真っ直ぐ線を引けるか?

 畑で畝を真っ直ぐ作るのはなかなか難しい。まず、耕耘機で耕すのだが、真っ直ぐ進んだつもりでも振り返ると曲がっている。また、そのあと、鍬で溝を掘っていくが、これも少し曲がってしまう。こんな作業をしているとき、いつも高校1年生の頃を思いだす。

 昼休みに弁当を5分で胃に詰め込み、雨が降っていない限り、グランドに出て、ラインカーで白線を引いていた。放課後の部活動の準備だ。

 まず、赤いラインカーに石灰を入れるのだが、もうもうと石灰が舞い上がる中で息を止めて作業をする。黒い制服のズボンがすぐに真っ白になった。石灰が出る穴が詰まっているときは、石灰の中に手を突っ込んで通りをよくした。

 そして、ラインを引くのだが、引いてから振り返るとラインはボコボコと曲がっていた。そこで、曲がった線を革靴で蹴散らし、引き直したものだ。

 しかし、ある日、突如として真っ直ぐラインを引けるようになった。それは、先輩のある一言がきっかけだった。

「古橋、そうじゃなくて、こうやって引っ張っていけばいいんだよ」

 僕は、いつも、ラインカーを前に置き、前屈みで両手でラインカーを持ち、消えかかっている前日のラインをなぞるようにして前に進みながらラインを引いていたのだが、先輩は、ラインカーを後ろ手に持ち、スタスタと前を向いて歩いて行った。確かに、ラインは真っ直ぐ引けていた。

 先輩は続けた。
「いいか、引きたい線の延長上の目標物を決めて、そこから目を離さずに歩いていけばいいんだ」

 僕は、言われたとおりやってみた。すごい、一発で真っ直ぐ引けた。それ以来、前日のラインが雨で消えていても、おもしろいように真っ直ぐラインが引けた。誰かが見ていると、「どうだ」と言わんばかりにサッサとラインを引いて見せた。

 今、静岡県司法書士会では、10年後の司法書士をイメージしながら司法書士会の今後の役割を議論している。僕は、10年後の司法書士は、登記、裁判といった「手続」を中心とした業務から脱却し、総合的な法律職能として、しかも様々な分野のコンサルタント的な役割を目指していくべきであるという持論を展開しているが、他の方からは、10年後の司法書士の姿について、明確な方向性やビジョンはあまり語られていない。
 そのとき、またしても先輩の言葉を思い出す。

「いいか、引きたい線の延長上の目標物を決めて、そこから目を離さずに歩いていけばいいんだ」

 今のままでは真っ直ぐな線を引けない。

 

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A
浜松西部中、浜松西高、中央大学出身
昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます

  • 【動画】明治時代に50人で払い下げを受けた土地が相続登記されずそのままに。調べたら相続人は1000人。いわゆる所有者不明土地の典型例! 目下、解決に向けて頑張ってます!【動画】明治時代に50人で払い下げを受けた土地が相続登記されずそのままに。調べたら相続人は1000人。いわゆる所有者不明土地の典型例! 目下、解決に向けて頑張ってます! 明治時代に50人で払い下げを受けた土地が相続登記されずそのままに。調べたら相続人は1000人。いわゆる所有者不明土地の典型例! […]
  • 配偶者居住権講義録を掲載しました配偶者居住権講義録を掲載しました 配偶者居住権講義録  これは、2020年1月22日に開催された講習会において、当事務所代表の古橋清二が講義した内容を記録したものです。  なお、YouTubeで講義の動画を見ることもできます。  第1講 配偶者居住権の概要  第2講 配偶者居住権の節税の可能性と相続税法上の財産評価  第3講 配偶者居住権に関する実務上の検討   本日は、配偶者居住 […]
  • 自筆証書遺言にパソコンで作成した目録を添付したいのですが、遺言書本文と目録には契印をする必要がありますか自筆証書遺言にパソコンで作成した目録を添付したいのですが、遺言書本文と目録には契印をする必要がありますか 自筆証書遺言にパソコンで作成した目録を添付したいのですが、遺言書本文と目録には契印をする必要がありますか  自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、印を押さなければなりません。また、自筆証書遺言と 一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録は自書でなくてもかまいませんが、自書でない場合、遺言 […]
  • 被相続人の預貯金の使途不明金被相続人の預貯金の使途不明金 被相続人の預貯金の使途不明金  相続の相談を受ける中で、「被相続人と同居していた相続人が被相続人の生前に被相続人の預貯金を使い込んでいたに違いない」という話が出てくることがある。遺産分割の話し合いの中でその点を明らかにして、相談者の相続分を少しでも有利に交渉したいという趣旨である。  気持ちはよくわかる。だが、法的に考えると、仮にそういうことがあったとしても、生前 […]
  • 2021民法・不動産登記法改正を研究する 第3回 ~民法改正案904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)を考える~2021民法・不動産登記法改正を研究する 第3回 ~民法改正案904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)を考える~ https://youtu.be/ANroZSPJ2HE
  • 給与所得者等再生のための最低生活費算出の手引給与所得者等再生のための最低生活費算出の手引  給与所得者等再生を申し立てる場合、政令にしたがって再生生活費を算出しなければならない。実務では、コンピュータソフトを使って計算することが多いが、一度は、その原理を知っておいて欲しい。  本書は、最低生活費を求めるための唯一の手引書であり、実は、隠れたベストセラーである。  編者の「個人債務者再生制度研究会」の実態を知る人はほとんどいないという、不思議な書籍。なぜなら、「 […]
  • 遺産分割協議がまとまる前に一部の相続人から預貯金の一部の払戻しができると聞きましたが、払戻の理由(使途)を明らかにする必要はありますか。遺産分割協議がまとまる前に一部の相続人から預貯金の一部の払戻しができると聞きましたが、払戻の理由(使途)を明らかにする必要はありますか。  令和元年7月1日以降は、相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の預貯金の額の3分の1に当該相続人の法定相続分を乗じた額(ただし、金融機関ごとに150万円が限度)を単独で払戻請求することができるようになりました。  これについて、金融機関に対し、払戻の理由(使途)を明らかにする必要はありません。 […]
  • 自筆証書遺言の誤記を訂正したいのですが、簡易な方法で訂正するにはどうすればいいですか自筆証書遺言の誤記を訂正したいのですが、簡易な方法で訂正するにはどうすればいいですか 自筆証書遺言の誤記を訂正したいのですが、簡易な方法で訂正するにはどうすればいいですか  自筆証書遺言中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更 […]
  • 人生の転機人生の転機 人生の転機 「先生、以前お世話になったウチの従業員のことなんですが、今日、本人から退職願が出てきました。これは、彼女の破産のことと関係があるのですか?」  夏も終わりに差し掛かった頃、ある会社の総務部長から彼女の進退について問い合わせを受けたものの、私には彼女の退職については何の心当たりも浮かばなかった。  そういえば、あらから5年が経とうとしている。彼女の自己破産の申 […]
  • 取締役会の決議の省略の制度取締役会の決議の省略の制度 取締役会設置会社は,取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において,当該提案につき取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては,監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は,当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができるとされた(会社法第370条)。取締役会の決議が […]
  • 遺産分割協議がまとまる前に払戻しを受けた預貯金の額は、遺産分割に際してどのように扱われますか。遺産分割協議がまとまる前に払戻しを受けた預貯金の額は、遺産分割に際してどのように扱われますか。  遺産分割協議がまとまる前に払戻しを受けた預貯金の額は、払戻しを受けた相続人がこれを一部分割により取得したものとして扱われます。
  • 【動画】令和元年9月25日、あかし運営グループの勉強会にて、配偶者の居住の権利に関する基礎的知識について内納隆治が講義しました。【動画】令和元年9月25日、あかし運営グループの勉強会にて、配偶者の居住の権利に関する基礎的知識について内納隆治が講義しました。 令和元年9月25日、あかし運営グループの勉強会にて、配偶者の居住の権利に関する基礎的知識について内納隆治が講義しました。 2020年4月1日から施行される配偶者居住権。しっかり準備したいものです。 https://youtu.be/FdeYYTccr8w   […]
  • そのとき、会議室は凍り付いたそのとき、会議室は凍り付いた 「司法書士の古橋と申します。早速ですが、抹消書類を確認させてください」 今日は何度この言葉を口にしただろうか。抵当権者である金融機関が8行。集合時間である午前10時を待たずして次々と応接室に入ってくる。 部屋の一番奥には、一時は3店舗の飲食店を展開してきた社長がうつむき加減で腰掛けている。2年ほど前にお会いした時は、飲食店の裏方で白い長靴を履いて快活に笑っていたが、今は見 […]
  • 不動産登記規則92条の解釈不動産登記規則92条の解釈 不動産登記規則92条の解釈 不動産登記規則92条とは、次の条文である。 (行政区画の変更等) 第92条  行政区画又はその名称の変更があった場合には、登記記録に記録した行政区画又はその名称について変更の登記があったものとみなす。字又はその名称に変更があったときも、同様とする。 2 […]
  • 銀行にとっては小さなことかもしれないが、顧客にとっては大変な問題なんだ!銀行にとっては小さなことかもしれないが、顧客にとっては大変な問題なんだ!  十数年前に「登記情報」という雑誌にコラムとして書いたことあるが、同じ問題がまた生じている。検認を受けた自筆証書遺言。全文、日付、氏名が自筆で書かれ、押印もされており、法律上の要件は全て満たしている。遺言の内容も一義的に解釈され、疑義を挟む余地はない。既に、この遺言を使って複数の銀行預金を解約し、不動産登記も済ませている。ところが、ある銀行だけ、被相続人である遺言者の預金の解 […]
  • ブレーンストーミング 抵当権抹消の巻ブレーンストーミング 抵当権抹消の巻 ブレーンストーミング 抵当権抹消の巻 過去、浜松支部の支部通信に寄稿した問題。 【事例】  X所有の建物に、昭和34年に債務弁済契約を原因としてY会社の抵当権が登記されている。Y会社は、当時、Xの娘婿が商品の入れをしていた株式会社であり、娘婿である債務者の買掛金を担保するために抵当権を設定したものである。その後、娘婿は、その後商売がうまくいかず娘と離婚したが、Y […]
  • こんなこともあるわさ。のんびり行こう!こんなこともあるわさ。のんびり行こう! 「○○町のAだけどね」  電話口の向こうで、声の感じから80歳は超えていると思われるその老人は、こう自己紹介をした。  電話でいきなりそう言われても、すぐに思い当たる顔は浮かばない。「Aさん、下のお名前は?」と聞いてみたものの、下の名前を聞いても思い当たる人物はいない。勇気を出して「あのー、失礼ですが、私の事務所でAさんのこと、どのような依頼を受けていましたっけ?」と聞い […]
  • 【動画】使命を胸に ~クレサラ被害救済活動の軌跡~【動画】使命を胸に ~クレサラ被害救済活動の軌跡~ 【動画】使命を胸に ~クレサラ被害救済活動の軌跡~  このたび、民事法研究会から「使命を胸に -青年司法書士の軌跡-」(全国青年司法書士協議会編)と題する書籍が発刊されました。  本書に寄稿した「クレサラ被害救済活動」について、執筆者である古橋清二に聞いてみました。   […]
  • この土地の所有者は誰?この土地の所有者は誰? 「ウチの南側の土地に雑草が生い茂って困っているんです。それで、なんとかこの土地を買いたいと思っているのですが・・・」 不動産会社から紹介された、中古車販売店を経営しているというその男は話を切りだした。 問題の土地には小さな小屋が建てられており、そこに暮らしていた老女が昨年亡くなったという。 そして、現在は荒れ果ててしまったが、勝手に草刈りをするわけにもいかず、弱り果 […]
  • 相続分の譲渡は、当該譲渡をした者の相続において民法903条1項に規定する「贈与」に当たるか(遺留分減殺請求事件、最高裁判所第二小法廷平成30年10月19日判決(平成29年(受)第1735号)、破棄差戻)相続分の譲渡は、当該譲渡をした者の相続において民法903条1項に規定する「贈与」に当たるか(遺留分減殺請求事件、最高裁判所第二小法廷平成30年10月19日判決(平成29年(受)第1735号)、破棄差戻) 相続分の譲渡は、当該譲渡をした者の相続において民法903条1項に規定する「贈与」に当たるか 遺留分減殺請求事件、最高裁判所第二小法廷平成30年10月19日判決(平成29年(受)第1735号)、破棄差戻 【判決要旨】  共同相続人間でされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえ […]

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)