しばしば、株主様の所在がわからず、また、これがために管理コストを支出しなくてはならないのでなんとかしたい、といったご相談をいただくことがあります。
このような状況を解決する一例として、所在不明株主の株式売却制度があります。
この制度は、①株式会社が当該株式の株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達せず当該株主に対する通知又は催告を要しなくなったとき、かつ、②当該株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったときは、株式会社は、当該株式を競売し、かつ、その代金を当該株式の株主に交付することができる、というものです。
なお、いわゆる無配の株式会社であっても、この制度を利用できます。
売却の方法は、原則として競売ですが、例外として、市場価格がある株式については、市場価格として法令で定められる額で、市場価格なき株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により、当該株式を売却することができます。
一方、所在不明株主の株式を売却するときは、当該所在不明株主その他の利害関係人が一定の期間内に異議を述べることができる旨及び法令で定める事項を公告するとともに、当該所在不明株主及びその登録株式質権者に対し各別に催告しなければならない、とされていますので、スケジュールを十分に検討することも必要です。
裁判所の許可を得て売却した際の売却代金は、買受会社等から株主に支払われなくてはなりませんが、受領しないことは明らかですので、法務局で供託してしまうとよいでしょう。供託しないと、買受会社等は当該株主が現れるまで代金を管理しなければならないことになってしまいます。
一例として、非公開会社である取締役会設置会社が、所在不明株主の株式を売却する際のスケジュールを挙げておきます。
取締役会の決議
※所在不明株主の売却手続承認
↓
官報公告・個別催告※会社法198条1項2項4項
↓
株式売却許可申立※会社法197条2項
↓
(売却許可決定)
↓
取締役会の決議
※譲渡承認
↓
買受に伴う供託
※発行会社の最寄りの法務局
さて、当該株主が後日現れた場合は、当該株主は供託所に還付請求をすることができます。また、供託者が供託不受諾を理由に取り戻しをして、当該株主に交付してもいいでしょう。
なお、会社・法人代表者の資格や印鑑の簡易確認手続は、現在は次のようになっているので注意が必要です。
① 供託窓口で発行される「依頼書」の受け取り
② 証明書発行窓口に「依頼書」を提出
印鑑カードが必要
③ 証明書等の受け取り
④ 証明書等を供託窓口に提出