■相続人等に対する株式売渡しの請求の定め
会社法第174条には、「株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。」と規定しています。
この規定は、株主に相続が発生した場合に、その株主の相続人が複数いる場合、株主数が増加することにより株式が分散することにより、株主総会の決議がスムーズに行われなくなってしまうことを防止するために規定されました。
また、株式売渡し請求の対象となる株主は、相続その他の一般承継により株式を取得した者であるため、合併により消滅会社の有していた株式を取得した承継会社も含まれます。そして、株式会社がこの売渡し請求を行うには定款の定めが必要となっています。
■定款変更を行うには株式会社が、この規定を定款に定めるには株主総会において、いわゆる特別決議の要件が必要となり、具体的には、原則として議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が可決要件となります。
■具体的な売渡し請求の方法
実際に相続人等に売渡し請求を行っていく場合は、株主総会を開催し、売渡し請求を行う対象株式の種類及び数と、その株式を有する者の氏名を定めます。この承認決議の要件は、株主総会の特別決議を要し、売渡請求の対象となる株主は議決権を有しません。
なお、この相続人等に対する売渡し請求は、買取請求を行う株式会社が相続等の一般承継が知った日から1年以内に行う必要があるため、注意が必要です。
■株式の売買価格の協議
株式会社が株式の売渡し請求をした場合、請求を受けた株主はそれを拒むことはできませんが、売買価格については、株式会社と当該株主の協議によって決定することができます。協議によって価格が決定しない場合、株式会社又は請求を受けた株主が、株式会社が売渡し請求を行った日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立を裁判所に申立てを行うことができます。この場合、裁判所が売買価格を決定することになります。
■定款に売渡し請求の定めを設ける際の注意点も
この定めには株式分散のリスク防ぐことができる利点の裏返しとしての注意すべき点があります。
例えば、株主数2人の株式会社で、一人が95%、もう一方が5%の株式の取得割合である場合に、95%の株式を有している株主に相続が発生した場合、売渡し請求の決定の有無の株主総会は、95%の株主には議決権がなく5%の少数株主のみで決議が行われるため、95%の大株主が株式を手放す必要が生じてしまいます。このため、実際に定款にこの定めを設けることを検討される場合は、会社の状態をよく確認され当事務所にご相談ください。