どんなものが相続財産になるのでしょうか。また、負債はだれがどれだけ負うのでしょうか。
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どんなものが相続財産になりますか
相続財産といっても、プラスの財産とマイナスの財産(債務)とがあります。プラスの財産の例示としては、現金、預金、土地、建物、賃借権(借地権)、有価証券、債権、自動車、ゴルフ会員権、貴金属、美術骨董品、著作権、特許権などです。
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預金や現金はどのように相続されますか
銀行などの預貯金は口座名義人の相続の発生により凍結され、一定の手続きを行わないと預金の解約ができません。
ところで、最判平成16年4月20日は、預貯金などの金銭債権は、相続開始と同時に当然に分割され、各相続人に法定相続分に応じて帰属すると判示していました。そのため、遺産分割を待つまでもなく法定相続分に応じた払戻し請求をすることが法的には可能でした。
ところが、平成28年12月19日、最高裁は、「預貯金は遺産分割の対象とならない」としてきた判例を見直し、「対象になる」とする初判断を示しました。これにより、預貯金を解約するためには誰が相続するのかが、遺産分割協議書や同意書などにより明確になっていなければ、原則として応じていないのが実情です。
銀行が相続紛争に巻き込まれたくないと考えるのは仕方ないかもしれないが、最高裁判例が出ているのであるから判例にしたがった取扱いをする方が紛争に巻き込まれる可能性は低いと考えられますが、銀行の取扱いは変わっていません。
なお、預貯金ではなく、現金については、最判平成4年4月10日は、「現金は、被相続人の死亡により他の動産、不動産とともに相続人らの共有財産となるから、遺産分割をせずに法定相続分に応じた金員の引き渡しを求めることはできない」という趣旨の判断をしています。
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借地権・借家権についても相続することができますか
借地上の建物や借家に住んでいる相続人は借地権や借家権の名義人が亡くなった場合には、借地契約・借家契約をそのまま相続することができます。そこで、借地名義人や借家名義人の変更を申し出ることができます。その際、戸籍謄本など相続関係が明かとなる書類を求められることもあります。
なお、相続により借地権や借家権を承継した場合には、名義書換料を支払う必要はありません。 -
田、畑などの農地を相続するには農地法の許可が必要ですか
農家で、相続財産のほとんどが農地の場合には、農家を継ぐ相続人が単独で農地を相続することが多いようです。
農地の所有権移転には、原則として農地法に定める許可が必要ですが、遺産分割により農地を取得する場合には許可は不要とされています。しかし、遺産分割により取得した農地を第三者に売却する場合や宅地などに変更する場合には、農地法の許可が必要となります。 -
事業を相続するには、具体的にどのような手続をとればいいですか
被相続人が事業を営んでいた場合、事業を承継する相続人は種々の手続が必要になります。被相続人の事業が会社組織である場合には、一般的には株式を相続することになります。零細企業では株主総会を備え置いていない場合も多いと思われますが、株式の名義書換手続をする必要があります。また、被相続人が会社 の代表者であった場合には、新たな代表者を定めて変更登記をし、さらに、金融機関の預金口座などの代表者変更手続をしておく必要があります。特に、手形や 小切手を使用している会社では、早めに手続をして、新しい手形帳、小切手帳を発行してもらう必要があります。
さらに、被相続人が会社の借入金の保証人になっていた場合には、保証人の地位や保証債務も相続の対象となりますので、早めに金融機関と協議する必要があります。
被相続人が個人事業の場合には、金融機関の借入金そのものを相続することになりますので、金融機関と早めに協議する必要があります。 -
預貯金の相続手続はどのようにすればいいですか
金融機関では、預金者が死亡したことを知った場合には、原則として預金を凍結し、入金や借金ができないようにします。本来、預金者が死亡した場合には預金者はこの世に存在しない筈ですから入出金はできない筈です。ですから、仮に、金融機関が預金者の死亡を知っていながら入出金に応じてしまうと、金融機関に法的な責任が生じる可能性があります。そのために、預金者が死亡したことを知った場合には預金を凍結してしまうのです。
では、金融機関がどのようにして預金者の死亡を知るのでしょうか。預金者が著名人であれば報道により知ることもあるでしょうが、通常は、新聞に掲載された訃報、金融機関の取引先である企業からの情報、相続人からの申し出などにより知ることが多いようです。
さて、こうして預金が凍結されてしまうと、被相続人の預金から出金して葬儀費用や入院費用などを支払おうと考えていた相続人が、預金を引き出せないことになります。
また、平成28年に出された最高裁判決が、預貯金は遺産分割の対象となると判断したため、一部の相続人が「自分の法定相続分に相当する金額だけを出金して欲しい」と金融機関に掛け合っても、おそらく、応じる金融機関はないものと思われます。
では、どのようにしたら被相続人の預貯金を解約することができるかですが、概ね、次のような書類を整える必要があります。
・金融機関で準備している預貯金名義書換依頼書
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑証明書
・遺産分割協議書
・被相続人名義の通帳
つまり、相続人全員の合意により、その預貯金を誰が相続することになったのかが明らかとなる書類の提出が求められるのです。
また、戸籍に代えて、法定相続情報一覧図の写しの提出を求められる可能性もあります。
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死亡退職金は誰が貰うことになりますか
死亡退職金の受給権者は、普通の場合、法律や会社の退職金規定などで定められています。
受給権者が法律や内規等で定められている場合には、受取人は相続人としてではなく、固有の権利として死亡退職金を受け取るものと解されています。
他方、こうした規定がない場合には、相続財産となるか受取人の固有財産となるかは、個々のケースによる判断となりますが、審判例は相続財産とする例が多いようです。実際に次のようなケースがありました。
亡くなられたのは会社の創業者であり、死亡時は取締役会長でした。
役員退職金規程では、弔慰金と退職慰労金が定められていました。
まず、弔慰金については株主総会等の承認等の手続きがなく、金額的も在任年年数に関係なく儀礼の範囲の金額が定められていました。したがって、この弔慰金は、喪主に対する贈与という趣旨であると考えられ、法律上の相続財産には含まれないと思われます。次に、退職慰労金ですが、こちらは役員在任年数に応じて計算するという計算式は定められていましたが、役員が死亡している場合に誰が受け取るかという規程はありませんでした。退職の事実が発生し、その後に役員が死亡したのであれば相続財産であることは間違いなく、相続財産として処理しなければなりません。しかし、今回のように在職中に死亡された場合は説は分かれているようです。しかしながら、実務的には、説が分かれている場合には最高裁判例にしたがえばよいと考えます。
最高裁判例は、死亡退職金の支給規程のない財団法人において理事長の死亡後同人の妻に支給する旨の決定をして支払われた死亡退職金は、特段の事情のない限り、相続財産に属するものではないとしています(昭和62年3月3日最高裁判所第3小法廷判決/昭和59年(オ)第504号(最高裁判所裁判集民事150号305頁))。
この判例は「財団法人」の例ですが、受取人の指定が規定されていなかったという意味では今回のケースと同様であると考えられますから、相続財産ではないということでよいと思います。
なお、相続税の計算においては「みなし相続財産」として計算する必要があるかと思いますので税理士さんに判断してもらうとよいでしょう。
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債務はどのように相続されるのですか
債務が承継される場合には、原則として、可分債務については法定相続分にしたがって相続人に分割承継されます。ただし、相続により相続人に承継される債務と、承継されない債務があります。
承継されない債務には次のようなものがあります。
① 一身専属性のある債務
たとえば、芸術家に作品の制作を依頼していた場合、その芸術家は作品を制作する債務を負っていますが、その性質上、その芸術家でなければなしえない債務であるから相続により承継されません。
また、身元保証契約にもとづく保証債務(「身元保証に関する法律」参照)についても、身元保証契約が個人的信頼関係にもとづいて存続するものであるから一身専属的な債務とされ、特別な事情がない限り相続性は否定されています。② 限度額・期間の定めのない包括根保証契約
最判昭和37年11月9日は、限度額・期間の定めのない包括根保証契約については、被相続人の死亡後に生じた債務についての責任を否定しました。したがって、被相続人死亡時における債務残高は相続人に承継
されますが、保証人としての地位までも相続されるわけではないことが明かとなりました。
なお、限度額・期間の定めのあるものについては、一般論として相続性が認められています。したがって、被相続人死亡時の保証残高が法定相続分にしたがって承継されるとともに、保証人としての地位も承継されます。なお、法定相続分にしたがって保証割合が定まることとなります。
ただし、民法465条の4により、貸金等根保証契約(債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれるもの)については、保証人が死亡したときは債務の元本が確定するため、被相続人死亡後に発生した債務を保証人の相続人が保証責任を負うことはありません。(貸金等根保証契約の元本の確定事由)
民法第465条の4 次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。
一 債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
二 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。なお、相続人間の遺産分割協議で、特定の相続人がある債務を相続するように合意したりすることがありますが、これは、相続人間での内部負担割合の指定、あるいは一種の免責的債務引受にすぎず、債権者に対しては当然には効力を生じません。
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相続債務にはどんなものが考えられますか
住宅ローン、借金、借入金、買掛金、未払い税金、未払い医療費、未払い家賃などです。
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会社を経営していた父が事業資金の借り入れについて連帯保証人になっていました。会社は長男が引き継ぎますが、連帯保証についてはどうなるでしょうか
お父様の連帯保証人としても地位は、相続人全員に、法定相続分にしたがって相続されます。相続人全員で「長男が承継する」と定めても、債権者である金融機関がそれを承諾しなければ法定相続人全員に承継されてしまうのです。
このような場合、金融機関の現実的な対応としては、法定相続人全員に承継された保証債務を免責的に長男が引き受けたり、あらためて長男と連帯保証契約を締結するなどの方法がとられます。 -
生命保険金は相続財産になりますか
被相続人が自己を被保険者として生命保険に加入していた場合、その生命保険金が相続財産となるのか否かは、保険金受取人としてどのような指定をしていたかによります。そして、生命保険金が相続財産となる場合には遺産分割の対象となりますが、生命保険金が相続財産にならない場合には遺産分割の対象とする必要はありません。●受取人が被相続人自身の場合
この場合は、生命保険金が一旦被相続人に帰属すると考えられますので、相続財産として遺産分割の対象になるとも考えられるます。しかし、ほとんどの場合、生命保険約款の解釈により受取人が定められることになりますから、実際には相続財産とはならずに相続人固有の財産となります。●受取人が「相続人」と指定されていた場合
被相続人が死亡したときの相続人となるべき者を受取人にしたと考えられますから、生命保険金は相続財産ではなく、相続人固有の財産となります。そして、相続人が法定相続分の割合にしたがって保険金請求権を有することとなります。●受取人が相続人の中の特定の者と指定されていた場合
この場合も生命保険金は相続財産にはならず、指定された受取人の固有の財産になります。以上のとおり、ほとんどの場合において生命保険金は相続財産にはなりません。
一方で、生命保険金は遺留分減殺の対象になるかという問題があります。つまり、生命保険金の掛金である保険料を、実質的には被相続人が支払ってきたのであれば、被相続人が受取人に対し財産を無償で贈与したのと同一視できるため、遺留分減殺の対象にすることができるという見解があるのです。
しかし、そのように考えると、一方で生命保険金が相続財産を構成しない場合であっても、遺留分減殺の場面では相続財産的な扱いをするということになってしまいます。この点について、最高裁は、平成14年、生命保険金が相続財産にならない場合には遺留分減殺の対象にもならないと判断し、この議論に決着がつきました。
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遺産分割協議を前提とする遺産の評価はいつの時点で行うのでしょうか
遺産分割をする前提として、個々の分割額を算出するにあたって遺産を評価する必要がありますが、いつの時点で評価するか、という問題があります。
通説は、二段階に分けて評価するという考え方です。
まず、第一段階は、相続開始時における評価です。
たとえば、相続人が配偶者と子供二人という前提で、相続財産の評価が1000万円、配偶者の特別受益200万円と評価されると、配偶者の相続分は 1000分の400、子の相続分はそれぞれ1000分の300ということになります。
なぜなら、配偶者の相続分は、相続財産+みなし相続財産の1200万円の2分の1であるから600万円ですが、特別受益は既に受領していますから、相続財産1000万円に対しては400万円の相続分を有するにすぎません。
このように、第一段階の評価の目的は、相続人の相続分を算出するために行う評価です。第二段階は、遺産分割時における評価です。
たとえば、相続開始後10年後に、ようやく遺産分割の話し合いが行われたとします。相続財産のうち、不動産については相続開始の時より価値が大幅に下落していたような場合には、遺産分割時点において再度評価をしたうえで、第一段階で算出した相続分にしたがって分割を行った方が公平であるということになります。しかし、第一段階での評価を基準にして遺産分割を行ったとしても不公平にならない場合(相続の開始から遺産分割までの期間が短期間であるような場合)は、第一段階の評価=第二段階の評価となりますから、実質的には第一段階の評価にしたがって具体的な相続分を算出することになるでしょう。