【資料40】共有制度の見直し(通常の共有における共有物の管理)

(通常の共有における共有物の管理)
1 共有物の変更行為
民法第251条の規律を次のように改めることで、どうか。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)を加えることができない。
(補足説明)
1 共有物の処分に関する規律について
本文は、部会資料27の本文1における提案と同じである。
第13回会議において、変更行為に該当するものであっても、共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しない行為について、民法第252条の規律により持分の価格の過半数により決定できるとする規律を設けることで、共有物の処分行為に関する規律への影響が生じないか検討する必要がある旨の指摘があった。
そこで改めて検討すると、共有物の処分行為が民法第251条の「変更」に当たるかどうかについては争いがあるが、いずれの解釈をとるにせよ、本文における提案は、「変更」のうち、共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものについて全員同意の例外を設けるとするものであり、物理的変更を適用対象とするのであって、いわゆる法律上の処分行為については適用が想定されない。
そのため、本文のように規律を改めたとしても、「変更」に法律上の処分が含まれるか否かは、引き続き解釈に委ねられると考えられる。
2 「著しく多額の費用」について
第13回会議においては、「著しく多額の費用を要しない」の要件に関し、実際には著しく多額の費用を要するものであっても、変更行為をする共有者自身がこれを負担し、他の共有者に求償しない(負担を免除する)などして、他の共有者に負担を負わせないのであれば、この要件を充たすとすべきとの指摘があり、これに反対する意見もあった。
まず、第13回会議での議論を踏まえると、この要件の意義をどのように考えるべきかについて異なる意見があるように思われる。すなわち、今回の案は、いわゆる軽微な変更行為を全員同意の対象から除外することを目的とするものであるが、この要件は、飽くまでも他の共有者が負うことになる負担に着目し、その負担が小さいものを除外するためのものであるとの考え方と、この要件は、「共有物の改良を目的とする」との要件と相まって、当該共有物の変更が物理的にも大幅な変更を伴うものではないことを担保するものであり、他の共有者の負担が小さいかどうかだけで判断されるものではないとする考え方があると考えられる。
もっとも、前者の考え方をとっても、改良行為であることが別途要件となるため、結局、共有物に大幅な物理的変更を加えるようなケースは、基本的に改良行為とはいえないことになるし、後者の考え方をとっても、他の共有者の費用負担の程度は判断要素の一つになるので、実際の適用においてそれほど大きな違いはないと考えられる。
いずれにしても、軽微変更の要件の有無は、事案に応じて総合的に判断されるべきものであるが、最終的な費用負担者が誰かはその判断要素の一つとなると考えられる。
ただし、共有物の改良行為を行う共有者がその費用を他の共有者に求償しない(債務を免除する)ことを、軽微変更の要件の有無の判断の際に考慮することが一般的に可能であるとしても、具体的にどのような事情があれば考慮することができるのかは検討を要する。債務の免除は、債権者が債務者に対してその旨の意思表示をすることで効力を生ずることになると考えられるため、予めそのような意思表示がされていなければ、軽微変更の要件の有無の判断に当たって考慮することができないとも考えられる。
なお、第13回会議では、地方公共団体等から補助金が出ていた場合にも、「著しく多額の費用を要しない」との要件を充たすとの指摘があったが、その補助金が誰に対して支払われ、どのような私法上の効果があるかなどを踏まえて判断する必要があると考えられる。
2 共有物の管理行為
(1) 民法第252条の規律について
民法第252条の規律を次のように改めることで、どうか。
① 共有物の管理に関する事項を定めるときは、民法第251条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
② 共有物を使用する共有者(①本文の規律に基づき決定された共有物の管理に関する事項の定めに従って共有物を使用する共有者を除く。)がいる場合であっても、その者の同意を得ることなく、①本文の規律に基づき共有物の管理に関する事項を定めることができる。
③ ①本文の規律に基づき決定された共有物の管理に関する事項の定めを変更するときも、①本文と同様とする。ただし、その定めに従って共有物を使用する共有者がいる場合において、その定めが変更されることによってその共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その定めを変更することについてその共有者の承諾を得なければならない。
④ ①本文の規律に基づき共有物につき第三者に対して賃借権その他の使用又は収益を目的とする権利(以下「使用権」という。)を設定した場合(共有者の全員の同意による場合を除く。)には、次の各号に掲げる使用権は、それぞれ当該各号に定める期間を超えて存続することができない。
a 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の使用権 10年
b aの使用権以外の土地の使用権 5年
c 建物の使用権 3年
d 動産の使用権 6か月
(注)②及び③に関し、共有者が第三者に当該共有物を使用させている場合には、共有者が共有物を使用していると評価する。
(補足説明)
1 本文は、④を除き、部会資料27の本文2(1)と同じである。
2 「特別の影響」について(本文③)
第13回会議において、本文③の「特別の影響」の意義に関連して、「特別の影響」を及ぼす具体的場面について整理すべきであるとの指摘があった。
この「特別の影響」という規範的な要件を設けている趣旨は、共有物の種類及び性質が多種多様であることに鑑みて、共有物の管理に関する事項の定めに従って共有物を使用している共有者の同意を要するかを、「特別の影響」の判断の中で柔軟に対処することができるようにすることにある。したがって、「特別の影響」を及ぼすかについては、対象となる共有物の性質及び種類に応じて、共有物の管理に関する事項の定めを変更する必要性・合理性と共有物を使用する共有者に生ずる不利益を踏まえて、具体的な事案ごとに判断することになると考えられる。
共有不動産について問題になり得る例について検討すると、①A、B及びCが各3分の1の持分で土地(更地)を共有している場合において、Aが当該土地上に自己が所有する建物を建築して、当該土地を利用する定めがあるときに、Aが建物を建築した後に、B及びCの賛成によって、当該土地を使用する共有者をBに変更するケース(試案第1の1(1)の補足説明3(2)参照)のほかに、②①と同様の例において、Aによる土地の使用期間を相当長期間(例えば30年間)とすることを定めた上で、Aが建物を建築して当該土地を使用しているときに、B及びCの賛成によって、当該土地の使用期間を短期間(例えば5年間)とする変更をするケース、③A、B及びCが各3分の1の持分で建物を共有している場合に、当該建物を店舗営業のために使用する目的でAに使用させることを定めた上で、Aが当該建物を使用することで生計を立てているときに、B及びCの賛成によって、当該建物の使用目的を住居専用とする変更をするケースなどが考えられる。
なお、共有物を使用する共有者が、共有物の管理に関する事項の定めの変更について争う場合には、その変更によってその共有者に特別の影響を及ぼすとして、当該変更の効力がないことを前提に差止め等を求めるほか、本文③の規律に基づいて当該定めを再度変更することや、共有物分割請求によって対応することが考えられる。
3 共有物に使用権を設定する場合の法律関係について(本文④)
(1) 借地借家法が適用される建物賃貸借について
第13回会議において、借地借家法が適用される建物賃貸借について、本文④cの規律との関係を整理すべきである旨の指摘があった。
借地借家法の適用のある建物賃貸借は、基本的に、その存続期間を本文④c所定の期間(3年)以内に制限したとしても、建物の賃貸人は、正当の事由があると認められる場合でなければ契約の更新をしない旨の通知又は建物賃貸借の解約の申入れをすることができず(借地借家法第28条)、事実上長期間にわたって継続する蓋然性があることから、建物が共有に属する場合に建物を賃貸するのは共有者に与える影響が大きいため、共有者全員の合意を必要とすると考えられる。したがって、共有者の持分の価格の過半数をもって借地借家法の適用がある建物賃貸借をした場合には、その契約は基本的に無効になると解される。
これに対し、契約の更新がないこととする旨の定めを設ける定期建物賃貸借(同法第38条第1項)、取壊し予定の建物の賃貸借(同法第39条第1項)、一時使用目的の建物の賃貸借(同法第40条)については、契約の更新に伴って事実上長期間にわたって継続するおそれがなく、共有者に与える影響が大きいとはいえないと考えられることから、本文④cの規律に基づいて、その存続期間を所定の期間(3年)以内とする限りにおいて、共有持分の価格の過半数の決定により設定することが可能であると解される。
なお、部会資料27の本文2(1)④は、後段で、「契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は当該各号に定める期間とする。」としていたが、これでは、持分の価格の過半数を有する土地の共有者が、存続期間を30年と定めて建物の所有を目的とする土地の賃貸借をした場合であっても、5年間を限度に建物所有目的の土地賃貸借が有効に成立するかのように読めてしまい、混乱が生ずることになる。
そこで、本資料では、後段を削除している。
(2) 一部の共有者の同意なく借地権を設定した場合の法律関係について
第13回会議において、主として取引の相手方(賃借人)の視点から、一部の共有者の同意なく借地権(借地借家法第2条第1号参照)を設定した場合の法律関係について整理すべきである旨の指摘があった。
そこで、例を挙げて検討すると、A、B及びCが各3分の1の持分で土地を共有している場合に、建物を所有する目的でYに対し当該土地を賃貸することについて、A及びBは賛成したのに対し、Cが異議を述べた場合には、借地権の設定をすることができないことになる。
他方で、A及びBとYとの間では賃貸借契約が有効に成立しているが、Cが引渡しを拒絶すれば、当該契約は履行不能(債務不履行)となり、Yは基本的に賃貸借契約を解除することができるものとも考えられる。また、借地権を設定することができないことによってYに損害が生じた場合には、YはA及びBに対して損害賠償を求めることができることになると考えられる(民法第415条)。
いずれにしても、この問題は、現行法の下でも生じ得るものであり、本文④の規律を設けたとしても引き続き解釈に委ねられると考えられる。
なお、共有者が選任する管理者(部会資料41の第4)については、共有者による共有物の管理に関する事項の定めに従って、その権限に制限を受けることがあり、取引の相手方はその制限を知る機会に乏しいことから、取引の相手方を保護する規定を設ける必要があるのに対して(部会資料41の第4の2③参照)、共有者についてはこのような権限の制限がなく、取引の相手方を保護する特別の規定を設ける必要性は高くないと考えられることから、相手方保護規定を設けることとはしていない。
(2) 共有者全員の合意とその承継について
共有者間における民法の管理行為に関する規律を変更する合意の可否並びに共有者間における合意がされた場合のその特定承継人に対する効力及び特定承継人の保護についての規律は、設けないとすることで、どうか。
(補足説明)
部会資料27の本文2(2)では、共有者間における民法の管理行為に関する規律を変更する合意や、共有者間における合意がされた場合のその特定承継人に対する効力及び特定承継人の保護の在り方について取り上げていたが、第13回会議において、これらの論点については新たな規律を設けるべきでないという意見や、仮に規律を設けるとしても適切な規律を設けることが難しいとの意見があった。これらの議論を踏まえて、本資料では、これらの論点について特段の規律を設けないこととしている。
3 共有物の管理に関する手続
共有物の管理に関する事項の定め等につき各共有者の持分の価格に従ってその過半数で決する際の手続についての規律は、設けないとすることで、どうか。
(補足説明)
第13回会議においては、共有物の管理に関する事項を持分の価格に従ってその過半数で決する際には、所在等が知れている共有者にその対象を限るなどした上で、他の共有者の意思表明の機会を保障することに配慮すべきであるとの指摘があった。
そこで改めて検討すると、仮に、管理に関する事項を決するに当たり、共有者間での協議又は他の共有者への通知を義務付ける規律を設けるとすると、この義務を履行しなかった場合の効果が問題となるが、共有者による共有物の管理に関する事項の決定を無効とする(共有物の管理に関する事項の定め等をするための要件とする)と、多数の共有持分を有する共有者の権利を過度に制約することになり妥当でないと考えられる。また、協議又は通知の規律を訓示的なものとする(共有物の管理に関する事項の定め等をするための要件としない)ことも考えられるが、結局、共有者による協議又は通知を強制することができないことになるため、規律を設ける意義が乏しいことになる。
そうすると、結局、少数持分を有する共有者の意思表明の機会を保障しつつ、多数持分を有する共有者の権利を調整する規律を適切に置くことは難しいと考えられる。
そこで、結論としては、本文において、共有物の管理に関する事項の定め等につき各共有者の持分の価格に従ってその過半数で決する際の手続については、規律を設けないとする提案を維持している。
なお、実務上、紛争予防の観点から、管理に関する事項を決する際には、当事者間において協議を行うことが望ましいと考えられるが、本文の提案は、当事者によるこのような工夫を否定するものではない。
4 共有物を使用する共有者と他の共有者の関係等
共有物を使用する共有者と他の共有者の関係等に関し、次のような規律を設けることで、どうか。
① 共有物を使用する共有者((1)の規律に基づき決せられた共有物の管理に関する事項についての定めに従って共有物を使用する共有者を含む。②においても同じ。)は、その使用によって使用が妨げられた他の共有者に対し、共有持分の価格の割合に応じて、その使用の対価を償還する義務を負う。ただし、共有者間において別段の合意があるときは、当該共有者間においては、その合意に従う。
② 共有物を使用する共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物を保存しなければならない。
(補足説明)
1 本文①について
本文①は、部会資料27の本文4①と同じである。
2 本文②について
第13回会議においては、「共有者は、自己の責めに帰すべき事由によって共有物を滅失し、又は損傷したときは、他の共有者に対し、共有持分の価格の割合に応じて、その損害の賠償をする義務を負う。」とする部会資料27の本文4②後段の規律を設けるべきではない旨の意見があった。
改めて検討すると、共有者間の損害賠償の問題は、共有者間の善管注意義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求や、共有持分権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求によって解決されるべきものであるから、必ずしも部会資料27の本文4②後段のような規律を設ける必要性はないと考えられる
そこで、本資料では、部会資料27の本文4②後段のような規律を設けないこととしている。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立