債務が承継される場合には、原則として、可分債務については法定相続分にしたがって相続人に分割承継されます。ただし、相続により相続人に承継される債務と、承継されない債務があります。
承継されない債務には次のようなものがあります。
① 一身専属性のある債務
たとえば、芸術家に作品の制作を依頼していた場合、その芸術家は作品を制作する債務を負っていますが、その性質上、その芸術家でなければなしえない債務であるから相続により承継されません。
また、身元保証契約にもとづく保証債務(「身元保証に関する法律」参照)についても、身元保証契約が個人的信頼関係にもとづいて存続するものであるから一身専属的な債務とされ、特別な事情がない限り相続性は否定されています。
② 限度額・期間の定めのない包括根保証契約
最判昭和37年11月9日は、限度額・期間の定めのない包括根保証契約については、被相続人の死亡後
に生じた債務についての責任を否定しました。したがって、被相続人死亡時における債務残高は相続人に承継
されますが、保証人としての地位までも相続されるわけではないことが明かとなりました。
なお、限度額・期間の定めのあるものについては、一般論として相続性が認められています。したがって、被相続人死亡時の保証残高が法定相続分にしたがって承継されるとともに、保証人としての地位も承継されます。なお、法定相続分にしたがって保証割合が定まることとなります。
ただし、民法465条の4により、貸金等根保証契約(債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれるもの)については、保証人が死亡したときは債務の元本が確定するため、被相続人死亡後に発生した債務を保証人の相続人が保証責任を負うことはありません。
(貸金等根保証契約の元本の確定事由)
民法第465条の4 次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。
一 債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
二 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
なお、相続人間の遺産分割協議で、特定の相続人がある債務を相続するように合意したりすることがありますが、これは、相続人間での内部負担割合の指定、あるいは一種の免責的債務引受にすぎず、債権者に対しては当然には効力を生じません。