【資料51】民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案のたたき台 (1)

第4 相続等
1 相続財産等の管理
(1) 相続財産の管理
相続財産の管理について、次のような規律を設けるものとし、民法第918条第2項及び第3項並びに第926条第2項及び第940条第2項のうちこれらを準用する部分を削るものとする。
① 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき又は民法第952条第1項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。
② 民法第27条から第29条までの規定は、①の規律により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
(補足説明)
1 本文は、部会資料45の2(1)アからエまでと基本的に同じである。
なお、本文①により選任された相続財産管理人の権限、義務、職務等(部会資料45本文2(1)イからエまで)については、現行の民法第918条第1項により選任される相続財産管理人と同じく、本文②のとおり、不在者財産管理人に関する規定を準用することとしている。
民法第952条第1項の規定により選任される相続財産の管理人の名称の変更については、後記2(1)参照。
2 第18回会議においては、本文①により選任された相続財産管理人と、相続人や他の規律により選任される管理人との権限や優劣関係の整理を求める意見があったが、本文②の相続財産管理人は、いわば、現行の民法第918条第1項の相続財産管理を命ずることが可能な場面を拡張するものであって、同項により選任される相続財産管理人の地位や権限等を変えるものではないから、相続人や他の既存の規律により選任される管理人との関係等についても、同項の相続財産管理人との関係等と同じになると考えられる。
なお、新設される所有者不明土地管理人との関係については、所有者不明土地管理人が選任されているときは、その土地の管理処分権は所有者不明土地管理人に専属することとなる(部会資料43本文(1)イ①参照)から、本文①の相続財産管理人がその土地について管理処分権を有することはないことなど、部会資料43の2ページ及び3ページと同じである。
(2) 相続の放棄をした者による管理
民法第940条第1項の規律を次のように改めるものとする。
相続の放棄をした者が、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は民法第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
(補足説明)
部会資料45本文3(1)と基本的に同じである。
なお、相続人のあることが明らかでないことにより相続財産法人が成立している場合には、第952条第1項の相続財産の清算人(名称の変更については、後記2(1)参照。)に財産を引き渡すこととなることから、その旨の文言の修正をし、また、末尾の文言は、相続財産の管理に関する注意義務の程度に関する現行の民法上の他の規律の文言(民法第918条第1項等)に揃える修正をしているが、規律の実質を部会資料45本文3(1)から変えるものではない。
なお、ここでは、「占有」をすることができる財産のみを直接の対象としているが、「財産を現に占有している」との表現で、ここでいう財産は「占有」することができるもののみを指していることが明らかであると思われるので、この点の文言の修正はしていない。
(3) 不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消し
不在者財産管理人による供託等に関し、次のような規律を設けるとともに、不在者の財産の管理に関する処分の取消しの規律を見直し、管理すべき財産の全部が供託されたときをその処分の取消事由とした上で、本文(1)①により選任される相続財産管理人についてもこれらの規律を準用するものとする。
① 家庭裁判所が選任した管理人は、不在者の財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、不在者のために、当該金銭を不在者の財産の管理に関する処分を命じた裁判所の所在地を管轄する家庭裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。
② 家庭裁判所が選任した管理人は、①の規律による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
(補足説明)
部会資料45本文1(1)及び本文2(1)オと同じである。
2 相続財産の清算
(1) 相続財産の清算人への名称の変更
民法第936条第1項及び第952条の「相続財産の管理人」の名称を「相続財産の清算人」に改める。
(補足説明)
第15回会議で指摘があったとおり、今般の見直しでは、相続人のあることが明らかでない場合も含めて前記1(1)のとおり相続財産の清算を目的としない相続財産管理人の選任を可能とすることとしているが、異なる目的を有するものを同一の名称で呼ぶことは相当ではないと考えられる。そこで、前記1(1)の相続財産管理制度との区別の観点から、民法第952条第1項に基づき選任される「相続財産の管理人」の名称を「相続財産の清算人」と改めることとしている。
また、相続人が数人ある場合の限定承認に関する民法第936条第1項に基づき選任される相続財産管理人も、相続財産の清算を行うことをその職務とするものであるから、同様の観点から、同項に基づき選任される「相続財産の管理人」の名称を「相続財産の清算人」と改めることとしている。
(2) 民法第952条以下の清算手続の合理化
民法第952条第2項及び第957条の規律をそれぞれ次のように改め、第958条を削るものとする。
① 民法第952条第1項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。
② ①の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、2箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、①の規律により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間が満了するまでに満了するものでなければならない。
(補足説明)
部会資料45の2(2)①及び②と基本的に同じである。
なお、相続人捜索の公告(本文①)の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者も含めいわゆる失権効が生ずる(現行の第958条の2)ことから、相続債権者及び受遺者に対し請求の申出を促すための公告(本文②)の期間については、本文①の公告期間の満了するまでに満了する必要がある。
また、部会資料45の2(2)②では、①の公告があった後2箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときに、相続債権者等に対する請求の申出の公告をすることとしていたが、①の公告から必ず2箇月経過しなければ請求の申出の公告をすることができないとするまでの理由はなく、相続財産の清算人が事案に応じて適切と認める時期にこの公告をすれば足りると考えられる。
そこで、本文②の後段では、その旨を明確にするための文言を付記している。
3 遺産分割に関する見直し
(1) 期間経過後の遺産の分割における相続分
遺産の分割について、次のような規律を設けるものとする。
民法第903条から第904条の2までの規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の①及び②のいずれかに該当するときは、この限りでない。
① 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
② 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
(補足説明)
部会資料42の第1の1、2及び5の内容と実質的に同じである。
ただし、第17回会議では、具体的相続分による分割を求めることができなくなることの法的性質について整理すべき旨の指摘があった。
部会資料42の第1の1では、「…家庭裁判所は、民法第903条から第904条の2までの規定にかかわらず、同法第900条から第902条までの規定による相続分(法定相続分又は指定相続分)に応じて遺産を分割しなければならない。」とし、新たな規律が、飽くまでも手続上の基準にすぎないと読める表現となっていた。しかし、調停・審判は実体法に則して行われるべきものであるし、協議による場合と適用される規律が異なることは相当ではないため、基本的に一定の期間の経過後には具体的相続分による分割を求める利益は失われると整理し、端的に、10年の期間経過後の遺産の分割には、特別受益・寄与分の規定は適用しないとしている(ただし、10年の期間経過後に、相続人間で具体的相続分による分割をするとの合意がされた場合には、協議によるケースはもちろん、調停・審判によるケースでも、その合意によることは、部会資料42の第1の5の補足説明のとおりである。)。
なお、このこととも関連するが、10年の期間経過後に、具体的相続分による分割を求める利益について、遺産分割とは別に、不当利得等に基づき請求することを認めることは、想定をしていない。やむを得ない事由がある場合の救済は、本文②により対応することを想定している。
なお、やむを得ない事由について、部会資料42の第1の5では、「(遺産の分割を禁止する定めがあることその他)やむをえない事由」と記載していたが、このような例示があると、やむを得ない事由があるのは法律上の障害がある場合に限られることになるとの指摘があったこと等を踏まえ、例示をすることはしていない。
また、この規律は、「相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に」、「やむを得ない事由」がその時点の相続人(当初の相続人が死亡している場合には、その地位を受け継いだ者)にあるかどうかを問題とするものである。
(2) 遺産の分割の調停又は審判の申立ての取下げ
遺産の分割の調停又は審判の申立ての取下げについて、次のような規律を設けるものとする。
遺産の分割の調停の申立て及び遺産の分割の審判の申立ての取下げは、相続開始の時から10年を経過した後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。
(補足説明)
部会資料42の第1の6と同じであり、表現を整えている。なお、改正の際には、取下げの同意擬制(家事事件手続法第82条第3項から第5項まで)について所要の措置を講ずる必要がある。
(3) 遺産の分割の禁止
遺産の分割の禁止の定め及び遺産の分割の禁止の審判の規律を次のように改めるものとする。
① 共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。
② ①の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から5年を超えることができない。
③ 民法第907条第2項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
④ 家庭裁判所は、③の期間を更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から5年を超えることができない。
⑤ ①から④までの期間は、相続開始の時から10年を超えることができない。
(補足説明)
部会資料42の第2の1及び2と同じであり、表現を整えている。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立