お尋ねのケースでは、株式の全部を売り渡すように株式等売渡請求制度を利用することができます。ただし、この制度の利用により感情的対立を生じることもありますので、まずは買い取りを直接打診してみてはいかがでしょうか。
株式等売渡請求制度の概要
株式等売渡請求制度とは、特別支配株主が他の全株主に対して株式の全部を売り渡すよう請求することができる制度で、「キャッシュアウト」などとも呼ばれています。
株式等売渡請求を活用することにより会社の株主が一本化され、長期的視野に立った柔軟な経営の実現、株主総会に関する手続きの省略による意思決定の迅速化、株主管理コストの削減などのメリットが発生します。また、事業承継の前提として株主の一本化に利用することも考えられます。
ここで、特別支配株主とは、その会社の議決権の九割以上を有している者をいいます。ただし、他者との合算はできないため、自己の有する株式だけで九割以上を有している必要があります。
お尋ねのケースはこの要件を満たしていますが、仮に満たしていない場合には他者から株式の譲渡を受けるなどして要件を満たす必要があります。
また、九割以上を有しているという要件は、①株式等売渡請求時、②取締役会での承認時、③取得日のそれぞれにおいて充足していなければなりません。
対象となる会社には制約はなく、株式に譲渡制限の付いている非上場会社も対象です。
売渡請求の手続
売渡請求をするときは、特別支配株主は、対価の額やその算定方法、取得日などを決め、対象会社に対してその通知をする必要があります。
対象会社は、取締役会でこれを承認するかどうかを判断しますが、取締役会は、売渡請求の条件が適正であるかどうか、対価が交付される見込み等について確認をする必要があります。
対象会社が、取締役会で売渡請求を承認すると、特別支配株主にその旨通知するとともに、取得日の20日前までに売渡株主に一定の事項を通知します。これによって売渡請求の効果が発生します。
そして取得日において、株式の移転の効果が発生します。
売渡請求に不服のある株主は、価格決定の申立ができ、また、法令違反や著しく不当な対価等の場合には差し止め請求をすることもできます。
感情面にも配慮を
株式等売渡請求の制度は、大企業においては、対価が適正であれば合理性を持つ場合が多いものと思われます。なぜなら、そのような会社においては、株式を所有する意味は会社の資産を間接的に保有する意味合いが強く、株式等売渡請求制度はこれを換価するひとつの手段と考えられるからです。
一方、中小企業においては、わずかな比率の株式を所有し続ける背景には、友人や親戚関係、共同して創業をした者として会社と関係を持ち続けていたいといった感情的な側面がある場合もあり得ます。
お尋ねのケースでは、株式等売渡請求をすることによって新たな感情的な対立を生み出す可能性も考えられます。そこで、まずは、株式の買取りを直接交渉してみて、それでも買取りに同意されない場合には売渡請求手続きをしてみてはいかがでしょうか。