改正民法により、履行不能は、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることになったようですが、契約実務上、注意すべきことはありますか。

 民法412条の2は、「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。」と規定していおり、部会資料68A2頁では、「その債務の履行が不能であるかどうかは、当該契約の趣旨に照らして判断されるべきである(中略)。ここにいう「契約の趣旨」は、契約の内容(契約書の記載内容等)のみならず、契約の性質(有償か無償かを含む。)、当事者が契約をした目的、契約の締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情を考慮し、取引通念をも勘案して、評価・認定されるものである。」としています。

 後に、「契約の趣旨」という表現からは「取引上の社会通念を含む」ということを解釈しにくいので、条文は「取引上の社会通念に照らして」との表現にすることとされましたが(部会資料79-3)、いずれにしても、契約により発生した債務が履行不能かどうかは、契約の内容、契約の性質、契約をした目的、それらを契約の締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情を考慮して判断することになりますので、逆に言えば、契約締結の際にはそれらを明確に規定しておくことが必要となります。

 また、契約上の取引条件についてもどのような場合に履行不能とするのかを明確に定義する必要性も考えられます。たとえば、製造委託契約において最低ロット数を定めておき、当該ロット数未満の発注は製造原価の観点から履行不当とすることなどが考えられます。

 このように、履行不能かどうかの判断は、当事者の意思を考慮して判断されることになりますので契約実務においては注意が必要です。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立