【動画】破産手続の諸問題 申立前に、信販会社から軽自動車の引き揚げを要求された場合

【動画】破産手続の諸問題 申立前に、信販会社から軽自動車の引き揚げを要求された場合

 別除権は、破産手続によらないでこれを行使することができるが(法65条)、行使の方法は通常の実行方法による。

 ところが、破産手続開始後は、別除権の目的物が破産財団に属してしまうため、破産管財人を相手方として別除権を主張するためには別除権について対抗要件を具備している必要があると考えられている。

 最判平成22年6月4日(民集64巻4号1107頁。以下、「平成22年最判」という)は民事再生事件の例であるが、再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには、個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から、原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記、登録等を具備している必要があると判示したのは、別除権を主張するためには別除権について対抗要件を具備している必要があるとの前提があるからである。

 ところで、物権変動の対抗要件は、不動産については登記(民177条)、動産については引渡し(民178条)とされているが、自動車、船舶、小型船舶、航空機等のように特別法によって民法の対抗要件とは別に所有権の得喪に関する対抗要件が設けられている動産もある。

 平成22年最判は、道路運送車両法に定める登録制度のある自動車は、登録という対抗要件を具備していないと破産管財人に対抗することができないとしたものであるが、その射程は、対抗要件が引渡しである場合にも及ぶと考えられる。

 実務上、自動車について破産管財人に対抗できるか否かが問題になることが多いが、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車は対抗要件としての登録制度がなく(道運4条括弧書き)、軽自動車は、軽自動車検査協会発行の自動車検査証上の名義にかかわらず、一般の動産と同様、引渡し(占有改定を含む)が対抗要件となるものと解されている。

 一方、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く自動車(以下、本項で「自動車」とは、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く自動車をいう。)は、自動車登録ファイルへの登録が対抗要件とされている(道運4条、5条1項)。

 そして、軽自動車、自動車ともに、購入者にとって高額商品であるため、販売会社以外の第三者が信用を供与する販売方法が多くとられており、その手法として、主に、金融機関等が購入者に金銭を貸し付ける方法や、信販会社が販売会社に売買代金を立替払いし、購入者が信販会社に立替金を完済するまでは信販会社が自動車に所有権を留保する個別信用購入あっせん(割販2条4項)によるなどの方法がとられている。

 しかしながら、信販会社が所有権を留保するといっても、購入者と販売会社との関係は修理や車検等で継続することが多く、また、コストの面からも、実際には所有名義は販売会社のままとされることも多く見られる。

 このような状況のもと、自動車の名義を販売会社としたままで対抗要件を具備していない信販会社の所有権留保を別除権として認めてよいものかが、実務的に問題となっていた。

 そこで、ここでは、引渡しを対抗要件とする軽自動車と、自動車登録ファイルへの登録を対抗要件とする自動車とに分け、第三者が信用を供与する場合の留保所有権を、別除権として破産管財人に主張することができるか否かを検討することとする。

軽自動車の場合

 ここでは、信販会社が販売会社に軽自動車の売買代金を立替払いし、購入者が信販会社に立替金を完済するまでは信販会社が自動車に所有権を留保する個別信用購入あっせんを例に考えてみることにする。

 この場合、購入者が軽自動車を使用することになるが、購入者の占有が他主占有であり、信販会社が占有権を取得するという占有改定の合意が認められれば信販会社への引渡しがあったものとして破産管財人に対抗することができることとなる。

 ところが、購入者と信販会社との間の契約条項に、占有改定の合意が明示されていないケースもみられるようである。名古屋地判平成27年2月17日(金法2028号89頁)は、このように占有改定の合意が明示されていないケースについて、破産手続開始決定前に留保所有権にもとづいて信販会社が当該軽自動車を引き揚げて換価し元本充当した行為を偏頗弁済行為にあたるとして、破産管財人が価格賠償請求をした事例であるが、裁判所は、占有改定の合意があったか否かは、単に契約書の条項に明示の規定が存在していたどうかではなく、契約書の条項全体や当時の状況等を総合的に考察して判断すべきであるとして、信販会社が占有改定による引渡しを具備しているとして破産管財人の請求を棄却した。

 そして、占有改定があったとする点については、本件契約条項では、契約の効力発生と同時に本件自動車の所有権は信販会社に移転すること、購入者は、信販会社が本件自動車の所有権を留保している間は本件自動車の使用・保管につき善管注意義務を負い、信販会社の承諾ない限り、転売、貸与、入質等の担保供与、改造、毀損等が一切禁止されること、購入者は、割賦払金の支払を怠っているときは、信販会社からの催告がなくても、直ちに本件自動車の保管場所を明らかにするとともに本件自動車を信販会社に引き渡すものとされていること等が定められており、購入者は当該各条項を了解して、本件自動車を割賦購入したものと認められ、購入者の占有は、本件契約の効力発生時点において当然に他主占有となる上、所有権者である信販会社のために善管注意義務をもって本件自動車を占有し、転売や貸与、改造等も禁止されるなど、明らかに占有改定による占有の発生を基礎付ける外形的事実が存在しているとして、購入者による占有は占有改定による占有であると認められると認定した。

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます

  • ちょっと失礼な話ちょっと失礼な話 今日、東京の知らない司法書士から電話があり、事務員さんが用件を聞いた。個人民事再生で、共済からの借り入れについて、退職金等が実質的な担保となっている件につき、別除権扱いが認められたとのこと。 このこと自体は、僕が「個人民事再生の実務」(民事法研究会)に書いておいたので、きっとそれを見て書類を書き、認められたということだろう。 そして、電話をしてきた趣旨は、その別除権につい […]
  • 改正利息制限法講義録 利息制限法の大改正、あれから、僅か10年しか経っていないのですね。当時、資料のない中で必死に勉強し、改正利息制限法の講義をしたものでした。  あまり文献のない分野ですので参考になればさいわいです。 ご紹介いただきました古橋清二です。 […]
  • 遺産分割方法の指定と所有権の対抗問題遺産分割方法の指定と所有権の対抗問題 【遺産分割方法の指定と所有権の対抗問題】 父Aが死亡し、相続人は子供の私Xと弟Yの2名です。Aは、「甲土地をXに相続させる」との遺言を残していました。甲土地について、まだAからXへの移転登記はしていませんでした。 ところが、Yには借金があり、債権者であるKが、甲土地につきXとYに代位して、AからXY名義への相続を原因とする所有権移転登記をしたうえで、Yの持分を差押えてしま […]
  • 株主総会議事録の署名者株主総会議事録の署名者 株主総会の議事録は,出席した取締役その他の役員の氏名又は名称等を内容としなければならないとされ(施行規則第72条第3項),議長及び出席した取締役の署名又は記名押印の法律上の義務(旧商法第244条第3項参照)は,廃止された。 ただし,株主総会の決議によって代表取締役(各自代表の取締役を含む。)を定めた場合(会社法第349条第1項本文,第3項)における当該株主総会の議事録につい […]
  • 2021民法・不動産登記法改正を研究する 第8回 ~登記手続の簡略化 その2~2021民法・不動産登記法改正を研究する 第8回 ~登記手続の簡略化 その2~ https://youtu.be/G6OXMUBG0As
  • 2021民法・不動産登記法改正を研究する 第25回 事例問題成年被後見人が死亡!唯一の相続人が財産引取りを拒否!新しい財産管理制度は使えるか?2021民法・不動産登記法改正を研究する 第25回 事例問題成年被後見人が死亡!唯一の相続人が財産引取りを拒否!新しい財産管理制度は使えるか? https://youtu.be/LxjSjwCQXoo
  • パートさん募集中! -募集は終了しました-パートさん募集中! -募集は終了しました- パートさん募集中! いっしょに働きませんか? ◆仕事内容は、登記関係書類の作成・整理、財産管理している個人のお客さんの経理処理(と言っても、通帳を見て簡単な会計ソフト使ってパソコンに転記するイメージ)、市役所等での住民票等の取寄せ(社用車使用)などです。 ◆パートさんを含め、8名のアットホームな事務所です。 ◆明るい方。未経験者も積極的に応募してください。子育て中の方も […]
  • 佐久間現地訪問・・・生誕地へ佐久間現地訪問・・・生誕地へ  実は、私の生まれは佐久間なんです。戸籍には出生地が記載されていますが、現在戸籍では市町村等の行政区画が記載されているだけです。  しかし、平成改製原戸籍には、出生した地番まで出ていることがありますので皆さんも、是非一度、平成改製原戸籍を見ておいてください。  これ、私の平成改製原戸籍です。出生地は、磐田郡佐久間町大井2 […]
  • 所在不明株主のリスクと対策所在不明株主のリスクと対策 所在不明株主のリスクと対策 「株主に連絡がとれない」  こうしたご相談をいただくことがしばしばあります。連絡がとれない株主であっても自動的には株主の地位は喪失しません。このような株主であっても、他の株主と同様に管理をしていく必要がありますが、将来、事業承継やM&Aが行われる際には、大きな問題となる可能性があります。  たとえば、会社の株式をすべて第三者に譲渡して事業承継 […]
  • 【動画】4月1日から変わる時効制度。でも、巷で説明されている完成猶予って、間違ってない? これからは受任通知の内容も再検討が必要かも?【動画】4月1日から変わる時効制度。でも、巷で説明されている完成猶予って、間違ってない? これからは受任通知の内容も再検討が必要かも? 【動画】4月1日から変わる時効制度。でも、巷で説明されている完成猶予って、間違ってない? […]
  • 杉山陽一を男にする杉山陽一を男にする 杉山陽一を男にする  タイトルを見て、杉山陽一新会長は女だったのかと思う方はいないと思うが、副会長就任にあたって私の頭をよぎったのは「杉山陽一を男にする」、この言葉だ。  私にとって杉山陽一さんは、年齢も業務経験も先輩である。私が開業した当時は今のような配属研修はなく、若干の研修を受けた後に即独立というのが普通だった。そのため、ほとんど実務を知らないまま依頼に応じるこ […]
  • 【動画】司法書士必見! 改正相続法の経過措置の原則と例外【動画】司法書士必見! 改正相続法の経過措置の原則と例外 司法書士必見! […]
  • 【動画】使命を胸に ~クレサラ被害救済活動の軌跡~【動画】使命を胸に ~クレサラ被害救済活動の軌跡~ 【動画】使命を胸に ~クレサラ被害救済活動の軌跡~  このたび、民事法研究会から「使命を胸に -青年司法書士の軌跡-」(全国青年司法書士協議会編)と題する書籍が発刊されました。  本書に寄稿した「クレサラ被害救済活動」について、執筆者である古橋清二に聞いてみました。   […]
  • 「改正相続法の施行時期と適用場面」講義録「改正相続法の施行時期と適用場面」講義録 「改正相続法の施行時期と適用場面」講義録  この講義録は、令和元年7月27日に開催された静岡県司法書士会第1回会員研修会を再現したものです。平成30年改正相続法の経過措置について詳しく解説いたします。動画もあります。 講義録はこちら […]
  • 法定相続分を超える部分の対抗要件法定相続分を超える部分の対抗要件 【法定相続分を超える部分の対抗要件】   平成30年相続法改正により、相続による権利の承継について、法定相続分を超える部分は対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないこととされました。これまでは、包括承継については登記なくして第三者に対抗することができたと思うのですが、どうしてこのような改正がされたのでしょうか。   […]
  • 4月8日に「相続実務必携」が発刊されます!4月8日に「相続実務必携」が発刊されます! 民事法研究会より「相続実務必携」が発刊されます! 静岡県司法書士会あかし運営委員会編の本書は、当事務所の古橋清二、神谷忠勝も執筆に加わっています。  遺産承継業務、法定相続情報証明制度、改正相続法を含めた相続実務全般についてFAQ方式でわかりやすく解説! 相続に関する相談のあり方、相続財産管理人としての対応、共有不動産の処分など、執務現場の悩みに応える垂涎の書です! […]
  • 5月の土曜なんでも相談は5月18日です5月の土曜なんでも相談は5月18日です 5月の土曜なんでも相談は5月18日です 詳細はこちら
  • お一人様の老後 どうすれば安心?お一人様の老後 どうすれば安心? お一人様の老後 どうすれば安心? https://youtu.be/cqbSw0ZsfuI
  • 2022年第1弾 相続手続支援業務を関連士業の法定業務として明定せよ2022年第1弾 相続手続支援業務を関連士業の法定業務として明定せよ https://youtu.be/iXv2ZVGnwdA
  • 「二段の推定」の典型例「二段の推定」の典型例 「二段の推定」の典型例 所有権保存登記抹消登記手続等請求事件(高知地裁(第一審)平成21年2月10日)   事案  原告は、全財産を相続する旨の遺産分割協議が成立したとして,被告が作成したとする証明書を提出。これに対し,被告は,本件証明書に署名したことはなく,印影も被告の実印とは異なる旨主張し,本件証明書は司法書士が勝手に作成したものであると主張。 事実認定 […]

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)