登記研究755号に次のような質疑応答があります。
問 取締役会設置会社であるA株式会社の代表取締役甲が同じく取締役会設置会社であるB株式会社の取締役でもある場合に、甲がA株式会社名義でB株式会社に不動産を現物出資してB株式会社の発行する募集株式を引き受ける行為は、A株式会社と甲の利益が相反する行為であるから、当該不動産の所有権の移転の登記の添付情報として、当該取引を承認したA株式会社の取締役会議事録を提供することを要すると考えますが、いかがでしょうか。
また、B株式会社については、当該現物出資を受け入れるに当たり、既に株主総会の決議を経ているため、当該取引についての取締役会の承認は必要ないことから、B株式会社の取締役会議事録の提供を要しないと考えますが、いかがでしょうか。
答 前段、後段とも、御意見のとおりと考えます。
このケースは、A株式会社にとっては取締役甲のためにA株式会社の株式を現物出資するわけだから、甲とA株式会社の利益が相反することになります。したがって、問の前段についてはそのとおりだと思われます。
また、B株式会社にとっても、取締役である甲に対し募集株式を割り当てることになるから利益相反になると考えられます。しかし、「既に株主総会の決議を経ているため、当該取引についての取締役会の承認は必要ない」との考えは疑問が残ります。
取締役会設置会社における利益相反の承認は、取締役会で承認することを要します(会社法365条1項)。「株主総会の承認を得ている」ということですが、当該決議は利益相反承認の決議ではなく、募集株式発行の決議であると考えられます(B株式会社が非公開会社であれば、株主総会で募集株式の発行を決議する必要がある(会社法199条))。そもそも取締役会設置会社であるわけですから株主総会の決議事項は法定されています。なんでも決議することができるわけではなく、利益相反取引の承認は取締役会で行うべきです。そもそも、株主総会における募集株式発行の決議と取締役会における利益相反決議とは決議要件が全く異りますので、株主総会決議をもって利益相反決議があったものとみなすのは無理があるのではないでしょうか。それとも、この質疑応答について私の読み方が間違っているのでしょうか。