【資料37】共有関係の見直し(通常の共有関係の解消方法)

第1 裁判による共有物分割
裁判による共有物分割に関する規律(民法第258条)を次のように改めることで、どうか。
① 共有物の分割について協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、共有者は、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、特別の事情があると認めるときは、共有物の分割の方法として、共有者の一人又は数人に他の共有者に対する金銭債務を負担させる方法による分割を命ずることができる。
③ 共有物の現物を分割することができない場合、又はその分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合において、②で定める方法による分割を命ずることができないときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割を命ずる場合において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
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○試案第1の2 通常の共有関係の解消方法
(1) 裁判による共有物分割
裁判による共有物分割に関する規律(民法第258条)を次のように改める。
① 共有物の分割について協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、共有者は、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有物を一人又は複数の共有者に取得させ、この者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法
ウ 共有物を競売して換価する方法
③ 裁判所は、共有物を一人又は複数の共有者に取得させることが相当であり、かつ、その者に取得させることとしても共有者間の実質的公平を害するおそれがないときには、②イで定める方法による分割を命ずることができる。
④ 共有物の現物を分割することができない場合、又はその分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合において、②イで定める方法による分割を命ずることができないときは、裁判所は、②ウで定める方法による分割を命ずることができる。
⑤ 裁判所は、共有物の分割を命ずる場合において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
(注1)共有物の分割方法の検討順序については、これを改める必要性を踏まえて引き続き検討する。
(注2)共有物分割に関する紛争に関して、民事調停を前置する規律を設けることについて、引き続き検討する。
(注3)裁判所は、換価のための管理者を選任した上で、当該管理者に対して共有物を任意売却することによって換価を命ずることができるとする規律について慎重に検討する。
(注4)複数の共有物を一括して分割する場合においても、①から⑤までの規律が適用されることを前提としている。
(注5)複数の共有物を一括して分割する請求がされた場合に、裁判所が、一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設けることについては、引き続き検討する。

(補足説明)
1 共有物分割に関する協議(本文①)
民法第258条第1項の「協議が調わないとき」とは、一部の者が協議に応じないために協議をすることができないときも含むと解されており、このような解釈を明確化するために、試案第1の2(1)①において、「協議をすることができないとき」にも裁判所に分割を請求することができることとすることを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、この提案に賛成する意見が多数であり、反対意見はなかったことから、本文①においてこの提案を維持している。
2 共有物分割方法の明確化(試案第1の2(1)②)試案第1の2(1)②において、裁判所が命ずることができる共有物の分割方法として、現物分割、価格賠償による分割(以下「賠償分割」という。)及び競売による分割があることを明示して列挙することを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、この提案に賛成する意見が多数であり、反対意見はなかった。そのため、本資料では、試案の考え方を基本的に踏襲している。
もっとも、試案では、「現物を分割する方法」(試案第1の2(1)②ア)との表現を用いるとともに、これとは別に、価格を賠償しつつ、共有者の一部が共有物を取得する方法を明示していた(試案第1の2(1)②イ)が、後者のような方法で共有物を取得することも「現物」を取得するものであり、やや表現の上で整理が不十分な点もあったように思われる。また、試案では、いわゆる部分的価格賠償(持分の価格以上の現物を取得する共有者に、持分の価格を下回る現物しか取得しない他の共有者に当該超過分の対価を支払わせて過不足を調整する方法)が、現物を分割する方法と持分の価格を賠償させる方法のいずれに当たるかが不分明であり、適用に当たって混乱を生じさせるおそれがあったように思われる。
そこで、本資料では、本文②のとおり、端的に金銭による調整ができることを示して、賠償分割(全面的価格賠償や部分的価格賠償)が可能であることを明示することとし、本文②及び本文③のとおり、現物分割、賠償分割及び競売による分割の方法があることが法文上明らかになるようにしている。なお、本資料では、「現物分割」という用語は、物理的に共有物を分割することを意味するものとして用いており、部分的価格賠償による分割は、現物分割の性質を有するが、本文②により金銭による調整をするものであると解される。
3 賠償分割の判断基準(本文②)
試案第1の2(1)③において、最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁が「共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するとき」には賠償分割を行うことができるとされたことを踏まえて、「共有物を一人又は複数の共有者に取得させることが相当であり、かつ、その者に取得させることとしても共有者間の実質的公平を害するおそれがないとき」に、裁判所が賠償分割を命ずることができる旨を明確化することを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、この提案に賛成する意見が多数であり、反対するものはほとんどなかった。
他方で、パブリック・コメントにおいては、試案第1の2(1)③が、平成8年最判が明示している判断要素の一部のみを抽出していることに対する懸念を示す意見も寄せられた。
改めて検討すると、確かに、平成8年最判が明示している判断要素の一部のみを抽出する形で規定を置くものとすると、他の判断要素については充足が不要である趣旨であるとの誤解を生むおそれがある一方で、平成8年最判が判示しているような判断要素をすべて明示し、法文化することは困難であると考えられる。
他方で、本文②のとおり金銭債務を負担させる方法をとる際には、これまでに判例が述べているような一定の事情が必要であること自体は明らかであ
り、そのことは明確化する必要があるように思われる。
そこで、本文②においては、これまでの判例の考え方を踏襲することを前提に、同様の枠組みをとっている遺産分割に関する規律を参考に、「特別の事情があると認めるとき」(家事事件手続法第195条参照)に賠償分割を認める旨の規律を設けることを提案している。
(参考)
○ 家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)
(債務を負担させる方法による遺産の分割)
第百九十五条 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。

4 共有物の分割方法の検討順序(本文③)
試案第1の2(1)④において、競売分割を補充的な分割方法とする民法第258条第2項の枠組みを維持し、賠償分割と現物分割の検討順序の先後関係をつけないとすることを提案するとともに、試案第1の2(1)(注1)において、共有物の分割方法の検討順序については、これを改める必要性を踏まえて引き続き検討する旨を注記していた。
パブリック・コメントにおいては、賠償分割と現物分割の検討順序の先後関係を一律に決めるとすれば妥当な解決に支障が生じ得ること、賠償分割を優先する規律を設けた場合には、現物分割が相当である事案においても、賠償分割に係る賠償価格の当否を判断する必要が生じ、争点が複雑になること等を理由として試案第1の2(1)④の提案に賛成する意見が多数であった。
改めて検討すると、そもそも、現物を分割することと、賠償分割をすることは、矛盾するものではない(部分的価格賠償は、現物を共有者の全部又は一部に分割した上で、金銭で調整するものである。)から、これらに先後関係をつけることは困難であると思われる。なお、全面的価格賠償と現物分割との間に先後関係をつけるべきか(言い換えると、全面的価格賠償を実施することについて、現物を分割することができないことを必要条件とするのか)も問題となり得るが、現在の判例では、現物を分割することができないことが全面的価格賠償をするための必要条件として掲げられているわけではないのであり、法律上先後関係を決する必要まではなく、現物分割の困難さは裁判所が判断をする際の考慮要素の一つとするにとどめることで足りるように思われる。
また、競売分割と他の分割の関係については、これを並列的に捉えるべきとの考え方もあり得るが、共有者中に共有物の取得を希望する共有者がいる場合には、これを優先すべきであると思われ、入札価格で雌雄を決し、共有者を優先するものではない競売分割は、共有者に共有物を取得させることが困難である場合に実施することが適当であると考えられる。
そのため、試案と同様に、共有物の現物を分割することができない場合、又は現物の分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合(これらの現物分割には、前記のとおり、部分的価格賠償による分割も含まれる。)
において、現物を分割しない方法による共有物分割(全面的価格賠償による分割)もすることができない(「②で定める方法による分割を命ずることができない」)ことを競売分割の要件としている。
5 給付命令(本文④)
(1) 試案第1の2(1)⑤において、価格賠償の方法による共有物分割を命ずる場合における金銭債務の履行を確保するための手続的措置等に関する規律として、遺産分割に関する規律(家事事件手続法第196条)を参考に、裁判所は、共有物の分割を命ずる場合において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができるとする規律を設けることを提案していた。
パブリック・コメントにおいて、この提案に賛成する意見が多数であり、反対意見はなかった。
(2) 裁判所が共有物を誰にどのように分割するといった分割の内容を定めることと、その定められた内容を前提に引渡しや支払等の給付命令を発することとは別個に検討することができる問題である。
例えば、共有物分割の内容として、共有者の一人に賠償金の支払債務を負わせることと、その債務の給付命令を発することは別の問題であり、共有物の分割の訴えにおいては、裁判所はその支払債務のみを定めることができ、給付命令を発するには、原告又は被告が給付命令を求める訴えを提起していなければならないとする見解もあり得る。
もっとも、共有物の分割の訴えは、その本質において非訟事件であって、裁判所は、その裁量により、原告や被告が求めていない内容の分割方法を選択することも可能であると考えられている。そのため、事案によっては、給付命令を求める訴えを予め提起することが当事者として困難であることもある。また、例えば、原告が共有物を取得する全面的価格賠償の方法による分割を求めたのに対し、被告が現物分割を求めて強く争っている場合に、被告から予備的にでも給付命令を求める訴えを提起することは困難であるようにも思われる。
そうすると、前記の見解によれば、事案によっては、共有物分割請求訴訟において定められた内容が任意に実現されず、改めて給付命令を求める訴えを提起しなければならないといった事態も生じ得ることになる。しかし、別訴の提起を要することとしても、審理すべき内容は弁済の有無程度であり、その分割の内容は既判力等によって争うことはできないことからすれば、紛争の一回的解決の見地からそのような別訴提起を求めることは妥当でないように思われる。そのため、共有物分割請求訴訟においては、裁判所が職権で給付命令を発することができるとの見解も有力であり、パブリッ
ク・コメントにおいて試案に賛成する意見が多く出されていることも、このような見地からであるように思われる。
以上を踏まえ、本資料では、試案と同様の提案をし、共有物分割訴訟にお
いては、職権で給付命令を発することができることとしている。そして、この規律に基づいて登記手続をすべきことを命ずる確定判決を得た共有者(共有不動産を取得した共有者)は、不動産登記法第63条第1項に基づいて単独で登記申請をすることができるものと考えられる。
なお、給付命令が当事者の不意打ちにならないようにするとの観点からすると、当事者が訴状等において特定の給付命令を求め、その希望を明示している方が望ましいと考えられるのであり、本資料の提案は、当事者のそのような活動を否定するものではない。
6 民事調停前置(試案第1の2(1)(注2))について
試案第1の2(1)(注2)において、共有物分割請求について民事調停を前置する規律を設けることについて、引き続き検討することを注記していた。
パブリック・コメントにおいては、柔軟な解決に資するとして賛成する意見もあったが、民事調停を前置すると紛争解決が遅延するという理由でこれに反対する意見もあった。
共有物分割請求について民事調停を前置する規律を設けることにより、第三者が関与するなどして迅速かつ柔軟に解決することができるケースはあると考えられるものの、その一方で、一律に調停手続の利用を強制すると、当事者に過度な負担を課すことになるおそれがある上に、最終的な紛争の解決までにかかる時間が延びるおそれがあることは否定できない。
そこで、本文では、調停手続を利用するかどうかを当事者の判断に委ねる現行法の規律を維持することを前提としている。
7 任意売却による分割の規律(試案第1の2(1)(注3))について
試案第1の2(1)(注3)では、共有物の管理者を選任した上で、その管理者に対して換価を命ずることができるとする規律について、慎重に検討することを注記していた。
パブリック・コメントにおいては、任意売却を命じた場合、売却ができず、又は事後的に不適当となった場合に対処する手段がないこと等から、このような規律を設けることに慎重な意見が多数であった。また、このような規律を設けなくとも和解又は調停の協議の中で任意売却を実現することも可能であることに鑑みれば、任意売却による分割の規律を設ける必要性は高くはないと考えられる。
そこで、本文ではこのような規律を設けることを提案していない。
8 複数の共有物の一括分割(試案第1の2(1)(注4)及び(注5))について
試案第1の2(1)(注4)において、複数の共有物を一括して分割の対象とする場合においても、試案第1の2(1)①から⑤までの規律が適用されることを前提とする旨を注記した上で、試案第1の2(1)(注5)において、一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設けることについて、引き続き検討することを注記していた。
パブリック・コメントにおいては、分割方法の多様化・弾力化に資することから試案第1の2(1)(注5)の規律を設けることについて引き続き検討することに賛成する意見もあったが、裁判所が一部の共有物について先行して競売を命じた判決に係る上訴手続を認めるとすると、当該共有物の代金を賠償金などに活用する目的を実現するためには、他の共有物の分割手続に係る審理を中断せざるを得ず、かえって手続が迂遠となり紛争解決が遅延するとの指摘もあった。
また、このような規律を設けなくとも和解又は調停の協議の中で一部の共有物の任意売却を実現することや裁判上の和解によって共有物を競売に付すことができる場合もあると考えられていることに鑑みれば、一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設ける必要性は高くはないと考えられる。
そこで、本文では一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設けることを提案していない。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立