必要があると思われます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  既に存在している規定である215条との関係についても注意をしながら検討を進めることにいたします。
  安高関係官,どうぞ。
○安髙関係官 ありがとうございます。林野庁でございます。
  初めに,この一連の制度の見直しの検討の目的,位置付けについて,改めて確認させていただきたいと思います。
  今般の制度見直しの検討というのは二つございまして,所有者不明土地の発生抑制と所有者不明となった土地の適切な管理の確保の二つを目的として検討されており,この管理措置請求制度については,所有者不明などによって管理不全となった土地への対応策として検討されていると理解してございます。その上で,この1ページにございます,1の「権利の内容」について大きく2点,述べさせていただきたいと思います。
  まず1点目でございますが,この3案並べられている甲乙丙でございますが,3案いずれも所有者不明などにより管理不全となった土地を対象とした制度ということだと思うのですけれども,一見してそれが判然としない規律になっているということでございます。「損害が及び,又は及ぶおそれがある場合」というのが,相当の所有権侵害が既に発生している場合,あるいは、蓋然性が高い場合であって,このような状態になることをもって管理不全ということであって,それが所有者不明であることが起因しているということなのかもしれませんが,多くの一般市民は,ここに御参集の委員,幹事の皆様のように民法に深い御知見があるわけでございません。なので,今の甲乙丙の3案,いずれも見ただけでは,管理不全であるかということに関係なく,近隣の者が損害のおそれがあるということで,いきなり管理措置を講じるように求めることができる,又は求められてしまう制度になってしまうのではないかと。言い方は悪いんですけれども,ちょっと管理措置請求してみちゃおうかなとか,管理措置請求やったら儲けものみたいな,そんなような形で安直に請求が求められたりしてしまうといったようなことを懸念しているところでございます。このようなことから,中村委員からも御指摘がございましたが,管理不全土地の権利の対象というのが明確に分かるような規律とする必要があるのではないかと考えてございます。
  もう一つ,「権利の内容」の2点目でございますが,乙丙の案のように,「天災その他避けることのできない事変」という文言を明記した規律を置くということについては,極めて重大な問題があると林野庁としては考えているところでございます。現行民法の解釈上,疑義のある不可抗力による侵害の場合について,新たに規律を設けるという考え方につきましては,何十年も専門家の皆様方の間で判断が分かれていてグレーになっていたところを,今回,白黒を付けるということで,民法の立てつけとしてはすっきりとするのかもしれませんけれども,不可抗力による侵害の場合こそ,これまでどおりケース・バイ・ケースで判断していく必要があるのではないかと考えているというところでございます。また,そもそもなぜ物権的請求権について規律を明確化していないにも関わらず,今回,不可抗力による侵害の場合についてのみ新たな規律を明文化されるのかということが,国民目線からしますとなかなか理解が及ばないと考えているところでございます。
  これから申し上げます話は,特に森林に限った話になりますが,国土の7割を占める森林を所掌している林野庁としての懸念を皆様に共有させていただければと思います。
  気候や地形といったような我が国の状況から,昔から台風ですとか豪雨,地震といった災害が多発しておりまして,このような自然環境下におかれましては,木が倒れたりとか土砂が流れ出るというのは不可抗力ということでございます。重力がある限り,上から下に落ちるものでございますので当然と言えば当然なんですが,こうした我が国の状況下では,従来より治山,治水対策といったことで,行政が公的に復旧,予防を行ってまいりました。民民の関係においても,関係者間での解決が図られているという実情がございます。またそのような中で,天災などの不可抗力であっても,一方に責任を問いましょうというような民民関係の法律として,規律として,新たに規定をすることになりますと,森林所有者にとりましては,もはや森林を所有していること自体がリスクということで,所有者不明森林化ですとか,そもそも森林の所有権を放棄しようというふうに,所有権の放棄も助長することになるのではないかということで,国土の7割を占める森林の今後の管理ですとか利用の在り方について,極めて大きな影響が発生することを懸念してございます。
  このほかにも,森林において事業者などが道路ですとか送電線といったインフラの整備をされるといった場合についても,森林所有者側としては,この管理措置請求制度を恐れてインフラ整備に非協力的になってしまったりであるとか,また,インフラ整備をするのであれば,その隣接する一定の範囲の森林も買い取って,事業者の方で管理をしてくださいといったことを求めるといったような行動も想定され,これは地域の維持・発展を進めていくという上でも負の影響が発生するのではないかと懸念しているところでございます。なので,「天災その他避けることのできない事変」ということを対象とした規律としますことについては,森林を所有するということへの責務の程度が従来よりも本当に大転換されるようなことだと思っておりまして,実社会,諸政策への影響を考慮すると,なかなかあり得ないと考えてございます。
  こういった社会のニーズとして,また課題として,こういった不可抗力の場合に措置を請求できるかということではなくて,所有者不明の土地が存在していることによって,必要な措置を適時に講じることができないところが社会の問題点としてあると考えているというところでございます。
  こういったことを踏まえると,今,提示されてございます管理措置請求制度の内容にこだわることなく,所有者が不明な場合に,所有者不明土地によって損害を受ける,所有者不明土地で損害を受ける方が速やかに原因を除去できる規律とするということで,事足りるのではないかと考えてございます。
  繰り返しになりますが,圧倒的多数の市民の皆様方は,委員,幹事の皆様のように民法などに深い知見があるわけではございませんので,こんなことを裁判で,そんな無茶なことは言いませんよ,というふうにおっしゃっていただいても,そもそもいつ訴えられるか分からないとか,どこまで管理をしていれば訴えられないのかといったことがなかなか分からない状況でございますので,そういったことが不安であると,恐怖であるということも,是非委員,幹事の皆様方にも御理解を頂きたいというふうに申し上げます。
  あと費用の負担,本文7ページからの費用の負担の在り方でございますが,この規律を置くこと自体,混乱,トラブルが起きるのではないかと考えてございます。特に森林の場合は,所有者が森林の管理を適切に行っていたとしても,その隣接地の利用形態が森林から変わってしまうといったことで,管理措置を請求されてしまうというケースもあると考えてございます。例えば,これは前の部会で申し上げたのですが,Aさんが企業に森林を売却しましたと。その企業が森林を開発してしまったといった場合に,そのAさんの隣にいたBさんの森林というのは,今までであればAさんの森林があったので,枝を伸ばさなかったり,倒れるということもなかったのですが,伐り開かれたことで風通しがよくなって,日差しもよくなって枝を伸ばすとか,倒れやすくなるといったことで,企業側の土地に損害を及ぼすということもあろうと思います。こういった場合,原因としては企業側にも一部あると言えます。こういったことから,費用に関する負担の規律を置くべきではないと考えていまして,もし規律を置くのであれば,費用を森林所有者が全額負担するということを基本として,その減免を求めるために,最悪,裁判で争わなければなくなるというような規律を民法上に明文化されるというのは非常に酷であると思っていまして,そういった面からは,乙案をベースにして,等しい割合で負担をしましょうというところから,不可抗力ですとか受益の程度というものを勘案して調整することがいいということで,7ページの注釈の後段3行に記載いただいていますが,そういった規律の考え方が望ましいのではないかと考えてございます。
  すみません,以上でございます。
○山野目部会長 御意見承りました。
○松尾幹事 すみません,先ほど一つ確認し忘れた点がございます。
  甲案,乙案と丙案との関係については,先ほど中村委員からも,甲案と丙案は必ずしも排斥せずに併存可能であるという御意見もあったという御紹介がありました。私も,その可能性は理論的にあると思います。甲案又は乙案と,それからかなり要件を絞った丙案は,必ずしも両立不可能ではないというふうにも思います。
  丙案については先ほど意見を述べましたけれども,甲案と乙案の違いについて確認したいと思います。部会資料39の3ページの下から3,4行目あたりにもありますように,乙案の趣旨は,今まで解釈上疑義があった,不可抗力の場合に限ってこういうことができますよということを示しましょうというふうに説明してあって,それは理解できます。
  それを前提に1ページの乙案を読みますと,この「天災その他避けることのできない事変による他の土地における土砂の崩壊…その他の事由により,自己の土地に損害が及び,又は及ぶおそれがある場合であっても」という表現なのですが,ちょっと私の国語力の問題かもしれませんが,これは,こういう場合に限って,こういうことができるというふうに読むべきなのか,この「場合であっても」という読み方について,すみません,ちょっとここは私の誤解があるかもしれませんが,確認させていただいた上で,乙案はあくまでも不可抗力の場合に限っての規律だというふうに理解してよいかどうかという点です。
  それから,それを前提に,では,甲案とどこが違うかというと,甲案は不可抗力の場合にも,行為請求を認めるというふうに読んでよろしいかどうかと,その点を確認させていただいた上で,甲案プラス要件を絞った丙案はあり得るかと思った次第です。
○山野目部会長 甲案及び乙案が提示している規範の内容について,今お尋ねがあったことについて,差し当たり部会資料はどのような意味での御案内を差し上げているかを,今,大谷幹事に説明してもらいすけれども,別に松尾幹事が国語力の問題と謙遜しておっしゃったような話ではなくて,現在の法文にも,ほかのところを見ますと,何々の場合であってもという表現とか,それから民法の法文の現代語化の前で言いますと,何々であるといえども,という表現の法文とか,あれらをめぐって多く御指摘の疑義があったことは,松尾先生もよく民法のいろいろな研究で見ておられると思いますけれども,確かにそういう問題点があると感じます。それぞれのところについて,意義を明らかにしていくという作業になるであろうと考えますから,大谷幹事の方でお話があったらお願いいたします。
○大谷幹事 まず,今の松尾幹事の御指摘ですけれども,乙案の「であっても」という書き方につきましては,これはこういう不可抗力でなければ,当然に物権的請求権は現行法でも行使できるだろうと。それで当然できるんだけれども,こういう不可抗力の場合であっても同じような請求ができるという趣旨で,このような表現をここではとっております。
  もう1点,先ほど林野庁の方から,所有者不明土地問題というところから,この管理措置請求制度というものについても考えるべきではないかというような御指摘などを頂きました。資料の作成の意図を申し上げますと,これまでのこの民法・不動産登記法部会における御議論というのは,所有者不明土地のみに限ったものではなくて,ほかの分野でもそうですけれども,所有者不明土地問題を契機として現れてきた問題についての民法における対応ということを検討をしてきた部分がございます。ここの管理措置請求制度につきましても,これは中間試案の際からそうでしたけれども,管理不全土地というか,管理措置請求を受けるような土地が所有者不明土地状態でなくても使えるものとして御提案をし,パブリック・コメントに掛けたというところでございます。
  林野庁の御指摘にもありましたように,森林関係者の方々からは多数の懸念の声をパブリック・コメントでも頂きましたけれども,ルールを明確化することによってかえって問題が生ずるのではないかという御指摘,それも考えとしては確かにあると。その一方で,ルールを明確化することによって紛争を予防し,解決するということにもつながると考えられますので,引き続きこの管理措置請求制度についての提案をさせていただいたというところでございます。
  天災についての規律を設けるのはいかがなものかというような御指摘もありましたけれども,これも松尾幹事から御指摘がありましたように,現行の民法上も215条という天災に関する規定がある中で,こういう考え方というのもあり得るのではないかということで,今回提案をさせていただいているというところでございます。
○山野目部会長 大谷幹事の今のお話で,松尾幹事からお出しいただいたお尋ねを受け止めて申しますと,乙案は天災地変の場合も含むし,天災地変でない場合についても働くという説明をおっしゃったと聞きました。甲案の方についても松尾幹事の方からお尋ねがあって,甲案で提示している規律は天災事変,不可抗力の場合にも働くと理解してよいかというお尋ねもあったと理解しますが,そちらもそのように理解してよろしいということですか。
○大谷幹事 はい。失礼しました,そのとおりでございます。
○山野目部会長 そうすると,理解の仕方によっては甲案と乙案は論理的には同じ内容の規範を案内しているというように理解される可能性もあるということでしょうか。
○大谷幹事 そうですね。物権的請求権との関係で,どのように考えるかということでございます。
○山野目部会長 松尾幹事,お続けになることはありますか。
○松尾幹事 ありがとうございます。
  そうしますと,もし甲案と乙案の違いを付けるということになると,甲案については,不可抗力の場合はまだ解釈上疑義が残ることを前提にした規律で,場合によっては,費用負担等で特別のことを考えなければいけないという余地を残す点で,何か差別化を図るというような方向でしょうか。すみません,ここも私の理解不足かもしれませんけれども。
○大谷幹事 現行法上,不可抗力で生じた危険を除去するための工事についての費用をどのように負担させるのかということが問題になる事案もあるようで,下級審の裁判例も幾つかございますけれども,その不可抗力の場面で,乙案のような規律を設けた上で,その費用の負担についてのルールを資料の3のところのような形で発動させることによって,今,解決がなかなか難しいと言われているようなケースについて対応ができるようになるのではないかという提案でございます。
○山野目部会長 松尾幹事,ひとまずよろしいですか。
○松尾幹事 はい,分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 ほかにいかがでしょうか。
  そうしましたら,この第1の「管理措置請求制度」について,様々な御意見をお出しいただきました。
  1ページの権利の内容として,甲案,乙案,丙案として示しているところについて,取り分け乙案を提示申し上げたことについて,委員,幹事の多くから,一言で言うと評判が悪いものですが,様々な御疑問や意見を頂いたところであります。様々といっても,安髙関係官がおっしゃったことと民法の研究者の先生方がおっしゃったこととはやや性格を異にしますけれども,いずれにしても,乙案のこのような規律表現でこのままいくということについて,多くの疑義が出されたということは確かであります。
  少し釈明というか,説明をしておきますと,事務当局としては,やはりパブリック・コメントなど各方面から出された様々な意見,反応に対しては,パブリック・コメント後の部会の審議において,それに応接する審議はしておかなければならないものでありまして,真面目に作業をすると,そういうことが必要であるという気持ちがあるものですから,さまざまに寄せられた意見の中で物権的請求権の行使の可否について疑義がある天災地変,不可抗力の場合をどうするかという意見があったことを受け止め,それを一つの背景として注意しながら乙案をお出ししたという経緯があります。
  佐久間幹事がおっしゃったように,では,その民法の学説の中に,費用の問題はともかくとして,物権的請求権は不可抗力のときには行使ができないと言っている学説がどこかにありますかと問われれば,もう有力な,あの有名な学説がありますから,それに注意しなければなりませんというようなものは,佐久間幹事がおっしゃっていたようにないものであろうと感じます。私もこれを見て,次から法科大学院で教えるときには,不可抗力のときにはできないということもあり得るよ,というふうに教えないとまずいかもしれないと思い始めたくらいですから,それは佐久間幹事がおっしゃったような御指摘が正鵠を得ていると思われますけれども,種々出された意見について,ここで一応,委員,幹事の方々に論議をお願いしたいという要請があるものですからお出しいたしました。それで,乙案のような規律表現で強いて進むということが必要だとは考えられないというような御意見を今日たくさん頂きましたから,そのような意見分布を踏まえ,この後の審議を進めるということになろうと考えます。
  また,甲案又は乙案と丙案とを組み合わせるという仕方もあり得るという御指摘も,複数の委員,幹事から頂いたところであります。見方を変えて言えば,それは例えば甲案を採ったときに,丙案というよりも,2のところでお出ししている現に使用されていない土地の場合の特則との間の役割分担というか,組合せといいますか,比重の置き方について,更に深く考え込んだ上で,次の機会に提案を差し上げていくということになるかもしれません。安髙関係官が大きく意見を二つおっしゃったうちの後半の部分は,甲案なら甲案と,2の提案内容をどういうふうに組み合わせていって,どちらにウエートを置いて,国民一般への説明も含めて提示していくかという仕方でお答えを申し上げていく事項になるかもしれません。1ページについては,そのようなことを考えていく必要があるということが,委員,幹事の御指摘を承って明らかになってきたと感じます。
  7ページの費用の甲案と乙案との対比につきましては,それぞれの案を支持するお立場から根拠を示して御意見をおっしゃっていただいたところでありますから,これについても本日の議事を整理して,今後の審議を進めていくことになろうと考えます。
  第1のところについて御意見をお出しいただきましたけれども,何か補足で御指摘を頂くことがありますでしょうか。
  よろしいですか。
  それでは,部会資料11ページから後の「第2 管理不全土地等の管理命令」の方に進むということにいたします。
  11ページの第2の1のところで,「管理不全土地の管理命令」という制度を設けてはどうかという提案を差し上げております。アのところは,その制度の骨子でありまして,イは管理人を選任することになりますから,その管理人の権限についての案内を差し上げており,ウのところで管理人の義務についてのお話,エのところで解任及び辞任についての規律の提案,12ページにまいりまして,オのところで,管理人の報酬,それからカのところで手続の終了の事由をどういうふうに仕組むかということについての御案内を差し上げています。
  部会資料は,引き続きまして20ページのところに飛びまして,この選任された管理人に,20ページの一番下の(2)のところで,処分行為をする権限を与えるかどうかという論点について,甲乙丙という三つの可能性を御提示申し上げております。甲案は,処分行為については管理人に権限を認めないということでありますし,乙案は,建物の区分所有等に関する法律59条などを参考にして,競売を請求することができる可能性というものを提示しておりますし,丙案は,裁判所の許可を得た上で,いわゆる従来の権限外許可と類似の手続構造で処分をする可能性を開こうとするものでございます。
  22ページにまいりますと,(3)として給付を命ずる処分というものをどう考えるかという問題提起をしております。先ほど一つ前の審議事項で佐久間幹事からお話がありましたように,選任された管理人が所有者から協力を得られず,挙げ句は妨害されるような事態に対してどのような応接を考えられるかという,あの課題に関わることでございます。
  それから,隣の23ページにまいりまして(4)で,緊急の対応が求められるケースの対応について,お示ししているような規律を設けることについてどう考えるかという問題提起をしております。あるいは,ここに提示しているような規律を設けなくても,物権的請求権を本案とする保全処分を上手に用い,ここで考えられている問題を達成することができるという見方もあるかもしれませんから,お考えをお聞かせいただきたいと考えます。
  最後に24ページのところで,管理不全建物の管理命令という制度については,本日は詳しいお尋ねを差し上げる体裁になっておりませんで,これについては,所有者不明建物管理命令の制度や,本日一つ前に御議論を頂いた管理措置請求の制度などの行方がどうなるか,さらには,今お諮りしようとしている管理不全土地の管理命令の制度がどのように育っていくかというようなことを見据えた上で,この管理不全建物の管理命令の制度についても,今後採用するとすれば,制度の細部を明らかにしていくということになろうと考えますから,本日は,少し御提示申し上げている内容が十分ではないかもしれませんけれども,お気づきの点は御指摘を頂きたいと考えます。
  部会資料のこの部分について,委員,幹事からの御意見を承ります。いかがでしょうか。
○中村委員 ありがとうございます。
  第2につきましては,中間試案のときから日弁連は,この制度を創設する方向自体には賛成させていただいておりまして,前回の部会での御提案で土地の放棄の要件がかなり厳しくなったこととあいまって,放棄したいというほど管理に負担を感じているが,放棄は認められないという物件が今後増えてくる可能性があり,このような管理ができるシステムというのは引き続きしっかり検討していきたいということが前提としてございます。
  その上で,ちょっと細かいことを申し上げますと,11ページの第2の1の(1)のア①のところですけれども,まず,現に土地を管理していないということを要件とせず,「現に」を外すことについては賛否両論がありました。適切ではないにしても,現に管理はしているという所有者がいるような場合に,管理者が管理を行うことは事実上,極めて困難であることが予想されるので,この「現に」を外して,実際この制度でうまく管理人が仕事をしていくことは難しいのではないかという視点です。逆に,裁判所にその辺りのこともしっかり判断していただければ,この方向で進めていただいてもいいのではないかという意見もありました。
  それから,管理していないという要件についてですけれども,管理していないというのがどういうことなのかということについて,もう少し踏み込んだ方がいいのではないかという意見もございまして,一例として,破産法91条の保全管理人の選任の要件の条文の書きぶりなどを参考に,その所有者の管理が失当であって,他人の権利の確保又は保全のために特に必要があると認められるときなど,もう少し絞り込んではどうだろうかという意見もございました。
  それから,ここで言うところの①の「他人の権利又は法律上の利益が侵害され」という要件の「他人の」という部分ですけれども,第1の「管理措置請求制度」における土地の所有者という要件よりも広いように読めるけれども,この適用範囲をもう少し明確にした方がよくはないかという意見もございました。
  それから,イ,ウ,エ,オ,カまでの御提案につきましては,おおむね方向性としては賛成意見が多かったと思います。
  (2)の処分行為につきましては,甲案賛成意見もありましたが,丙案賛成が比較的多かったです。
  21ページの丙案の下のところに(注)というのがありますけれども,(注)に関して,「裁判所は,土地所有者に異議がないときに限り,土地の処分をすることができる」とすることについての検討事項が示されていますけれども,土地所有者が明らかに管理不全状態であって,処分の必要性もあるのに,土地所有者が異議を述べれば全く処分ができないということになるのかと,それだとこの制度はなかなか働かないのではないかという見地から,もう少し要件を工夫した方がいいかもしれないという意見も出ておりました。
  それから,(3)の「給付を命ずる処分」についてはおおむね賛成でした。
  (4)の「緊急の対応が求められるケースへの対応」についてもおおむね賛成意見でしたが,保存ないし利用・改良行為に必要な範囲であれば賛成という意見がありました。
  それから,2項の「管理不全建物の管理命令」については,今回,日弁連ワーキングで余り深い議論をする時間がなかったのですが,方向性としては賛成です。
○山野目部会長 弁護士会の御意見を取りまとめていただきまして,ありがとうございます。
○今川委員 私の方は,第2の1の(1)で1点と,第1の(2)で1点,意見を述べさせていただきます。
  中村委員からも御指摘ありましたけれども,試案では,現に土地を管理している者がいる場合は対象外だったところ,今回の提案では,現に土地を管理していても,それが不適切であった場合は対象にするとなっております。本来,土地の管理は所有者が行うものでありまして,本文の提案の制度を利用するに当たっては,第2の1の(1)の(注)の,土地の所有者の陳述を聞くなどの手続保障をしっかりやるということと,適切に管理していないというのはどのような状態なのかという,ある程度の基準みたいなものも示していくべきだという意見です。
  それから(2)については,今の(1)で申し上げた意見からして,保存行為と利用・改良行為を超える権限を認めるということは,あまりにも土地所有者に対する権利侵害の幅が大きくなる可能性がありますので反対でして,(2)については甲案に賛成です。ただ,土地上の動産についてだけ丙案を採用するという考え方はあるのではないかという意見が我々の中ではあります。
  ほかについては,大体おおむねこの内容で賛成であります。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  弁護士会からお出しいただいたものと,方向や観点が類似,近接しているものも,御意見の中にはあったのではないかと受け止めます。
  藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
  まず,管理不全土地等の管理命令の制度自体については賛成でございます。権限としても,保存行為,利用・改良を目的とする行為がベースになるという点については全く異存はないのですが,一方で,(2)の処分行為までできるかどうかということに関しては,これをできないということにしてしまったときに,実際,管理している人との関係というか,土地を現に管理しているかどうかによって一律に区別しない,という今回提案されている管理不全土地管理人の選任要件との関係で,ちょっと不都合が起きる可能性はあるのではないかというところがございますので,この処分行為をする権限を与えるかどうかという点に関しては,丙案に賛成させていただきたいと思っております。処分行為が認められる要件は,かなり厳しいものになるかもしれませんが,ただ,全くそういうのがなくて,もう手が出せないという状態は,管理人を置く以上はやはり避けられるべきではないか,というふうに考えておるところです。
  同様の理由で,(3)の給付を命ずる処分の規律についても設けた方がいいだろうというところはございますし,あと(4)の緊急の対応を求められるケースに関しては,ここはもう緊急の場合に限りということにはなってくるかと思いますが,手続を省略できるというのも,迅速性を求めるという観点からあった方がいいだろうと。特に先ほどの管理措置請求制度の方で迅速な予防保全ができないということになってまいりますと,正にこちらの対応の方が極めて大きな意味を持ってくるということになりますので,ここはやはり設けていただける方がいいのではないかと思っております。
  あと,最後の「管理不全建物の管理命令」ですが,こちらに関しては,所有者不明建物の管理命令の制度のところで申し上げたのと基本的には同じ考え方というか,事業者としても同じ意見が出てきておりまして,裁判所の許可をもって取り壊せるという前提に立つのであれば,例えば中間試案のときの甲案のような形で,建物管理人というのを認めてもいいのではないかと考えております。逆にそれができないということになってくると,なかなか実際,ずっと処分できないまま,取壊しができないままずっと管理しなければいけないというのはちょっと不効率かなと思うところですので,そこは所有者不明建物の議論とパラレルに検討する,という方針に賛成でございます。
○蓑毛幹事 部会資料20ページから21ページの処分行為をする権限について,仮に丙案が採用されて、管理人は裁判所の許可を得て権限外行為ができるとなった場合,それによって得られた財産はどうなるのでしょうか。
  所有者不明土地管理制度のときには,土地の処分によって得た財産についても管理人の管理処分権限が及ぶという規定になっていたと思います。
  そこで,管理不全土地の管理命令について,管理人が土地の処分ができるとなった場合に,それにより得た財産についてはどうなるのか,管理人がそれを管理して管理費用に充てることができるのか,それともそれはできず,判明している所有者に直ちに返還しなければならないのか,この点を確認したいと思って質問いたします。
○大谷幹事 今の点,ここのところのどの案を育てていくべきかというところで,必ずしも現時点でこうだというふうな考えはございませんけれども,所有者不明土地管理人の場合には所有者がおりませんので,売却がされて代金を得た場合には,報酬決定を受けて,残ったものについては供託をするという形になっていく。今度は管理不全土地管理人の場合には,土地の所有者がおりますので,費用は返していかないといけない,お金は返すことになるんだろうというふうには今の時点では思いますけれども,その際に報酬の決定というのはまたされる,管理費用についての決定はされて,管理人の方に,そのお金の中から支払われることになるのかなというふうな気はいたしますけれども,少し所有者不明土地の場合とケースが違いますので,どのように整理するかはもう少し考えたいと思います。
○山野目部会長 蓑毛幹事,お続けください。
○蓑毛幹事 引き続き検討ということで,理解しました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  松尾幹事,お待たせしました。
○松尾幹事 ありがとうございます。
  この管理不全土地の管理命令の制度をどういうものとして理解するかについては,一方では先ほど出てまいりました管理措置請求について,相手方が応じてくれないので勝訴の確定判決を得て,それを執行していくという場合と管理不全土地管理人による管理との役割分担をどう考えるかということと,他方では,今,蓑毛幹事からも御指摘ありました所有者不明土地管理人との関係をどう考えるかということで,これら2つの観点からこの要件を明確にしていく必要があるかなというふうに感じました。所有者不明土地管理人との違いは明瞭で,管理不全土地管理人の場合には,所有者が誰かが分かっていて,かつ所在も分かっているという場合を前提にするというふうに考えられます。逆にそうなりますと,やはり所在も誰かも分かっている所有者と,この管理人との間には,結構微妙な緊張関係があるというふうに感じまして,場合によっては意見が対立するというような中で,この管理不全土地管理人は行為しなければならないのではないかという場面も想定できるように思うんですね。典型的にどういう場面を想定したらいいかちょっと分からないんですけれども,例えばある土地所有者の持っている土地が管理放置されていて,年々草が伸びて,あるいはごみが投棄されて,これはどうにかならないかということでみんなが迷惑しているにもかかわらず,所有者に言っても全く何もやってくれないというようなときに,管理措置請求の要件は必ずしも満たさないかもしれないけれども,管理不全土地管理人を選任して対応する場合,あるいは管理措置請求もできるけれども,毎回毎回それをやるのは大変なので,管理不全土地管理人を選任して対応するというような使い方もあるのかなということを想定しました。そういうことを念頭に置いて,部会資料39の11ページの第2の1の(1)①にあります,「土地を管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害」されるということを具体化していくということが必要かなというふうに感じました。
  もう1点は,部会資料39の11ページの第2の1の(1)のウの「管理不全土地管理人の義務」のところで,「土地の所有者のために,善良な管理者の注意をもって」という規律を置いていますけれども,先ほど申しましたように,この管理人と土地所有者との関係は,所有者不明土地の管理人と所有者との関係以上に,所有者との対立ないし緊張関係が存在することを想定しているようにも思われます。そのときに,「土地の所有者のために,善良な管理者の注意をもって」という規律がどういう意味内容を持つのかということが気に懸かります。もちろん管理人として他人の土地を管理するわけですから,その求められる注意義務というのはあるというふうに感じていますけれども,あえてこの状況の中で,土地所有者のために善管注意義務を負うという規律を置くことによって,管理不全土地管理人と所有者との間に紛争を起こすような種にならないかということも若干懸念されまして,あるいはウについては,まさにこの法律規定が定める権限を行使する義務内容を当然果たすべきものとして,あえて書かないという選択もあるのかなというふうに感じました。
○山野目部会長 松尾幹事が幾つか御懸念としておっしゃったことを理解いたしました。受け止めて,審議を続けることにいたします。垣内幹事,どうぞ。
○垣内幹事 どうもありがとうございます。
  御提案の内容につきまして,2点ほど確認のための質問をさせていただければと考えております。
  1点目ですけれども,この管理不全土地管理人についての提案というのは,実際上は先ほど来,御発言もありますように,所有者そのものは判明しているという場合を想定しているということなんだと理解をしておりますけれども,ただ,資料の16ページの(4)のところにも説明がありますように,要件立てとしては所有者不明の場合を除外しているということではありませんので,そういう意味では所有者不明の場合についても適用の余地がある制度として構想されているというように理解をしております。
  その場合に,これも今回の御提案の中で11ページの1の(1)のアの②の(注)のところですけれども,「土地の所有者の陳述を聴かなければならない」などの所有者の手続保障の規律を設けるという御提案がされていまして,このこと自体は適切なものではないかというふうに考えているのですけれども,所有者が不明であるような場合についても,この仮に必要的陳述聴取の規定を設けた場合の運用の在り方等について,どういう想定をされているのかということについて,もしお考えがあれば承れればというのが1点目でございます。
  それから,2点目なんですけれども,これは資料で申しますと18ページの上の辺り,(2)の直前の辺りになりますでしょうか,ここでの土地管理人というのは,代理人であったり,あるいは訴訟担当者になる者ではないという記載がされておりまして,これもそういうことなのかなというふうに受け止めておりますけれども,例えば管理人が除草作業その他の何らかの作業について,業者に費用を払って契約をして行うというような場合には,これは管理人自身が契約当事者となり,仮にその費用の支払等についてトラブルが発生するといったような場合については,その契約の相手方としては飽くまで管理者を被告として訴えを提起するというようなことになると,そういう理解でよろしいでしょうかというのが2点目でございます。よろしくお願いいたします。
○脇村関係官 前々回,陳述聴取の相手方がある意味所在不明のときどうするかという御議論を頂きました。従前からそうですけれども,陳述聴取をしないといけないという,陳述聴取の機会を与えないといけないということでございますので,その機会を与えた上で,陳述のないケースについては,通常は陳述を聴かずにやるということなんだろうと思います。あとは,陳述の機会を与えたというために,陳述しますかということを送達で送ることまで要るかどうかという議論が民訴,あるいは非訟の世界では議論されていたと思いますが,そういった一般的に問題となる議論でしょうし,今回の件ですと,そもそもそういったケースについては最初から所有者不明管理人の選任の方を申し立ててはどうですかというようなことを言うのかもしれませんが,その辺は従前の手続法における陳述聴取の機会の在り方を踏まえた運用がされるのだろうと思っています。
  2個目につきましては,前回,先生からも管理人の方でお話があったと思いますが,ここで部会資料に書いていますのは,所有者本人を当事者としないといけないケースを想定しておりまして,管理人本人が当事者そのもの,責任主体であるケースについては,基本的にはこの管理人が原告,被告等になるということは想定していたところでございます。
○山野目部会長 垣内幹事,お続けください。
○垣内幹事 どうもありがとうございます。
  一般的な場合について,どこまですれば陳述の機会を与えたと言えるのかというのは,私自身,なかなか悩ましい問題だなと考えておりまして,この場合に,そういう問題が生じたとしたらどうなるというお考えなんだろうかという点について関心があったということですけれども,私自身も引き続き検討させていただきたいと思います。
  どうもありがとうございます。
○市川委員 2点,申し上げたいと思います。
  まず1点目が,管理命令の取消しの関係です。部会資料の12ページのカのところに,命令の対象土地などの管理を継続することが相当でなくなったときは,管理命令を取り消さなければならないとされていますが,どのような場合が管理を継続することが相当でなくなったときに当たるのかということが明確になっていなければ,実務上,支障が生ずるおそれがあるように思われます。
  一つの例としては,管理人の報酬に係る予納金が不足して追納されないという場合が考えられるように思われますが,そのほかにどのような例があるのかなどについて,判断基準,考慮要素や具体例について何らかの形でお示しいただければと思います。
  それから,2点目ですが,処分行為の権限について,部会資料21ページの丙案では,裁判所の許可を得て保存行為等を超える行為をすることを認めるとされていますが,これもどのような場合に裁判所の許可が認められるのかということについて,ある程度,具体化されていなければ,判断の基準が定まらずに裁判実務上,支障が生ずるおそれがありますので,こういう観点も踏まえて,処分行為をする権限に関する規律の在り方について御検討いただきたいと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  2点おっしゃったうちの前の方の命令の取消事由としての相当でなくなったことについて,市川委員が御指摘の場面のほかに何か今考えられるものがあるかどうかは,事務当局に今尋ねてみようと考えます。
  それから,後段でおっしゃった21ページの丙案における裁判所の許可の在り方についても,併せて事務当局から発言してもらおうと考えます。
  この21ページの甲案,乙案,丙案をお出ししているところでありますけれども,本日,委員,幹事から様々な御意見を頂きました。拝見したところ,乙案がいいと述べた方は誰もいなくて,乙案は寂しい思いをしているというふうに受け止めますが,反面,今川委員が司法書士会の御意見としておっしゃった甲案を基調とするという考え方や,藤野委員が強調された,丙案のような可能性は残しておいてもらった方が実務的にはよいというふうな観点,それぞれいずれも理解をすることができますとともに,仮に乙案を除いて甲案と丙案をにらみながら,今後ここの局面の制度の在り方を育てていくということになりますと,丙案は従来も権限外許可の実務の積み重ねがあることから,まあ,これでいいでしょう,というふうに簡単に進む話では恐らくなくて,本日はキックオフの議論ですから,丙案はこういうふうにざくっと書いてありますけれども,本当にこれを育てて進めていくときには,いろいろ考え込まなければならないところがあって,一つはこの裁判所が許可を出すまでのところで言うと,市川委員も御指摘になったように,どのような要件で許可を出すかということ,さらにそれに関連して,どのような処分の許可を出すかということもイメージを共有しておく必要があります。処分という言葉は普通に考えれば売却というところまで含んでしまいますけれども,本当に所有者が片やいるのに,管理が手抜かりであるということがきっかけで売られてしまうというところまで,裁判所に許可を求めて,あり得るというところまで,いや,あってよいというふうに考えるとすると,これは相当我々は認識を共有して勇気を持ってしなければいけないことであって,そのような問題があります。
  それから,許可を出して話が進んだ後に関して言うと,蓑毛幹事が鋭くも御指摘になったように,仮に処分によって何らかの対価というか,そういうふうな金銭に換価されたものが生じたときに,その扱いはどうするかといったようなことも,所有者不明土地管理命令のときのようにはいかないものでありまして,権限外許可というと,何となく不在者財産管理の経験の蓄積があるから,あれのアナロジーで大体いけますよねという気分になってしまいますけれども,それは確かに所有者不明土地管理命令のときには,従来の経験のアナロジーを参考にするる場面というものは領域として大きいと考えますが,ここはかなり局面が異なっていて,松尾幹事が繰り返し強調されたように,一方に所有者が,可能性としては,健在であるというのは変な言い方ですが,所有者がいて,そこに現存している状態で,この命令の制度が動いていくということを考えると,様々なことを考えなければいけないと感じます。
  差し当たって本日の段階で考えていることを,市川委員お尋ねの2点について,事務当局からお話ししてくださるようにお願いいたします。
○宮﨑関係官 関係官の宮﨑です。
  2点お尋ねいただいたと思いますが,まず1点目の方が,命令の取消しがされる場面というのはどういう場合かということでした。一つは,先ほど御指摘の中にもありましたけれども,19ページ目から20ページ目にかけて書いておりますように,その管理費用を支出することが難しいような場合というのは取り消されるような場合に当たるのかなと考えておりましたが,それ以外の場面としましては,例えばですけれども,15ページ目の真ん中辺に少し,その土地の使用状況などについても考慮して,管理継続が相当でなくなったときというのは取消事由になり得るようなことを書いております。
  この管理人がどこまでのことを可能とするのかにもよるのかもしれませんが,土地の所有者が実際にいて,その所有者がいる限り,管理が実際上難しいということはあり得るのではないのかなと思います。管理人に,その土地の所有者を排除するような権限まで付けるとすれば,その場合もできるのかもしれませんけれども,そこまではしないということになりますと,実際上,管理人を選任したとしても,管理人はうまく機能しないということになろうかと思いますので,そういう場合は,それ以上の管理の継続というのは相当でないということで取り消されるような場合もあるのかなとも考えておりました。
  2点目で頂きました裁判所の許可の判断基準ということでございますが,これについても,まだ現時点で何か固まったような考えがあるわけでもございませんで,幾つかの案を今並行して検討しているようなところではございます。もし丙案ということになったとすると,所有者不明土地管理制度の方ですと,実際,所有者がいないという状況でありましたので,その状態を踏まえての許可の在り方ということを考えなくてはいけないのかと思いますが,管理不全土地管理制度の方ですとそれとは大分状況が違っていることは今までの議論にも出ているとおりでございますので,その実際にいる土地の所有者の意向というのをどのように踏まえるかですとか,ちょっと異なった観点からの検討をしていく必要があるのかなと思っております。
○山野目部会長 市川委員,ひとまずのお答えを申し上げましたが,いかがでしょうか。
○市川委員 ありがとうございます。
  もし丙案を採用されるようなことになりましたら,引き続き検討の方をよろしくお願いいたします。
○山野目部会長 承りました。
  引き続きいかがでしょうか。
○岩井幹事 最高裁民事局の岩井でございます。
  部会資料22ページの「給付を命ずる処分」の関係ですが,この給付を命ずる処分につきましては,権利侵害がある場合などには妨害予防請求訴訟の提起も想定されるところでございまして,訴訟が係属しながら重ねてこの申立てがなされた場合の帰趨について,必ずしも現在のところ明らかでないように思われますので,このままですと,裁判実務上,支障が生ずるおそれがあるように思われます。この点も含めまして,御検討いただければと思います。
  もう1点ですが,先ほど御説明を頂いた土地の管理を継続することが相当でなくなったときには取り消すという点について,今の資料ですと職権でという記載もありますが,裁判所の方で,管理状況について常に確認しておく必要があるわけではないのだという理解でよろしいのかどうかというのを御確認させていただければと思います。
○山野目部会長 お尋ねがあった部分について,事務当局からお話をくださるようにお願いします。
○宮﨑関係官 職権による取消しというのは,ほかの管理人の例などにも倣ってそのように記載しておりますが,管理の状況というのを実際に裁判所の側で能動的に常にチェックするということは現実的には難しいと思いますので,そのようなことまで今の段階で想定しているわけではございません。
○山野目部会長 岩井幹事に御案内ですけれども,管理不全土地管理命令が発令された場合に選任された管理人に対する裁判所の監督の規定は今のところ設けないという方向で部会資料をお出ししておりますから,岩井幹事の御懸念の裁判所が常に見張っていなくてはいけないですかという点については,これからこの制度を育てていく中での委員,幹事の御意見にもよることですが,常に見張っていなければいけないようなことを想定しているものではありません。職権で,というふうに記している点は,関係人の申立てを待たずにしてもよいということを一応筋道としては明確にしておこうという程度のお話であろうと考えます。これも,ここのところを更にこういう方向で進めていくときには,裁判所の方とも御相談をしながら進めていかなければならないと考えております。
  また,前段でおっしゃった給付を命ずる処分について,複数の手続が並走して,必ずしも明快でない状況になるという点も注意してほしいというところもごもっともなことですから,これからも裁判所と御相談させていただこうというふうに考えます。
  そのようなことでよろしいですか。
○岩井幹事 ありがとうございました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  平川委員,どうぞ。
○平川委員 ありがとうございます。
  不全土地の管理はすごく悩ましい話です。以前,意見を申し上げましたが,土地の不全管理の原因が,認知症だったり,若しくは精神疾患を有していたりということなどによって,土地の管理ができなくなる場合があります。土地の所有者の陳述を聞くことについては,こういった実態を考慮した対応が必要ではないかと思っているところです。
  また,一つ,これは質問ですが,例えば,土地の管理が不十分だというときに,土地の所有者ではなくて,土地を借り家を借りて住んでいる方が,ごみ屋敷問題などの課題を持ってしまう場合が大変多いということがあります。これは飽くまでも土地の所有者という観点での対応になるか,若しくは借りている人が,その土地の管理に関してかなり不十分だというところまで及ぶのかということについても,質問したいと思います。
  それから,もう1点質問です。基本的には不動産の管理人の権限ですが,これは飽くまでも,動産も不動産も同様の権限ということになるんでしょうか。多分,実際にごみ屋敷問題等を解決するときには,動産の対応について,場合によっては不動産と違う対応が必要だという考え方もあり得るのかもしれません。管理人が持つ権限に関しては同じ権限を持ついうことでよいのでしょうか。質問したいと思います。
○山野目部会長 平川委員から幾つか問題提起を頂きました。
  所有者の陳述を聴くということは,所有者の陳述しか聴かないよと言いたいものではなくて,少なくとも所有者とコミュニケーションはとってくださいよという運用の在り方を案内しようというふうに考えて,細部をこれから検討するというつもりでお出ししているものでありまして,1点目と2点目でおっしゃった,認知症などでうまく陳述ができないような所有者の状態のときに,その人に代わる周辺の人で相当のわきまえのある人とコンタクトをとればいいということにするか,あるいはやはり判断能力が減退していても,御本人となるべくコンタクトをする努力をしてくださいということになるかといった運用の在り方を考えた上で,今後,規律を考案していくということになるであろうと思います。ここで言っている陳述は,必ずしも訴訟行為能力を備えた人であるというような意味ではないでしょうから,その辺りのところを柔軟に考えていく余地もあるかもしれません。
  また,土地の所有者の陳述とともに,土地を占有している者もなど,関係人の意見を聴くということにするかどうかということも,今後の課題であろうと思われます。
  それから,動産の扱いをどうするかは,そういう論点,課題があるからこそ,司法書士会はその点に注意をせよという意見を今川委員からおっしゃっていただいたものであろうというふうに理解します。
  そのようなことで,今後の検討に待つべき部分が大きいものでありまして,現時点で事務当局からお話を差し上げることができることを今お願いしますけれども,今後の検討において,平川委員からもどしどし御意見をおっしゃっていただければと望みます。
  事務当局からどうぞ。
○大谷幹事 今正に部会長から御説明のあったとおりではございますけれども,部会資料で申しますと16ページのところに賃借権関係,一番上の方ですけれども,賃借権を有する者が土地を占有していたとしても,適切に管理がされていないということであれば,所有者が管理していないということで,要件は満たしているものと考えられるとしておりますけれども,正に御指摘にあった土地について賃借権が設定されていて,建物があると。それで,建物の管理について問題があるというようなケースにおいて,それは管理不全建物の管理制度で対応するということも考えられるところでございまして,賃借人,賃借権者についての管理制度というのを設けるかどうかということについては,また引き続き検討したいと思っております。
  また,動産については18ページの辺りに書いておりますけれども,これも今川委員から御指摘があったようなことですけれども,土地自体の処分は難しいものがあるとしても,動産についての処分というのはまた別に考える必要がある部分もあるのかなと思っておりまして,これも本日頂いた御意見を踏まえて,考え方を整理したいと思っております。
○山野目部会長 畑幹事,どうぞ。
○畑幹事 ありがとうございます。畑です。
  資料の22ページの「給付を命ずる処分」の辺りに書いてあることで,私,前にも発言したことがあると思いますし,今日も話が出ていたと思いますが,管理人と所有者とで意見が違う。それで,所有者が協力しないというような場合どうするかということについては,手続だけの問題ではなくて,実体としてどうなのかということを整理しておく必要があるのではないかと思います。
  例えば,当該土地には柵がめぐらされていて,鍵がかかっていると。それで,何か必要なことをするためには,何か工作機器を入れる必要があるけれども,鍵がかかっていて所有者は協力しないというようなときにどうなるのか。なお,22ページには,特別な手続を設けるということについて検討すべしと書いてありますが,ある種,実体法の問題としてどうかということを詰める必要があるのではないかと考えております。私自身としてはっきりした意見があるということではないのですが,一つの考え方は,もうそういうときはこの制度は使えないと諦める,ほかで提案されているような制度で対応するというのも一つかと思いますが,そういう場合にもこの制度は使えるということを考えるのであれば,その場合にこそ初めて手続としてどうするのかということが必要になってくるのかなと思っております。もしそういう場合もこの制度でいけるのだとすれば,どういう実体関係を想定するのかということが問題となるのではないか。場合によっては,特別な手続を設けなくても、管理人が所有者に対しても主張し得る何らかの実体権を想定し,それを前提として一般の保全処分を使う,民事保全を使うというようなこともあり得るかもしれませんし,いずれにしても,そういう場合に使える制度なのか,使えない制度なのかということを決める必要があるのではないかと思っております。
○山野目部会長 畑幹事,どうもありがとうございます。
  例えば,宅地建物取引業者に不動産取引の実態をいろいろ聞いていると,新婚の御夫婦がマイホームの土地と家を入手したときに,庭の片隅に結婚記念植樹をする人ということがあるらしいですね。その植樹をした若い御夫婦がやがて年老いて,一方がお亡くなりになったりして,もう一方が気力,体力が衰えてきて,庭の片隅の木を放置していて,それがいろいろ周辺にも害をなすというときに,管理命令が出されて,管理人があれは御近所に迷惑だから切るべきだと言い,しかし,所有者はそこに健在でいるものですから,あの木は私にとって大事なものであって,あの木が切られたら一生の思い出がなくなってしまうと抗議し,切るのに反対するときに,そういうときには,もう管理命令は使えないということにするか,いや,どちらにするか誰かに決めてもらいましょうというふうに飽くまでもするか。それで,そのときに周辺への迷惑というものがやはり現に生じているとすると,畑幹事がヒントをくださったように,別な制度を使って対処していくことになるか,いや,飽くまでこの管理命令の制度でいくかといったことを考え出すと,やはり松尾幹事がおっしゃったように,そこに所有者がいるという場面で働く姿が中心場面になるこの制度というものは,たくさん悩ましいことが出てきそうな気もいたします。今の畑幹事の御指摘に触発されて,何か御意見があったら承ります。
○平川委員 ありがとうございます。
  民法でこれを明確にするということは,かなり大きな話だと思いました。例えば地方自治体が管理不全土地の管理命令を使うと,場合によるとごみ屋敷問題も管理人に命令してい,何らかの形で処分してしまおうというインセンティブが相当働くと思います。その辺の運用について,若しくは影響について考えておかないと,本人の所有権や人権の問題を含めて,侵害的なことが起きるかもしれないという懸念があります。
  意見です,以上です。
○山野目部会長 御懸念,御注意を承りました。
  引き続きいかがでしょうか。本日の段階で承っておくことがあったら頂きたいと考えますが,どうでしょうか。
  よろしいでしょうか。
  それでは,本日お出ししている部会資料の中で,今お諮りしている部会資料39のみが1周回遅れになっておりますから,まだ今日は様々な御指摘を承ったという状況にとどまらざるを得ない側面がございます。次回またこの題材を取り上げる審議の機会に,ただいまの39よりも深めた部会資料を用意した上で,委員,幹事の御意見を承りたいと考えます。
  部会資料39についての審議をお願いするのをここまでといたします。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立