【資料52】民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案のたたき台 (2)

第3 所有者不明土地管理命令等
1 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令
所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 所有者不明土地管理命令
① 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(④の所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。
② 所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発令された場合にあっては、共有物である土地)にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
③ 所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発令された後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
④ 裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。
(注) 第3の1の規律による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとし、また、土地所有者のための手続保障に関し、次のような規律を設けるものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イの期間が経過しなければ、所有者不明土地管理命令をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 所有者不明土地管理命令の申立てがその対象となるべき土地又は共有持分についてあったこと。
イ 所有者不明土地管理命令をすることについて異議があるときは、対象となるべき土地又は共有持分を有する者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ 前号の届出がないときは、裁判所が所有者不明土地管理命令をすること。
(補足説明)1 本文①及び④は、第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)アと基本的に同じである。
2 本文②について
第18回会議では、土地にある動産の管理は、土地の管理に必要な範囲で管理人が行えば足りるから、土地とその土地にある動産とを同列に並べるような規律ぶりは避けるべきではないかという指摘があった。
この指摘を踏まえ、本文②では、所有者不明土地管理命令の対象は飽くまでも土地であることを前提としつつ、その効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ旨の規律を設けることとした。
3 本文③について
所有者不明土地管理命令が発令された後に当該所有者不明土地管理命令が取り消されたが、改めて所有者不明土地管理命令が発令される場合には、命令の対象となるのは、所有者不明土地やその上にある動産の価値転化物(供託された金銭など)である可能性がある。特に所有者が特定できないとして所有者不明土地管理人が選任されて土地等が売却され、代金が供託されて所有者不明土地管理命令が取り消されたケースでは、供託金の還付請求の相手方が特定できないことになるため、改めて所有者不明土地管理命令を発令する必要が生じ得る。
そこで、本文③では、そのような場合においても、必要があると認めるときは、所有者不明土地管理命令をすることができる旨の規律を設けることを提案している。
4 (注)について
(1) 所有者不明土地管理命令に関する事件は、非訟事件に該当するので、非訟事件手続法第2編(非訟事件の手続の通則)が適用されることとなるが、個別事件の規定については所要の規定を整備することとなる。
手続的規律の中でも、管轄の規定については、部会資料43の(1)(注)等で取り上げ、議論のあったところであることから、特に注記している。また、所有者不明土地管理命令の際の公告については、共有の見直しに関する所在等不明共有者がいる場合の特則の規律(部会資料51第2の5(2))と同様の規律を設けることを注記している。
(2) 管轄について
第18回会議においては、地方裁判所だけでなく簡易裁判所も管轄裁判所とすべきとの意見もあったが、これに反対する意見もあり、意見が分かれた。
部会資料43(4ページ)に記載したとおり、民事事件については、地方裁判所が基本的な第一審であり、簡易裁判所は比較的少額、軽微な事件のみを管轄することとされているところ、土地管理制度においては、管理人の適切な選任や監督、場合によっては土地の売却の可否とその代金の当否などについての法的判断が必要になることが見込まれる。
そして、現行法における他の類型の財産管理制度において簡易裁判所を管轄としている例はないこと、第18回会議においては、現時点では実際のニーズがどの程度あるか明らかでないことから、少なくとも制度発足時点では地方裁判所のみの管轄としてはどうかとの意見もあったことも踏まえ、(注)の前段では、第3の規律による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄のみに属するものとした。
(3) 所有者不明土地管理命令の際の公告について
所有者不明土地管理命令が発せられると、その対象とされた土地の管理処分権は所有者不明土地管理人に専属する(後記(2)①参照)。そこで、(注)の後段では、当該土地の所有者の手続保障の観点から、所有者不明土地管理命令を発するためには、その旨の公告をしなければならないものとするとともに、その公告から一定の期間を経ても異議の申出がないことを発令の要件としている。
なお、所有者不明土地管理命令がされたからといって土地の所有者の所有権が直ちに失われるわけではないことから、異議の申出期間の下限は、いわゆる普通失踪における失踪宣告の際の公告期間(3箇月。家事事件手続法第148条第3項)より短く、1箇月を下ってはならないこととしている。
(2) 所有者不明土地管理人の権限
① (1)④の規律により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。
② 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することができない。
ア 保存行為
イ 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
(注) 管理人の選任の公示に関し、次のような規律を設けるものとする。
① 所有者不明土地管理命令があった場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分について、所有者不明土地管理命令の登記の嘱託をしなければならない。
② 所有者不明土地管理命令を取り消す裁判があったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の登記の抹消を嘱託しなければならない。
(補足説明)
1 本文①は、第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)イ①と基本的に同じである。また、(注)についても、同本文(1)イ④と基本的に同じである。
2 本文②は、裁判所の許可を得ずに、保存行為等を超える行為をしても、土地の所有者に対して効果が生じないことを前提としている。第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)イ③では、そのことを「無効とする」との文言で表現していたが、裁判所の許可を要件とする民法上の他の制度においては、無許可では効果が生じないことはある意味で当然のことであり、そのような文言は特に用いられていないため(民法第859条の3参照)、本文②でも、「無効とする」との文言は用いていない。
3 所有者不明土地管理人が、裁判所の許可を得るべき行為をその許可を得ずにした場合には、その行為が上記のとおり原則としては無効となるにしても、取引の安全の観点から、取引の相手方を保護するための規律を設ける必要がある。
そこで、本部会資料では、裁判所の許可がないことをもって、善意の第三者に対抗することができないとすることを提案している(「第三者」との表現を用いることについては、部会資料50の5ページ参照)。
なお、第三者の保護要件に関しては、取引の安全をできるだけ保護する観点から、無過失を要件としないことを提案している。
また、第20回会議などでは、「これをもって」という表現について、善意の対象などが不明確であるとの指摘があったことを踏まえ、「この許可がないことをもって」善意の第三者に対抗することができないとする表現に改めている(後記本文2(2)も参照)。
4 第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)ウでは、所有者不明土地管理人は、就職の後直ちに土地の管理に着手しなければならない旨の規定を設けることを提案していた。
もっとも、このことは、規定を設けるまでもなく当然のことであって、不在者財産管理人に関してもこのような規定が置かれていないことも考慮し、本部会資料ではこの提案をしていない。
(3) 所有者不明土地等に関する訴えの取扱い
所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。
(注) 訴訟手続の中断・受継に関し、次のような規律を整備するものとする。
① 所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴訟手続で当該所有者不明土地等の所有者を当事者とするものは、中断する。この場合においては、所有者不明土地管理人は、訴訟手続を受け継ぐことができる。
② 所有者不明土地管理命令が取り消されたときは、所有者不明土地管理人を当事者とする所有者不明土地等に関する訴訟手続は、中断する。この場合においては、所有者不明土地等の所有者は、訴訟手続を受け継がなければならない。
(補足説明)
1 本文は、第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)エ①と基本的に同じである。また、(注)についても、同本文(1)エ②ないし⑤と基本的に同じである(相手方も受継の申立てをすることができることについては、民事訴訟法第126条参照。)。
2 第18回会議では、中断・受継の規律について、所有者不明土地管理人が受継を拒絶することは想定されるのかどうか、また、所有者不明土地管理人と相手方のいずれもが受継をしないとすると、訴訟手続が中断したままになり、その状態で所有者不明土地管理命令が取り消されることもあり得るため、元の所有者によって訴訟の中断状態を解消させるための仕組みが必要になるのではないかという意見があった。
所有者不明土地管理人は、土地の所有者本人とは異なる地位を有するものではあるため、(注)①の末尾の文言は「受け継ぐことができる。」としているが、いずれにしても、相手方の受継申立てや、裁判所の続行命令により訴訟手続が続行されることはあるものと考えられる。訴訟の係属中に所有者不明土地管理命令が申し立てられて訴訟手続の中断が生じたが、所有者不明土地管理人が受継をしないまま所有者不明土地管理命令が取り消された場合には、解釈上、所有者が受継することになると解される。この受継に際しては、民事訴訟の一般的なルールに従えば、申立てによる受継決定又は職権による続行命令を要すると思われるが、破産法の例を参考に、当然に受継するとの解釈をとることも考えられる。
(4) 所有者不明土地管理人の義務
① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
② 数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(補足説明)
第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)オ①及び②と同じである。
(5) 所有者不明土地管理人の解任及び辞任
① 所有者不明土地管理人がその任務に違反して所有者不明土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を解任することができる。
② 所有者不明土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
(補足説明)
第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)カ①及び②と同じである。
(6) 所有者不明土地管理人の報酬等
① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
② 所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用及び報酬は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)の負担とする。
(補足説明)
第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)キ①及び②と基本的に同じである(同①、②が、それぞれ本文②、本文①に相当する。)。
なお、本文①では、「所有者不明土地等から」費用の前払及び報酬を受けることができるとしているが、これは、管理人による管理の継続中に費用の前払や報酬の支払がされる場合には、所有者不明土地等(予納金を含む)から支払われることが想定されることから、これが可能であることを明確にしたものである。費用及び報酬の引き当てが「所有者不明土地等」に限定されるものではないことに関しては、本文②の規律で明らかにしている。
また、本文②では、従前は、報酬を含む趣旨で「費用」と記載していたが、報酬を含むことを明確化するために、「費用及び報酬」としている。
(7) 所有者不明土地管理制度における供託等及び取消し
① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、当該金銭を所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発令された場合にあっては、共有物である土地)の所在地の供託所に供託することができる。この場合において、供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
② 裁判所は、管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない。
③ 所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)が所有者不明土地等の所有権(その共有持分を含む。)が自己に帰属することを証明したときは、裁判所は、当該所有者の申立てにより、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない。この場合において、所有者不明土地管理命令が取り消されたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者に対し、その事務の経過及び結果を報告し、当該所有者に帰属することが証明された財産を引き渡さなければならない。
(補足説明)
第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)ク①から④までと同じである。
(8) 所有者不明建物管理命令
① 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(④の所有者不明建物管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。
② 所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物(共有持分を対象として所有者不明建物管理命令が発令された場合にあっては、共有物である建物)にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物又は共有持分を有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
③ 所有者不明建物管理命令は、所有者不明建物管理命令が発令された後に当該所有者不明建物管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分並びに当該所有者不明建物管理命令の効力が及ぶ動産及び建物の敷地に関する権利の管理、処分その他の事由により所有者不明建物管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
④ 裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならない。
⑤ (2)から(7)までの規定は、所有者不明建物管理命令について準用する。
(注) 所有者不明建物管理命令に関する規律は、建物の区分所有等に関する法律における専有部分及び共用部分については、適用しないものとする。
(補足説明)
1 本文①について
所有者不明建物管理制度については、部会資料44では、所有者不明土地管理命令が発せられていることを要件とするかどうかなど、複数の案を提案していたが、土地と建物の所有者が異なる場合において、土地の所有者及びその所在は判明しているが、建物の所有者又はその所在が不明であるケースにも対応するためには、建物について独自に管理命令を発することを可能とする必要がある。
第18回会議においても、所有者不明土地管理制度とは別に、所有者不明建物の管理制度を独立して設けること(部会資料44の甲案)に賛成の意見が比較的多かった。そこで、本文①では、所有者不明建物の管理制度を独立して設けることとしている。
2 本文②について
所有者不明建物管理命令が、借地上にある所有者不明建物について発せられるケースもあるが、この場合に、所有者不明建物管理人に借地権に関する権限を認めないとすると、その適切な管理に支障を来すおそれがある。
そこで、本文②では、部会資料44本文2の甲案をベースに、所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に加え、当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶとしている。
3 本文③から⑤までについて
本文③及び④は、所有者不明土地管理命令に関する本文(1)③及び④と同様である。
また、その権限等についても、所有者不明土地管理命令が発せられた場合と同様であるから、本文⑤では、本文(2)から(7)までの規定を準用することとしている。
4 (注)について
部会資料44の4と同じである。
2 管理不全土地管理命令
管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 管理不全土地管理命令
① 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(③の管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。
② 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
③ 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。
(注) 第3の2の規律による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 本文①から③までは、第20回会議で取り上げた部会資料50本文(1)と基本的に同じである。
2 本文①について
(1) 第20回会議では、所有者が実際に利用していないことや所有者の意見が管理不全土地管理命令を発するための重要な考慮要素となることは、本文の規律からは読み取ることが困難ではないかとの意見があった。
確かに、部会資料50(4ページ)に記載しているように、管理不全土地上の建物に居住しているなど、所有者が当該土地を実際に利用しているケースにおいては、土地を管理人に管理させることが適切ではないケースが多いと考えられる。
もっとも、所有者が土地を現に利用しているといっても、土地を放置しているのと大差がないケースもあると考えられる(例えば、土地に資材を置いたまま放置しているケースも、土地を現に利用していることには違いないとも考え得る。)ことからすると、所有者が土地を現に利用していれば一律に管理人の選任を否定するような要件の在り方は適切でないと思われる。
そして、本文のように「管理が不適当であること」を要件とすれば、所有者の利用形態は当然に考慮されるものと解される。
他方、所有者の意見については、発令の場面での一つの考慮要素となるものではあるが、より重要なのは、管理不全土地を処分する場面であると考えられる。そこで、後記本文(2)③において、管理不全土地を処分する場面における裁判所の許可に際し、所有者の意見を反映させるための規律の修正を行っている。
(2) 第20回会議では、本文からは、相当性の要件が課せられているのかどうかが明確でないのではないかとの意見があった。
管理不全土地上の建物に居住しているなど、所有者が当該土地を実際に利用しているケースにおいては、仮に管理命令が発せられたとしても、管理不全土地管理人による管理を継続することが相当でないものとして(後記本文(6)②)、結局は管理命令を取り消すこととなることが多いと思われる(なお、管理人が不当な妨害を受けた場合には、固有の管理権に基づく妨害禁止を求め得ることは後記本文(2)の補足説明3参照)。そして、そのようにして管理命令が取り消されることが当初から予想される場合であれば、管理命令を発すること自体が必要性のないものとして、管理命令が却下されることとなると思われる。
このように、あえて相当性の要件を本文で明示せずとも、管理命令を発することが相当でない場合には本文に掲げた要件を当然に満たさないと考えられる。
他方で、相当性の要件を別途掲げるとすると、これが必要性等の要件とは切り離された独立の要件であるようにも見え、その意味内容等が問題となるように思われる。
そこで、本文では、相当性の要件を明示することはしていない。
(3) 第20回会議では、「土地の管理が不適当であることによって」という要件について、不可抗力によって侵害状態が生じた後に適切に対応しないケースは、適用場面に含まれないように見えるので、この「によって」という文言によって因果関係を要件とすることは避けるべきでないかとの指摘があった。
もっとも、この文言によって、管理の不適当と侵害状態との間に一定の因果関係が必要となるとしても、その因果関係は、管理の不適当と過去の侵害状態の発生との間に必要となるわけではなく、管理の不適当と現在の侵害状態の継続との間に因果関係があれば足りると考えられる(そのため、本文では、「…おそれが生じた場合」ではなく、「…おそれがある場合」という文言を用いている。)ことから、不可抗力によって侵害状態が生じた後に適切に対応しないケースについても、本文の規律は適用されると解される。
反対に、「によって」という文言を外すとすると、現実にはあまり想定し難いものの、管理の不適当と侵害状態とが全く無関係な場合であっても本文の規律が適用されるようにも見えかねないように思われる。
したがって、この点については、前回の提案を維持している。
3 (注)について
管理不全土地管理命令に関する事件は、非訟事件に該当するので、非訟事件手続法第2編(非訟事件の手続の通則)が適用されることとなるが、個別事件の規定については所要の規定を整備することとなる。
なお、管轄については、所有者不明土地管理命令に関する事件と同じく、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとすることを記載している。
(2) 管理不全土地管理人の権限
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。
② 管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
ア 保存行為
イ 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
③ 管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可は、その所有者が異議を述べない場合に限り、することができる。
(補足説明)
1 本文①及び②について
(1) 第20回会議では、①のような規律を置くことについては、賛成の意見もあったが、この規律を置くことで、管理人が処分権限を有するのが原則であるかのように読めるのではないか、また、②における善意の対象に紛れが生ずるのではないかとの指摘もあった。
部会資料50(4ページ)で記載したように、①の規律を置くとしても、②の制限の規律についても併せて設けることで(後記2参照)、管理人が一般的に処分をすることができるわけではないことが明確になると考えられることから、①の規律については維持している。
もっとも、②における善意の対象が紛れるのではないかとの指摘にも配慮し、②のただし書については、所有者不明土地管理人の権限の規律(前記本文1(2)②)と同じく、「この許可がないことをもって」と修正している。
また、①の規律を置くことに消極な意見の趣旨は、管理人が処分を許される場合は限定的であるべきである旨をいうものとも思われる。そこで、この意見にも配慮し、後記2のとおり、本文③の規律を新たに設けることとしている。
(2) 第三者の保護要件に関して、部会資料50では、善意に加えて「無過失」とする考え方も提示していたところ、第20回会議では、無過失を不要とすることに賛成の意見があったが、これについて慎重な意見もあった。
管理不全土地管理命令は、所有者が判明しているときであっても発令されることがあることや、土地の管理処分権を管理不全土地管理人に専属させていないこととのバランスなどを考慮すると、管理不全土地管理制度においては、土地所有者の静的安全に一層配慮した規律とすることが望ましいように思われる。
そこで、本文②では、無過失を第三者の保護要件とする考え方を提示している。
2 本文③について
部会資料50(3ページ)では、管理不全土地管理人による処分行為が認められる場合を、所有者の明確な同意があるケースと、明確な同意がないが所有者に実質的な損害が生じないケースとに分けて整理し、いずれにしても、所有者の意見が重要な考慮要素となる旨を記載していた。
第20回会議では、このような整理自体には異論はなかったものの、管理命令の発令に関し、所有者の意見が重要な考慮要素となることが文言上は現れていないことから、その旨を明示すべきではないかとの意見があった。
所有者の意見は、発令の場面での一つの考慮要素となるものではあるが、所有者の意見がより重要になるのは、管理不全土地を処分する場面であると考えられる。
また、前記1(1)のとおり、管理人が処分を許される場合は限定的であるべきである旨の指摘もあった。
そこで、これらを踏まえ、管理不全土地を処分する場面における裁判所の許可に際し、所有者の意見を反映させるために、本文③では、「管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可は、その所有者が異議を述べない場合に限り、することができる。」という規律を設けることとしている。
3 管理人が管理の妨害を受けた場合について
部会資料50(5ページ)では、所有者が管理人による土地の立入りを不当に拒んだりすることは、管理権侵害であり、管理人は、管理権侵害を理由に、訴訟において妨害排除を求め得ることも記載していた。
これについて、第20回会議では、①妨害排除請求の基礎となる権利は何であり、このような請求をできるのはどのような場合か、②管理権限の範囲内では、管理人に当事者適格があるのか、③訴訟においては所有者の所有権から主張立証する必要があるのか、といった点について確認を求める指摘があった。
本文①のとおり、管理不全土地管理人は土地の管理処分権を有するので、この権利が妨害排除請求の基礎となると解される。
また、管理不全土地管理人が土地の管理処分権を有するとすると、訴訟の当事者適格も有することになるかが問題となる。例えば、所有権の確認訴訟などで、所有者のためにその管理不全土地管理人が当事者(訴訟担当)となるのかが問題となり得るが、このようなケースでは、所有者不明土地管理命令が発せられた場合とは異なり、土地所有者の管理処分権が制限されるわけではなく、土地所有者を被告として訴訟提起をすることができるし、管理不全土地管理人が被告として訴訟を追行し、その訴訟の結果を所有者に及ぼすことは相当ではないと考えられる。
また、管理不全土地管理人は土地の処分権を有するものの、許可を得なければ処分権を行使することができないので、処分権があることを前提に当事者適格を認めることはできない。そのため、管理不全土地管理人は、所有者を本人とすべき類型の訴訟では、当事者適格を有しないと解される(裁判所の許可を得れば、処分権を有するので当事者適格を有することになるが、通常は許可されないと思われる。)。
他方で、管理不全土地管理人が自己の管理権を侵害されたことを理由として妨害排除を求めるケースでは、飽くまで自己の権利を行使するものであり、管理不全土地管理人は当事者適格を有すると解することも考えられる。なお、管理不全土地管理人が裁判所の許可を得て訴訟を追行する場合に、特定された所有者の所有権も主張立証の対象となるとの解釈をする必要はないように思われる。
(3) 管理不全土地管理人の義務
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
② 管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(補足説明)
第20回会議で取り上げた部会資料50本文(3)アと同じである。
第20回会議では、管理人が所有者の意に沿わない管理を行わざるを得ない場合もあることから、所有者に対する善管注意義務の規律を置かないこととすべきとの意見もあった。
確かに、管理不全土地管理人による管理が土地所有者の意に必ずしも沿うものではないケースもあり得るものの、管理不全土地管理人は,土地の適切な管理を実現するために選任されるものであり、他方で、善管注意義務の相手方を土地所有者とすることは、管理不全土地の所有者の利益を害さないように行動しなければならないということを意味するものであって、管理不全土地管理人の選任の目的と相反するものではなく、この規律を置く必要はなおあるものと考えられる。
第20回会議を含むこれまでの会議でも、この規律を置くことに賛成の意見があった。
そこで、善管注意義務の規律を維持している。
(4) 管理不全土地管理人の解任及び辞任
① 管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。
② 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
(補足説明)
第20回会議で取り上げた部会資料50本文(3)イと同じである。
(5) 管理不全土地管理人の報酬等
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
② 管理不全土地管理人による管理不全土地等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全土地等の所有者の負担とする。
(補足説明)
第20回会議で取り上げた部会資料50本文(3)ウと基本的には同じである。
なお、本文①では、「管理不全土地等から」費用の前払及び報酬を受けることができるとしているが、これは、管理人による管理の継続中に費用の前払や報酬の支払がされる場合には、管理不全土地等(予納金を含む)から支払われることが想定されることから、これが可能であることを明確にしたものである。費用及び報酬の引き当てが「管理不全土地等」に限定されるものではないことに関しては、本文②の規律で明らかにしている。
また、本文②では、従前は、報酬を含む趣旨で「費用」と記載していたが、報酬を含むことを明確化するために、「費用及び報酬」としている。
(6) 管理不全土地管理制度における供託等及び取消し
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、当該金銭を管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所在地の供託所に供託することができる。この場合において、供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
② 裁判所は、管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、管理不全土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、管理不全土地管理命令を取り消さなければならない。
(補足説明)
前記本文(2)のように、管理不全土地管理人は、土地所有者の異議がない場合に限り、裁判所の許可を得て、その管理に係る土地等を処分することができるものであるが、この処分等により金銭が生じた場合において、いつまでも当該金銭を保有していなければならないとすることは、合理性に欠ける。そこで、本文①は、管理不全土地管理人による供託の規律を設けることを提案している。なお、これに基づいて供託がされた場合には、その旨を所有者及び第三者において認識できるようにするために、公告することとしている。
本文②は、第20回会議で取り上げた部会資料50の本文1(3)エと基本的に同じである。
(7) 管理不全建物管理命令
① 裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(③の管理不全建物管理人をいう。)による管理を命ずる処分(以下この条において「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。
② 管理不全建物管理命令は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
③ 裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。
④ (2)から(5)までの規定は、管理不全建物管理命令について準用する。
(注) 管理不全建物管理命令に関する規律は、建物の区分所有等に関する法律における専有部分及び共用部分については、適用しないものとする。
(補足説明)
第20回会議で取り上げた部会資料50の本文2(1)から(3)までと同じである。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立